フーナラ 全年齢 死ネタ


  永遠だと信じてるから


 後をつけてくる気配が1つ、2つと増えていく。気付かれないとでも思っているのか、あるいはたった1人相手に負けるはずがないと思っているのか、その団体は、疑いもせずに彼の背中を追っている。実際、この人数と『まともに』やりあえば、数分もせずにこちらの敗北は決まるだろう。だが、追跡者達が望んでいるのは彼の死ではない。やつらは、望む情報が手に入るまではそれをすることが出来ないはずだ。これは両者にとって、大変困った事態だった。なにしろ彼は『情報』なんて持ってはいないのだから。
 退路は完全に断たれたのだと悟った時、彼はもうどうでも良いと思った。一度は仲間を見捨ててまで縋ろうとした命だが、今はもうどうでも良い。守りたいと思う大切なものは既に失ったも同然で、ならばもう自分が存在する意味もどこにもない。自分は、たった1人の少年のために生きていた。そのことに気付くのは、どうやら少し遅かったようだ。今更“彼”を追うことは不可能だ。ならば――
 彼が足を止めたのは、どうやら今はもう使われていないらしい倉庫の中だった。かつては直射日光を嫌うようなものが保管されていたのか、明り取りの小さな窓すらなく、内部は随分と薄暗い。
「フーゴだな。ブチャラティチームの」
 声と共に頭上の1つしかない電球に光が灯された。まだ電力は生きているらしい。そう思った直後に、たった1つしかない出入り口が音を立てて閉ざされた。
「――馬鹿なやつ……」
 彼の呟きは、彼を追って倉庫に足を踏み入れた者達には届かなかった。
「もう逃げられねーぞ。さぁ、ボスの娘はどこだ」
 ボスの娘・トリッシュは、ブチャラティ達と一緒に、既にこの街を離れている。それを狙う者達がようやく見付け出した相手――フーゴ――も、それ以上のことは知らない。
「無駄な苦労だったな。ぼくはもう彼等の仲間じゃあない。行き先なんて、知るわけがない」
 フーゴはゆっくりとした動作で、足下にあった拳大の石を拾い上げながら言った。
「シラをきるつもりか。いいだろう。拷問してやるぜ!」
 その声を合図にしたように、集まった男達は一斉にフーゴに向かってきた。
「そんなに会いたければ、いい方法がある。先に『いって』待っていればいい。少なくとも何人かはすぐにくるだろうぜ」
 フーゴは心の中で自分のスタンドに呼びかけた。彼の傍らに立つその異形の者に、気付いた者はいない。スタンドも持たないただうるさいだけの虫けらのような存在。せめてそれが、大切なものの周りを飛び廻らないと良いと思った。
「ぼくを閉じ込めたつもりで、自分達の逃げ道まで塞いでしまったな」
 フーゴは手にした石を天井へ向けて投げ付けた。それは、電球に当たって派手な音を立てた。唯一の灯りを失い、辺りは真っ暗になる。一瞬うろたえる男達の気配。フーゴは声を張り上げた。
「パープルヘイズ!」
 そこで起こった出来事を見た者は、誰もいない。
(君は……)
 薄れゆく意識の中で、フーゴが思い浮かべたのは1人の少年の姿だった。
(きっと君は、生きては戻れないでしょうね。だからぼくは、先に逝って待ってます。君は馬鹿だから、自分がどうなったのかも分からないで、その辺をフラフラしていそうですね。でも、その時はぼくがちゃんと探しに行ってあげますからね。君はぼくがいないと本当にどうしようもないんだから……)
 暗闇の中から、複数の人間の呻き声が聞こえる。事態を把握出来ずに大声で喚く声も。だが、それも次第に静かになっていった。
(ぼくも……)
 息を吸い込むと、口の中に血の味を感じた。
(……ねぇ、こんなことになるなら、ぼくもボートに乗れば良かった。どうせ死ぬなら……。いつの間にか君の馬鹿がうつってしまったみたいですね…………)
 ウイルスが蔓延しているであろう暗闇の中で、フーゴは微笑んだ。
「――ナランチャ……」
(また……、会えます……よね……?)
 それが運命なら――


2013,02,05


死にネタは本当は苦手なのですが、フーナラに関してはフーゴもいっそ死んでいてあの世で再会させてやってくれ! と思うことがあります。
その場合はキンクリで死んだことに気付いていないナランチャを、フーゴが回収していってください。
フーゴも実は死んでいる。
フーゴはどこかで別人として生きている。
フーゴはジョルノの部下として働いている。
どのパターンも好きです。
切ないけど好きです。
<利鳴>

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