ジャイジョニ ディエ→ジョニ ティム→ジョニ少々 パン→ジョニ極わずか? 全年齢


  ペンタゴン?


 ジャイロは、4人掛けの丸いテーブルの向かいに座った男を睨み付けた。向かいに座った男もまた、彼のことを睨んでいた。ウエイターが「席が空いていないので」と言って別の客を連れてきたのは良い。事情は分かるし、仕方ないとも思う。何しろ外は酷い雨風で、今日は馬を進めることは1歩たりとも出来ないと言った有様なのだから。選手達が1つしかない宿のレストランに集中してしまうのは、どうしようもない。しかし、何故よりによって連れて来られたのがこの男なのだ。時間をずらせば良かったと思っても、もう遅い。
「ジョニィ・ジョースターはどうした? 捨ててきたか?」
 男は揶揄するような口調で言った。
「おい、勝手に話し掛けてるんじゃあないぜDio。オレはお前と食事をしているつもりはない」
 ジャイロが上機嫌でDioことディエゴ・ブランドーに話しかけるのは、自分が優位にいる時だけだ。そう言ってやろうかとも思ったが、「では今はDioの方が優位にいると?」と自身の声に突っ込みを入れられ、そんなことがあるはずがないと頭を振った。
「ジョニィは部屋にいる。お前さんに会いたくないってよ」
 実際にはジョニィはそんなことは言っていなかった。だが「会いたいか」と聞けば、そう答えそうだと思った。そしてジャイロは、自分がそう思ったのなら、それは殆ど言ったも同然、事実としてしまっても構わないことだと決め付けた。
 しかしディエゴは不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、あいつの言いそうなことだ。あいつは『昔から』礼儀を知らんのだ」
 ディエゴは「自分は昔のジョニィのことを知っているんだぜ」と自慢する口調で言った。確かに、ジョニィはディエゴとこのレースに参加する以前から面識がある風ではあった。
 ジャイロは自分のこめかみの辺りがピクピクと痙攣するのを自覚した。
 ディエゴはなおも続ける。
「もっと子供の頃はもう少し素直で可愛げがあったのになぁ? おっと、お前はジョニィには最近会ったばかりだったか」
 わざとらしくニヤリと笑うディエゴに、ジャイロは負けじと口を開いた。
「残念だがさっきの、ありゃあ嘘だった。本当はジョニィはお前のことなんてこれっぽっちも言っちゃあいなかったぜ」
「ほう?」
「あいにく、部屋が2階しか取れなかったんでな。オレは『いつも通り』『負ぶって』行ってやると言ったんだが、どうやら今日はオレを気遣ってくれたらしい。自分は部屋で休んでるとよ」
「『気遣い』じゃあなくて、嫌気がさしたんじゃあないのか?」
「オレに? ありえないね。あいつは何があってもオレについてくると、事ある毎に宣言してるぜ?」
 険悪なムードを垂れ流す2人を気にかけずにそれぞれの食事や会話を繰り広げている周りの声や物音を、2人は気にかけない。2人のテーブルに向かって近付いてくる足音も、全く耳に入っていなかった。
「あれ、なにこの組み合わせ。珍しい」
 ――2人にとっては――突然かけられた声は、今まさに話題の中心となっていたジョニィ・ジョースターのものだった。しかしほぼ同時にそちらを見たジャイロとディエゴの視界にいたのは、彼1人だけではなかった。ジョニィはイケメンカウボーイ、マウンテン・ティムの腕の中にいた。
 ジャイロは思わず立ち上がっていた。
「おいっ! なんでお前がジョニィをお姫様抱っこしてるんだよ!?」
「ちょっ……、その言い方やめてくれないかなっ。暇だったから2階の廊下を徘徊しようと思って部屋を出たら、ちょうどティムが歩いてたんだ。で、暇なら食事に行かないかって言われて、たぶんジャイロもまだいるだろうなと思っておろしてもらってきた」
 それは別に良いのだ。『ジャイロもまだいるだろうなと思って』が『ジャイロに会いたくて』に脳内変換されたことも手伝って、そのこと自体は問題ではない。気に入らないのは、その方法だ。
「おい、オレはお前に聞いてるんだぜ、ヘンテコ帽よぉ」
 まるっきり子供の悪口を平気で口にするジャイロに、ティムは表情を崩すことなく答えた。
「この方が運び易かったんでな。背負うよりも慣れてる」
「おーおー、モテる男は言うことが違うってかぁ?」
「どうでもいいが……というより、気に入らないなら尚更だな。彼を座らせてやりたいんで、椅子を引いてもらえないかな?」
 紳士なら言われるまでもなくそうすべきだとでも言いたそうな口調のティムに、ジャイロがカチンときたのは言うまでもない。だが文句を言ってやる前に、ディエゴが隣の椅子に視線を向けたのが見えた。しまったと思い慌ててその椅子へ手を伸ばす。が、ギリギリのところを逃れるように、椅子はジャイロの手から離れたところでガタンと音を立てた。ディエゴが自分の方へやや寄せる形に、それを引いたのだ。しかも脚で。
「おいおい。食事の席でそれはないんじゃあないのォ?」
 ジャイロは無理矢理作った笑顔をディエゴに向けた。
「おっと、すまんな。何せ、上品な生まれじゃあないもんでな」
 ディエゴがジャイロの家のことを知っているはずはないのに、何故か「お前みたいなボンボンと違って」という嫌味が聞こえた気がした。
「それに、脚の方が長くて便利なんでね」
 ディエゴはテーブルの横でわざとらしく脚を組み替えた。
 そんな2人に構わず、ティムはディエゴが引いた椅子にジョニィを座らせている。ジョニィが「ありがとう」と言うと、にっこり笑って彼の正面にある残りの1つの椅子に腰掛けた。
「おい、勝手に座ってるんじゃあないぜ」
「待った。そもそもここはオレが最初にいた席だぞ」
「この混み具合が見えないのか? どうせ空いてる席はないさ。それともジョニィ、他のテーブルが空くのを待とうか?」
「ふざけんな。ジョニィは元々オレのツレだぜ。お前等がどっか行けよ」
「待て、順番から言えば、お前がそろそろ終わらせて席を立つべきなんじゃあないか?」
「なんだと?」
 そんなやり取りを、ジョニィは不思議そうな顔で見ている。
「ジョニィ! 部屋へ戻る時は、『いつも通り』『オレが』上まで連れてってやるからな!」
「そう? それはどうも」
「むしろジョニィ、わざわざ他人の手を借りて階段を昇るなんてせずに、このDioの部屋へ泊まっていったらどうだ? 1階の奥だ」
「ふざけんなよテメェ! 行くわけねーだろ、バーカ!」
「うん、確かに行くわけないけど、なんでジャイロがキレてんの」
「どうやらその2人は善からぬことを考えているらしいな。ジョニィ、オレの部屋へ避難してくるか?」
「善からぬことを考えているのはお前の方だッ!」
 ジャイロとディエゴのセリフは綺麗にハモった。

 好き勝手に騒いでいる3人を眼の前に、ジョニィは溜め息を吐いた。果たして自分は、ちゃんと部屋に戻ることが出来るのだろうか。いや、戻れたところで平穏な眠りは訪れるのだろうか。
 望み薄だと肩を落としていると、頭上から声をかけられた。
「人生を悲観しているのか?」
 肩越しに後ろ斜め上を振り返ると、そこに立っていたのはホット・パンツだった。
「そこまではしてない」
「ではどうした。溜め息なんて吐いて」
「見てたの?」
「珍しい集まりだなと思って」
 自分もその集まりの1人だと思われていたのだろうなと、ジョニィは再度溜め息を吐いた。
「ほらまた」
「1階の1人部屋を取れば良かったと思ってたところ。今からじゃあ空いてないだろうけど」
「確かに」
 ホット・パンツは「アホな連中だ」というような眼で3人──もしかしたら4人かも知れない──を見ていた。
「私の部屋に泊まるか? 1階の端だ」
「さすがにマズイでしょ君は」
「そうだな」
 元より本気で言ったわけではなかったらしく、ホット・パンツはあっさり頷いた。
「っていうかこれ以上話をややこしくしないでもらえると助かる」
「まあ、頑張れ」
 あまり感情の籠っていない声で言われて、ジョニィは3度目の溜め息とともに「ありがとう」と、感情を籠めない声で応えた。


2012,01,08


このメンバーが顔そろえることはタイミング的にありえないのですが、その辺は眼を瞑っていただけると幸いです。
<利鳴>

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