フーナラ R18


  Dolcetto o Scherzetto?


 朝の日射しが眼の奥を突き刺したような感覚に、フーゴは思わずこめかみの辺りを手で押さえた。頭の中で何かがざわついているようだ。顔を上げるなと警告されているようでもある。下を向いたまま、無理に足を進めようとすると激しい眩暈に襲われた。
(……気持ち悪い……)
 これではとても仕事なんて出来そうにない。事務所に電話をして、今日は休ませてもらうことにした方が良さそうだ。フーゴは進むことを諦め、踵を返した。その直後――。
「うわっ!?」
 突然の悲鳴。そして衝撃。地面に手と尻を着きながら、誰かにぶつかってしまったのだと理解した。
「す、すみません! ぼーっとして……て……」
 顔を上げたフーゴは、我が眼を疑った。
 彼がぶつかってしまったのは、1人の少年だった。少年はフーゴと同じように尻餅を着いている。黒っぽい上下の服に、黒い髪。歳はフーゴと同じくらいか、あるいは、もう少し幼いかも知れないと思われる顔立ちをしている。街で擦れ違っても気にも留めないような、『極普通の』少年だ。と、多くの人が思うだろう。だが、フーゴにとっては違っていた。
「……ナランチャ?」
「え……?」
 少年は首を傾げた。その仕草も、声も、姿も、記憶の中の人物と、そっくりだった。しかし、
「えっと……ごめん、誰だって? 人違いじゃあない?」
 少年は訝しげな表情でそう言った。
 フーゴは首を横へ振った。そう、彼であるはずがない。彼が……、ナランチャが、こんなところに――いや、どんなところにだって――いるはずはないのだ。
「ごめんなさい。何でもありません。……ちょっと、友達に似ていたから……」
 しかし、否定している自分の言葉の方が嘘のように聞こえる。見れば見るほどよく似ている。少しはねた髪の毛も、生意気そうな大きな眼も、ぽかんと開いた口も。
「ふーん……。その人の名前が『ナランチャ』ってゆーの?」
「……はい」
 子供っぽい喋り方まで――。
(どうして……)
 1年半も経った今でも、フーゴの胸は簡単にその傷口を開いてみせた。塞がったように見えていたのは一番外側の表面だけで、その内部では醜い裂け目が今でも赤い血を流し続けていた。
「ねえ?」
 立ち上がろうともしないフーゴの顔を、少年が心配そうな眼で覗き込んでいた。
「大丈夫? 顔色悪いけど……。どっか痛めた?」
「だい……じょうぶです。なんでもありません……」
 フーゴが立ち上がろうとすると、少年は手を差し伸べてきた。フーゴはその手を拒もうとしたが、少年が微笑むのを見て何も言えなくなった。掴んだその手は、少し温かかった。

 立ち去ろうとする少年を、フーゴは引きとめていた。離れた手を「待って」と言って、もう1度掴んでしまっていた。
「やっぱりどっか怪我した?」
 少年の表情が再度心配そうに変わる。
「いえ、それは本当に大丈夫です。そうじゃあなくて……あの……」
 引きとめて、どうするつもりだったのかは自分にも分からなかった。それならそれで、この手は放すべきだ。分かっている。分かってはいるつもりなのだ。だが、それがどうしても出来ない。放してしまいたくない。
(今更そんなことをしたって、遅いのに……)
 少年は不思議そうにフーゴの顔を見上げていた。
「あの……」
 「どこかに座ってお茶でもしませんか」とでも言うつもりなのだろうか。それではただのナンパではないか。自分は何をしているのだろう。また頭が痛くなってきた。本当にもう自宅に戻って休んだ方が良いのかも知れない。そう思い、手を放しかけた時だった。
「どっか座って休む?」
 少年の方からそう言ってきた。
「やっぱり顔色悪いし、少し休んだ方がいいんじゃあない?」
「え……」
「急に倒れたりでもしたら大変だし、ついててやるから安心しなよ!」
 少年の案内で、2人は来た道を少し引き返す位置にある小さなカフェに入った。この近所に住んでいる者でもなければその存在すら知らないで通り過ぎそうな、本当に小さな店だ。
「オレ、前にこの辺に住んでたことあるんだ」
 少年はそう言った。
 場所の関係か、時間の関係か、店内には彼等以外の客はいなかった。一番奥のテーブルに向かい合わせに座って、フーゴはコーヒーを、少年はオレンジジュースを注文した。カップとグラスが運ばれてきたところで、フーゴは口を開いた。
「本当にすみませんでした」
「いいよ別に。どこも怪我してないし。それより、アンタは仕事いーの?」
 少年はストローを口に銜えながら尋ねた。
「いいんです。今日は……元々休もうと思っていたところで……」
「サボり?」
 少年はにやりと笑った。
「まあ、そんなところ……です」
 つられたように、フーゴも少しだけ微笑んだ。
 コーヒーカップに口を付けながら、まるで時間が戻ったようだとフーゴは思った。あるいは、この1年半が全て嘘だったかのようだ。そう信じてしまえそうなほど、少年はナランチャと瓜二つだった。勇気がなかったばっかりに、守ることも、最期の時にそばにいることさえも出来なかった大切な人と――。
「そんなに似てる?」
 胸中を読まれたかのようなタイミングに、フーゴはぎくりと肩を強張らせた。少年はくすくすと笑っている。
「だってさっきから見すぎだぜ。顔に書いてあるって、こーゆーことを言うんだな」
「す、すみません……」
「まあいいや。そのナランチャってやつ、どんな人? オレに似てるってことは、強くてかっこよくて優秀な男?」
 今度はフーゴが笑う番だった。
「君はそういう人なの? じゃあ、中身は全然似てないな。顔はそっくりだけど。ナランチャはもっと、頭空っぽで、人の話聞かなくて、生意気で、無鉄砲で、馬鹿で……」
「しつれーなやつだな!」
「どうして君が怒るの?」
「同じ顔のやつ貶されてると思うと気分が悪いっ」
「ごめんごめん」
 少年は拗ねた子供のように頬を膨らませた。それがおかしくて、フーゴは余計に笑った。
「ねえ、君のことを、聞いてもいいですか?」
「いいよ」
 少年は、今はローマに住んでいるが、数年前まではこのネアポリスにいたのだと話した。今日はこちらに住む友人に会いに来たのだそうだ。
「そうか、じゃあ引きとめてしまったんですね。すみません」
「いーよいーよ。友達は、本当はいつでも顔見に行けるんだ」
 フーゴは口には出さずに「それは羨ましいな」と心の中で呟いた。
「君の歳は?」
「17」
「じゃあ、85年生まれ?」
「ん? ああ、うん、そう」
「じゃあぼくと同い歳ですね」
 フーゴがそう言うと、少年は少し驚いたような顔をした。
「同い歳? へぇ!」
「もっと老けて見えた?」
「え? いやいや、そーゆー意味じゃあないって」
「どうだか」
 今度はフーゴが拗ねたフリをしてみせる。が、すぐにおかしくなって笑い出してしまった。そこへもう1つの笑い声が重なった。少年も笑っている。
「ねえ、ナラ……あ……」
 少年は僅かに首を傾げた。
「ごめんなさい……」
「いいよ別に。そう呼びたいなら呼んでも」
「そんなわけに……いきません」
 いくら彼がナランチャに似ていても、彼には彼の生活があるはずだ。身代わりになんて、出来るはずがない。
 落とした視線の先で、コーヒーカップは空になっていた。向かい側の席にあるグラスの中身も、融けかけの氷が残っているだけだ。
「あの、どうもありがとうございました。楽しかったです」
「久々に『その人』と話せたみたいで?」
「え、ええ。まあ……」
 フーゴが立ち上がると、少年もそれに倣った。フーゴは、「迷惑料代わりに」と言って2杯分の飲み物代を払って外へ出た。自分はこれから部屋へ帰り、少年は先程言っていた友人に会いにでも行くのだろう。フーゴと会わなければとっくに辿り着いていたはずの大きな通りへ戻って行くに違いない。お互いの目的地は逆方向だ。
「じゃあ……」
 「これで」と手を振って背を向けようとしたジャケットの裾を、強くはないが不思議と振り解き難い力に引っ張られた。
「ねえ」
 少年がフーゴの顔を見上げている。
「……なんですか」
「今日1日つきあってあげる。『その人』の代わりに」
「でも……」
「奢ってくれたお礼。それに、そんなに似てるオレに会ったのは、なんかの縁かもよ? 『その人』とオレが実は生き別れた双子の兄弟とか!」
 少年は「名案だ」と言うような顔で言った。
「ありえない」
「なんでそうやっていきなり100%否定するかなー」
「だって、ナランチャはぼく達よりも2つ歳上なんですから」

 近くの公園にいる猫を見に行き、少し遅めの昼食を取り、少年はフーゴの部屋までついてきた。フーゴが駄目だと言わなかったためだ。部屋へ入ると少年は、机の上に飾ってあるフォトスタンドを勝手に手に取った。
「みーっけた。これだろ?」
 それは、何かの時に仲間達と取った記念写真だった。リーダーを中心に、当時のチームメンバー達は、後にその半分もの人数がこの地を永遠に去ることも知らずに、微笑んでいる。ナランチャは無邪気に、フーゴはその隣で、幸せそうに――。
「本当に似てるな! 実はオレ、ドッペルゲンガーだったりして?」
「ほら、勝手にその辺の物に触らないでください」
 フーゴはそれを取り上げて、引出しの中にしまった。写真の中のとはいえ、ナランチャに、彼とそっくりな別人を連れてきていることを見られているのがなんだか耐えられないことのように思えた。また少し頭が痛んだ。
「ねえ」
 はっと我に返ると、少年に顔を覗き込まれていた。今日1日の間に、彼には何度かそうされていたが、今度のはやけに距離が近い。慌てて離れようとした背後は本棚だった。
「『その人』とフーゴは恋人同士だったの?」
「なっ……、なにを、馬鹿な……ッ」
 少年は笑った。邪気があるというよりは、悪戯に成功した子供のような笑顔だ。
「わ、笑うな! そんなんじゃあ……」
「違うんだ? じゃあ、フーゴはどう思ってたの?」
 少年が1歩踏み込むように近付いてくると、フローディングの床が小さく軋んだ音をたてた。
「……同じ顔で、……そういう冗談を言わないでください」
「冗談じゃあなく言ったら?」
「もっと悪い」
 少年の手がフーゴの肩に触れた。退路のない足が、背中にある本棚を蹴った。
「ねえ、ナランチャって、呼んで。オレを代わりにすればいいじゃん」
 この少年は、一体何者なのだろうか。何の目的があってフーゴの前に――よりによってナランチャの姿で――現れたのか……。
(これは誰かのスタンド能力? 誰が? 何の為に?)
 フーゴは今更恐怖心にも似た何かを覚えた。
「フーゴ」
 呼吸が触れるほど近くで、少年の唇が囁く。
「ナラ……ンチャ……」
 フーゴは腕を伸ばし、少年の身体を押し退けた。
「やめろ」
「どうして?」
「君はナランチャじゃあない。ナランチャは……」
「もういない?」
「でも……」
 姿も声も仕草も、感触も体温も匂いでさえも、何もかもが全く同じだった。自分自身に「違う」と言い聞かせようとしても、フーゴの全ての感覚が、愛しい者の記憶に呑み込まれてしまっている。
「出て行ってください。ぼくは……」
 強く握った自分の拳が、小刻みに震えていることに気付いた。
「このままじゃあ、……自分を抑える自信がない……」
 痛みを堪えるように歯を食いしばった口元に、温かい物が触れた。驚いて見開いた眼には、少年の姿しか映らなかった。
「いいよ」
 少年は囁くように言った。
「いいよ。抑えなくて。……フーゴなら、平気だよ」
 頭の中で、小さな泡が弾けるような音を聞いた気がした。

 フーゴの動きに合わせて、2人分の体重を支えたベッドが音を立てた。喘ぐような呼吸の音は、既にどちらのものなのか分からないほどに混ざり合っている。中心部を突き上げる度に跳ね上がる細い身体を少しでも放せば、一瞬で消えてしまうのではないかと恐れるように、フーゴは縋るように彼を抱いた。背中に傷をつける爪の痛みだけが、これが現実であることを教えているかのように思えた。
「ナランチャ……っ」
「はっ、あぁッ……!」
 フーゴが耳の下に唇を押し当てると、少年の内側が急速に狭まるのが伝わってきた。
「ねえ、……君、ナランチャだろ」
 フーゴがそう言うと、少しの間の後、少年は余裕のない表情で、それでも笑った。
「……あは。……バレた?」
「バレっバレだ。君の身体のことで、ぼくが知らないことなんて、あると思う?」
「は……はは。やっぱ、バレてたかっ……」
「いくらなんでも、似すぎてる、だろ」
「だって、本人なんだから、仕方ないっ、じゃん」
「それに……」
「っ……、待っ、て」
「なに?」
 少年は苦しそうに笑った。
「この状態で喋んのきつい」
「わかった。じゃあ、あとから全部、説明してもらう……からなっ!」
 2人の身体の繋がった部分を一際強く突き上げると、甲高い悲鳴にも似た声が上がり、ほぼ同時に、身体の下で熱が弾けた。それに続くように、フーゴも自分のそれを解放させる。
 しばらくの間、2人は並んでぐったりと横たわっていた。大きな瞳がこちらを向いていることに気付いてはいたが、フーゴは呼吸をするのに忙しい。
「いつから、気付いてた?」
 尋ねられて、長い溜め息を吐くようにフーゴは答えた。
「最初から、変だとは思ってましたよ。自分の生まれた年が、すぐ出てこなかったり、いきなり『仕事はいいのか』って聞いたり……学生かも知れないのに。それに、『ナランチャ』って聞いて、すぐに男の名前だって分かったり」
「あ」
「だから君は馬鹿だって言ったの。ナランチャっていったら、普通は女の名前だと思いますよ」
 フーゴは仰向けになって、声を出して笑った。
「っさいなー! 自分だってパンナコッタのくせに!」
「ああ、そう、名前も」
「あ?」
「ぼくは1度も名乗っていない」
「あー……」
 結局、少年の正体はナランチャだった。1年半前に死んだ、フーゴの大切な存在だった。
「ナランチャ」
「うん?」
「おかえり」
「……うん」
「『ただいま』じゃあないの?」
「うん」
「『またいかなきゃ』?」
「うん」
 視界を横へ向けると、ナランチャの笑顔が少しだけ寂しそうに見えた。
「本当は、会わないで少し顔見てくだけのつもりだったんだ。だってやっぱり、普通じゃあないだろ?」
 ナランチャは首だけを横に向けてフーゴの方を見、うつ伏せの体勢になった。
「でも、フーゴがあんまりにもしょぼくれた顔してるもんだから、うっかり近付きすぎちゃった」
 笑顔で言うナランチャに、フーゴは背を向けた。彼の姿を直視していると、眼の奥が痛くなってくるような気がした。
「いつまで……」
 ここにいられるのかと尋ねようとした声は、咽喉に詰まってそのままどこかへいってしまったようだ。それでも察してくれたらしく、ナランチャは「たぶん今日いっぱい」と答えた。
 そのままの姿勢で机の上の時計を見ると、間もなく秋の太陽が沈もうとしている時間だった。
(昼間から何をしているんだか……)
 自分自身の行動に呆れて、フーゴは溜め息を吐いた。
「でもさ」
 背中に暖かい手が触れてきた。
「さっき言ったじゃん」
 声は空気ではなくて背中を伝わって聞こえてくるようだった。
「……なにを?」
「本当はいつでも顔見に行けるって」
「……それは、一方的にでしょう? ぼくからは何も見えないし、君がいることも分からない……」
「じゃあ、物音立てたりその辺にある物飛ばせるように練習した方がいい?」
 それでは完全にポルターガイストだ。フーゴはようやく少し笑った。
「見えなくても、でもいるんだぜ。ずっとフーゴのそばにいる」
「…………」
「ちゃんとまた会えるから」
 2人が口を閉ざすと、音の鳴らないデジタルの時計しかない部屋の中は、沈黙に包まれた。それを破ったのは、今度もナランチャだった。
「なあ、知ってた?」
「……なにを?」
「フーゴ、背が伸びたんだぜ。ちょっとだけだけどさ」
「……知らなかった」
 無気力に生きていても、心を閉ざしていても、音を鳴らす秒針がなくても、彼の時間はとまってはいない。この世界に残った以上、動き続ける義務がある。
 ナランチャの腕が伸びてきて、フーゴの背中に抱き付いた。フーゴはそれを振り解いた。姿勢を変え、小さな身体に圧し掛かるように抱き返した。
「君が見えなくなってしまうまで、ずっとこうしていていいですか?」
 ナランチャは微笑んで眼を閉じた。
「いいよ」

 夜が開け、眼を覚ますとナランチャの姿は消えていた。温もりさえも残っていない。誰もいない空間に向かって呼びかけてみたが、僅かな家鳴りでさえ、応えるものはなかった。代わりに、購入した覚えのないオレンジ味のキャンディが1つ、ぽつんと机の上に置かれていた。
「昨日、何か変わったことはありましたか?」
 事務所に行き、ミスタに尋ねてみると、彼は首を傾げた。
「昨日? オメーがずる休みした以外に?」
「だからそれはさっきから謝ってるじゃあないですか」
 昨日は「1日休ませて欲しい」と電話をした以外には、ミスタ達には何も説明していなかった。夢を見たのかとさえ思えるあの不思議な出来事を、フーゴは誰にも話すつもりはなかった。
「昨日ねぇ? とくに何もなかったぜ?」
「そうですか」
 まさか死人が帰ってきませんでしたかと尋ねられるはずはなかったが、ミスタの様子を見る限り、彼等の元には何も起こらなかったようだ。
「ああ、そういえばジョルノにかぼちゃプリンをせびられたな」
「かぼちゃプリン?」
 突然飛んだ話に、フーゴは眉を顰めた。
「17にもなってなーにがトリックオアトリートだってーの。なあ?」
 すると、それまで書類に眼を向けていたジョルノが、ようやく顔を上げて話に参加してきた。
「イタリアではハロウィンが一般的じゃあないからつまらないですね」
「宗教的に仕方ないんじゃあねーの?」
「組織の力をもってすれば……」
「やめろ」
「同じく17のフーゴの分も買って来させました」
「お前フーゴを共犯者に仕立て上げる気なんだろ」
「別に。1人なら、それはそれで構いません。フーゴの分は冷蔵庫に入って……フーゴ?」
 ぽかんとしているフーゴに気付いて、ジョルノは「どうかしましたか」と尋ねてきた。
「あ、いや、なんでもないです」
「そうですか? それならいいですけど……。それよりも冷蔵庫に……」
 既にジョルノの興味はそちらへ向いてしまっているようだ。フーゴは笑いを堪えなければならなかった。
「ぼくはいいから、ジョルノ、代わりに食べておいてもらえますか?」
「貴方ならそう言うと思っていました!」
 ジョルノはぱっと笑うと、席を立って小走りにキッチンへ向かって行った。
「人がせっかく買ってきてやったのに」
 ミスタが言う。
「買って来いって言われて嫌々買いに行ったんじゃあなかったんですか? あんなに喜んでるんですよ。あのジョルノが。きっとプリンだって、ぼくよりも彼に食べられた方が幸せですよ」
「かもな」
「それに、ぼくはもう、ハロウィンは充分満喫しましたから」
「なんだそりゃ」
 ミスタはしかめっ面をした。
「お前、やっぱり昨日は病欠じゃあなかったんだなっ?」
「秘密です」
 きっぱりと言い放ちながら笑って、フーゴはさっさと仕事に取り掛かった。


2011,10,30


ナランチャってハロウィンカラーですよね。
イタリアではハロウィンの翌日は休日だろとか突っ込んじゃいやんです。
ギャングに祝祭日もくそもないわ!!(たぶん)
ちなみにイタリアでは「a」で終わる名前は普通は女の子の名前です。
<利鳴>

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