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  或る執事の独白 おまけSS冒頭


 俺、千明忍は銀座の大きな玩具屋に来ていた。
 一体何年振りだろう。最後に連れられて来てからざっと10年は経っている。
 それでも感想としては「まさかこんなに早く来る事になるとは」だ。更に10年もすれば子供が居てプレゼントを選びに来ても可笑しくないが――余り結婚には興味無いけどな――社会人になりたてで子供どころか妻も居ない俺には早過ぎだ。
 そう、駆け出しとはいえ社会人。だから玩具屋に買い物に来るだなんてのも本来なら有り得ない。
 今日のデート相手が干支一回り以上も年下の幼い嬢ちゃんじゃなければ先ず来なかった。
 俺はロリコンじゃないし恋人同士ではない。しかしながら婚約者ではある。
 こんな幼い子供と結婚? 有り得ないだろ!
 などと無下にするわけにもいかず。何故なら彼女が見た目にも言動にも将来有望株だから――ではない。繰り返すが俺は断じてロリコンじゃない。
 俺達の家は祖父の代からの深い付き合いが有る。嬢ちゃんが生まれてすぐに「二十歳になったら千明忍に嫁がせる」と孫の誕生を誰よりも喜んだであろう嬢ちゃんの祖父が言ってのけた。
 二十年も有ればうやむやになって流れてくれるだろう。多分まぁ何とかなる。
 そう思っているのは俺だけなのか、親から親睦を深めるべく『デート』をしてこいと言われて今に至る。世間からは年の離れた親戚のお兄ちゃんが幼い女の子の子守りを押し付けられた程度にしか見えていないだろう。
 ドライブデートと称して車に乗せたが何を話して良いのやら。ただ親達と離れた不安に泣いたり、逆にはしゃぎ過ぎて煩く喋り喚いたりしないので俺としては意外に快適だった。
 外の景色を興味深げに眺める姿は可愛らしく、一応デートなのだから楽しませてやろうとドライブからショッピングに切り替える事にした。正しい選択だったのか、今は隣で年相応に目を輝かせている。
「ここで嬢ちゃんの好きなものを何でも買ってやるよ」
「良いの……?」
 キラキラとした瞳で俺を見上げてきた。
 その目は決して欲しい物が手に入る強欲な喜びに満ちてはいない。
 子供特有の穢れの無さ、疑ったり騙されたりする事を知らない無垢な澄んだ色が俺にはとても眩しいだけだ。


2021,04,14


サークル浅草堂様の新作ボイスドラマ『或る執事の独白 貴女の婚約者に奪われると知りながら、命令に逆らえない私は貴女を調教する。』の購入特典おまけSSのお手伝いをさせて頂きました。こちらはその冒頭です。
書き始める前にサンプルボイスを聞かせてもらいました。このイケボおじさまの若い頃!?と難しい要素の爆誕でした。
しかし好きなキャラなので締め切りを一月以上前倒して納品しました(笑)
本編(雪架は携わっておりません)はしっかり長めで重ためで成人女性向けの大作。続き及び本編音声作品に興味の有る方は是非どうぞ。
<雪架>

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