First Christmas


「おーい、いるのかー?」
 外から見た時、部屋の電気は付いていたから、出かけていないことだけは確かだ。だがもしかしたら電気を付けっ放しで寝ているかも知れないと思い、深春は靴を脱ぎながら中に向かって呼びかけた。
「いるよ。おかえり」
 京介はパソコンに向かっていた。覗き込んでみると、画面には何やら洋書のタイトルがずらりと並んでいる。何かの資料を探しているのか、それともただの趣味の本なのかはわからなかったが、深春の目を引いたのは画面の上の方に表示されている広告だった。
 『今年のクリスマス、あなたは誰と――』
 そんな文字が踊っている。
「あ、そう言えばよ」
「うん?」
 京介は半分生返事のような相槌を返してきた。
「今日蒼猫から電話があって――」
 京介の視線は相変わらずパソコンの画面に向いているが、先ほどまでの聞き方とは明らかに違っていることに深春は気付いていた。
「『クリスマス料理といったら何だ』とか言ってた」
「クリスマス?」
 その言葉に、京介はようやくパソコンの画面から目を離して此方を向いた。長い前髪の下で、露骨なしかめっ面をしている。
「ダチと飯食うとか言ってたぜ」
 京介はまだ不審そうな顔をしている。
「そう言えばずっとクリスマスなんて祝ってなかったよな? 俺達が教授の家にいたころも」
「キリスト教徒でもあるまいし、無理に祝う必要はない」
「そんなこと言ったら日本では本来の意味から離れて祝ってるやつらばっかりだろ? そうじゃあなくて、普通子供がいるうちだったら多少なりともなんかはやるもんじゃないか?」
「良くない思い出があるらしいんだ。……はっきりとは言わないけどね」
 京介の言葉には主語がなかったが、それが誰のことなのかはすぐにわかった。
「そんな電話をかけてきたってことは、少なからず過去を克服できたってことならいいんだけどね……」
 そう言った京介の表情が、一瞬寂しそうに見えた。
 蒼が自分の過去を乗り越えていくことは良いことだ。しかしそれと同時に、自分達から離れていくことも事実なのだ。それを一緒に祝う相手が自分ではない他の誰かであることも……。
 京介はそれ以上その話題を続けることを拒むようにパソコンの画面に目を戻した。
「よしっ」
 突然、深春はたった今脱いだばかりの上着を掴むと、掛け声とともに立ち上がった。
 京介が何事かというように見上げている。
「ちょっくら買い物行ってくるわ」
「今から?」
「まだ店開いてる時間だぜ」
「どこに……」
 深春はにっと笑った。
「蒼猫がクリスマス解禁になったんだろ? だったら、俺達だってそうしたっていいはずだぜ」
 京介は呆れたような顔をしている。だが決して嫌そうではない。それを確信すると、深春は上着に腕を通しながら、着終えるの待っているのでさえ惜しいと言うように玄関に向かってかけだした。
 空には灰色の雲が漂っている。雪が降るかも知れない。そう思いながら、深春は記念すべき日のディナーに何を並べようかと考えている。
 適当なワインでも買ってきて、今夜は乾杯しよう。
 クリスマスと、蒼の自立と、それから、自分達の未来に。

 Merry Christmas.


2005,12,23


前にセツさんに「深春×京介のほのぼのーとした小説が読みたいなぁ〜…。(自己紹介ページ、『俺とお前に100の質問』39問目の回答より)」と言われてしまったので実行です。
前々から書きたいとは思っていたんですがね、クリスマスネタなので時期を待っていたということですよ。
サイト開設前から温めていたわりには…………どうだろう……どうかな……。
一応Ave Mariaの裏側って感じで読んでいただけるとうれしいです。
翳と香澄がクリスマスパーティしてるんだから、深春と京介だってお祝いしてたっていいはずだ!! ということで。
もしかしてわたし、絵も文も、深春×京介初アップですか?
絵は描けないから……ね……深春が…………。
誰か、どうしたら深春が描ける様になるのか教えて下さい。>セツさん(『誰か』じゃあなかったのか)。
自分で描いた背景が素晴らしいほどヘボい。
えー、なにはともあれ、みなさん、メリークリスマス。
まだイブイブだけど。
<利鳴>
ダチって翳ですか?(最初に其れか)
2人のクリスマスに一緒に乾杯したいです。きゅんきゅん。
後、翳と香澄ちゃんのクリスマスにも…←翳に決め付けてる。
と言うか、理想の2人の関係が此処に極まってると思います。有難う。
2人は蒼のパパとママで、成長を見守れば良いです。
…背景、素材サイトから引っ張ってきたのかと思った…上手ね…
そんなワケで、全国の深春×京介(好きさん)に、メリークリスマース。
<雪架>

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