ジョニィ&ジョナサン 全年齢 混部


  七つ目の星


 ぼくは夢を見ていた。それが夢であるとはっきり自覚出来る、明晰夢というやつだ。これが現実ではないことの証明のように、死んでしまったようなぼくの足が、何の苦労もなく動いた。どうせ眼が覚めれば消えてしまうことだ。感動どころか、感想すら浮かんでこない。
 辺りを見廻してみると、ほとんど真っ暗で何も見えなかった。夢の中の世界も、現実と同じで夜なのだろうか。そんな中でも自分の身体ははっきりと見えるのは、やはり夢の中だからなのだなと納得する。
 それにしても、本当に何もない。ぼくの深層心理には何もないとでも言うのだろうか。自分の好きなように夢をコントロールするなんてことも出来ないまま、ぼくはただその場で誰にぶつけられるわけでもない苛立ちを持て余していた。
 なんてつまらない夢。これなら、もうさっさと眼を覚ましてジャイロと見張りを交代してしまった方がいいかも知れない。さあどうやったら眼が覚めるのだろうかと思っていると、それまで何もなかったはずのこの世界に、ひとりの男が立っていることに気付いた。さっきまでは間違いなく誰もいなかったはずなのに、一体いつの間に?
「やぁ、こんばんは、ジョニィ」
 男は柔和な笑みを浮かべながら手を差し出してきた。
「あんた誰だい」
 その喋り方から、おそらくはイギリス人だろうと思った。とても丁寧な口調で、しかしそこにわざとらしさや嫌味な感じは全くなかった。彼にとっては、その頭に「バカみたいな」と付けたくなるようなおっとりとした喋り方も、極自然なものなのだろう。子供の頃にイギリスに住んでいたことはあったが、こんな男とは会った覚えがない。知らない人――のはずだ。
 男はぼくの質問には答えずに、大きな手でぼくの右手を握った。差し出した覚えのないはずの手に触れられた瞬間、初対面であるはずのその男のことを、ぼくは何故か全て理解したような気がした。
「君は……、ぼくなの?」
 彼はぼくとは少しも似ていなかった。黒い髪も、がっしりとした体格も、見上げるように高い身長も、堂々としていて落ち着いた紳士的とでも呼びたいような態度も、そして強い意志を宿したような眼光も、全て。それでもぼくはそう尋ねずにはいられなかった。
「そうかも知れない。でも、全てが同じではない」
「よくわからないな」
 だけどぼくはそんなことはもうどうでもいいと思っていた。
「どうして君はそんな風に前を見ていけたんだい」
 いつの間にかぼくは、彼が何か大きなものに立ち向かっていったことを知っていた。しかもそれを尋ねるのなら過去形の疑問文を用いるのが正しいということまで、理解していた。何故そんなことが自然に頭の中に浮かんできたのかはわからない。わからないが、ぼくはもう質問の答えも知っていたのかも知れない。
「ぼくが目指すものは、前にしかなかったから」
 彼は柔らかな微笑を全く崩すことなくそう答えた。そんな風にすぐに断言してしまえるのは、彼が強い意志を持っているからだ。ぼくにはそれがない。
「どうして君は前を見ていけないんだい?」
 今度は彼が尋ねた。随分と率直に聞いてくれるじゃあないか。「そんなことはない」と言ったところで、おそらくは無駄だろう。ぼくが彼のことをわかるように、彼もぼくのことを知っているに違いない。もしかしたら、彼の方がより多くを理解しているかも知れない。そうだったとしても、ぼくはちっとも驚かないだろう。そんなことよりも、彼の質問が胸に深く突き刺さった。『どうして前を見ていけないんだい?』
「それは……」
「足が動かないから?」
「……」
 ぼくが俯いて黙っていると、彼は言った。
「大丈夫」
 顔を上げると、彼はやはり微笑んでいた。
「信じてごらん」
「……何を」
「自分と、自分に繋がる者達を」
 そう言うと、彼の姿は周囲に溶け出すように見えなくなってしまった。「待って」と言う間もないくらい、一瞬のことだった。
 彼が立っていた辺りで、星のようなものが一瞬だけ光ったような気がした。

「ジョニィ」
 ジャイロの声で眼が覚めた。辺りは暗い。まだ夜は明けていないみたいだ。
「ジョニィ、悪い、代わってくれ」
 眠そうなジャイロの声が言う。
「ああ、うん」
 目覚めと同時にやっぱり動かなくなってしまった足を引き摺って、ジャイロと入れ替わりに焚き火のそばに座った。毛布に包まって早速意識を手放したらしいジャイロの寝息を聞きながら空を見上げると、大きな星が6つ、奇妙なくらいに輝いていた。


2011,05,07


混部扱いにしてみましたが、普通にSBRでも良かったかなぁとも思わないでもないです。
ディエゴはディオと共通する部分が結構あるように思えるのですが、ジョニィはあんまりジョナサンっぽくないですよね。
どうしてだろう。
ジョナサンは自分の人生に満足したけどディオはしてなくて、だからまた同じような生まれ方したのかなぁ?
<利鳴>

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