Mirage



 膝を抱き、肩を縮め、可能な限り身を小さくして、悪意にも似た闇に触れられる面積を少しでも減らそうと、ぎゅっと自分の身体を抱き締める。両の眼を硬く瞑り、息を潜め、その正体も分からぬまま、ただ只管じっと何かに耐える。そんなことしか出来ない、無力な自分が嫌で嫌で堪らない。いつまでこうしていれば良いのか、いつまでこんな小さな子供でいなければならないのか、いつまで――
(いつまで、僕は僕でいなければならないのか……)
 彼は――
(僕は……、僕は僕でいたくない……っ!)
 この身体も、この名前も、いっそ全て消し去ってしまえたら、あるいは、全く別のものになってしまえたら……。
 不意に、誰かの声が耳に届き、彼は思わず顔を上げた。眼の前に見知らぬ少年が立っていた。僅かな足音もなく、突如姿を現したとしか言いようがない程、全く不意に、手を伸ばせば届く程の距離に。
「……だれ」
 突然現れた少年に、何故か彼は警戒することを覚えず、自ら声を掛けていた。
 少年の顔は、眩しくてよく見えない。しかし、その背後に光はなく、逆光になっているのではない。まるで、その少年自身が光源であるかのように、白いシルエットを直視することが出来ない。それでも、彼は少年が微笑んだのだということを感じ取った。
 少年は、幼さを残すやや高い声で彼の名を呼んだ。
「大丈夫だよ」
 何が――。そう尋ねようと口を開く前に、少年は手を差し伸べてきた。
 子供のような声も、姿も、その笑顔も、全てが自分を騙すための偽りの姿かも知れない。本当なら、そう考えるべきだったのかも知れない。しかし、気が付くと彼は少年の両腕でしっかりと抱き締められていた。
「大丈夫だよ」
 少年は同じ言葉を繰り返した。
「助けに行くから。絶対に」
 見知らぬ少年が、彼が助けを求めていることを知るはずはない。むしろ彼自身、自分が救いを欲しているのだということに気付いて――認めて――いないのだ。にも関わらず、少年は優しく囁き続けた。
「大丈夫。必ず助け出してみせるから。今度はぼくが助けるから」
 意味が分からない。僕は貴方なんて知らない。そう言おうとした瞬間、肩に廻された少年の両腕が、ふっと軽くなった。少年の腕も身体も、先程の場所から動いてはいないが、光が消えていくように、その姿は徐々に透明になっていた。
「あ……、待っ……」
「待ってて」
「え……?」
「待ってて。必ず行くから」
 少年の手が離れ、無邪気な顔が柔和な笑みを浮かべた。
「未来で待ってて」
 最後の言葉が微かに空気を振るわせ、風に溶けるように、光は見えなくなっていく。
「待って……!」
 思わず伸ばした手に、僅かに暖かさを感じた。



2009,11,25


実は結末が2つあります。
ランダムでどちらかを表示しています(してるはず!!/汗)。
ぶっちゃけどっちか1本を選べなかったから……。
あとランダム表示を1回やってみたかった。
けど色々と手打ちしないと駄目なタグとかあって正直ちょっと面倒臭かったです。
JavaScriptを外部ファイル化してみたことに、果たして意味があるんだかないんだか……。
ソースはちょっとすっきりしたけど、それだけのために外部化するのは間違ってないのかしら???
弊害があってそっちの方がでかかったりしないでしょうねぇ?
もうそっから微妙に分かってないです(苦笑)。
きっともうやらない。
ランダム表示って、画像とか一言とかならともかく、
小説でやるもんじゃあないですね……。
ブラウザによっては後半部分が表示できないかも知れません。
その場合、こちらで読んでください(別窓)。
完全にランダムの表示なのに運が悪くて片方しか表示されない方もこちらをどうぞ(笑)。
長さ的に1がメインで2はおまけですかね。
<利鳴>
2連続でおまけとされている2が出たのでこれでもう1つは一体どんな展開なんだとランダム待ちせずに両方載ってるページを早々に開いてしまった事をお詫びしたい…(笑)
凄い仕組みですよね。そしてお話も綺麗に分岐していて。
全く違うとかの意味ではなく、こう…両方共無いと物足りないという感じ。
手打ちタグとかサッパリです…ので、此のコメントが正しく表示されているかどうか大変不安です(汗)
願わくば利鳴ちゃんの素敵小説を崩していない事を…
<雪架>

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