ジョナサン&ジョニィ 全年齢 ジャイジョニ要素有り EoH


  place


 “彼”の姿が見当たらないことに気付くのに、特別な観察眼は必要なかった。「自分が連れてきたのだから」という責任感に似た何かはないでもなかったが、それを抜きにしても“彼”の姿は眼に入り易い。と言っても、“彼”自身は身体が大きい方では決してないので、ぼくやジョセフ、承太郎の陰なんかにいると、簡単に隠れてしまいかねない。しかし、“彼”がいる所には、“彼”の愛馬――そうと聞かされたわけではないが、きっとそうなのだろう――が必ずいる。戦いの最中に一時的に避難させる場合は別だが、そうでない時――例えば、今のように束の間の休息と状況の整理、今後の行動の打ち合わせ等を兼ねている時――は、ほぼ百パーセントだ。どうやら“彼”は脚が悪いらしいということには、かなり早い時点で気付いていた。あの馬――スローダンサーと呼んでいたっけ――が、きっと“彼”の“脚”なのだろう。それが見当たらないということは……。
 ぼくはもう一度その不思議な空間を――簡単に――見廻した。いつの間にか大所帯になったパーティの中に、馬がいないことは明白だった。いれば気付かないはずがない。どうやら“外”へ出ているようだ。当然、馬だけではなく、“彼”も一緒だろう。
「ちょっと出てきてもいいかな」
 真剣な話し合いに水を差すようなタイミングでのこの発言は、申し訳なく思わないということはないけれど、すでに“彼”が外に出ているのだ。“彼”が良くてぼくは駄目だと言われるのは納得がいかないし、逆に“彼”にも戻れと言うなら、ぼくが呼びに行くことに何の問題もないだろう。
 承太郎とその祖父の方のジョセフ――ちょっとややこしい――は顔を見合わせた。彼等2人が……いや、2人以外の何人かも、ぼくの子孫だというのだからまだ驚いている。まあ、この事態に巻き込まれる前から、すでに石仮面を廻る奇妙すぎるくらい奇妙な出来事には遭遇していたわけで、そう考えると、いくつもの時代を行き来し、自分と血縁のある人達に出会うなんてことも、ありえなくはないのかなと思うしかない。彼等に“今後のぼく”のことを――子孫がいるのだから、当然子供もいるのだろう。男の子だろうか、女の子だろうか。母親は……?――を聞いてみたい気持ちはあったけど、きっと、未来のことは知らないでいる方が良いのだろう。それが普通なのだから。今はとりあえず、存在を知らなかった親戚がたくさんいて、共に戦うことになった。くらいの気持ちでいようか。
(うん、立派にわけが分からないな)
 だが、こんな状況にあっても、不思議と楽しさに似た何かがある。直面している事態を思えば、それも不謹慎だと咎められることなのかも知れないのだけれども。
「遠くへ行かなければかまわんのじゃあないか?」
 ジョセフが言った。
「すぐには出発出来そうにない。まだ手当てが必要な者もおるしのう」
「と言うか、すでに何人かは自由行動に出てるぜ、ジジイ。この人数を全員見てろなんて不可能だ」
 いつの間にかすっかりリーダーの扱いになってしまった承太郎――本人は少し不満そうだ――も、肩を竦めながらそう言う。「じゃあぼくも承太郎を困らせる側に廻ろうかな」と笑いながら言うと、「じゃあオレも」「オレもー」と――若い方の――ジョセフと仗助も続いた。
「やれやれだぜ」
 承太郎が呟くのを聞きながら“外”に出ると、彼が言ったように何人かの仲間が思い思いの過ごし方をしていた。友人と会話をしている者、ストレッチをしている者、物珍しそうに景色を見廻している者と様々だ。
(さて、“彼”は……?)
 繰り返しになるが、“彼”の姿は眼に入り易い。道の端に立つ馬の背に、ぼくはそれを見付けた。
「ジョニィ」
 声をかけると、彼は馬毎身体の向きを変えてこちらを見た。「やあ」と手を上げると、彼も同じような仕草をした。
「もう出発?」
「いや、まだみたいだよ。むしろまだまだ、かな? 承太郎達が忙しそうにしてる。でも手伝わずに出てきてしまったよ」
 ぼくが笑うと、ジョニィもふっと息を吐いた。しかし、その表情はどこか硬い。少し疲れたような顔だ。
「“中”で少し休んできたらどうだい?」
 ぼくが“亀”を指して言うと、ジョニィは首を横へ振った。
「大丈夫。それに、流石に馬がいたんじゃあ他の皆に迷惑だろう?」
 「馬がいたら」と彼は言ったが、それはまるで「脚が動かない自分がいると」を置き換えているかのように聞こえた。確かに、脚が動けば無理に馬を同行させる必要はなくなるのかも知れないが、その思考はあまりにも自虐的だ。
「そんなことはないよ」
 ぼくは至って普通の口調――事実それは嘘偽りのない極普通の自然な感情による発言だった――で言った。
「“中”のスペースはかなり広いんだ。ぼくが最初に入った時よりも、広くなってる気がする。スタンド……だっけ? ぼくにはよく分からないけど、その能力が強くなっているのかも知れないって、承太郎達が言っていたから、本当にそうなのかも。あの亀もぼく達の仲間で、一緒に戦っているつもりなのかも知れないね」
「へえ」
「すごいよね、亀の中だなんて信じられないよ。普通の部屋みたいだ。亀が苦手だって言ってた仗助も、もう出入りの時以外は忘れてるんじゃあないかな。ああ、トイレがないのが不便だって、あそこにいる女の子が言っていたけど、その意見にはぼくも賛成だな」
 ぼくが一気に喋ると、ジョニィはようやく――少しだけ――表情を緩めた。それを見ながら、ぼくは「だから」と続けた。
「馬が一頭……ううん、あと2、3頭増えたって、どうということはないよ」
 ぼくはすでに知っていた。この場所には、本当はもうひとり、馬を操る人物――その人は脚が動かないということはないようだが――がいるべきなのだということを。そしてそれが、ジョニィにとって大切な人であるということも。彼のことは――もちろん他の仲間達も――、必ず取り戻さなければいけない。そうでなければ、ジョニィが本当の笑顔を見せることはないだろう。
 ぼくが何を考えているのか分かったのか、ジョニィはまた――辛うじてさっきよりは――微笑んだ。
「3頭にはならないよ。2頭分で充分だ」
「じゃあ、なおさら余裕だ」
 ぼくは微笑み返した。
「それに、ここにいるのは皆ぼくの子孫か、その仲間ばっかりなんだ」
 ジョニィは首を傾げた。
「だから?」
「細かいことを気にして不平不満を言ったりなんてしないから、大丈夫! 皆いい子ばっかりだよ」
 ぼくが自信たっぷりにそう言うと、ジョニィの顔は呆れたような表情に変わった。
「全員君の大雑把な性格が遺伝してるか、その大雑把と付き合えるくらい大雑把なやつばっかりって意味?」
「心が広いって言ってほしいな」
「それ自分で言う?」
「疑うならスピードワゴンに聞いてみればいい」
「あの人君にべったりだったじゃあないか。たぶん今も君のこと探してるよ。証人としては不適切だね」
 ようやく口数が増えてきた。と思った矢先に、ジョニィはふと黙り込んだ。その表情は、穏やかさと憂いを綯い交ぜにしたような色をしていた。きっと、“誰か”のことを考えているのだろう。それが分かったから、ぼくも何も言わずにただ待った。やがてジョニィはひとりの人物の名を口にした。
「ジャイロも……」
 それが、彼の大切な人の名前だ。
「かなり大雑把なやつなんだ。もっと言っちゃえば、いい加減」
「へえ」
 ぼくは――おそらく――この数時間で一番の――と思われる――笑みを見せた。
「会って話をするのが楽しみだよ」
 ジョニィは一瞬だけ驚いたような顔をした。が、
「うん」
 彼が頷くと、蜂蜜色の髪がぴょんとはねた。
「きっと君に紹介するよ、ジョナサン」
「ありがとう、ジョニィ」


2016,02,24


ジョニィが結構簡単にジョナサンのこと信用したのは、そうせざるを得ない状況だったってのもあるけど、
それ以上にジョナサンの人柄なのかなって思います。
もっとWジョナサンの会話眺めていたかったなあああああああ。
そしてそれ以上にもっとジャイロの出番欲しかったあああああああああ!!!!
<利鳴>

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