フーゴ&ジョルノ 全年齢 フーナラ要素有り


  愛≠憎


 出発の準備が出来るまで周囲を見張っていろとの指示に従い、ジョルノが玄関――ただし丘を上がってくる者からはギリギリ死角になっている――に立ってから、まだ数分も経っていなかった。ほぼ全ての意識を外へ集中させていた彼は、背後――すなわち屋内――から声をかけられるまで、そこに人が立っていることにすら、気付いていなかった。
「ジョルノ」
 振り向いてみると、そこにいたのはパンナコッタ・フーゴだった。おそらく自分と然程変わりないであろう年齢の少年は、少し前に――とある理由から――見せた険しい表情をなくし、今は穏やかに微笑んですらいた。初対面の時も、確かそうだった――スイッチを入れ替えるように、瞬時に表情を変化させていた――なと思いながら、ジョルノは口を開いた。
「出発ですか?」
「まだ。今、最終確認をしているところだ」
 彼等はポンペイへ向かうようにとの指示を受けていた。だがもちろん、ボスの娘を連れて団体で行動するわけにはいかない。リーダーであるブチャラティが選出した3人――ジョルノとフーゴ、そしてアバッキオ――は、すでに粗方の用意を済ませてある。あとは、リーダーのGOサインを待つだけだ。
 フーゴは外へ出ると、周囲を見廻した。近付いてくる人影はない。建物の裏側は、ミスタが見張っているはずだ。
「いずれ、この場所も知られるだろうな」
 フーゴは独り言のようにぽつりと呟いた。ジョルノが「ええ」と頷くと、その呟きは大きな溜め息に変わった。
「ったく……。あいつがヘマしてなけりゃあ、移動の必要なんてなかったかも知れないのに」
「ぼくに愚痴を聞かせに来たんですか?」
 屋外への警戒はそのままに、ジョルノはフーゴへ眼を向けた。返ってきた視線からは、彼の表情を読み取ることは出来なかった。
「ナランチャがもっと上手く立ち廻っていたとしても、遅かれ早かれ、敵はこの場所をつきとめていたと思います。むしろ、あの時点で敵が接触してきたことが、早すぎたんだ。そこまで想定出来ていれば事態は変わっていたかも知れないけど、彼1人を責めるのは、やはり間違っていると思います」
 ナランチャが負傷して戻ってきた時、彼を真っ先に責めたのはフーゴだった。それに対しジョルノは、今と同じように庇うような発言をした。そのあとすぐ、ジョルノのことが気に入らないらしいアバッキオが食ってかかってきて、さらにボスからの新しい指示が送られてきたために、話は打ち切られた形となったが、フーゴは、その続きをしようとでも言うのだろうか。そうでないとすれば、リーダーから何等かの命令を受けてきた風でもない彼が、わざわざ出向いてきた意味が分からない。まさか、こんな時に呑気に世間話でもないだろう。
「つまりジョルノは、ブチャラティの指示が間違っていたと、そう言いたいのか?」
 そう尋ねてきた声に、わずかにではあるが、冷たい何かが混在していることに、ジョルノは気付いた。
「……いえ、あの段階では敵の力を……明確な存在自体、誰も把握出来ていなかった。あの時は、ああするしかなかったと思います。ぼく等全員」
 フーゴの眼は真っ直ぐにジョルノの姿を捉えていた。しかし、『睨み付けられている』と言える程の感情は、そこから伝わってこない。ただ、何か黒いものが少年の内側を覆っているように感じた。
「何故、あなたは彼に手厳しくあたるのですか」
 思い切って尋ねてみると、フーゴの肩がわずかに跳ねた――ように見えた――。
「彼は最善を尽くした。そのことは、あなただって分かっているんじゃあありませんか? 注意をするにしても、もっと言いようがあったはずだ。あなたは――」
 次の瞬間、ジョルノは思わず言葉を中断させていた。先程までは存在していなかったはずの冷たく――冷たすぎて熱を感じる程の――鋭い視線が、自分の両の眼を貫いていた。柔和な表情を浮かべていた少年はもういなかった。外見だけがよく似た別人と入替ってしまったのだと言われれば、素直に信じてしまえそうな程だ。
「余計な口出しをするな」
 そう告げた声も、まるで別人のもののようだった。
「ぼくがどうしようと、お前には関係ない」
 彼が纏う黒い空気は、大抵の者を威圧させてしまうだろう。だがジョルノは、逆に1歩足を踏み出した。その脳裏には、絶望に限りなく近い表情を浮かべた、傷だらけの少年がいた。
「いいえ、言わせてもらいます」
 ジョルノはきっぱりと言い放った。
「あなたは本当は分かっているはずだ。ナランチャのあの顔を見たでしょう? 彼はあんなに怯えていた。何故だか分かるはずです。彼は、『役に立たない』、『この場に必要ない』と思われることを、何よりも怖れているんだ」
 ひとりはさみしい。
「『否定されること』、仲間に……、あなたに『認めてもらえないこと』、それが彼の怖れるものだ」
 誰にも認めてもらえないことは、ひどくさみしい。それは、存在自体を否定されているのと同じことだ。
「あなたは、彼のことを一番知っているはずなのではないのですか? そのあなたが、何故彼に辛くあたるんですか? そうすることによって、彼の中にあなたを留めておくことが出来ると、そう思っているのですか?」
 実際に可能だろう。傷付けられた記憶は、消えることなく心の中に存在し続ける。だがそれは、人が望むべき感情では、決してない。
「恨み続けることで、自分を思い続けてくれればいいとでも考えているんですか?」
 そんなものは、間違っている。憎しむ気持ちは、愛情の代わりにはなり得ない。
「……黙れ」
「彼は誰よりもあなたに『大丈夫だ』と言って欲しかったんだ。それなのに」
「知ったような口を利くな!」
 ジョルノは胸倉を掴まれ、壁に身体を押し付けられていた。体格の差はほとんどないように思っていたが、意外にもその力は強い。
「お前なんて、なんにも知らないくせにッ!!」
 一瞬、フーゴの背後に黒い影が現れたような気がした。だが近付いてくる者はいなかったはずだ。見間違いだろうか。あるいは……。
「ええ。ぼくはあなた達のことをほとんど知りません」
 ジョルノが組織に入ってから過ぎた日数は、まだ数える程にも満たない。
「そんなぼくにもはっきりと分かる程、あなたの感情は歪んでいる」
 ジョルノの胸倉を掴んだまま、フーゴの動きは完全にとまっていた。電池が切れたロボット人形のようだ。ともすればそのまま倒れてしまうのではないかと思われたそのタイミングで声をかけてきたのは、アバッキオだった。それ以前の2人のやりとりは聞こえていなかったようで、彼は訝しげな表情をしてはいたが、詮索はしてこなかった。
「準備が完了した。出発するぞ」
 それだけ言い残し、アバッキオは屋内へと姿を消した。
「はい。今行きます」
 ジョルノは返事をしながらフーゴの手を振りほどいた。あっさりと離れた手は、フーゴの身体の両側に力なく下がった。
「あなた達の間に入っていこうなんて思っていません。でも、彼を傷付けることは赦さない」
 おそらく自分に出来ることは、精々見守っていることくらいだろう。良くも悪くも、自分がフーゴ以上のことをあの少年――歳上だと言っていたが――にしてやれるとは思えない。彼が望むのは、自分ではない。だが、ただ見守っていてもらえるだけで得られる安らぎは、確かに存在するのだと、ジョルノは信じて……いや、『知って』いるのだ。
「自分の感情を押し付けるのはやめた方がいいと思います。それと、相手の感情を、勝手に決め付けることも」
 打ちひしがれたように俯いていたフーゴの眼に、ぱっと光が戻った。顔を上げた彼は、何を言われたのか分からないようだった。
「それ以外、彼の中に自分を残す方法はないと、決め付けているんでしょう? きっとそれは、間違っています」
 ほぼ一方的に告げると、ジョルノはさっさと屋内へと戻った。フーゴは、しばらくその場に立ち尽くしていた。


2014,07,10


ジョルノとナランチャは恋愛云々というのとは違うと思っているのですが、とてもジョル→ナラっぽくなったなぁと思います。
でもジョルノってナランチャに優しかったと思うんだ! 何度でも言うよ!!
なんかこう……、過去の自分とダブらせてしまったみたいな……。
っていうかナランチャはみんなに可愛がられていればいいと思う!
つーかもうナランチャ総受けで良くね!?
フー→ナラは、叶わないならいっそ傷付けたい的な感じで。
でも他の人が優しくしてるとムカつくというわがまま。
<利鳴>

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