ディエ→ジョニ 全年齢


  以心伝心?


 「やあ、ジョースター君」と言いながら、ディエゴ・ブランドーは優雅とも呼べるようなゆっくりとした動きで近付いてきた。うっすらと笑みを浮かべた顔。芝居がかったようなわざとらしい口調。それからその呼び方も。全てが癇に障った。だからぼくは聞こえなかったふりをした。それでもDioは構わずにぼくの傍に立った。もう1つ追加。見下ろしてくる視線もムカツク。
 まるでジャイロが――周囲の様子を見てくると言って――離れるのを待っていたかのようなタイミング……いや、おそらく実際にどこか物陰からこちらの様子を伺っていたのだろう。
「キモイ」
「まだ何も言っていないぞ」
「言う前からキモイ」
 Dioはやれやれと息を吐いただけで、気分を害した風には見えなかった。子供を相手にしているような態度に、また腹が立つ。
「ひとつ考えたんだが」
 Dioはまるでぼくが「何か用?」と尋ねたかのように口を開いた。誰が喋っていいなんて言ったんだよ。睨み付けてやったが、気付いているのかいないのか、リアクションは何もなかった。
 Dioの手がすっと動いた。ぼくは視界の隅でそれを見た。手の平を上にして、胸の高さほどに上げられたそこに、小さなトカゲのような“生き物”が乗せられていた。ぼくは関心を向けていないような顔をしながら、いつでも攻撃出来るようにと指先に意識を集中させた。
「この恐竜化の能力のことで、ひとつ思い付いたんだ」
 「聞いてくれるか?」とでも尋ねられたら、迷うことなく「断る」と返していたところだ。だが、Dioは許可を求めることなく、勝手に喋り続けている。
「自分以外の生物を恐竜に変えるこの能力があれば……」
 Dioの視線がちらりと下の方を向いた。
「ある程度“その”脚をカバー出来ると思わないか?」
 ぼくの下半身は動かない。だから今も地面に腰を降ろした体勢だ――自分の脚で立つことが出来ないから――。ジャイロが戻ってくるまでの時間を、『待て』のような姿勢でいる。そんなぼくの下半身が、ぼくの意思で動くという――ぼくにとっては――事件――とも呼ぶべき出来事――が起こったのは、数日前のことだった。今Dioが言った――その時はまだ他の男のものだった――キョーリュー化の能力で、ぼくの身体は――ジャイロも――“人”と呼ぶには異形の姿へと変化していた。皮膚は鱗で覆われ、口は大きく裂け、牙と爪は鋭く、そして尾てい骨の辺りからは長い尻尾がはえていた。その尻尾が、どういうわけかぼくの意思で動かすことが出来たのだ。本来存在しないはずの“普通”ではない器官だから、理屈なんてものは通用しないのだろうと納得するしか出来ないのだが、その尻尾を使って、ぼくは大きく跳躍することまで出来た。戦いの最中じゃあなければ、そしてあのままだと意識すら支配されてしまうという状況でなければ、どの程度のことが可能なのか試したかったところだ。今あの能力はこのDioのものになっている。もしこいつが持っている『遺体』と共に、その能力を奪うことが出来たとしたら……。
(いや、でもDioの“お古”はごめんだな)
 半ば冗談のようにそう思いつつも、ぼくはDioが決定的な隙を見せはしないかと様子を伺っていた。
「ジョニィ」
 Dioの手の平から小さなキョーリューがぴょんと跳んだ。あのサイズなら、元はネズミかなにかだろうか。「クアァ」と鳴き声を上げながら、そいつはどこかへ走っていった。ぼくに見せ付けるように。
「オレと組まないか、ジョニィ」
 碧い眼は真っ直ぐこちらを向いていた。そこに、さっきのわざとらしい笑みはなく、口調は到って真面目だった。相変わらず向けられる視線は頭よりも更に高い位置からではあるが。
 瞬き数回分の間の後に、ぼくはゆっくり答えた。
「言うと思った」
 Dioが考え付きそうなくだらないアイディアなんて、こっちはとっくにお見通しなんだ。
 ぼくはもちろん首を横へ振った。誰がお前となんか。信用出来る相手と以外、行動を共にする気なんて持てるはずがない。
「君と組むなんて死んでも……、いや、一度死んで生まれ変わったとしてもごめんだね」
 淡々と返す。さて、Dioはどんな顔をするだろうか。怒るかな? いや、おそらく……。
 Dioはふっと息を吐いた。うっすらと微笑んでいる。予想通りの表情だ。それももちろん、“お見通し”だ。Dioは微笑んだまま口を開いた。
「言うと思った」
 ぼくが言ったのと全く同じ言葉を口にした。
「お前が考えていることくらい、すぐに分かる」
 おいおい、なんだよ、それじゃあそっちも“お見通し”かよ。お互いの考えていることが分かるなんて、ある意味では気が合うとでも? 以心伝心? 冗談じゃあない。
「キモイ」
 ぼくはずっとスタンバイ状態だった“爪弾”を撃った。片手分、5発全部だ。しかしDioは表情を変えることすらなく、わずかな動きでそれ等を回避した。クソっ。読まれていたか。
「気が変わったら、いつでも声をかけてくるといい」
「冗談」
 ぼくが「YES」と答えないことなんて、とっくに分かっているくせに。やっぱり嫌なやつだ。
 Dioは満足そうな顔をしながら去って行った。その後姿に向かってもう片方の手に残った“爪弾”を撃ち込んでやろうかとも思ったが、やめておいた。たぶん、ぼくがそうするだろうなんてことは、あいつはとっくに予想しているだろうから。
「ほんと、鬱陶しい」
 結局ぼくは、ジャイロが戻ってくるのを溜め息と共に待つこととなった。最初の――Dioが現れる前の――退屈なだけの時間の方が、何倍もマシだったなと思いながら。


2015,11,01


ジョニィの尻尾が動いてびっくりしたのはわたしだけではないはず。
まあ、尻尾なんてなくてもジョニィは普通に2階の窓から屋内に入ったり出来てましたけどね!!
<利鳴>

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