ディエジョニ 全年齢


  飼い慣らされしは紛いの愛


 ディエゴが「お前が好きだ」と言うと、ジョニィは「好きじゃあない」と返してきた。常人であれば、「受け入れられなかった」と落ち込むところだろうか。あるいは、「何故」と問い詰める者もいるだろう。だがディエゴはそのどちらでもなかった。彼にとって、相手の感情等というものは、最初からどうでも良いものだった。加えて、ディエゴはジョニィが自分のことをどう思っているのかをとっくに知っていた。落胆するどころか、寧ろジョニィらしいその返事に、彼は満足感すら覚えていた。しかし――
「君はぼくを好きなんかじゃあない」
 ジョニィは相変わらずの無表情でそう告げた。ディエゴの顔から笑みが消えた。
「おい」
 ディエゴは自分の真下にある顔を睨んだ。
「勝手に人のセリフを覆してるんじゃあないぞ。『お前が』、『オレを』の間違いだろう」
「それもあるけど」
「『それだけ』だ。オレはお前を愛している、ジョニィ・ジョースター」
 ジョニィは肩を竦めるような仕草をした。
「じゃあそう思い込んでいるだけだ」
 拒否されることは予測していた。抵抗されることも、ない方がおかしいと思っていた。しかしまさか否定されるとは……。それを口にするジョニィの眼は、自分の発言に自信を持っているようですらあった。
「君がぼくに執着するのは、ぼくが『Yes』と言わないからだ。手に入らないものがあるのが、イレギュラーでおもしろいんだろ。それだけだ。ぼくそのものが欲しいわけじゃあない。手に入れてしまえば、後はどうでも良くなる。駄々を捏ねてる子供と一緒だ」
 ジョニィは淡々と告げると、「だから好きなんかじゃあない」と続けた。
「例えば、ぼくが従順にしてみせたら、君はもうそんなことは言わない。断言してもいい」
 ディエゴは「そんなことはない」と言わなかった。寧ろ、咽喉に痞えていた何かを漸く呑み込めたような気がした。ジョニィがジョニィらしいと感じた時のあの満足感……。その理由がそれだったのだろうか。簡単に手に入ってしまうものはつまらなくて、ジョニィはそうではなくて、しかしもしジョニィもあっさりと落としてしまえたら――。
「ふん。面白いことを言うじゃあないか」
 ディエゴが愉快そうに言うと、ジョニィは反対につまらなさそうな顔をした。
「とすると、お前は既にこの状況から逃れる方法を知っているわけだ?」
 彼の言葉が本当なら、反抗的な態度を取って抵抗するのは逆効果であり、そしてそのことを彼は知っているということである。だが彼を地面に拘束しているディエゴの両腕には、しっかりと爪で引っかいた傷が残されている。
「そうさ」
 ジョニィは腕を伸ばし、ディエゴの首を絞めるようにしがみ付いてきた。
「ぼくが『Yes』と言えば、もう君に付き纏われることもなくなる。絶対に」
 鼻面を合わせるように近付いてきた顔は、不敵に笑った。
「だから言わない」


2012,07,22


本当は好きじゃあない。
本当は嫌いじゃあない。
そんなディエジョニも、たまには良いかと思いまして。
<利鳴>

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