ジャイジョニ 全年齢


  星を星で飾り付けたいと思った


「あ、しまった」
 その日の宿泊先となった小さな町で、食料等の必要な物を一通りそろえ終わったジャイロ・ツェペリは、ホテルの部屋に戻るなりそんな声を上げた。その少し前で車椅子を操っていたジョニィ・ジョースターが肩越しに見上げると、ジャイロは眉を顰めて小さく舌打ちをしていた。
「どうしたの?」
「戻ってくる途中で手紙出してこようと思って、忘れてた」
 ジャイロはジョニィには読めない言語――おそらくイタリア語――で宛名が書かれた白い封筒を手にしていた。
「ちょっと出してくるわ。すぐ戻る」
 ジャイロは、手紙以外の荷物をテーブルの上に乗せて、くるりと踵を返した。ドアが閉まって、足音が遠ざかっていく。部屋の中に残されたジョニィは、慣れた手付きで車椅子を動かし、テーブルの前へ移動した。「手紙を出す」と言っても、ホテルのフロントに預けてくるだけだ。おそらくジャイロはすぐに戻ってくるだろうが、先に荷物の整理を始めておこうかと、そう思ったのだ。
 ジャイロが置いていった袋に手を突っ込んで、中身を順番にテーブルの上に並べていく。水と食料は半分ずつ持つ。傷の手当に使う道具は、そういった作業に慣れているジャイロの担当。歯ブラシはジャイロは要らないと言って買わなかった――茎がどうとか言っていた――ので、ジョニィの物だ。レースの記事が書かれた新聞はあとで読むから、鞄には入れずにテーブルの端に避けておく。それから、不要になった荷物もここで処分していくことにする。ばらばらになった銃は普通のゴミとして捨てて良いのだろうかと考えながら、ジョニィは何気なく空っぽになった――筈だった――買い物袋を逆さにした。
「――ん?」
 チャラチャラと小さな音を立てる何かが、灯りを反射しながら落ちた。ジョニィは車椅子の向きを僅かに変えて、床に落ちたそれを拾い上げた。手に取ってみるとそれは、銀色の細いチェーンが輪になったものだった。チェーンには等間隔でいくつかの小さな――やはり銀色の――星の形をした飾りが付いている。ジョニィに見覚えはなかったので、ジャイロが購入した物なのだろう。
(いつの間にこんな物買ったんだろう)
 おそらくは、「車椅子では移動し辛いから」と言ってジャイロだけが入って行った小さくて狭い店でだ。外で待っていたジョニィに見えたのは店先に置かれた馬具や装飾品の類だけで、ジャイロが何に興味を示したのかはよく分からなかった。更に彼にそのことを尋ねてみても「別に」としか返ってこなかったのだ。
 輪になったチェーンには金具が付いている。
「ブレスレット?」
 アンクレットやペンダントにしては輪が小さすぎる。あるいは鞄か何かに付ける飾りだろうか。どちらかと言えばシンプルなデザインではあるが、ジャイロの趣味なのだとしたら、少し可愛すぎる気がする。
(でもジャイロの趣味って“クマちゃん”だからなぁ)
 ジョニィが苦笑いを浮かべていると、ドアが開いてジャイロが戻って来た。振り向いたジョニィの手の中にある物を見た彼は、「あっ」と大きく口を開いた。
「お帰り。ねえ、これ買ったの?」
 何故かジャイロはどこか気まずそうな顔をしている。そんなことには気付かずに、ジョニィはキラキラと光るそれを小さく揺らした。
「これ、アクセサリー? ジャイロがするの? 馬乗る時は手袋するから邪魔じゃあない?」
「う……べ、別に、オレがするんじゃあ……」
 珍しくジャイロの歯切れが悪い。ジョニィは訝しげに思いながら続ける。
「じゃあ、国の誰かにお土産? なに、恋人ぉ? でも今から買ってもどっかで失くしそうな気がするけど。それにニューヨークについてからの方がいい物売ってそうだ」
「恋人なんて残してきてねぇから。だから……その……別にいいだろっ、オレが何買ったって!」
「そりゃあいいさ。君が自分の金で何買おうと」
 あっさりそんなことを言うジョニィの手からそれを奪い返すと、ジャイロは不貞腐れたように背を向けてしまった。
「なに怒ってんの?」
「別にっ」
「変なの」
「うっせーなっ、ほっとけよ! ジョニィのアホ! 猫耳!」
「罵り方の意味が分かんないんだけど。なに勝手に独りでキレてんだよ」
「もういいっ。これはクマちゃんにやるっ」
 ジャイロは鞄から取り出したクマのぬいぐるみの首に、先程の飾りを着けた。しかし彼はあまり満足そうではない。「本当は違うつもりでいたのに」そんなことを言いたそうだ。そんなジャイロの様子を、ジョニィは首を傾げながら眺めていた。
「ジャイロの趣味っていうか、好みっていうかさ、とにかく、ちょっと変だ」
 ジョニィはジャイロの手の中のクマを指差しながら言った。
「うっせーな」
 ジャイロはジョニィの顔を睨むようにじっと見た。
「……オレだってそう思うよちくしょー」
「なんでぼくの顔見て言うんだよ」
「なんでもねー。ったく……なんでよりによってこんな……」
 ジャイロの声はやがてジョニィには聞き取れないぼやきのような呟きへと変化していった。斜め後ろのやや下から見上げるジャイロの顔は、不思議と僅かに赤く染まっているように見えた。この部屋の窓は西を向いてはいないから、夕陽が差し込んでいる筈はないのだが……。
 もうわけが分からないと言いながら、ジョニィは纏めた荷物を自分の鞄につめる作業に戻った。その手元――と言うよりも手首の辺り――を、ジャイロが何か言いたそうな眼で見ていたことを、彼は知らない。


2011,03,04


おまけ


本当はジョニィにあげようと思ったのに「邪魔じゃあない?」とか言われちゃってしょんぼりしてるジャイロが書きたかったです。
天然キャラのジョニィも好きだッ!
ジョニィは星が好きなんですよね。きっと。
「ジョニィ柄だ!」とか言って星柄のリボン買っちゃった利鳴が通りますよっと。
今後星柄の小物をうっかり増やしてしまいそうでヤヴァいです。
何年か前には金色の天道虫のキーホルダーになってる時計に激はまりしたっけなぁ……。
あの時も結構「自分末期だ(笑)」と思ったもんですが、今もだいぶヤヴァいと思ってます。
蹄鉄の形のチャームとか欲しくてやばい。
蹄鉄でしかも星の飾りついてるアクセサリーとか見ちゃうとすんごい欲しくなる。
<利鳴>

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