ジョルノ&ナランチャ 全年齢


  その一瞬


「なぁ、これ、ジョルノの?」
 そう言ってナランチャが差し出したのは、黒い手帳のような物だった。
「さっき事務所の玄関で拾った。で、誰のだろうと思って勝手に中見た。ごめん」
「いえ、構いませんよ。それより、ありがとうございます。落としたことに、全く気付いていませんでした。危うく失くしてしまうところだった」
 ジョルノはそれを受け取り、丁寧に頭を下げた。
「それ、家族?」
 ナランチャに尋ねられ、ジョルノはポケットにしまいかけていたそれを広げて見せた。中には、1枚の写真が入っている。
「父です」
 ジョルノは答えた。
「やっぱり。似てると思ったんだ」
「そうですか?」
「うん。だからジョルノのだろうと思って持ってきた」
 ジョルノはナランチャが「どんな人なんだ?」と尋ねてくるような気がした。
「会ったことはないんです。写真でしか知らない。だからどんな人なのか、ぼくは母から少し聞いたことがあるだけなんです」
「会えないの?」
「ええ、もう死んでいますから」
「ごめん」
 ナランチャは視線を足下へ向けてしまった。しかしジョルノは平然としている。
「本当に一度も会ったことがないんです。父の方も、ぼくという存在すら知らなかったでしょうし。それともぼくが生まれる前に死んでいたんだったかも。愛情だとか、そんなものも持ちようがない。最初からいないのと、あまり変わらないんです」
 「貴方が謝ることはない」と言って、ジョルノは写真入れを閉じ、ポケットにしまった。
「でも、そうやって写真持ち歩いてるんだろ?」
「ええ、自分が何者から生まれたのかは、少しでも知っておきたくて」
 ジョルノの母が少しだけ彼に話して聞かせたところによると、どうやら“父”は、お世辞にも「『善人』だった」とは言い難い人物だったそうだ。
「と言うか、人間ですらなかったそうです」
「え、なにそれ。怖いんですけど」
「ぼくも詳しくは知らないので……。でも、ぼくのスタンド能力はおそらく父からの遺伝です。スタンドを持たない母には、父は人間離れした人に見えたのかも知れない」
「なるほど」
 母が父に出会った時、父は既にその手で多くの命を奪い取っていたという。そんな人物の許から、どうやって、そしてどうして母が生きて逃れられたのかは、――本人も含め――誰も知らないのだそうだ。
「たまたま運が良かったのか、誰かに助けられたのか……。とにかく、父がそんな人だったということは、間違いないらしいです。でも、『そんな人』でも、その人がいなかったらぼくは存在していない」
 この一瞬ですら、ありえなかったかも知れないのだ。
 自分の存在が、誰かの犠牲の上に成り立っているのかも知れないことを、忘れてしまいたくない。だから写真を持ち歩いているのだと、ジョルノは言った。
「彼の罪を自分が償いたいだとか、そんな立派なことじゃあないんです。ただ、自分がそうしたいだけなんです」
 ジョルノはそう言ったが、ナランチャは「充分立派じゃん」と言った。
「お前、なんかすごいな」
「そうですか?」
「うん。よく分かんねーけど」
 唐突に、ナランチャはジョルノの頭を撫でた。ジョルノは少し驚いてから、そう言えば自分の方が年下だったと思い出した。
「イタリア人は血統に誇りを持ってるんだぜ」
「ぼくはイタリア人じゃあありません」
「じゃあなおさら偉い。イタリア人じゃあないのに偉い。写真、大事にしろよ」
 ジョルノはくすりと笑った。
「君の家族は?」
 やっと頭を解放してくれたナランチャに尋ねてみると、彼の笑顔は少しだけ曇った。
「母さんは死んだ。帰れば写真くらいはあるかも知れないけど。父さんとは……全然会ってない」
 ジョルノは「そうですか」とだけ返した。こんな世界に身をおいているくらいだ。複雑な事情の1つや2つ、あったとしても驚かない。それ以上追究することもしない。もし話したいことなのであれば、彼の方から話し出すだろう。
「でもさぁ」
 ナランチャは再び明るい表情に戻って言った。
「今はブチャラティ達が家族みたいだ」
 その笑顔は、子供のように無邪気だった。
「毎日顔合わせて話するし、一緒に飯食ってるし、これってもう家族みたいなもんだよな」
 もちろん、彼等には血の繋がりはない。だが、そんなものは必要ないのだろう。ジョルノの母は存命ではあるが、2人の間に親子らしいやりとりはほとんどない。そんなものよりも、血の繋がりはなくとももっと『家族』と呼ぶに相応しいものは、確かにあるに違いない。それを『家族』と呼ぶことが許されないのであれば、もっと特別な他の名前を付ければ良いだけのことだ。
「ええ、そうだと思いますよ」
 ジョルノは微笑み返した。
「じゃあ、お前はオレの『おとーと』だぜ! 年下なんだからな!」
「……ぼくも?」
 ジョルノは、彼等とはまだ出会ってから数日しか経っていない。『血の繋がり以上の絆』が作られるような時間は経っていないと、ジョルノは思っていた。しかし、
「おう! だってブチャラティが『仲間だ』って言ってつれてきたんだからな!」
 どうやら、血の繋がりと同じくらい、時間も必要ないものらしい。少なくとも、ナランチャにとっては。
「ねえナランチャ、写真を撮りませんか?」
「写真?」
「そう。皆で」
 その提案はあっさりとブチャラティにも受け入れられ、数分後には他のメンバーも徴収されることとなった。
「何で急に写真?」
「これって、上に提出する資料か何かですか?」
「いや、私的な物だ。変な顔してもいいぞ」
「嫌ですよ。ミスタに任せます」
「ミスタならわざわざ変な顔するまでもないんじゃない?」
「おいこら、どーゆー意味だよ」
「やっぱりブチャラティが真ん中だよな?」
「いや、オレは後ろの端でいいよ」
「いやいや、それは駄目だろ!」
「おいナランチャ、お前は前に行けよ。チビなんだから」
「チビって言ったな! ぶっ飛ばすぞ!」
「ジョルノ、てめーは端に行け」
「どこでもいいですよ。貴方の隣じゃあなければ」
「おい、今小声でなんて付け足した!?」
「タイマーって何秒にしますか? あんまり間があってもなんか撮り難いですよ」
「リモコンないのか?」
「ない」
 ブチャラティがどこからか調達してきた三脚とカメラの前に集まった6人は、目的が良く分からない突然の集合写真に戸惑いながらも、いつものように冗談と笑顔を振りまいていた。小さなカメラは、その一瞬を確かに記録した。


2011,08,21


トリッシュの「自分が何者から産まれたのか知りたい」って言葉を聞いて、ジョルノは何を思ったのでしょうね。
それよりもジョルノが持ってるDIOの写真って、いつ誰が撮ったものなんでしょうか。
そして何故それをジョルノが持っているのでしょうか。
そういえば5部冒頭で承太郎が持ってたジョースター一行の写真も謎です。
遊びに行ってるんじゃあないのに記念写真なんて撮ってたんだったら、みんな可愛すぎるだろッ!
そしてそれをちゃんと持ってる承太郎も可愛いなおい!
娘の写真も飾ってやれよ。
<利鳴>

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