デュエット


「貴方の話をしていたのよ」
 センリツが穏やかな声で言うと、クラピカは立ち止まり、怪訝そうな顔で振り向いた。その表情に、センリツは柔和な笑みを見せた。彼女は「彼と」と続けると、視線を後方へと向けた。つられるようにクラピカの視線が動く気配。しかし、その先にスーツの後姿はすでにない。
「……私は何も質問していない」
 やや不機嫌そうな声が言う。
「あら。それじゃあ聞き間違いかしら。『一体何を話していたんだろう』。そんな“音”が、貴方から聞こえてきたと思ったんだけど」
 不自然に黒い瞳が睨んできたが、彼女は動じなかった。それどころか、『睨み合い』と言う言葉が成立しなくなるような穏やかな表情を返した。やがて諦めるように息を吐いたのは、クラピカの方だった。
「前々から思っていたが、それは一体どんな“音”なんだ。まるで読心術だ」
「それじゃあ認めるのね。少し意外」
「『違う』……と言ったところで、それも『嘘だ』と言うのだろう?」
「そうね」
 くすくすと笑いながら、センリツは歩みを再開した。追い付いた彼女の横に並ぶように、クラピカも歩き出す。
 2人が乗る飛行船の入口が見えてきた頃、センリツは再び口を開いた。
「彼が貴方のことをなんて言っていたか、知りたい?」
 今一度足を止めたクラピカの顔を、センリツが覗き込む。端整な顔には、わずかに躊躇いが見て取れた。それを、センリツは表情を変えぬまま、微笑んで見守った。
 黙ったまま視線を合わせていた時間は、先程のそれよりも長い。沈黙を打ち破ったのは今度もやはりクラピカだった。
「いや……。やめておく」
 そう答えて、彼は飛行船に乗り込んだ。
「それに、どうせ聞いても言うつもりはないのだろう?」
 センリツの表情がようやく――わずかに――変化した。驚きのそれだ。
「クラピカまで読心術を使えるようになったのね」
 センリツの冗談を聞き流したクラピカは、無意識の内にか、窓に近付いていこうとしたようだった。しかしそれに気付くと慌てたように背を向けた。窓に……というよりは、おそらくその向こうにある飛行場の建物に。そして、まだその中にいるであろう人物に。
「正解よ。聞かれても、答えるつもりはないわ。知りたければ、彼に直接会いに行くべきね」
「そう言うと思っていた」
「貴方が彼を巻き込むことを避けようとしても、彼はそれを望んでいるわ」
 センリツの言葉にもう一度溜め息で応えると、それ以降、クラピカはもうその話題を続けるつもりはないと宣言するかのように唇を一直線に閉ざした。だが、
「今日の“貴方”はとてもおしゃべり」
 どこか拗ねた子供のような顔をするクラピカを見て、センリツはやはり笑った。そしてその顔を、彼の仲間達に見せてやりたいと思った。
 自分の心の“声”を聞くまいとしているクラピカの代わりのように、センリツは外へと眼を向けた。遠くの建物の窓には、飛行船を見送る人達のシルエットが見える。その雑踏の中から、かすかな“声”が聞こえた気がした。それは、クラピカの心音と重なり、心地良いメロディを奏でているように思えた。


2013,03,26


すっごいありきたりなネタですが、書きたかったので書いた。
「クラピカをよろしく頼む」ってなに!? 彼氏気取りですか!? 萌ゆるしかない。
レオリオは試験中は年下に仕切られてる感じでしたが、ヨークシンシティで再会してからはクラピカを宥めたりゴンとキルアの面倒みたり、なんだか大人っぽくなった気がします。
ときめく。
<利鳴>

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