フーナラ 全年齢


  “光”に触れたい


 『宿題うつさせて』と頼むような軽い口調で、ナランチャは「フーゴのスタンド見せて」と言ってきた。2、3秒の間の後、フーゴは「嫌です」と答えた。
「えー、なんでぇ? いいじゃん、減るもんでもないし。ほら、オレのも見せてやるから!」
 まくし立てるように言うと、ナランチャは片腕を真っ直ぐに伸ばし、「見て驚くなよ」と言うようにニヤリと笑った。かと思うと、水平に伸ばされたその腕を滑走路代わりにするように、ラジコン飛行機のようなヴィジョンが現れた。エンジン音を響かせなら、それはナランチャの周りを飛び廻った。
「かっこいーだろー。オレの『エアロスミス』。弾丸だって撃てるんだぜ!」
 無邪気なその笑顔と相俟って、本当に子供がラジコン機で遊んでいるようにしか見えない。が、よく見れば、“それ”が実体を持った物質ではないことは明らかだった――「どう明らかなのか」と問われれば、“それ”を見ることが出来ない者に説明するのは難しいが――。エンジンの音も、窓の外の通りを歩いている一般人達には聞こえていない。“それ”がすぐ眼の前を掠めて行った時、フーゴは咄嗟に後ろに身を引いていた。
「分かったから。ここで撃たないでくださいね」
 出現した時と同じように、“それ”はナランチャの腕の上を滑るように走り、消えた。その一瞬前に、フーゴは飛行機のコックピットの中に小さな人影があることに気付いた。あれはただの飾りだろうか。それとも、ナランチャが操っているのはあちらの小さなパイロットの方で、機体の方が直接意思の疎通をしているということではないのだろうか。
「次はフーゴの番!」
 ナランチャは人差し指をフーゴの顔に向けた。フーゴは、その指を手で払った。
「人を指差すな」
「『人差し指』なのに」
「ぼくは『見せる』なんて約束してませんよ」
「えーっ。オレは見せてやったのにぃ」
「君が勝手に出したんでしょう」
 フーゴがふいっと背を向け、立ち去ろうとすると、ナランチャはその行く手を遮るように先程の飛行機型のスタンドを飛ばしてきた。眼の前を機体が猛スピードで通りすぎる。フーゴの足が止まっている間に、ナランチャは彼の前に廻り込んできた。「見せてくれたっていいじゃん」と言いながら、フーゴの袖を掴む。
「なんでそんなに見たいの」
「なんでそんなに見せたくないの?」
「質問に質問で答えるな」
「ブチャラティが言ってたんだ。スタンド、イコール“精神”だって」
「そう」
「よく分かんねーけど、精神ってつまりは心ってことだろ」
「だから」
「だから」
(だから……)
 だから、見せたくないのだ。
 ナランチャの――と言うよりも、ブチャラティの――言ったように、スタンド能力はその人物の心……つまりは、本質を表していると言っても過言ではない。中にはそれを巧みに隠してしまえる者もあるかも知れないが、多くの場合は、「なるほど、それでこの能力なのか」と納得出来る性格の持ち主ばかりだ。例えば、臆病な性格のスタンド使いであれば、その能力は敵の眼を欺いたり、どこかに隠れることを得意とする場合がある。強い支配欲を持つ者であれば、それを可能とするようなパワーを有する。その他、元からの才能を伸ばす役割をする力、本人の望みを反映した能力……。スタンドは、その人物を映し出す“鏡”だ。
(じゃあ、ぼくは……?)
 フーゴのスタンドは、一言で言えば『凶暴』だ。力の加減はほとんど出来ない。ただ命を奪うだけの能力。ブチャラティは、本当に緊急の場合以外にその力を使うことをフーゴに禁じた。だが、命令されなかったとしても、進んで使いたくなるような力ではない。一歩間違えれば、フーゴ自身も命を落としかねない。そんな能力を、どうして彼が喜ぶだろうか。だが、先程の言葉に当てはめるならば、“それ”が彼の本質なのだということになる。全てをただ消してしまいたい。自分さえも。生命の本能である『生存』をも否定する、矛盾した心。そんなものを他人に見せることは、ひどく躊躇われた。
(だから、見せたくない)
 いっそこんな能力、なければと思ったことは幾度もあった。だがそれこそが、己の存在の否定に他ならない。いつしかフーゴは、受け入れることも、拒否することも出来ないまま、自分自身を見て見ぬふりをするようになった。
(ナランチャには分からない)
 自由に飛び廻れる彼には、絶対に。
「だからさぁ、なんっつーかぁ……。オレの言いたいこと分かんないかなぁ」
 ナランチャは眉間に皺を寄せながら言った。自分の言いたいことを上手く伝える言葉が見付からなくてもどかしいといった表情だ。フーゴは突き放すように「分かりませんよ」と言った。
(なんだ。お互いに何も分かれないんじゃあないか)
 自嘲気味に笑い、フーゴはその場を立ち去ろうとした。が、ナランチャの手はまだ彼の袖を掴んだままだ。
「ほら、またそういう顔する」
「はい?」
「だからぁ……」
「なんですか」
 もっと語彙を増やしてから出直してこいとでも言ってやろうかと考えていると、「ああ、もう」と苛立った声が聞こえた。その声の主は、視線を少し逸らし、下を向いていた。が、その頬がわずかに赤く染まっていることに、フーゴは気付いた。
「……ナランチャ?」
 顔を覗き込もうとした直後に、少し怒ったような視線が上げられた。それは、真っ直ぐフーゴに向いている。
「オレ、フーゴのこと全然知らないんだよ」
 何を言われているのか、よく分からない。分からないが、眼の前にあるナランチャの姿を、表情を、黙って見ていたい。その声を、もっと聞いていたい。そんなことを思った。
「フーゴが好きな物とか、嫌いな物とか、なんで、時々ちょっと苦しそうな顔するのかとか……。お前、全然話してくれないし、見せてくれないから……」
 大きな瞳は再び下を向いた。フーゴの袖を掴んだままの手は、かすかに震えているようだ。
 少しの間、沈黙が続いた。だがナランチャがフーゴの言葉を待っている様子はない。彼の言葉は、まだ終わっていない。フーゴはそれをじっと待った。それしか出来なかった。
「オレ……」
 すっと息を吸い込む音。再び短い間。そして、
「フーゴのこと、もっと知りたい」
 ナランチャがスタンドを見たいと言った理由が、やっと分かった。
 スタンド、イコール精神であると聞いた時に、彼がどこまで本気でそれを見れば相手のことを知ることが出来ると思ったのかは定かではない。だが、少なくとも己の能力を明かすことは、信用出来る相手以外にするべきことではない。ナランチャは、まずその“証”が欲しかったのだろう。それと当時に、自分にはその気持ちがある。だから信用して欲しいと、伝えたかったのではないだろうか。だから自分から進んで能力を明かした。
 ナランチャが組織に入ってからの日は、まだ浅い。フーゴは、自分について、多くを聞かせようとはしていなかった。その必要はないだろうと無意識のうちに判断していたというのが半分。まだ時間が経っていないのでそんな暇がなかったという言い訳がもう半分。今それを、ナランチャは取り払ってしまおうとしている。拒めば、おそらくその眼は二度と自分へは向かなくなるだろう。フーゴは直感的にそう思った。唾を飲み込もうとしたが、口の中は乾き切っていた。
「…………離れて」
 やっとそう告げた声は掠れていた。
 ナランチャの表情が、一瞬にして失望のそれへと変わった。
「危ないから。ぼくのスタンドは」
「……え?」
 フーゴが一歩下がると、ナランチャの手はそのままするりと離れた。まだ言われた言葉の意味を考えている最中のように、大きな眼が瞬きを繰り返した。
「……見せてくれるの?」
「絶対にカプセルを割らないことが条件。いや、ぼくの許可なく近付くな」
「カプセル……?」
 フーゴはそのまま後ろ向きに移動し、窓の傍に立った。今日は天気が良い。太陽の角度も丁度良い時間だ。床には窓と同じ形に光が落ちている。背中に当たる日光の暖かさを感じながら、フーゴは“それ”を呼び出した。
 一瞬、空間が歪んだような感覚があった。かと思うと、フーゴの傍らには、先程までは存在していなかったはずの人影が……、いや、人の形をしたものが立っていた。プラスチックのような質感の肌は白く、紫色の菱形模様が見える。見開いた眼は獣のそれのように鋭い。スタンドという概念を持たぬ者は――もっとも、スタンド使いでなければそのヴィジョンを見ることは出来ないのだが――迷うことなくそれを『化け物』と呼ぶだろう。ナランチャのスタンドと比べるまでもなく、その姿はあまりにも禍々しい。ナランチャは、それをじっと見ていた。
「これが、フーゴの?」
 ナランチャの足がふらりと一歩前へ出ようとした。が、すぐにフーゴの言いつけを思い出したらしく、彼はその場に踏みとどまった。
「こいつ、名前はあるの?」
「パープル・ヘイズ」
「何が出来るの?」
 ナランチャの問いかけに答えるように、パープル・ヘイズはぐるぐると唸り声を上げた。ナランチャの肩がわずかに跳ねた。
「両方の拳に、ウイルスが入ったカプセルがある。左右3つずつ、合計6つ。それが割れると、ウイルスが広まって、感染すると……死ぬ」
 フーゴは抑揚のない声で答えた。そうしながら、ナランチャの反応を伺おうと必死だった。しかしナランチャはどこか呆然としているようで、何を感じ、何を考えているのかは読み取れない。
「感染すれば、ぼく自身でもどうすることも出来ない。なのに射程距離はたったの5メートル。ぼくはこいつから5メートルしか離れられない」
「じゃあ、どうやって……」
「ウイルスは光に弱い。ちょっとした光に当たるだけで死滅する。だから、明るい場所では敵に直接叩き込まなきゃ、ほとんど効果はない。逆に、暗い場所では際限なく殺す。ぼく自身も」
 なんて使えない力だろう。身を守ることすら、危険を伴う。
(やっぱり……、ぼくは…………)
 いつまで“これ”を受け入れずに――その時を先延ばしにして――いられるだろうか。それをやめる時の合図は、もしかしたら今眼の前にいる少年の“拒絶”の表情なのかも知れない。
「怖い?」
 フーゴが尋ねると、ナランチャは我に返ったようにびくりと跳ねた。フーゴの唇は、わずかに微笑んでいた。それは、諦めの表情に似ていた。
 ナランチャの返答は、そんなフーゴの笑みを凍り付かせた。全く予想していなかった言葉に、フーゴは瞬きすら忘れていた。
「今、なんて……?」
「近くで見てもいいかって」
 フーゴが唖然としていると、拒否されなかったのを許可とみなしたらしく、ナランチャはゆっくりと歩み寄ってきた。パープル・ヘイズまでの距離は、わずかに数十センチ。フーゴ本人よりも近くにいる。「危ない」と言おうとすると、少年は「大丈夫」と言って笑った。
「このカプセルが割れなきゃいいんだろ?」
「でも……」
「フーゴがコントロールしてるんだから、大丈夫だって。オレ、何回かお前のこと怒らせたことあるけど、こいつ出さなかったじゃん。大丈夫。フーゴはちゃんとコントロール出来てるよ」
 子供っぽさの残る笑顔に諭され、フーゴは自分がナランチャよりももっと小さくて、本当の子供よりもずっとひ弱な存在であるかのように感じた。ナランチャが組織に入った時に作った資料に、彼が自分よりも2つ年上であることが書かれていたのを思い出した。
 もう一度「大丈夫」と言うと、ナランチャは笑顔のままでパープル・ヘイズの顔を覗き込んだ。パープル・ヘイズは、相変わらず喉を振動させ、音を鳴らしている。
 ナランチャがくすりと笑った。
「なんか猫みてー。喉ゴロゴロって。それにこいつ、よく見ると結構面白い顔してんな」
 ナランチャは徐に手を伸ばした。フーゴが制止するよりも早く、その手は実体を持たぬスタンドの身体をすり抜けていた。
「やっぱ駄目か。触れないや」
 フーゴは知らず知らずの内に息をとめていた。ナランチャの言動が信じられない。
「分かってんのか」
「なに?」
「下手したら死ぬんだぞ!?」
 しかしナランチャは表情を変えなかった。
「オレはフーゴの敵じゃあない。だから大丈夫」
 ナランチャは軽やかな足取りでパープル・ヘイズの周りをぐるりと廻った。
「明るいところで使わないとフーゴも死ぬんだっけ。ってことは、フーゴは明るいところにいたいんだな」
 なんでもないことのように言ったその声に、フーゴは頭を殴られたような衝撃を受けた。
「そんな解釈、ありですか……?」
「え? 駄目? 他になんかある?」
 全くの逆だと思っていた。そうとしか思い付かなかった。余計な制約だと思っていたことこそが、自分の望みであるだなんて……。
「スタンドって、成長するんだって。もしかしたら、その内フーゴには効かないウイルスに変わってくかもな。そしたらお前、サイキョーじゃん!」
 この少年は、もしかしてフーゴの考えていることを全部分かっているのだろうか。そうとしか思えないようなタイミングで、フーゴをフォローするようなことまで言うなんて。まさかナランチャに限って、そんなことは……。
(分からない……)
 スタンドなんか見せ合っても、やっぱり分からないことは多い。ということは、それ程深く考える必要はないのだろうか。ナランチャのように。
「グラッツェ」
 気が付くと、ナランチャはパープル・ヘイズから離れ、フーゴの数センチ横にいた。
「やっぱりこれだけじゃあフーゴのことは分かんないけど、でも、嬉しかった」
 不意を突かれたその至近距離に、フーゴの心臓は跳ね上がった。その動揺を反映するように、パープル・ヘイズが短く吼えた。
「うわ、びっくりした。今の何? ……くしゃみ?」
「いえ、なんでも……」
「そお?」
 ナランチャは首を傾げたまま、パープル・ヘイズへと視線を動かした。かと思うと、指先でその肩をつつこうとし出した。もちろん指はスタンドに触れることなくすり抜けた。
「やっぱりスタンド同士じゃあないと駄目なんだな。スタンドで人間を攻撃することは出来るのに。でも、エアロスミスで『触る』ってのも難しいよな。体当たりになっちまう」
 ぶつぶつと言いながら、ナランチャはなんとかしてパープル・ヘイズに触れられないかと首を斜めにしている。
「なんでそんなに触ってみたがるんですか」
「えー? 言わない」
「なにそれ」
 溜め息を吐くと同時に、頭の中で『スタンドに触れたい』イコール『心に触れたい』と言葉が置き換わった。一瞬で――スタンド攻撃を受けたのではないかと思う程瞬時に――顔が熱くなった。フーゴは慌てて頭を振った。
「あの、もう消していいですか、それ」
 『触れたい』だとか、じろじろと見られたりだとか、それこそ心を剥き出しに晒しているような気がしてきて、気恥ずかしくなってきた。ナランチャめ、どこまで意識的にやっているんだと、その姿を軽く睨んだ。
「そうだ! オレ、思い付いた!」
 フーゴの言葉を無視して、パープル・ヘイズを眺めていた顔がぱっと明るくなった。それとほぼ同時に、ナランチャのスタンドが姿を現した。
「なに?」
「エアロスミスでパープル・ヘイズに『触る』のはちょっと無理だと思うわけよ。でも、逆なら出来るんじゃあねぇ?」
 ナランチャのスタンドはゆっくりとパープル・ヘイズに近付き、空中でとまった。
「手出して。着地させてみるから」
「駄目だ。危ない」
「大丈夫!」
 なんの根拠があるのか――あるいは本当はないのか――フーゴには分からない。だが、ナランチャの眼は力強い光を持っていた。それを見ていたら、信じてみたくなった。『出来る』と。
 フーゴが心の中で命じると――と言っても、自分の手足を動かすのと何の違いもない感覚だが――、パープル・ヘイズはゆっくりと両手を持ち上げ始めた。エアロスミスを下から支えるように、静かに動く。間違ってもウイルスのカプセルを傷付けてはいけない。
 一瞬、フーゴはナランチャの姿を見た。その瞬間、ナランチャもフーゴの方を見ていた。パープル・ヘイズの手が、機体に触れた。続いて、絶えず響いていたエンジン音がやみ、プロペラがゆっくりと回転をとめた。
 ラジコンのような形のそれは、手に取ってみると思いの外大振りであった。だが重量を感じることはない。不思議な感覚だ。
「変なの」
 ナランチャが言った。少し笑っている。
「なんか、ちょっとくすぐったい感じ」
 それが物理的な感覚なのか、それとも気持ちの問題なのかはフーゴには分からなかった。ナランチャのように人の形をしていないスタンドは、どのようにして感覚をリンクさせているのかが謎だ。例えば翼部分が本人の腕に対応しているのだろうか。それはなんとなくイメージ出来るが、ではプロペラだったらどうだろう。今触れているのはどの部分にあたるのだろう。まさかそれがトンデモナイトコロだったらどうしよう。
「……な、ナランチャっ、もういいでしょう!? 危ないし……、その……」
「うん? 分かった」
 ナランチャは少し不思議そうな顔をしたが、一応納得してくれたらしい。彼のスタンドは一気に空中に飛び上がり、フーゴのスタンドから離れた。
 小さく息を吐き、フーゴもスタンドを退けようとした時、ナランチャのスタンドのコックピットの中で、小さな影が動いたのが見えた。パイロットが、小さく片手を振っていた。白と紫の異形の者に向かって。
 飛行機は大きく宙返りをすると、ナランチャの中へとかえっていった。
 フーゴが消そうとする直前に見た己のスタンドは、いつもと変わらず不気味な姿をしていた。だが不思議と、その表情が笑っているように見えた。こんなに上機嫌そうなところは、初めて見た。
(どういう意味だよっ……!?)
 慌てて自身の中へかえるように命じた。
 2体のスタンドが姿を消すと、部屋の中は静かになった。窓から見える太陽は、先程よりも少し高い位置に移動したようだ。
「あのさ、スミスがパープル・ヘイズのこと気に入ったって」
 ナランチャが言った。
「スミス?」
「パイロットの名前」
 つまりそれは君なんじゃあないのと言おうとして、やめた。ナランチャの頬が少し赤くなっているように見えたからだ。だがそうすると、なんと返して良いのかが分からず、フーゴは「そうですか」とだけ応えた。
 少しの間、沈黙の時が流れた。なんだか少し、照れ臭い。やがてナランチャが不自然な大きさの声で言った。
「よおし、出かけよう! ちょっと早いけど、昼飯!」
「行ってらっしゃい」
「お前も行くの!」
 言うや否や、ナランチャはフーゴの手首を掴んで引いた。
「ぼくも?」
「お前の好きな物とか、嫌いな物とか、探ってやる」
 そう言ったナランチャの笑顔は眩しかった。
(やっぱり、ぼくは光が弱点だ)
 心の中で、そう呟いた。だがフーゴは、その“弱点”に向かって、一歩踏み出した。それは、“弱点”であると同時に、“望み”であるかも知れないのだから。
「……そんなもの、探らなくてもいくらでも教えてあげますよ」
 そう言った声は、思いの外小さかった。が、ナランチャの耳には届いていたらしい。眩しい笑顔がよりいっそう眩しく輝いた。


2014,06,14


パープル・ヘイズとナランチャの話は一度書いてみたいとずっと思っていました。
なんかフーゴがどんどん暗いキャラになっていってしまって、収拾つけるのが大変でした。
わたしが書くフーゴは油断するとすぐヘタレます。
<利鳴>

【戻】


inserted by FC2 system