フーナラ 全年齢


  子供が2人とミントが1枚


「フーゴさぁ」
 フーゴが顔を上げると、隣の椅子にいるナランチャがこちらの表情を伺うように、見上げるような視線を向けていた。
「はい?」
 フーゴは手を休め、持っていたペンを机の上に置いた。
「何噛んでるの?」
 そうすれば口の中にあるものまで見えるというわけでもないのに、ナランチャは首を傾げてフーゴの顔を覗き込んでいる。
「葉っぱです。ミントの」
 フーゴは簡潔に答えた。
「なんでそんなもん噛んでるの? それ、美味しい? 葉っぱ噛んでるなんて、なんかウサギみてぇ」
 勝手に自分の耳が長く伸びているところでも想像されたらたまったものではない。フーゴはすぐにその発想を打ち消しにかかった。
「人を勝手にげっ歯類にしないで下さい。別に、美味しいとか美味しくないとかで噛んでるわけじゃあない」
「変なの。じゃあなんで噛んでるのさ」
 普通他人のことをいちいちそこまで追求するか? と思いながら、フーゴは溜め息を吐いた。
「なんでって……。じゃあ清涼感が好きで。で、いいです」
「せーりょーかん?」
「口の中がスッとするでしょう?」
「ああ、うん。それが面白くて噛んでるの?」
「面白いとか面白くないとかで噛んでるわけでもないです。ガムみたいなものです」
 言ってから、今の一言は余計だったと思ったが、もう遅い。案の定、ナランチャは更なる質問をぶつけてきた。
「じゃあなんでガム噛まないの? ガムでいいじゃん」
 ナランチャはよくどうでも良いことを質問してくる。とくにフーゴ相手に。フーゴは2つ歳上の彼を、『子供みたいだ』と思っていた。
「なぁ、なんで?」
「ガムは捨てる場所がない時に困るでしょう?」
「呑み込んじゃえば?」
「嫌です。君は呑めば」
「オレだって嫌だ」
 肩を竦めるように言うと、ナランチャは何の予告もなしに顔を近付けてきた。フーゴは思わずドキリとした。
「な、なんですか」
 少々うろたえていると、ナランチャはスンスンと鼻を鳴らした。
「そっか。フーゴの匂いって、それの匂いだったんだ」
「ぼくの匂いって……」
 なんだか恥ずかしいセリフだ。とくに、こんな距離で言われるのには。
「香水でも付けてんのかなって思ってた」
 言いながら、ナランチャはやっと離れてくれた。
「香水の匂いはあまり好きじゃあありません。あ、でも、柑橘系の匂いは好きかな」
「かんきつけー?」
「オレンジとか、グレープフルーツとか」
「ああ。それならオレも好き」
 ナランチャは頷いた。きっと彼が好きなのは、今あげた果物の匂いではなく、おそらくは『その物』の方だろう。フーゴはくすりと笑いそうになった。
「ミントは嫌い?」
「わかんない」
 ナランチャは「わかんない」と答えたままの表情で、「でもフーゴは好き」と続けた。
「君ね……」
 フーゴは深く溜め息を吐いた。そんな言葉を簡単に口にするなんて、一体彼はどこまで子供なのだろうか。
(いや待てよ。子供の言うことにいちいち動揺している自分も子供か?)
 ナランチャは再びフーゴの顔を覗き込んでいた。先程よりも、その距離が更に近いようだ。
「フーゴとキスしたらミントの味がするの?」
 これは何も理解していない子供の言動と見てしまって正しいのだろうか。フーゴは段々その判断が付かなくなっている自分に気付いた。が、気付いたところで、どうにもならなかった。
「試してみますか?」
 フーゴが悪戯っぽく笑ってみせると、ナランチャは「いいぜ」と答えた。
 フーゴは考えることを放棄した。ナランチャの肩に手を置き、唇を重ねた。指先と肩に触れる皮膚の弾力は、本当に子供のもののようなのにと、頭の片隅で思った。


2011,06,12


ちょっと解説。
5部の小説版のフーゴがミントの葉っぱかじってたんです。
あの小説自体はわたし的にはないわぁ……って感じだったんですが(ジョルノはそんなこと言わないし、時系列的に無理がアリアリ)、フーゴがミントのかほりの美少年なのはいいなぁと思ったのでした。
他の香水好きじゃあないとか柑橘系は好きとかは、ただのわたしの好みです。
<利鳴>

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