ディエジョニ R18 ニコ←ジョニ要素有り


  偽りの夜


 ディエゴが1人で馬舎の片付けをしている時だった。早々と沈みきろうとしている夕陽の眩しさに眼を細めながら、遣り残しはないかと辺りを見廻した彼は、先程までは存在していなかったはずの人影を見付けた。
「またか……」
 うんざりと呟いた溜め息交じりの声は、すすり泣く声と重なった。
 馬舎の隅で膝を抱いてめそめそしているのは、ディエゴの雇い主、ジョージ・ジョースターの“一人息子”の、ジョニィ・ジョースターだ。以前はもう1人いたジョースター家の子供――早い話がジョニィの兄弟――の死後、その少年は孤独に耐え切れなくなると、屋敷を抜け出し、慰めの言葉をかけるわけでもないディエゴの前で泣き続けるようになっていた。母はすでになく、兄にも死なれ――しかもその原因が自分にあると少年は思っているらしい――、父は生きてはいるが、その眼は死んだ長男の思い出にしか向けられていない。それでも、その父の所有物である家や土地、使用人達が彼の周りには存在していて、少年は生きていく上での苦労を全く強いられてはいない。現に今も、購入からそれ程歳月が経っているようには見えない衣服に手足を通していることに、なんの疑問も抱いていないようだ。幸せを他人と比較するのはそもそもの間違いだと理解しているが、それでも、すでに守ってくれる者を全て失い、自分の力で生きる道を選ばざるを得なかったディエゴの眼には、ジョニィは酷く甘ったれの幼児同然に見えた――実際には1つか2つの年齢差しかなかったはずだが――。
 以前にもそうして独りで沈んでいるジョニィの相手――と言っても、交わした言葉は少なかったが――を気紛れでしてやったことがあったのだが、それ以来、ディエゴが1人でいる時を見計らっては、彼は現れるようになった。どうやら妙な具合に懐かれてしまったらしい。
(ああ、鬱陶しい……)
 ディエゴはうんざりしながら顔を背けた。
 泣きたいのなら、泣けば良い。心行くまで、惨めったらしく泪を流していれば良い。だが何故それをここでやるのだ。他の場所で泣くか、あるいはここにいたいのであればその止め処なく溢れる泪をとめるか、どちらかにして欲しい。
(オレを巻き込むなよ、まったく……)
 自分はもう戻るからなと宣言するつもりで振り返ったディエゴは、そこに星を見た。いや、そんな風に感じた。実際にそこあるのは地面に座り込んだ少年の姿だけだ。しかし、その頬を伝う液体が、夕陽の最後の光を受けて輝いていた。無数の星を散りばめたように。
 ディエゴは少年の正面に近付いて行くと、手と膝を地面に付け、身を乗り出した。そのまま訝しげな表情をしている顔に唇を寄せ、光る液体を啜った。もともと大きなジョニィの眼が、益々大きく開かれた。驚きのあまり、泪は一先ずとまったようだ。ディエゴは塩の味がする自分の唇をぺろりと舐めた。
「なっ……、でぃ、Dioっ? 今っ……」
 慌てて頬を拭おうとした細い腕を捕まえて、ディエゴは薄っすらと微笑んでみせた。
「そんなに哀しいか?」
 そう尋ねると、ジョニィの顔から困惑の色が薄れ、その表情は再び憂いに染まった。悲しみの在処を探すように、視線はディエゴの眼から逸らされた。
 ディエゴはジョニィの腕を掴んだまま、体重を前方へと――つまりジョニィの方へ――移動させた。ジョニィは立ち上がって離れようとしたようだが、間に合わず、体勢を地面に仰向けに押さえ付けられるような形に変えた。
「……Dio?」
「忘れさせてやろうか?」
「え……?」
 どういうこと? と尋ねようとした唇を、ディエゴは自分の口で塞いだ。驚きの声はくぐもった音になり、重なった唇から先程以上の困惑が伝わってきた。それを押しやるように、ディエゴは舌を伸ばした。
「んンッ!?」
 小さな身体がびくりとはねた。拘束されたままの腕が自由を取り戻そうともがき出し、空いている方の手はディエゴの肩を押し戻そうとした。しかし、力はディエゴの方が上だった。体格にはそれ程の違いはないが、毎日力仕事をしているディエゴが、何一つ不自由なく育てられてきた貴族の息子になんて負けるはずもない。まるで、抵抗の力なんて存在していないかのように、ディエゴは、ジョニィの舌を絡め取り、吸い上げた。ジョニィはなんとかして逃れようとしているようだが、経験のなさからか、抵抗も回避も悉く間に合っていない。
 呼吸のために唇を解放すると、ジョニィは細い肩を大きく上下させた。
「はっ、はぁっ……。ディ、オ……」
 ディエゴを見上げる蒼い瞳は、泪で濡れている。
「父親のことも、兄のことも、全部このDioが忘れさせてやる」
 ディエゴは返事を待つことなく、ジョニィの首筋に唇を押し当てた。頚動脈を辿るように舌を這わせると、再びジョニィの身体が撥ねた。
「ひゃぅあっ……!? やっ……、な、なにっ!?」
「いいからじっとしてろよ」
「で、でもっ……、あッ!?」
 ジョニィは甲高い声を上げた。ちょうど、衣服の中に忍ばせたディエゴの手が、胸部にある小さな突起に触れたところだった。
「あっ、ま、待って! なんかっ、あッ、それっ……、変になる……っ!」
 ディエゴの肩を押し退けようとしている白い手がとまることなく震えている。瞳からは、再び滴が零れ出した。
「怖がることはないさ。力を抜けよ」
 指の腹で強弱を付けてその飾りを揉み拉くと、ジョニィはまるでその動きに同調するかのように小さな声を上げた。
「あっ……ああ……ッ。んっ、や……。はあッ……!」
 ジョニィの手は相変わらず力一杯ディエゴの肩を掴んでいる。だが、押し返そうとする力は先程よりもむしろ弱く、今はしがみ付いているのが精一杯といった様子だ。
 ディエゴが先端に爪を立てると、ジョニィは自らの咽喉を曝け出すように上体を仰け反らせた。
「ああッ!!」
 ディエゴはくつくつと笑った。
「いい声で鳴くじゃあないか。めそめそと泣いているよりも、そっちの方が似合ってる」
 ディエゴは滑らかな皮膚の上を、今度は下方向へ向けて指を移動させた。中心部へ辿り着こうという、まさにその瞬間、ジョニィは弾かれたように身体を引いた。
「だっ、だめ!! そこはだめだよっ!!」
 思いがけず強い意志の込められた声に、ディエゴは正直驚いていた。そもそも性的な行為に関する知識をほとんど持っていないらしい少年が、何故急に拒絶の言葉をこうもはっきり口にしたのか……。『何も知らない無垢で純粋でただ傷付くことしか出来ない幼い少年』。その認識が間違っていたとでもいうのだろうか。
「『だめ』?」
 ディエゴは何故だ? と問うかのように首を傾げた。拒む方がおかしい、これは、極普通の他愛ない行為だとでも言うような顔で。
「だ、だめだよ、だって……」
 ジョニィの視線が泳ぐ。大人に叱られるのを怖れる子供のように。躊躇いがちに唇が動く。そして――
「そこは……、他の人に触らせちゃあいけないって……、兄さんが」
「へぇ?」
 ディエゴは片方の眉をぴくりと動かした。
 ジョニィが口にした『他の人に』という言葉は、『ジョニィ本人以外の者には』という意味なのか、それとも、『それを言って聞かせている者以外』、つまり、『ジョニィの兄、ニコラス以外に』という意味なのか……。
(どちらだ?)
 ディエゴは数えるまでもない程しか見たことのないニコラス・ジョースターの顔を思い浮かべながら返事のない問い掛けをした。あの少年は、血の繋がった弟に対して、どのような感情を持っていたのだろうか。どういうつもりで、『触れさせるな』と言ったのだろう。それを本人に聞くことが出来たら、場合によっては面白いことになっていたかも知れない。ディエゴは、初めてニコラスがもうこの世にいないことを残念に思った。
 ジョニィは乱れた呼吸をまだ正常に戻せていなかった。その身体の中心部は、衣服の下でわずかに形を変えている。頭では亡き兄の言いつけを守ろうとしているらしいが、肉体の方はそうもいかないようだ。おそらく兄からもまだ教わっていなかったのであろう快楽に、この幼い身体は抗い続けることは困難であるに違いない。
「でも、その兄さんはもういないんだぜ」
 ジョニィは俯いた。
「兄さんの代わりに教えてやるよ。大丈夫。なにも悪いことをしようってわけじゃあない。きっと君の兄さんは、君がまだ小さかったからそう言ったんだ。違うかい?」
 ジョニィの表情がはっと変わった。「もっと大きくなったら教えてやるから、それまでは他の人に触らせるんじゃあないぞ」。かけられたのは、そんな言葉だったのだろう。
「もう小さな子供なんかじゃあない。兄さんがいなくても大丈夫。そう証明してやろうぜ。君は強くならなきゃあいけない。いつまでも子供でいては駄目だ。強くなれば――」
 ディエゴはジョニィの表情を窺い見た。彼の中にあった拒絶の感情は、早くも躊躇いのそれへと変化しているようだ。
 追い討ちをかけるようにゆっくりと言った。
「強くなれば、きっと君の父さんも君を認めてくれる」
 わずかに――本当にかすかにではあるが――、ジョニィの瞳に決意の焔が灯った。そんなジョニィに気付かれないように、ディエゴは心の中で笑った。
(ああ、なんて……)
 簡単なんだろう。
(容易い。簡単すぎる)
 こうまでもあっさりと自分の言葉が受け入れられるだなんて。これは自身の才能なのだろうか。それとも、このジョニィ・ジョースターがよっぽどの世間知らずで他人を疑うことを知らない性格なのか……。丹精込めて育てられた温室の花。彼がそうなのだとしたら、この手でそれを摘み取ってみたい。それは、純粋な感情だった。花を摘むことに罪の意識を抱く者がどれだけいるだろうか。
「まだ兄さんの言いつけをやぶるのに抵抗があるなら――」
 そう言いながらディエゴは、自分の傍らに置いたランプに手を伸ばした。それは、今この場にある唯一の灯りだ。太陽はすでに沈んでしまっている。ランプを開けると、まるで打ち合わせたかのような風が吹いてきて、灯されていた火は音もなく消えた。急に灯りを失ったことに驚いて、ジョニィは小さく声を上げたようだ。
「これなら、天国にいる兄さんからも見えやしないさ。君が強くなったことを証明してやるのはまた今度にしよう。今日は練習だけだ」
 馬舎の外では月が出ているらしい。離れてしまわなければ辛うじてお互いの表情が分かる程度の明るさは残されている。その中で、ジョニィは小さく頷いたようだ。
 再びジョニィの身体に触れた。ディエゴの手は、先程よりもゆっくりとその表面を滑り降りてゆく。指先が下着の中へと侵入した時、ジョニィは息をとめるように歯を食い縛った。だが、拒否や中断を求める言葉はもう出てこない。
「そうだ。いい子だ」
 子供をあやすような口調に不満を覚えたのだろうか。実際の年齢よりもやや幼く思える顔が歪む。だがディエゴが彼の中心部を握り込むと、抗議の言葉の代わりに上擦った声が迸った。
「あッ!!」
 ジョニィのそこはすでに熱を持ち、先端に這わせた指先は液体でぬるりと滑った。
「あ、あっ……。な、なにっ? あ、あっ。なんっ、か、へん……っ! ね、ねえっ!?」
「あとで全部教えてやるから、少し黙ってろよ」
 低い声でそう言うと、ディエゴは手の中にある熱の塊を服の外へと導き、先端を口に含んだ。
「……ッ!? やっ……、そんなとこっ……!!」
 ジョニィの手が頭を押し退けようとしてきたが、ディエゴは構わず舌先でその形をなぞった。瞬く間に硬度を増し始めたそれは、音が聞こえそうな程に脈打っている。
「うあァっ! んっ……、はあっ……!! やっ、それやだっ……」
「嫌だ?」
「だっ……て……、なんか、は、恥ずかしい……。それに……」
「それに?」
 ディエゴは灯りを消したことによってジョニィの表情が明確には見えなくなってしまったことを少々残念に思った。それでも真っ赤に染まった顔がわずかにでも見えやしないかと視線を上げながら、ジョニィのそれをべろりと舐めた。
「ッ……!!」
 ジョニィの華奢な身体が痙攣するように大きく跳ねる。
「『それに』……、なんだい?」
 ディエゴは再度尋ねた。
「はっ……、はあっ。なんか……、ぼく、へんだよ……。もうっ……」
 ジョニィの声はどんどん小さくなってゆく。ディエゴは、仕方ないなと息を吐いて、ジョニィの唇に耳を近付けた。ジョニィは消え入りそうな声で「がまんできない」と言った。彼は、もぞもぞと下半身を揺らめかせている。
 ディエゴはふっと笑った。
「我慢なんてする必要はない。素直に全部出しちまえばいい」
「で、でもっ……!」
「大丈夫だと言っているだろう。兄さんが君に教えようとしていたことなんだぜ? 信用しろよ」
「にい……さんが……っ?」
 ディエゴは手を伸ばし、濡れた頬を包み込むように触れた。そのまま静かに口付けを落とす。ジョニィは眼を閉じ、それを受け入れた。
 それからディエゴの手と口によってジョニィが果てるまで、ディエゴは一言も口を利かなかった。また、ジョニィはずっと眼を閉じたままだった。彼は途切れ途切れの呼吸と喘ぎ声の合間に、兄の名を呼んでいた。ディエゴは、今だけそれを許してやることにした。今だけ、この場にいるのはニコラスではなくディエゴなのだということを黙っていてやることにした。
(だが、今だけだ)
 いつかは、その薄く色付いた唇に自分の名を叫ばせてやろう。死んだニコラスではなく、このDioを、その身体に覚えさせてやろう。
(今だけは、幻影に抱かれているといい)
 この夜が明ける、その時までは。


2013,03,09


ジョニィの初めての相手はディエゴだといいなぁ。
これは最後まではやってない設定ですが。
本当はもっとあんなセリフやこんなセリフを言わせたいのに、踏み出せませんでした。ぐすん。
所詮わたしはチキンなのだ。
<利鳴>

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