ディオジョナ 全年齢 EoH設定


  インテルメディオ


「ディオ」
 そう呼びかけたジョナサンの声に、応える者はいなかった。蒼白い月光に照らされた山中、風さえないその場所で、音を立てるものは――野生の動物ですら――何もない。
 それでもジョナサンは、夜の闇の中にある一点を見詰めながら、構わず続ける。
「そこにいるんだろう?」
 すると、まるで闇が集結し、ひとつの形を作り出したかのように、ひとりの男が姿を現した。不適な笑みをその唇に乗せて、赤い瞳はジョナサンの姿を真っ直ぐに見ている。
「いいのか、ジョジョ? お仲間から離れてこんなところにひとりでいて」
 ディオ・ブランドーは揶揄するような口調でそう言った。ジョナサンはわずかに肩をすくめるような仕草を返す。
「それは君も同じじゃあないのかい」
 すると、ディオは実に面白いジョークを聞いたというように笑った。その様子は、同じ家で共に育った頃と何も変わっていないように見えた。
「『仲間』? 冗談を」
「そうなのかい?」
 ジョナサンは首を傾げた。
「弟さんはいいの?」
「誰だ」
「君によく似た子がいたじゃあないか。帽子を被った」
「血縁者なんぞいるものか」
「そう」
 ディオの怪訝そうな表情が、露骨に不機嫌そうなそれへと変わる。ジョナサンは溜め息を吐くようにわずかに笑った。
「残念だな」
「は?」
「君に弟がいたら、それは僕の弟でもあるだろう? 兄弟が増えるかと思ったのに」
 そんな冗談を口にする余裕が自身に存在するということに、ジョナサンは少々驚いていた。父を死へ追いやり、無関係の者まで殺め、なおもその身を悪へと染めようとしている男を前にしているわりには、穏やかさにすら似た奇妙な感覚がある。それは、今彼等が置かれている状況が、通常からかけ離れ過ぎているがために、正常な感覚を失ってしまっているのだろうか。そう、夢を見ている時の感じに、少し似ているかも知れない。夢のように目覚めれば無に帰ってしまうということはないが、夢のように、帰らなければならない現実が別にあるという意味では。
「何故分かった」
「え?」
 不意の問いかけに、ジョナサンは再び首を斜めにする。ディオは不愉快そうな表情のまま溜め息を吐いた。
「何故このディオの存在に気付いたのかと聞いているんだ」
「……『何故』……?」
 鸚鵡返しに問うと、ディオの溜め息は舌打ちに変わった。
「お前の子孫達は、その血の繋がりからお互いの存在を感じ取れると聞く。だが、オレ達には“それ”はない」
 7年もの歳月を共に過ごしはしたが、2人を結び付けるものはそれだけだ。血縁の関係がないどころか、似ている部分すら存在しない。外見も、性格も、何ひとつ。すべての人類が同じ祖先を持っているとしても、彼等の場合は起源に限りなく近付くまで遡らなければ、出会ってすらいなかったかも知れないと思えるほどだ。
 そんな相手が、今目の前にいるという現実。その存在を感じた、その理由……。
 ジョナサンはぽつりと答えた。
「なんとなく……かな」
 ディオがそこにいるということ。それは、至極当然のことに思えた。言葉で説明出来るようなことではない。空気のにおいで雨を知るよりも、風の暖かさで季節の移り変わりに気付くよりも、もっとあいまいな感覚。ただ、分かったのだ。彼がいる、と。
 ディオは眉間に皺を寄せ、納得していないような顔をしている。そんな表情に向って、ジョナサンは問いを返した。
「むしろ君が僕を見付けたんじゃあないのかい?」
「なんだと?」
「ひとりでいれば、君が来てくれるような気がしてた」
 「実際にそうなった」と続けると、赤い瞳がジョナサンを睨んだ。
「このディオを罠にはめたつもりか?」
「そんなんじゃあない」
 ジョナサンは首を左右に振った。そしてしばし、考える。
「さっきの、撤回」
「は?」
「『理由』。“なんとなく”じゃあなくて、“君のことを考えていたから”、かなと思って」
 だからディオが近くにいることに気付いた。そう思うと、喉につかえていた物をようやく呑み込めたような心地がした。
「色んなことが起きて、正直何がどうなっているのか分からない。スタンド……だっけ? 承太郎達が持つ不思議な力のことも、僕にはさっぱりだ。それでも今度のことは、僕と……いや、僕“達”と無関係ではないというんだから、見て見ぬ振りは出来ないよ」
 「でも」とジョナサンは続ける。
「結局僕が追っているのは、君なんだよ、ディオ。みんなが追っている『あの男』じゃあない。君だ」
 『あの男』との戦いの中心には、信頼に足る人物がちゃんといる。そのお陰で、ジョナサンは自分が進むべき道を見失わずにいられる。
「“これ”はたぶん、“僕の戦い”じゃあない。僕は君との決着のためにここにいる」
 月の光が作り出す影の中で、ディオが笑ったように見えた。何かを楽しんでいるかのように。先程までのしかめっ面が嘘であるかのように。
「仲間から離れてひとりで戦うつもりか?」
「これは僕と君の戦いだからね。でも、今はその時じゃあない」
 『あの男』の力で、“決着”はなかったことになってしまうかも知れない。
「だから、“この戦い”が終わったら、その時、改めて君を倒すよ」
「ふんっ」
「君だってそう思っているんじゃあないのかい?」
 さもなくば、ジョナサンの呼びかけに返事なんてせずに、不意打ちでもすれば良かったはずだ。それを認めたように、ディオはくつくつと笑った。
 きっとこれは、幕間劇のようなものなのだ。2人という舞台の合間に現れた短い間。物語の本質とは少し外れた不思議な世界。きっとここでは、彼等の常識は通用しない。さもなくば、命を奪い合おうとしている相手と、こんな風に過ごしているはずがない。
「もう一度話をしてみたいと思っていた。君と、2人で」
「説得でもするつもりか?」
「しないよ。されないだろ?」
 ディオは再び笑った。
「なんでもいいんだ。なんでもいいから、話してみたかった」
 ディオが望むのであれば、天気の話だって構わなかったのかも知れない。思えば、共に過ごした月日の中で、お互い己を演じずに言葉を交わしたことが何度あっただろう。
 不意に、周囲にいくつもの気配が現れた。草木をかき分けるような物音もする。ジョナサンの仲間達ではない。もっとどす黒いものだ。
「ゾンビかっ」
 人に似た姿をしたものが、飛びかかってきた。ジョナサンは地面を蹴って、鋭く伸びた爪を避けた。
「君の?」
「違う」
「だろうね」
 ジョナサンに傷を負わせることに失敗した人ならざるものは、今度はディオに向かって突進しようとしていた。ディオが作り出したものであれば、そんな行動を取るはずがない。
「じゃあ、『あの男』が?」
 ディオは足を高々と上げるように、1匹のゾンビを蹴り飛ばした。
「もしくは『柱の男』とかいうフザケた生き物の仕業だろう」
「嫌いなんだね」
「全ての生き物の頂点はこのディオだ」
 別のゾンビが襲いかかってきた。今度は2匹同時だ。
「不愉快だ」
 ディオが吐き捨てるように言う。
「おいジョジョ」
「うん?」
「手を貸せ」
 きっぱりと言ったディオの口元は、先程の言葉とは裏腹に、不思議と笑っているように見えた。
「いいよ」
 ジョナサンはディオに背中を向ける形でかまえ、ゾンビ達と対峙した。
「こい」
 ディオのその言葉を合図に、大勢のゾンビ達が一斉に吠えた。ある者は牙を、ある者は爪を剥き出しにして、次々に襲い掛かってくる。ジョナサンはその一体を拳で打ち砕いた。
 背後からはディオが戦っている様子が伝わってくる。2人で力を合わせて何かをするなんて、大学の部活動以外では実に久しい。だというのに、彼がどう動いているのかはなんとなく分かる気がした。声等かけずとも、ちゃんとお互いの攻撃が当たらないようにと避けながら動くことが出来ている。
(不思議だ)
 それこそ部活中に、ディオの姿を目で確認することが出来なくとも、この場所にボールを投げれば間違いなくパスが通ると確信出来ていた、あの時に似ている。少しも似ていない2人であるはずなのに、その息はぴったりだとしか言いようがない。
 しかし、敵はなかなか減らない。まだかなりの数が闇の中に潜んでいるようだ。このまま夜が明ければ、ゾンビ達は倒せる――あるいは退けられる――だろうが……。
(でも、それじゃあディオも……)
 それに、そろそろ仲間達が探しに来るかも知れない。何も言わずに出てきてしまったから、きっと心配していることだろう――もしくは、怒られる――。
「おいジョジョ」
 ディオの声にも、わずかな焦りが潜んでいるように聞こえた。
「何故あの波紋とかいう技を使わんのだ。このディオに手の内を見せまいとしているつもりか」
「違うよ」
 波紋は先程から使用している。だがそのほとんどが己の肉体を強化する目的に留めている。それ以外には、ごく基本的な技――早い話が小技――しか使っていない。しかしそれは、ディオが言うような理由からではない。
「っていうか、それもないとは言い切れないけど」
「正直なやつめ」
 ディオは呆れたように言いながら、手近にいるゾンビを殴り飛ばした。
「でもそれ以上に、君を巻き込むような技は使えないじゃあないか」
 そう返した途端、ディオの動きがぴたりと止まった。ネジが切れた時計のようだ。振り向いてその顔を見ると、表情までもが固まっていた。きっとこういうのを、目が点になるというのだろう。
「ディオ?」
 戦闘中に固まるなんて、敵ながら感心しない。
「ディオってば! ゾンビがきてるよ!」
 再び動き出したディオは、ジョナサンが指差したそれを投げ飛ばした。
「どこまで甘っちょろいんだお前は」
「え? なに?」
「なんでもない! 貴様の攻撃なんぞに巻き込まれるほどマヌケではないわ! いいからさっさとやれ!」
「ほんとに? 後で文句言わないでよ?」
 ジョナサンは溜め息に続いて、改めて波紋の呼吸を始めた。


2019,10,14


共闘するディオジョナが見たいです。
EoHならそれが見られるー!
でもあのゲーム、ジョナサンは元祖JOJOだしディオだって元祖でぃおなのに、1部の扱いちょっと軽くなかったですか。
ってか結局承太郎中心でずるい(笑)。
もうちょっと偏りのないゲームをいつか出してほしいです。
その際は噴上とアバッキオとFFとあともっと7、8部のキャラを出してください!!
<利鳴>

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