暗殺チーム 全年齢


  S・R・T・R


「……以上が今回の任務の詳細だ。質問がある者はいるか?」
 リゾットが一通りの説明を終えると、沈黙が空間を満たした。ローテーブルを囲むように置かれたソファに腰掛けた面々は、お互いの表情を窺うような視線を飛び交わせている。暗殺なんてものを生業にしている彼等が和気藹々とした雰囲気の中で過ごせるとはもちろん微塵も思ってはいないが、それでも、今日の空気はいつになく重いようだ。“和気藹々”は無理でも、どちらかと言えばよく喋る――もっと端的に言えば煩い――者が多い顔触れであるはずなのだが……。
 今説明し終えたばかりの任務は、正直言って、それほど困難が予測されるような内容ではない。退屈している者が「自分に廻してくれ」と主張してくることすら予測していたのだが、それは完全に外れだったようだ。
「ホルマジオ、どう思う?」
 彼に振ったのは、なんとなくだ。一番近くにいたから。それだけでしかない。そんな適当な理由を見破り、不満に思ったのか、ホルマジオは一瞬眉をひそめた。が、すぐに溜め息交じりに口を開いた。
「……旨味のある話ではないと思うぜ、正直なところ。危険はないかも知れないが、ゼロじゃあねーはずだ。それだっていうのに、報酬額が見合ってねーぜ」
 それもまた予測していた反応ではあった。が、その声はもっと早く上げられるかと思っていた。だが、反応が遅かろうと早かろうと、不満に感じているのは他のメンバーも同じだったようだ。
「全然足りないよな。オレ達、舐められてんじゃあないの?」
 ホルマジオに続くように言ったのは、彼の正面に座っているメローネだった。その表情は、唇を歪めた自虐めいた笑みだ。その隣にいるギアッチョも、いらだたしげに舌打ちをしている。
 再び沈黙が続いた。こんな話は、もう何度目になるだろうか。そして何度繰り返したところで、何の解決にもならないことを、彼等は知っている。
「Noと言うことは可能なのか? その任務」
 沈黙を破ったのは、プロシュートだった。彼は「違うだろ?」と尋ねるように、首を傾げている。その隣では、ペッシが緊張した表情を浮かべて固まっている。
 リゾットは無言で頷いた。
「無駄な話し合いってわけか」
 ホルマジオがやれやれと言うように溜め息を吐き、さらに続ける。
「いや……、そもそも賛否は問われてなかったな。オレ達に拒否権はない。これまで通りだ」
「その通りだ。確認すべきことがないのなら、実行へ移す」
 複数の溜め息が聞こえて、再び沈黙が流れる。
「……さて、誰が行く?」
 誰も手を上げる者はいなかった。あまりにも張り合いのない任務に、すっかり辟易してしまっているのか。あるいは、積もり積もった不満が、いよいよ限界へ達しようとしているのか……。
「……この間の任務は、イルーゾォが行ったんだったな」
 そう言って顔を向けると、イルーゾォはミスを指摘されたかのようにびくりと肩を跳ねさせた。少々大袈裟なリアクションだ。前回の任務の際に、彼は何一つミス等犯してはいなかったというのに。
 全員の視線を受けながら、彼は不満そうに口を開いた。
「……なにが言いたい? 今回もオレに行けってことか?」
「そういうつもりではない」
 むしろそれなら今度は別の者に行かせようかと思ったところだ。それが何故いらだちに満ちた目で睨まれなければならないのだろうか。
(あるいは……)
 彼が……いや、彼等が抱えている“不満”が向かう先は、すでに“組織”ではなくなっているのではないか。その矛先が向いているのは……、
(オレ……なのか?)
「……いつまでも話し合ってたって無駄だな。いいよ。みんなが面倒臭いって言うなら、オレが行く。どーせ暇だし」
 膝の上に広げていたノートパソコンを閉じて、メローネが立ち上がった。
「ギアッチョも行くかい?」
「……行かない。なんでオレがテメーと一緒に行かなきゃなんねーんだ」
「だって寂しいでしょ? オレがいないと」
「と……、トンチンカンなこと言ってんじゃあねーぞ! あと!!」
 ギアッチョは突然ペッシの顔を指差した。
「テメーもいつまでも黙ってんじゃあねー! 何か喋ったらどうなんだッ!」
「だっ……、だけどっ、なんかって言ったって……っ」
 露骨に狼狽えた様子を見せるペッシを庇うように、今度はプロシュートが立ち上がった。
「てめー、虫の居所が悪いのかなんなのか知らねーが、後輩にあたってんじゃあねーよ。あぁ?」
「あ、兄貴……」
「き……、きぃ……消えろ! 口挟んでんじゃねー!」
「ねー、ちょっとぉー、喧嘩すんなよー」
「よせって、てめーら」
「ら……、らぁ!? ねーぞ『ら』なんて!」
「おい」
 リゾットの声に、メンバー達はぴたりと動きを止め、恐る恐るという表現がぴったりな様子でこちらを見た。思いの外低い、地を這うような声が出たなと思いながら、リゾットはそのまま続けた。
「遊んでんじゃあねーぞ」
「……はい」
「誰でもいいからさっさと行ってこい」
「はい」
「スミマセンデシタ」
 その時のリゾットの表情を、後に彼等は「身内の仇に向けるのよりもやべぇ顔だった」と語ったという。


2020,12,20


ルール
@ 他の人が喋り出すまではどれだけ喋ってもいい。
A 一定時間以上の沈黙が続いた場合は連帯責任で全員アウト。
B 何も知らないリーダーが喋ったら仕切り直し。
C日本語だけど気にしない!! ←最重要事項
なんやかんやでみんな仲良しで、お金がかからない方法で遊んでたりしたら微笑ましいと思います。
<利鳴>

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