ジャイジョニ 全年齢 ディエ→ジョニ要素有り


  マグネット 〜別にEoH設定というつもりもなくジャイジョニの世界にバステト女神的スタンドがあったらという妄想〜


「なにをしている?」
 『不機嫌そう』というよりは、『これを不機嫌ではないというのなら、何をそう呼ぶべきなのか』といった声で、ディエゴが尋ねた。
「あ、Dioだ」
「げっ、Dioだ」
 声をかけた相手、すなわちジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースターは、ほぼ同時に顔を上げた。ジャイロは「面倒臭いやつが来たな」と短い溜め息を吐いただけだったが、ジョニィの方は露骨に眉間に皺を寄せて、ディエゴに負けないくらいの不機嫌さを全面に押し出した顔で睨んできた。
「どっか行けよ。見世物じゃあないぞ」
 年上――と言っても1つしか違わないが――に対する礼儀も、幼馴染――と言っても幼少の頃にたまたま同じ場所にいたというだけで親しくした記憶もないが――への友情も持ち合わせていないらしいジョニィは、すでに臨戦態勢だ。こちらを向いた指先からは、いつ爪の弾丸が飛んできてもおかしくない。そんなジョニィを、ジャイロが慣れた様子で宥めた。
「ジョニィ。少し落ち着け。そもそもそんな体勢からでちゃんと撃てるのか? 妨害行為は禁止ってことになってんだからな。……今も有効なのかどうかはすっげー疑わしいけど。それでも一応、やるなら人の目がないか確認してからにしておけ」
 あまり真剣さが感じられないジャイロの言葉を気にも留めない様子のジョニィは、毛を逆立てた猫のように敵意を剥き出しにしている。が、そんな姿も、今はどこか滑稽だ。いや、その理由は明白である。なにしろジョニィは……、いやいや、状況を説明するのなら、順序が大切だ。もっとも、ディエゴはその発端を知らないのだから、どうしたってその“説明”は不完全になってしまうのだが。
 ディエゴがその存在に気付いた時、すでに2人は地面に腰を降ろした状態でいた。ジョニィに関して言えば、それは珍しいことでもなんでもない。彼は、馬を降りている時は大抵その姿勢だ――あとは椅子に座っているか、横になっているかのどちらかだろうか。少なくとも、2本の足で立っているということはない――。この時は、それに倣うかのように、ジャイロも同じ姿勢を取っていた。この男とて馬を降りて休憩することはあるだろう。それだけなら問題はなにもない。だがそこは、到底休憩に適している場所ではなかった。周囲に身を隠すような物はほとんどなく、開けた草原のような景色がしばし続いている。ディエゴが2人に気付いたのも、彼等がはっきり言って目立つ場所にいたからだ。少し移動すれば身を隠せそうなそれなりの背丈の草木もはえているというのに。『妨害禁止』のルールを守る気がない者がいることを承知の上でそんな所を休憩場所に選んでいるのだとしたら、まったくもって理解に苦しむ。それどころか、次の町はその草原の向こうに、実はもうその姿をかすかに見せている。さっさと宿を取って自分も馬もちきんとした休息を取れば良いのに、こんなところで何をしているのか。2人の内どちらか――あるいは両方――が負傷している風でもない。二頭の馬も、のん気に地面にはえている草を食んでいる。
 ひょっとしたら、これは何かの罠だろうか。「なにをしている?」と尋ねるために近付いてきた者を攻撃するつもりか。しかし、それならば彼等はすでに完全にそのタイミングを逃してしまっている。ディエゴがまさに「なにをしている?」と尋ねながら馬の脚を止めた時にそれをしないでどうするのか。敵意こそ途切れることなく向けられているが、奇襲も意表もあったものではない。
(それに――)
 ディエゴは改めて2人の姿を見た。2人の姿を、同時に見た。見下ろした。何故か怒りに似た感情が身体の奥底から湧き上がってきた。
「なにをしている、と、聞いているんだぜ、ジョニィ・ジョースター」
「『消えろ』と、答えたつもりだけど?」
 そう返してきたジョニィは、相変わらず右手の人差し指をこちらへ向けている。もう片方の手は、己の身体を支えるようにジャイロの肩へと伸びていた。
 ディエゴは馬から降りた。
「お前は本当に礼儀というものを知らんらしいな」
 ディエゴとジョニィの間で火花が散る。そうしながらも、ジョニィは体勢を変えようとはしない。
 想像してみてほしい。2人の男が、地面に座り込んでいる。その身体は、寄り添うように隣り合っている。片方の男の手が、もう片方の男の肩へと伸びている。すぐ隣にある近い方の肩へ、ではない。背中を経由するように、遠い方の肩へ、だ。では近い方の肩はどうなっているか。そこへは、手を伸ばしている方の男が顎を乗せるように顔を寄せている。簡単に言い換えるなら、『べったり』だ。1人だけを視界に捕らえるのが難しい――むしろほぼ不可能な――程に。2人は『べったり』とくっ付いている。『寄り添う“ように”』ではなく、完全に寄り添っている。子供が親に甘えるように。愛を囁きあう恋人達のように。だがそこに、そんな状況に相応しいのであろう微笑みはない。ジョニィは完全にディエゴをロックオンしているし、ジャイロは胡坐をかいた脚の上に広げた地図に視線を向けながら自分にくっ付いている少年に対して呆れたような顔をしている。そのことを証明するかのように、ジャイロは再度溜め息を吐いた。
「落ち着けって、ジョニィ」
 ジャイロはあやすようにジョニィの頭に触れた。
「Dio、正直に状況を説明したら、お前さんさっさと離れてってくれるか?」
 ジャイロを睨みながら己の口の中にはえた牙の存在を舌先で確認していたディエゴは返答までに一瞬の間を要した。その隙にジョニィが抗議の声を上げる。「なんでこんなやつに」と開いた唇に、ジャイロは人差し指を押し当てた。
「オレに任せておけって」
「でもあいつ、絶対攻撃してくるよ」
「分かってる。でもお前がそうやってスタンバイしてる間は別だろう?」
「説明する気があるならさっさとしろ。ないなら2人ともこの場で噛み殺す」
 実際には2対1だ。タッグを組まれた状況では、それは容易ではないだろう――しかもジャイロが言った通り、ジョニィは“スタンバイ”済みだ――。それでもディエゴはイライラとした口調でそう言わずにはいられなかった。ジャイロがやれやれと肩を竦めてから口を開いた。
「見たら分かるかも知れないが」
「分からん」
「聞けって。おっと、さっきも言ったが、オレ達の隙をついてやろうなんて考えるなよ。妙な素振りを見せたら、オレがとめようがなにしようがジョニィが撃つからな」
「さっさと言え」
「今、オレ達はスタンド攻撃を受けている」
「……分からん」
 ディエゴは思わず素でそう返していた。周囲には、彼等3人とその馬以外、人間はおろか他の生き物の姿も見えない。
「どこに、何がいるって?」
「敵だ」
「本体はあっち」
 指先はディエゴを狙ったまま、ジョニィは町の方を顎で指した。眼を凝らして見ると、なるほど、町の入り口の手前に人影があるように見えなくもない。
「あんにゃろー。あそこから動かない気だな」
「ってことは、これがあいつの射程距離か」
「ジョニィ、お前のスタンドであそこまで届くか?」
「無理だな。遠すぎる」
「やっぱりか」
 2人の口調は穏やか……とはいかないが、比較的落ち着いている。にも関わらず、攻撃されている等と言う。訳が分からない。
 ディエゴの疑問に、ようやくジャイロが答えた。
「あいつは、つかず離れずのタイプのスタンド使いだ。オレ達の攻撃が届かないように距離を取っているが、離れすぎると今度は自分の能力が解除されちまう。どうやら、オレ達を町中へ誘い込みたいみたいだぜ」
「確かに、ここよりも物がたくさんある場所の方が向こうには有利だろうね」
「それでこんなところにいるのか」
 これでやっと、1つ納得だ。
「で? その攻撃とは?」
「これだ」
 ジャイロが取り出したのは拳に収まる程の大きさの鉄球だった。ジャイロ本人が武器にしている物だ。特殊な回転を加えることによって、その鉄球を意のままに操る彼の姿を、ディエゴは何度か目撃している。今は静止してはいるが、油断は出来ない。そんなディエゴの心の声を聞き取ったかのように、ジャイロは「まあ見てろ」と言った。そして、おもむろに鉄球を乗せたままの手の平を、くるりと返して下へ向けた。当然、鉄球は地面へと……
「落ちない……だと?」
 その球体は、ジャイロの手の平にぶら下がるようにその場に留まった。
「磁石だ」
 そう言いながらジャイロが手を動かすと、鉄球は傾斜を滑るように移動する。が、決してジャイロの腕から離れることはなかった。それをジョニィが横から手を伸ばして取り上げる。すると、今度はジョニィの指先に吸い付くようにくっ付いている。まるで手品だ。
「さっきは重みで落ちたのに」
「あいつ、少し近付いたみたいだな。それで力が強まったんだろう。そろそろ痺れを切らす頃か?」
「ぼく達が追っていかないから。襲う場所が拙かったね」
「もしくはオレ達が気付くのが早かったんだな。気付く前に町まで誘い込める手筈だったのにってところか。ブンブーン一家の件がなけりゃあ、そうなってかも知れなかったが、向こうにとっちゃあ、そこが不運だったな」
「ブンブーンの能力と比べると、なんて言うかちょっと大人しい感じだね。これは皮膚が裂けたりまではしないみたいだ」
 ディエゴは頭の中を整理しようとした。つまり……
「お前達2人の身体が、磁石になっていると、そういうことか」
 それでお互いの身体がくっ付いてしまっている、と。
「そう言ってるだろ。納得したならさっさと消えろよ」
 ジャイロと言葉を交わしている時とはあまりにも露骨に口調の違うジョニィを睨み付けると、少年は「ふん」と顔を背けた。
「お前等本当に仲悪いな」
 ジャイロはジョニィの体重を全身で支えたままの姿勢で言った。
「もういいよジャイロ。こんなやつほっとこう」
「しかしこれからどうすっかな。これじゃあ馬にも乗れないぜ」
「2人乗りってやっぱりルール違反かな」
「危ねぇな。1日ここで粘ってたら、あいつ諦めてくれねーかな」
「1日くらいなら遅れても取り戻す自信はあるけどねぇー」
「今日は野宿かねぇ。あんな近くに町が見えてるってのに」
「でもこの状態で町なんてもっと大変だよ。色々金属の物が飛んでくるだろうし」
「まあな」
「風呂もトイレも食事も寝るのも不便だ」
「しかし夜通し作戦会議ってのもな。少しは休まねーと。……休めんのかなこれ」
「あ、ジャイロ。どうせ交代で起きてないといけないんだ。ぼくの脚を枕にしたらいい」
「いいのか? でも頭移動させられっかな」
「試してみる?」
「よし」
 ジョニィが動きにくそうに体勢を変えると、ジャイロも動き出した。離れようとしてもやはりそれは出来ないようで、鉄板の上の磁石を滑らせるように少しずつ身体をずらしていくしかないようだ。途中、ジョニィが「なんかくすぐったい」と言った。それでもなんとか、ジャイロの頭はジョニィの膝の上へと移動を果たした。
「お、到着ぅー。いやあ、これ結構きついわ」
「ぼくの場合もっと苦労しそうだな。足踏ん張っていられないからなぁ。……ところで君、いつまでそこにいるつもり?」
 やはりがらりと口調を変え、ジョニィはディエゴへ視線を移した。構えた手の先には、スタンドのヴィジョンがしがみ付いている。「やめろって」と言いながら起き上がろうとしたジャイロもまたほぼ全身がくっ付いてしまい、2人と1匹(?)はごちゃごちゃと絡まりあっているかのようだ――スタンドがくっ付いているのは磁力とは無関係だろうが――。
「貴様等……」
 しばし呆気に取られて沈黙していたディエゴは、ようやく喉から搾り出すような声を発した。
「貴様等ッ、人前でイチャイチャべたべたと!!」
「はぁ?」
「なに言ってんだこいつ」
「知らない」
 ディエゴは自分の馬に飛び乗った。ジャイロとジョニィが何か言っているようだが、聞こえない。ディエゴはすでに町に向けて馬を駆けさせていた。その視線の先には、スタンド使いらしき人物――年齢も性別もここからでは分からない――のシルエットのみが見える。

「Dioのやつが追いついてきたってことは、だ」
 ジャイロの頭は再びジョニィの膝の上にあった。一方ジョニィは、手持ち無沙汰な様子でジャイロの髪の毛をいじって遊んでいる。
「そろそろ他の連中も来ておかしくないってわけだ」
「そうだろうね」
「だろーねって、んなのん気な。いつまでもここでのほほんと寝そべってるわけにはいかねーぜ」
「寝そべってるのは君だけだ。ぼくは違う」
「そうだな。お前はオレの髪の毛編んでるもんな、何故か」
「暇なんだよ。髪はくっ付かないみたいだ。変なの」
「いや、本当ならそれが普通だろ」
「あ、枝毛」
「マジか」
「そんなことより、どうする?」
 ジョニィはスタンド使いがいるはずの方向へと視線を向けた。遠くてよく見えないが、こんなおかしな能力の持ち主は、町の入り口付近で今も2人がやってくるのを待っているはずだ。2人を始末するために。
「この能力を解いてくれるならいくらでも近付いてってやるのによぉ」
 ジョニィの膝の上で、ジャイロは「あーあ」と溜め息を吐いた。その時、
「ジャイロ!」
「んあ?」
「いなくなってる! さっきのやつがいない!」
 スタンド使いの物と思われる人影が、いつの間にか消えていた。そのことに気付いたジョニィは声を上げた。
「なんだとっ!?」
 ジャイロが慌てて飛び起きる。そこで2人はようやく、磁力が消えていることに気付いた。
「あ、あれ?」
「くっ付いてない……?」
 2人はそろって眼を凝らした。が、そうしてみても、敵の姿はどこにも見当たらなくなっていた。
「諦めて帰ったのかな……」
「さあ……?」
 2人は少しの間、お互いの身体に触れたり、持ち物の中で金属で出来ている物を腕や胴にくっ付けようとしてみた。が、いずれもなんの抵抗もなく離すことが出来た。ジャイロの鉄球も、大人しく地面を転がっている。
「なんだったんだ?」
「とにかく、平気そうなら進もう。ちゃんとしたところで休みたい」
「ああ、そうだな。とりあえず行くか」
「用があるならまたやってくるだろう」
 そんなことを言いながら、2人は荷物をまとめ始めた。

 彼等が刺客らしき者がいたはずの場所に恐竜の物と思われる足跡と血痕を見付けるのは、もうしばし先のことである。


2016,01,02


Dioは2人を助けてあげようと思ったわけではなく単純に2人がくっ付いてんのが気に入らなかっただけです。
2人はくっ付いてるのがすでに自然なことになりすぎててなんとも思ってない(笑)。
正直書き終わるまでブンブーン一家のこと忘れてました。
今回のこれは違いますが、いつかEoH設定でも何か書けたらいいなぁと思っています。
<利鳴>

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