ミスジョル 全年齢 過去捏造


  2つ並んだ星みたい


 白い頬に伸ばした指先が、何か硬い物に触れたことに気付いて、ミスタは動きをとめた。
「ミスタ?」
 どうかしたのかと尋ねてくる上目遣いから苦労して視線を移動させると、先程触れた物の正体はすぐに分かった。
「そういえば、お前ピアスしてたんだな」
 髪の毛の色に極近い色の小さな石は、自己を主張しようともせずそこに存在している。
「これですか。別に塞がってしまえばそれはそれでもいいんですが、なんとなくそのままにしてあるだけです」
 そう答えたジョルノの表情は、――いつも傍にいるミスタにしか気付けなかったであろう程――僅かに翳った。
「ジョルノ?」
「……なんでもありません」
 ジョルノは首を横に振った。しかし、ミスタが改めてその肩を引き寄せようとすると、彼は「気が変わった」と言うように、するりとその手を逃れていってしまった。何か気分を害するようなことを言ってしまったのだろうかとミスタが思っていると、ジョルノはスタスタと洗面所へと向かって行った。後を追って行くと、ジョルノは鏡に映った自分の姿を凝視していた。「睨んでいる」と言っても良い程に。しばらくそうしていたかと思うと、白い手が耳で光る小さな石へと伸びた。
「オレ、ピアスって空けたことないんだけどよぉ、やっぱ痛いもん?」
 ミスタは鏡の中のジョルノに向かって尋ねた。
「人それぞれだと思いますよ。ぼくはそれ程でもありませんでした」
 近付いて行って後ろから手を伸ばし、耳に触れようとすると、しかしそれを拒むようにジョルノは振り向いた。
 なんだか表情がいつもよりも険しく見える。一体何があったと言うのだろうか。
「それ空けた時、どんな感じだった? なんで空けようと思ったんだ?」
 彼が抱えているもののほんの一部でも、何か見えてはこないかと、ミスタはとにかく会話を終わらせないことを選んだ。するとジョルノは、「笑った」と表現するには歪に、口角を動かした。
「こんな物に興味があるんですか?」
「ああ、あるな」
 『お前のことなら』と心の中だけで呟くと、ジョルノは小さく溜め息を吐いた。
「別に、大した理由じゃあなかったんです。興味本心っていうのが少しと、付き合いが少しと、それから……」
「……それから?」
 ジョルノは軽く頭を振ると、先程までいたソファへと戻って行った。ミスタもその隣に腰掛けようとしたが、やはり思い直して近くの椅子に後ろ向きに座って背もたれに腕を乗せ、そこへ更に顎を乗せた。この位置からなら、隣に座るのとは違って、ジョルノの顔を正面から見ることが出来る。
 『それから』何なのだと尋ねたいのを我慢して、ジョルノが自ら口を開くのを待った。ジョルノはミスタには理解出来ない険しい表情をしている。耳に空いたその小さな穴に、何か重要な意味を含む過去があるとでも言うのだろうか。ミスタは、時々こんな風に自分の知らないジョルノが姿を見せることが不安で仕方なかった。ジョルノは「そんなことは無駄だ」とでも言うように、自分のことを積極的に語ろうとはしない。確かに付き合いはそれ程長いとは言い難いかも知れない。それでも、誰よりも彼のことを知っていたいと思う気持ちは確かに存在するのだ。
 たっぷり5分は待った頃、ジョルノは漸く口を開いた。
「半分は、くだらない反抗心」
「なんだそれ?」
 ジョルノは自嘲的な笑みを浮かべながら話した。

「ピアス穴を空けたら親に怒られた」
 切欠は、クラスメイトのそんな言葉だった。
 近くにいた数人に聞かせる彼の耳には、確かに小さな穴が空いているようだった。
「せっかく空けたのによぉ、もう塞げって。持ってたピアスも没収されちまってよぉ、あのクソババァ」
 口を尖らせながら親の悪口を言う彼とその友人達は、言葉とは裏腹に、実に生き生きと、楽しそうだった。
「オレも空けてみたいなぁ」
 やがて、話を聞いていた内の1人がそんなことを言い出した。
「そういうのってどこでやれんの?」
「ピアス売ってる店とかで出来るんだぜ」
「へぇ」
 興味を示した彼は、「でも1人で行くのは怖い」と言い出した。
「一緒に行こうか」
 そう申し出たのがジョルノだった。
 そうして、彼の左右の耳にはその日の内に小さな穴が空けられることとなった。
 学校の寮に入ってからは暫くぶりとなる実家で、母と顔をあわせたのは玄関先でのことだった。と言っても、彼女が出迎えてくれた訳ではない。どうやら、ちょうどどこかへ出かけようとしていたところだったらしい。
「あらジョルノ、どうしたのよ」
 特別な理由がない限り、自分は家に帰ることも許されないのかと、ジョルノは表情を歪ませた。しかし母がそれに気付いた様子はない。
「なに? 学校の書類?」
「いえ、違います。その……」
「急いでるのよ。あとにしてくれないかしら」
「なんでも……ないんです。ちょっと本を取りに来ただけで……」
 ジョルノは嘘を吐いた。無意識の内に耳に触れていた手を下ろして、強く握った。
「そう、じゃあいいのね。鍵は持ってるんでしょ」
「はい」
 結局、彼女は息子の耳で光る小さな石には一度も気付かないまま、足早にどこかへと出かけて行った。
 翌日学校で、一緒に穴を空けに行ったクラスメイトに「どうだった?」と尋ねられた。
「親に何か言われたかい? うちはちょっと驚かれたくらいだったけど」
 ジョルノは彼にこう答えた。
「なにも……」
 それは100%の真実だった。

「息子の髪が突然金色になっても何も言わなかった人ですから。よく考えれば全くの無駄な行為だということはやる前から分かったはずだったんですよね」
 すぐに塞いでしまうのもクラスメイトに一々その理由を尋ねられそうなのが面倒臭かったのだと、ジョルノは言った。
「それだけです。大した話じゃあないでしょう?」
 ジョルノはそう言ったが、おそらく彼は「親に怒られた」と不満を漏らす少年のことが、心の中では羨ましかったのだろう。彼が欲しかったのは、ちっぽけな装飾品を身に着けるためのもっとちっぽけな穴なんかではなかったはずだ。「これで話はおしまいです」と言うように口を閉ざした彼の眼は、どこか寂しそうに見えた。
「でもそれ、似合ってるぜ」
 ミスタがそう言うと、ジョルノは一瞬驚いたような顔をした。
 そう思ったのは嘘ではない。それ以上に、自分がその存在に気付いて、そしてそのことを伝えてやれば、それは決して無駄に終わりはしないはずだと思った。少し遅くなってしまったが、更には届いた相手は彼が望んだ人とは別になってしまいはしたが、その石に込められた「自分を見て欲しい。気にかけて欲しい」という思いは、少なくともミスタが受け取ることは出来た。
「……ありがとうございます」
 ジョルノは僅かに頬を赤らめて、照れたように言った。
「オレもピアス空けてみっかなぁ」
 ふと思い付いて、ミスタはそんなことを言ってみた。
「空けますか?」
「出来んの?」
「その後別のクラスメイトに頼まれて手伝ったことがあるので。普通の針でも出来ますよ」
 2人で探してみると、キッチンにアイスピックがあった。いつの間にか「じゃあ今空けよう」という流れになっていて、「やってあげますよ」というジョルノの申し出を断ったミスタは自分でそれを耳に当てた。
「お前にやってもらったりなんかしたら、オレがびびってるみたいじゃねーかよ」
 そんなことを言いながら。ジョルノは「はいはい」と言って少し笑った。
 拳銃で撃たれたこともあるミスタにとっては、それは一瞬の出来事だった。しかし痛いものはやはり痛い。
「え、これってこんなもん? 結構いてぇんデスケド」
「だから、個人差ありますって。身体に穴空けてるんですから、痛みがあるのは普通でしょう。ギャングがピアス如きで泣き言言わないで下さい。しかもまだ片方だけ」
「いや、なんかもういいわ。満足した。もう片方はやめとく」
「チキン」
「うるせー。っていうか、よく考えたら普段は帽子の下でどーせ見えないんだよな」
「そう言えばそうですね」
「しまったぁ、オレまで無駄なことを」
 大袈裟なアクションを取りながら言うと、ジョルノはくすくすと笑った。
「それ、ピアスしてないとすぐ塞がりますよ」
「あ、そうか。でもオレ、ピアスなんて持ってねーわ。お前余ってない?」
「ここ、ぼくの部屋じゃあないので」
「じゃあこれ無駄どころか空け損かよ」
 するとジョルノは、「仕方ないな」と言って自分の耳に触れた。かと思うと、片方のピアスを外し、ミスタへ手渡した。
「どうぞ」
「へ?」
「あげます。ぼくのはもうそんなにすぐには塞がりませんし、塞がってしまっても構わないので」
 小さなピアスを小さな穴に入れるのは、穴を空けるための針を刺すよりもまだ難しかったと、後にミスタは語った。
「不器用ですね。もうピストルズにやってもらったらどうですか」
「うるせぇ。……お、これ着いたんじゃね?」
 ミスタは鏡の中の自分がジョルノの耳にあるのと同じピアスをしているのを見た。やはりいつもの帽子を被ってしまえば見えなくなってしまう位置ではあるが、それでも悪くはない。そんなことを思った。
「なぁ、これ貰っちまってもいいのか?」
「ええ、どうぞ。……もうミスタ菌が着いてしまいましたしね」
「お前は小学生かよ。そっちの耳はどうするんだ」
「気が向いたら違うのを着けます。向かなければ、このまま塞ぐかも知れませんね」
「じゃあ明日にでもなんか代わりの買って返すわ」
「いいですって」
「オレが買ってやりてーの」
「なんですかそれは」
 ジョルノは呆れたように言った。が、その表情は、決して嫌がっているようには見えない。
 ミスタは手を伸ばしてジョルノの耳に触れた。
「触らないで下さい。くすぐったいです」
「そう言われると、逆にくすぐってやりたくなるんだよなぁー。なに? お前ここ性感帯?」
「バカですか貴方は」
 ジョルノは笑いながらミスタの手首を掴んだ。そしてそのまま力を入れて引き寄せ、顔を近付けてきた。数秒後、ミスタはピアスをした方の耳にジョルノの唇が触れるのを感じた。


2011,12,09


ピアスって和製英語だったんだ! 初めて知った!!
良い子はピアス空ける道具や人が着けたピアスはちゃんと消毒してから使いましょう。
一対のピアスを2人でって萌えませんか?
普通のおそろいよりも元は1つの物を……って、萌えると思うのです。
最初はミスジョルにするかフーナラにするか悩んだのですが、捏造した過去の部分はフーゴじゃあ使えないなぁと思ったのと、
ナランチャには痛い思いさせたくないなぁと思ってのでこうなりました。
ミスタならOKッ!! って意味ではないですが。
わたしはピアスって怖くて空けられません。
何故人は穴を空けたり掘ったり貫いたりしたがるんでしょうね。
<利鳴>

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