ジャイジョニ 全年齢


  River


「よっしゃあぁ! 出来たあああッ!」
 ベッドの上に胡坐をかいていたジャイロは、その長い手足を放り出すように上体を倒し、シーツの上に仰向けになった。ジョニィが眼を向けると、その手には茶色いクマのぬいぐるみが握られていた。ずいぶんと年期が入ったぬいぐるみで、色褪せ、汚れてしまっているが、数日前にたまたまジャイロの鞄から顔を覗かせていたそれにあったはずの大きな裂け目は、今はすっかり塞がっているようだった。他にも、損傷が酷かった箇所に修繕の手が加えられているようだ。熱心に何をしているのかと思ったら、クマを直していたのかと、ジョニィは納得した。
「どーよ。ばっちりだろ」
 ジョニィの視線に気付いたジャイロは、寝転がったままの姿勢でクマを持った手をぐいっと伸ばしてきた。改めて見ても継ぎ接ぎだらけの古いぬいぐみるだという感想は変わらなかったが、確かに縫い目は文句の付けようがないほど真っ直ぐで綺麗だった。
「へー、上手いじゃん」
「オレは医者だからな」
 ジョニィが素直に感心すると、ジャイロは得意げな顔でそう言った。
「それ、なんか関係ある?」
「傷口の縫合するだろうが」
「ああ、そういうこと」
 では今のは手術だったわけか。ジャイロは本当に一仕事終えた後のような満足げな表情をしている。
「よーし、今日は3人並んで、川の字になって寝るか!」
 イタリア人のクセにおかしな言い廻しを知っている男だ。
「3人って、誰と誰と誰だよ」
「オレとクマちゃんとオタク」
 ジャイロは即答した。ジャイロとジョニィのベッドは間にヒトが通れる程度の間隔を開けて隣り合っている。ジャイロの枕元の、ジョニィのベッドに近い方にでもクマを置けば、辛うじて3人――2人と1つ――が並んで寝ているような形には見えるかも知れない。
「勝手に人を組み込まないでよ」
「別にいいだろ。何をしろってわけでもない。ふつーに寝るのと何も変わらないんだからな」
「まあ、そーだけど」
 ジョニィはやれやれと息を吐いた。
「でもさ、その言い方って普通親子3人が並んで寝ることを言うんじゃあないの」
「細かいやつだな」
 今度はジャイロが息を吐いた。
「じゃあ、もう親子ってことでいーんじゃあねぇ?」
 ジャイロは「なー、クマちゃん?」等と言って、微笑んでいる。ジョニィが固まっていることに気付いた様子はない。自分が何を言ったのかすら、気に留めてはいないようだ。ジョニィは急いで平常心を取り戻そうとした。が、駄目だった。顔が熱い。
「だっ、誰が親子だよッ」
「ん? どーした?」
「だってそれって……」
 ジャイロは本当に不思議そうな表情をしている。ジョニィをからかおうとして、わざと惚けているわけではないようだ。おかしなことを考えているのは自分だけらしい。そう思うと、ジョニィの顔はますます熱を持った。
「おい、ジョニィ? どうした? 大丈夫か?」
 顔を覗き込もうとした眼から逃れるように、ジョニィは毛布を頭から被ってベッドに突っ伏した。
「なんでもない! もう寝るッ!」
「おい、なんだってんだよ。おかしなやつだな」
 ジャイロはジョニィの毛布を剥ぎ取ろうと手を伸ばしてきたが、逆に毛布の隙間から突き出した手の先で爪を回転させてみせると、彼は慌てて身体を引いた。しばらく首を傾げていたようだったジャイロはその内諦めたのか、明かりを消してベッドに潜り込む音が聞こえてきた。ジョニィは、毛布の外に顔を出さないまま、出来るだけ『川』の字のパーツにならないようにと、身体を丸めて眠気が訪れるのをひたすら待った。
 翌朝ジャイロよりも早く眼を覚ましたジョニィが見たものは、手足を広げて眠るジャイロと、その枕元に置かれたクマが作りだす『犬』の文字だった。


2014,04,19


わたしは時々、描いている内に段々無駄に重い内容になっていってどんどん長くなってしまい、最終的に収拾つかなくなってしまうようになることがあるのですが、
今正にその状態で、1回中身とかスカスカでいいから短いの書いてリセットしよう!
と思って書いたのがこれです。
イタリア人とアメリカ人の会話で「川の字」とか……。と思うのですが、4・2・0とか3つのUとかモロ日本語だし、
もうそういうの気にしなくてもいいよねッ!
ジャイロがアホみたいになったのは反省しています。
<利鳴>

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