承花 全年齢


  How old are you?


 空に浮かぶ雲のような煙を吐き出しながら、承太郎は間もなく終わりを迎えようとしている今日一日のことを振り返っていた。同時に、昨日までのことと、この先のことも考えている。日本にいる母のこと。明日にでも現れるかも知れない刺客のこと。今日戦った相手のこと。DIO。スタンド。仲間達……。
 いつの間にか少しぼんやりしていたらしい。極短い時間だが、まどろんでいたのかも知れない――立ったまま――。指で挟んだタバコが短くなっている。このままでは地面に灰を落としてしまう。そう思いながらも、彼の身体はもうしばらく何もせずに動かないでいることを望んでいるようだった。たぶん、疲れているのだろう。
「承太郎」
 声をかけられてようやく我に返った。振り向くより先に、タバコを灰皿へと押し付ける。
「どうかしたかい? ぼーっとしちゃって」
 そう声をかけてきたのは花京院だった。長い前髪を揺らすように首を傾げ、こちらの様子を伺っている。承太郎は、ポケットに手を入れながら彼の方へと歩き出した。
「いや、なんでもねぇ」
「ジョースターさんが、宿泊の手続きがもうすぐ終わりそうだと言っていた」
「ああ。今行く」
 承太郎が隣に並んだところで花京院も踵を返した。自分よりも10センチ以上低い位置にある顔を横目で見ながら、承太郎はふと思い浮かんだどうでも良いような疑問を口にした。
「花京院」
「ん?」
「そう言えばお前、時々敬語になってたのはなんだったんだ?」
「え?」
 花京院は再び首を斜めにした。
「僕、敬語で喋っていたかい?」
「今は違うがな。さっき思い出した」
「意外と人見知りするタイプなんだ。っていうのは駄目かな」
 承太郎がわずかに肩を竦めると、花京院は自分でも考えるような仕草を見せた。
「そりゃあやっぱり、周りが年上ばかりだと一応気を使いますよ。このメンバーにも慣れて、だいぶ砕けてしまっているけど」
「また」
「うん、今のはどちらかと言うと意識的。でも、自分ではそんなに違和感は感じないな」
「俺はタメ歳だぜ」
 「少し気を付けた方がいいかな」等と見当違いのことを言いながら歩く花京院の背中に、承太郎は声をぶつけた。彼が言いたいのは、「最近言葉遣いが適当になってきている」なんてことではない。承太郎自身は、この旅が始まってから――いや、むしろここ数年、だろうか――敬語らしい敬語を口にしたことがない。
 振り向いた花京院に、もう一度言った。
「俺とお前はタメだと思っていたが?」
 何かのタイミングで、花京院が自分の年齢を「17です」と言っていたことがあった。それまでも漠然と「同い歳だろう」と、思うと言うよりは気にするでもなく勝手に思い込んでいたが、そのセリフを聞いて「ああ、やっぱりそうだったのか」と声には出さずに呟いた記憶がある。あるいは花京院の方が承太郎の年齢を知らず、彼の方が歳上だと勘違いしているのだろうか。そう思った承太郎に、花京院は何でもないことのように返してきた。
「でも君、早生まれだろう?」
「なに?」
「年齢は確かに同じ満17歳。生まれた年は同じ。でも君は早生まれだ。僕の誕生日は君より半年程先だから、学年は君の方がひとつ上ってわけだ」
 どうして自分の誕生日が把握されているんだろうという疑問はとりあえず置いておく。確かに、花京院と最初に会ったのは数日振りに脚を運んだ学校で、だった。だがそれは、教室での出来事ではなかった。転校生ですと紹介したのも、担任教師ではなく本人だ。そのままDIOに操られた彼と戦うことになり、その後も教室には入らず今回の旅に出ることになった。つまり、彼が何年何組の生徒なのかは知らないままだ。それを、いつの間にか“同じクラスに転校してきた男”だと思い込んでいたらしい。漠然と同い歳だと思っていた理由もそれか。だが良く考えれば、同じクラスの女子生徒達が花京院を知らなかったのだから、学年はともかく組が違うことは明白だったということか。
「日本に帰ったら“空条先輩”ですね」
「あ?」
「だって、一学年上なんだから。ただでさえおかしな時期の転校生で変に目立ちかねないって言うのに、先輩を呼び捨てにしてるなんて、明らかにまずいでしょう。おかしなことになればまた転校しなきゃだな」
 花京院はくすくすと笑った。が、承太郎は笑わない。元々決して表情が豊かな方ではないが、それでも声を上げて笑うことは皆無ではない。だが今は、そうしたい気分には一切なれなかった。
「さあ、もう行こう。ジョースターさん達をあんまり待たせたら悪い」
 ふたりはいつの間にか歩みをとめていた。いや、承太郎が立ち止まったので、花京院もそれに倣ったというのがおそらく正しい。花京院は脚を動かしながら、「行きますよ、先輩」と言って再び笑った。
 承太郎は少し開いた距離を一気に詰めるように大股で歩き出した。花京院を追い抜く時、低い声できっぱりと言った。
「おい花京院」
 視線が向けられるのを感じたが、歩みは止めなかった。
「ごちゃごちゃと煩く言ってくるようなやつがいても、知らん振りしてりゃあいいんだ」
 花京院は何も言わない。承太郎の言葉の意味を考えているのだろう。
「もしそんなくだらねーことでどうこう言うやつがいたら、俺が直々にブチのめしてやる」
 歳下に親しげな口調を許そうと思ったのは、彼が英語圏の文化に馴染みがあるから……、それだけではない。それを理解しているのかいないのか、花京院は何を考えているのか良く分からない顔をしている。そう思った承太郎の視界の隅で、不意にぱっと笑顔が咲いた。
「ありがとう、承太郎」
「さっさと行くぜ」
「うん」


2015,07,05


花京院って、時々敬語でしたよね。
最初はアブドゥルのこともさん付けしてたり。
途中でそれがなくなったのは、やっぱり段々打ち解けていったからなのかな。
友達出来て良かったね花京院!!!!
もう本当の友達がいるから、日本に帰って学校行っても以前ほどは周りとの間に壁を作らずに過ごせたんじゃあないかなせつねぇ。
花京院の年齢は、資料によっては『承太郎の同級生』になってるそうですね。
とりあえずこのネタは初期設定に基づいていますってことでご了承ください。
ジョジョは結構年代とか年齢の設定がぶれるからのー。
承太郎が早生まれで学年内では地味に皆より歳下だと思うとなんか可愛い。
<利鳴>

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