フーナラ 全年齢
握ったり繋いだり、焼いたりするもの。
「手を、繋ぎませんか!」
普段は物静かなタイプに分類されるフーゴにしては大声だった。
それも有って申し出を受ける側のナランチャは何の事やらとぽかんとしている。
「いいぜ」
ナランチャは「はい」と差し出されたフーゴの手を握った。
左手を左手で。
いやそれ握手じゃね?
「いやこれ握手ですよね?」
嗚呼、そのまま言ってしまった。しかし言葉を選ぼうにも何も出てこない。
尻を持っている夜間営業の飲食店――ようは後ろめたい所の有るナイトバー――の幾つかを開店前に見て回るというこの後の任務。それを手を繋いで歩いて行わないかという提案のつもりだった。そこまできちんと言わなくてはナランチャには伝わらないと分かっている、筈なのに。
仲は良い。とても。チーム内で1番親しいコンビはと聞かれれば5人中5人がフーゴとナランチャだと答えるだろう。
しかし仲が良く頻繁にコンビを組んでいるというだけで仲間は仲間。決して恋人ではない。
フーゴはそこへ踏み出したいと思っている。
だがナランチャはどうだ。実年齢より見た目も中身も子供っぽい彼の事、どうとも思っていないかもしれない。
それならば実力行使。あるいは既成事実。そう思って提案した『手を繋ぐ』を、握手という形で終わらせて良いのか。
勿論これはこれで有りだ。手の違いが分かる。ナランチャの手はフーゴのそれより小さく、そして温かい。
「フーゴって指細いな?」
「そう、でしょうか」
ぱっと手を離してナランチャは自身の左手の平とフーゴの行き場を失った手とを見比べた。
「フーゴはオレより年下だもんなあ」
「まあ一応……」
「迷子にならねーようにオレがしっかりしないとな!」
差し出したままのフーゴの左手をナランチャの右手がしっかりと握る。
手を繋いだままアジトの出口へ。
「ほらフーゴ、行くぞ!」
「は、はい」
引き摺られるようにアジトを出て行った。
適当に閉められたドアの向こう側から階段を下りる足音が聞こえる。
足の長さが違うからか不揃いで、手を繋いでそれではどちらかが階段を踏み外して、そのまま2人で転がり落ちてしまうのでは。
それでも、まぁ。
「手ぇ繋げて良かったじゃねーか、フーゴ」
ミスタにとって留守番という任務はソファーに寝そべり腹に読み掛けの雑誌を載せて昼寝をする物だったのに、フーゴの手を繋ごうの声で起こされてしまった。
自分がもう少し嫌な奴であれば握手の時点でからかいフーゴの目論見を完全失敗させてやったのだが、フーゴの事もフーゴを憎からず思っているのがよく分かるナランチャの事も嫌いではない。言ってしまえば大切な仲間。
「お兄さんが優しく見守ってやろうじゃあないか」
ソファーの上で寝そべったままうんうんと頷く。
少し前にチームに入ったばかりの新入りが生意気な、と思われるかもしれない。この姿勢で寝息を立てていた時点で思われているかもしれない。
2022,08,10
空ちゃんお誕生日おめでとう、という事でサイト開設記念2022年verです。
普段ミスジョルに苦労させられるフーゴを書く事が多いので、フーナラに苦労させられるミスタの話に。
いやでも…あんまり苦労はしてないな?ミスタだしなぁ。
<雪架>