フーナラ 全年齢 アヴポル要素有り


  Predizione


 かつてのボスの娘を護衛する際に得た亀――のスタンド――はとても有能で、旅行をする際にその中に荷物を入れてしまえば持ち歩く事も事前に宿に送っておく必要が無く、人も入っていけば交通費等が亀を連れる1人分で済むという事に気が付いたのは今のボスのジョルノ・ジョバァーナか、彼の部下で腹心で幹部のグイード・ミスタか。
 どちらにしろ賢いというか狡賢いというか金に煩いギャングらしいというか。IQが高いとか知識が豊富だとか言われても思い付かなかったパンナコッタ・フーゴは素直に感心した。
 だが何故その「亀を連れる役」を自分がしているのかわからない。
 来たいと思った事も行かなくてはならない用事も一切無い自分が、何故か飛行機では水槽の中に入れていた亀を片手に初めて訪れたエジプトの地を歩いている。
 ミスタもジョルノも彼らの荷物――ミスタの方はやたら多かった――もフ―ゴ自身の荷物も亀を入れていた水槽も全部入った亀。思えば生き物の入った水槽をよく飛行機に乗せる事が許されたものだ。
 事前に手を打っておいたのだろうか。そういった種類の仕事は自分に回ってくる事が多いのだが。それにしてもネアポリスも暑いがエジプトも暑い。乞食が集まるので尚暑い。
 この辺りでは先ず見ない華やかな髪の色をしているので異国人だとすぐわかるのだろう。そして盗める荷物も恵む金も持っていない、何故か亀1匹だけを持っているのを見ては立ち去っていった。
 不審者扱いされているじゃあないかッ! と言いながら亀を投げ捨てたい気持ちを抑えてミスタに言われた建物を目指してひたすらに歩く。
 タクシーでの移動も考えたが「今の所は反対に曲がる」といった進み方が出来ないので徒歩だ。どれだけぼったくられるかもわからない。
 指示されたのはとある大きな建物。縦に長いそれは商業ビルなのか集合住宅なのか見た目と名前には判断が付かない。どちらかというと後者の雰囲気は有った。
「ここですか?」
 両手で持ち直した亀を玄関に向けてずいと差し出す。
「おう、ここだここ!」
 亀の中からミスタの声がした。
 軽く聞いた話だがジョルノは当時未婚の母親がエジプトに行った際に出来た子供だという。生まれ育ったのは遠く離れた日本。海外旅行先のワンナイトラブの結果という生い立ちに対する不満は――家柄だけ見ればかなり良いとされる――フーゴにはわかりかねるが、父親の顔を見てみたいという気持ちなら理解は出来る。
 何故この時期に? という疑問は置いておくとして、何故ミスタの方が居住区等に詳しいのかという疑問は残る。拳銃使いの通り名そのままに拳銃に関しては何でもこなしているが人探しのような諜報活動はてんで不向きだ。
 亀を置くと先ずジョルノが、次いで両手にトランクを持ったミスタが出てきた。
「じゃあ稼いでくるか」
「稼ぐ?」
 彼の持つ重厚なトランクを見ながら尋ねる。
「拳銃の密輸です」ジョルノが亀を拾い上げ「税関通さず入れる方法、よく思い付いた物だ」
「だが俺1人じゃあ出来ない。お前が許可してくれて助かったぜ、ジョルノ」
 ばちりと片目を瞑った。
 違法な物を違法に売り付ける為にここまで来たという事か。何も知らない一般人がいつの間にか運び屋をやらされている、というのはこんな流れが有るのだろう。
「折角ここまで来たんだから高く売り付け、更なる販売ル―トの確保もして下さい」
「やってやるよ」
 そこまで求めるな、ではなく。いかにもミスタらしい返事だ。
 トランクには恐らく拳銃が一挺ずつ入っている。
「……1人で行くんですか? 危険は無い? 例えば買ってすぐ撃ってきたり」
 取引する物が殺人に特化した違法の拳銃となるといくら殺しても死ななさそうなミスタとはいえ心配になった。
「弾入ってない。もし向こうが弾だけ用意していて一瞬で装填して構えられたら、流石の俺でも自分以外の奴まで守れる気がしねーんだわ。だから1人で行く」
「もしも弾が無いなら買わないと言われたり――」
「言わせない」
 断言。
「今日は俺の奢りで美味いもん食わせてやるから、まあフーゴは良い感じの店とか選んどけって。エジプトって何が美味いんだろうな?」
「宗教の関係で豚肉とアルコールが無いと聞きます」
「ワイン飲めないとか地獄かよ……」
 探せば主流ではない宗教を信仰している店主の、アルコール飲料を提供する店も有るだろう。だがその店を探すのは自分なのでフーゴは黙っておく。
「よく飲まれているのは紅茶だそうです」
「お前紅茶好きみたいだし良かったじゃあねーか」
「飲み方が違うかもしれないので何とも。それより先刻も話しましたが」
「ジューススタンド」
「そう、あれが気になる」
 街角に幾つも見掛けたジューススタンド。色々な果物を絞って作られるそれらはとても美味しそうに見える。
 暑い中歩き続けたフーゴを余所に、亀の中で呑気にそんな話をしていたようだ。
「それはそっちの目的地までの道中にも有るだろうし、フーゴに強請って買ってもらえば良いな」
 何故自分が買う事になるのか。否、それよりも気になる言葉。『そっちの目的地』とは。この建物はあくまでミスタの目的地であり、ジョルノはジョルノで別途目的地が有るのか。
「じゃあ連絡用に」
 ミスタがジョルノに「はい」と何かを手渡した。
 ちらと覗き見るとジョルノの手の平にはミスタのスタンドが1匹――と呼ぶと怒られる。顔に5の文字が有る1人が――乗っている。
 スタンドは原則1人につき1つ。一応人間の体をしているタイプは1体。ミスタもその法則から外れたわけではないので6体持っているのではなく、6分の1を切り離しジョルノに貸し与えたに過ぎない。
 6体で1つならばそれぞれが見聞きした事象を共有出来るようになっているのだろう。多分。それを用いればマスターの指示を離れている側のスタンドやその周囲に伝える事も出来る筈だ。恐らく。
 つまりはスタンドを分離させて携帯電話のように使うつもりらしい。良いのか、それで。
「じゃあフーゴにジョルノ、しっかり見付けてやれよ」
「はい、行ってきます。ミスタも気を付けて」
 ジョルノと2人で完結するようなやり取りをしてミスタは建物の中へと入っていった。
 残されたのは自分と現ボスのジョルノの2人きり。
「ではフーゴ、引き続き移動をお願いします」
 僕は亀の中に居ますので、と言う前に。
「次はどこに行くんですか? 僕はジョルノの目的地を知りませんよ」
 ミスタの目的地だって今まさに知ったばかりだ。
「僕はエジプトに用事なんて有りません」手にしていた亀を置き「大切な仲間を守る為に同行しているだけです」
 言葉を引き継ぐように亀の甲羅からスタンドのように魂のヴィジョンが浮かび上がる。
 肉体を失い亀のスタンドを『間借り』する事で魂を現世に括り付けている、曰くそれなりに快適に過ごしているらしい存在、ジャン・ピエール・ポルナレフ。
 フーゴにとっては「組織に戻ったら亀の中に居た」だけで余り交流も無く存在をすっかり忘れていた。
「すまないフーゴ、暫し付き合ってもらいたい」
「……わかりました」
 年長者には逆らいにくい。
 まして隻眼で両足も動かなかった肉体を更に失ってしまった男だ。それなりの年月ギャングをしてきたが、良心が叶えてやれる望み位手伝っても良いだろうと言ってくる。
 フーゴの了承を聞いてジョルノは亀の中に入っていった。
 ……いや、持ち歩くのはジョルノでも良いんじゃあないか?
 年も背も大した差は無い。だが、大した差ではないが数ヶ月年上で数cm背が高いのはフーゴの方。
 解せない。
「で、どこに行くんですか?」
「そんなに離れてはいないのだが、住所がわかっているし運転手に知られても問題無いのでタクシーを拾おう」
「助かります」
 もう充分に歩き疲れている。

 地元のネアポリスと似ているとは言わないがエジプトにも昼間から賑わっている繁華街が有り、亀から出られないポルナレフが行きたがっている場所はその繁華街から少し歩いた路地裏だった。
 日は沈んでいないが密集した高い建物の影になっている為薄暗い。しかし裏側ではあるが建物達もまた店舗なので客や従業員の発する音で賑やかさを感じる。
 フーゴは手にしていた亀を自身の目の高さまで持ち上げ、亀の中から辺りを見えるようにした。
「ここですか?」
 ジョルノが亀の中で尋ねる。こちらが聞きたい。
「ああ、恐らくここだ」
 返答はポルナレフから有った。恐らくという事はポルナレフも来るのは初めてか、あるいは何年も昔に来たきりで変化が有ったのかもしれない。
 この辺りはあからさまな風俗店や見るからに妖しい雑貨屋、一言さんお断りとしっかり書かれた飲み屋等も有るが、1番多いのは意外な事に『占い店』だった。
「フーゴ、亀を置いて下さい」
 頼みの通りに地面に亀を置くとジョルノが出てくる。
「2階建ての占い店は見当たりませんね。先ず2階建ての建物が無さそうだ」
 ジョルノは亀を拾い上げ辺りをきょろきょろと見回した。
 どの建物も4〜5階建てなので確かに『2階建ての占い店』は無さそうだ。
「ジョルノ、1階と2階で占い店をしているビル、だったりはしませんか?」
「そういう意味かもしれない。どうなんでしょう」
 手にした亀を見下ろして尋ねる。
「そうだと思うのだが……すまない、私もその辺りは詳しくは聞いていないんだ」
 亀の中に有るテレビでよく当たる占い師が紹介され、占ってもらうべくここまで足を運んだ――運ばせた――のでは、と嫌な予感に襲われた時。
「もし」
 少し低めだがハッキリとした女性の声がした。
 声の主は1つ奥の建物の2階に居た。表の1階から建物に入らずとも、裏の階段を上れば建物に直接入れる造りをしており、その階段の先たる2階の出入り口のドアを開けて佇んでいる。
 暗い色のフードマントを羽織っており、そのフードで顔の半分以上を隠している。唯一見える紅の引かれた口元や黒くウェーブの掛かった長めの髪から彼女がこの国の人間でそう年のいっていない女性だという事がわかった。
「何かお探しのようね。私のよく当たる予言は如何?」
 占い師を探す為に占いをしていけと言うのか。それとも彼女自身がポルナレフが探している有名だったり人気だったりする占い師なのだろうか。
「不思議な亀をお持ちの若いお2人方」
 ここには2人――と亀1匹――しか居ないのにわざわざ声を掛けている対象を言ってきた。それも亀を不思議な、と形容している。
「探している場所は恐らくここよ」
「場所……?」
 フーゴは小さく呟く。2階建ての占い店を探しているという話を聞かれていたのならその店の主は――嘘でも本当でも――自分だと言って客を取るだろう。しかし彼女は確かに場所と表現した。
 本当に予言と呼ばれる非科学的な能力が有るのか、それとも。不気味さを感じて1歩踏み出しジョルノの前に庇うように立つ。
「でも可笑しいわね。もう少し大人の男性が来る筈なのだけど」
「それがお前の予言か」
 ジョルノを背に隠したままフーゴは尋ねた。自称予言者の女は口元を微笑ませたまま頷き肯定した。
「フーゴ」
 名を呼んだジョルノが万が一に備えて自身のスタンドを出す。
「あら」
 まぁ驚いたとわざとらしく女占い師は口元に手をやった。
 スタンドが見えている。先の通りの予言か、それともスタンド能力の持ち主なのか――
「貴方達揃ってスタンド使いなのね。勿論私もよ。スタンドが惹かれ合うと最初に言ったのは誰かしら。さあ可愛らしいスタンド使いのお2人方、私の店へおいでなさい」
 攻撃してこないと、そして絶対に来ると確信してか背を向ける。
「あの女に聞いてほしい」亀からポルナレフの声がして「そこはお前の店なのかと」
 わかりました、とフーゴは亀とジョルノに言った。
「1つ質問が有る!」
「何かしら」
 振り向き直してもフードが顔を隠していてよく見えない。
「その店は、お前の店なのか?」
「ええ、今は。お師様から継いだ店よ」
 占い師にも師弟制度が有るらしい。
「だ、そうですが」
 ジョルノとポルナレフに尋ねる。ポルナレフがならば行きたいと言ったとしてもジョルノが拒めばここで引き返す。逆にポルナレフがもう結構だと答えてもジョルノが行きたがれば行ってみる。
「……師匠の事を聞けるだろうか」
「聞く為に店に入りましょう」
 続きは店の中で。ジョルノの命(めい)に逆らえないフーゴは「わかった」と返事をして階段を上る事にした。

 カーテンで囲まれた狭い部屋にクロスの掛けられた小さな円形のテーブルが有り、その上に置かれた大きく丸い水晶を挟むように奥に女占い師が座る。
 如何にも「それっぽい」が、占いに縁が無かったのでこれが一般的な占い店なのかどうかフーゴにはわからない。
 椅子は1つしか無いのでジョルノを座らせ、自分は斜め後ろに立つ事にした。
「亀」女占い師は相変わらず凛とした声で「上(ここ)に乗せて」
「わかりました」
 ジョルノは素直に従い、1度膝の上に置いた亀をテーブルの上に乗せる。
「お師様から継いだ店と言ったけれど、私普段はここではない所に店を構えているの」
 今にも占いを始めそうな状況だが女占い師はのんびりと世間話を始めた。
「占い店が密集しているから、というのも有るけれど。でもそれ以上に占いの結果ここよりも向いている国が有ったの」
 自分の占いに相当自信が有るらしい。
「でもこの店を手放したわけじゃあないわ。普段は別の数人がこの店を切り盛りしている」
「その不動産収入で里帰りをしてきた、という事ですか?」
「取ってないわよ。そんな事をしなくても私にはきちんとお客様が付いているから。私のように自分を占える人間はね、客が金を払うか否かを先に占っておくの。踏み倒そうとするような輩は最初から受け付けない」
「僕達は貴女に呼ばれて店に入りましたが、金払いが良さそうに見えたんですか?」
 こんな学生程度にしか見えない若い男2人が。しかも荷物は手にした亀1匹。
「私の予言はよく当たるのよ、それはもうお師様の次に。お師様の良き友が来る――その予言に従って私は帰ってきて、普段働いている子達に休んでもらって、そして貴方達をここに入れた。でも……私の予言はよく当たるのだけど、可笑しいわね。貴方達はどう見てもお師様のお友達じゃないわ」
 初めて女占い師は微笑み以外の表情を口元に浮かべる。
「お師様が良き友と言うのだからお師様と年近い筈。もしも離れているとしても『上に』だわ。貴方達のような若いお友達が居る筈が無い」
 年下の友人が居ないという事はもしや。
「違ったらすみません」フーゴは若干躊躇いながら「貴女の師匠は亡くなっているんですか?」
「そうよ、もう10年以上も過去の話」
 既に悲しむ時間は過ぎたと女占い師は再びあの意味有りげな微笑みを見せた。
「友ととある国に行くと、その後長く深い旅に出ると言い遺して、私にこの店を託してそのまま逝ってしまったお師様。でもいつも私に言うの。「良き友を助けられて良かった」と」
 誰かの為に死んでいった。それを亡き師匠は決して後悔していない。その誰かさえ居なければ等と思う事は無く、その誰かが幸福であれば良いと笑っている。
 自分が大切に想いを寄せていた彼もそんな風に思いながら天国に居るのだろうか。
「……友達だと言っていたのか」
 低い声は亀の中から。女占い師は一瞬驚いたものの、すぐに状況を理解し「あらあら」と妙に婆臭く言った。
「そう、スタンドでもスタンド使いでもなく、中に人を入れていたのね」
「この亀もスタンド使いだ」ポルナレフが姿――実体ではないが――を見せ「私自身もかつてはそうだった」
「今は違うのかしら?」
「色々と有ってスタンドを手放した。スタンドの死はマスターの死、私の肉体は死んだ。この亀のスタンド能力で精神だけ何とか生き永らえさせてもらっている」
「大丈夫よ、貴方は未だ未だ未来を見るわ」
「それも予言かな」
「ええそう、私の予言はよく当たる。貴方の訪れを予言したお師様の次に」
 フーゴから見えるポルナレフのヴィジョンは後ろ姿。だが彼が女占い師の言葉を噛み締めるように目を閉じたのがわかった。
「ポルナレフ」ジョルノが静かな声で「友達に会いに来たんですか?」
「ああ……いや、彼が死んだ事は知っている」
 その場に居合わせたから、と続きそうな声音。
「彼が生前最も長く居た場所を見たかった。墓参りも良いが、それよりももっと……彼の見聞きしていた世界を私も感じたいと思ってしまったのだ」
 叶わない夢を抱いていた。しかし偶然ミスタがその友人の故郷たるエジプトで商談――控えめな表現――が有ると話し、現実に出来るかもしれないと思った。そして叶った。店内は生前と違うかもしれないが、それでも友人が嗅いでいた空気を吸っている。
「貴方、お師様が自分の事を友達だといったのか、と聞いたわね。どう想っているか占いましょうか?」
 死者の考えていた事を占いという形で見る事が出来るのだろうか。これだけ予言を的中させ続ける占い師なのだから出来るのかもしれない。
 しかしポルナレフは「結構だ」と短く答えた。
 友達でしかないと思われていては悲しいし、逆に恋心を抱かれていたとしても死別しているのだからどうにもならない。話だけでは『友人』の性別がわからないので案外恋愛感情は困るのかもしれないし、そもそも秘めていた感情を今更に暴くのは死者への冒涜と捉えているのかもしれない。
 自分なら聞いてみるのに。
 そう思ったフーゴに女占い師が微笑みかけてくる。
「ああそうだ、1つだけ言わせて頂戴。お師様はとても喜んでいるわ。私に出迎えさせる程に貴方が来る事を楽しみにしていたのよ。お師様は私の師匠、誰よりも予言を的中させる人。また1つ言い当てた」
 死後の世界でも行列の出来る占い店を営業しているかもしれない。そう思ったからか別の意図が有るのか、ポルナレフは心底満足したように「そうか」とだけ呟いた。
「私がお師様に頼まれたのはここまで。こっちも商売だからこれから先の占いはお金を頂くけれど、何か占いたい事は有る? それとも何も占わずに帰ろうと思っていたり?」
「僕達は反社会的勢力に属しているけれど占い師という職業を侮辱するつもりは有りません。2人共、何か占ってもらいたい事は有りませんか? 有るのならきちんと金を支払います」
 ジョルノがポルナレフだけではなくフーゴにも尋ねた。この場で最年少ではあるが最も位が高いのはジョルノなのだから好きに占えば良い。席を外せと言われれば亀を連れて出てゆく。
「私は特に無い」
「そうなんですか? 勤め先だけではなく生家を訪ねたりは?」
「家も墓も知っている」
 何気無い言葉だが、もしかすると実家に訃報を届けたり眠る場を用意したのもポルナレフ自身なのではと思わせた。
 フーゴが特別な想いを寄せていた友人の墓地を用意してくれたジョルノのように。
「お師様のご自宅やお墓なら占うのではなく私が知っている事を伝えるだけになってしまうわ。私の知らない人のご自宅なら占いになるけれど」
 金銭を得るにはきちんと占いたいという誇りが有るようだ。しかし知らない者の生家となると。
「ねえ貴方、知りたいんじゃあなくて? 尤も、近くに知っている方が居るようだけど。場所じゃあなくてそこへ至るまでの道程を占う事も出来るわ」
 この言葉はフーゴに向いていた。占い師だけでなくジョルノもこちらを見ている。
 嗚呼知りたいとも。墓地は知っているが生家は知らない。もしかすると墓地を用意したジョルノも知らないかもしれない。見事予言で言い当ててもらえばそこに行けるのだが。
「……家を嫌がって出た人間の、その家を占ってもらうのは、ルール違反じゃあないんですか?」
 震える声で尋ねる。
「占いのルールやマナーの違反にはならないわ。『その子』も嫌がらないようだし」
 呼び方が年下に対する物に変わった。
「家を嫌いなのは事実でも、そこに居る誰かを今も嫌いでも、その子が生まれ育った事に違いは無い。見てみたいと思わない? 大好きなお母さんがその子を産んで育ててくれたお家よ」
 嗚呼まるで誘導尋問だ。あとどれだけ頷かずにいられるだろう。
「ジョルノは、何か無いんですか? 誰かの居場所を占ってもらいたいとか、そういった事は」
 予言の当たる人間の前で的外れな質問をしてしまったらしく、女占い師がフードの下でくすくすと笑う。
「無いです。エジプトとは縁が無いので」
「縁は有るんじゃあなくて? 嗚呼でも誰かに義理立てしているわけじゃあない……単に興味が無いだけかしら」
「すべてお見通しのようなので言いますが、そうです。僕は自分とエジプトとの縁に興味が有りません。ああ、今このエジプトで部下がちょっとした取引をしているので、それがどうなるかを占ってもらうのは良いかもしれません。そっちの方がずっと関心が有る」
 過去に固執しないのは良い事だ。自分もいつまでも抱えていないで、そろそろ前に進まねばならない時なのかもしれない。大して体格の変わらない、寧ろ自分よりも少しばかり小さいかもしれないジョルノの背が大きなものに見えた。
「それとフーゴが占ってもらう気が無いのなら、僕が占ってもらおうと思うのですが」
「貴方は既に知っているのに?」
 生家がどこに有るのか。
 誰の生まれ育った家を指しているのかは全く言わないのに話はどんどん進んでしまう。
「場所ではなくいつ向かえば良いかを占ってもらいたい。1番安全で確実で迅速に行ける方法を。その道程で何か起きるのか、もし起きたらどう対処すれば良いか。貴女の予言ならその位は容易そうだ」
 とても大きなジョルノは抱えたまま前に進めば良いと提案してくれているのかもしれない。
「あの」
 意を決して口を開く。
「僕も1つ、占ってもらいたい事が。その、僕が行きたい所ではなく」それはジョルノが占ってもらうので、今は彼の為に「この界隈で豪華な夕食に最適な、それでいてワインなんかも提供してくれる飲食店を」


2020,04,19


受けの為に死ぬ攻めが好きだから推しカプが死に別れる率がとても高い。アヴドゥルさん2回も庇ってるのよ。
フーナラは受けの死に攻めが関与「出来なかった」からこれはこれで大変に好き。
<雪架>

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