ミスジョル 全年齢


  Rosolato


「お帰りなさい」
 執務室に入ると一瞥すらくれずにジョルノがしれと言った。
 窓を締め切っているのは開けても熱風しか入らないから、ではなく。
「部屋ん中涼しいな……エアコン、文明の利器だぜ」
「ええ、仕事が捗ります」
 決して涼しい室内で遊んでいたわけではないアピール。
 実際未だ顔を上げず向かったままのデスクの上には読むのも面倒臭そうで自分の頭には入ってこないであろう書類がずらりと並んでいた。
 確認してサインをするだけなら未だ楽だが──自分なら読まずに名前書くだろうとも思うが──「指示をくれ」という場合も有る。
 ジョルノ自身はボスなので直接行動する事は無くても、こうしろと部下に指示を出さなくてはならない。つまり考えなくてはならない。
 頭を使う仕事は糖分を欲するだろうから、息抜きも兼ねて。
「後でジェラートでも食いに行こうぜ。お前の気に入ってるあの店に」
「チョコレートとピスタチオで」
「俺はカシスとシトラスにでもするかな」
「どうぞ、僕が出しますので大きなサイズを買ってきて下さい」
「……行く気無い?」
「僕は仕事が終わっていませんから、ミスタが買ってきてくれると助かります」
 ギャングが仕事に真面目って可笑しくないか!?
 尤も、午後も暑い予報なのでこの涼しく快適な部屋から連れ出すのは得策ではないのかもしれない。
「買ってくると言えば──」
「ほら」
 ジョルノの目の前に、睨み合う書類との間に紙に包まれたそれを差し出した。
「お前の分のパニーニはハムとチーズ」
「有難うございます」
 漸く顔が上がる。
「昼飯にしようぜ」
 当然ミスタ自身の分も買ってきてある。今日のランチはボスの執務室で近場の人気店のパニーニのテイクアウトだ。
 ジョルノの目が一瞬デスク上の書類に向く。食べながら仕事が出来るか考えたのだろう。
「汚したら困るから止めておけ」
「そうですね」
 本当は食事と仕事はしっかり切り分けるべきだと思っているのだが、そう言ってしまうと「自分は違う」「今日中に片付けて夕食を満喫したい」と反論されかねない。
「コーヒーでも淹れましょうか?」
 ボスの執務室に相応しい柔らかなソファーに腰掛けた所で提案されるが。
「いや、熱い物は飲めねー。暑過ぎる」
 左手に紙に包まれたパニーニを持ち、右手で顔の前をパタパタと扇いだ。
「お前はずっとここに居るから分からないかもしれねーが、外は滅茶苦茶暑いぜ。こんがり焼けちまいそうだ」
「こんがり……」
 ジョルノは折角包みを開いたパニーニに口を付けず、じっとこちらの顔を見ている。
「どうした?」
「ミスタ、結構肌の色が黒く健康的ですが、それは日焼け? それとも地黒?」
 初めて訊かれた。
 肌の色など意識した事が無かった。確かにジョルノと見比べれば黒く見えるが。
 お前が白いだけじゃあねーか?
 と言っては失礼だろう。イタリア男に不健康さを指摘する程礼儀知らずではない。
「日焼けかどうか見てみるー?」
 服の裾をちらりと捲り上げ腹を見せるも。
「結構です」
「もうちょっと興味を持て。まあ暑いから」パニーニを置いて立ち上がり「脱いじまうけどな」
 宣言通りトップスを脱ぎ捨てる。
 涼しい。服1枚だけでもこんなに違う。そのままエアコンの真下まで歩いた。
 エアコンはミスタの体温を、1ヶ所だけ急上昇した温度を感知して風向きを変えて強い冷風を直接掛けてくる。
「うおー涼しいぃー!」
 冷風を遮られたジョルノにその声が暑苦しいと怒られるかと思ったが何も言ってこない。
 可笑しいなと思って振り向くと、ジョルノは未だこちらをずっと見ているので目が合った。
「広いですね、背中」
「背中ァ?」
「服の下は傷口を塞ぐ時に間近で見てきましたが、こうして後ろから何も着ていない背中全体を見るのは初めてなので」
 物珍しくジロジロ見ているのではなく熱視線を送っていたのか。
 それなら気分は悪くない。
「抱き付いても良いんだぜ?」
「結構です」
 だからもうちょっと興味をだな……
「くっ付いたらよく見えなくなってしまう、その肌の色」
 背中の色は生まれ付きの色。自らの目で見られる顔や手よりも自分自身の色。
「それにやっぱり広い。ミスタ今18でしたっけ? 僕も後2〜3年でその位の背中になれるでしょうか」
「どうだろうな」
 自分がその年の頃には、と話すのは止めておこう。成長には個人差が有る。
 それにジョルノは年齢通りの成長途中といった体格なので望みは有る。反面片親が日本という小柄な国の人間だと言っていたので余り期待をしない方が良い気もする。適当な事は言えない。
「……あれ? 日本人ってアジアンだよな?」
「急に何ですか。そうですよ」
「お前日本人なんだよな?」
「はい。4つ位まで日本に住んでいました」
「縁起でもない話は止めろ!」
 ジョルノの目付きが理不尽だと云いたげなそれに変わった。
 その色素の薄い目はイタリア寄り。堀の深い顔立ちもそうだ。誰の目も引く金髪は置いておいて。肌の色位にしか日本人要素が無いと思ったが、よくよく見れば肌の色にも日本人らしさは無い。
「お前本当に肌白いな……」
「そうですか?」
「日に焼けると真っ赤になるタイプ?」
「そうですね。暑さも汗をかくのも好きじゃあないので、基本的に日焼けしないようにはしていますが」
「お日様って名前なのにお日様嫌いなのかよ」
「別にお日様が嫌いなわけじゃあ有りません。嫌いなのは日光浴です」
「吸血鬼みたいだな」
 ギャングだから闇夜に行動する事も多い。我ながら言いえて妙だ。
「でも日焼け止めを塗ったり布を巻くわけじゃあないので僕も日焼けはしています」
 それで日焼けをしているのだとしたら、焼けていない例えば背中なんかは一体どんな色をしているのやら。
 ジョルノはパニーニをデスクの端に置いて立ち上がった。
 いい加減エアコンの風を浴びたくなったのか無言でこちらまで歩いてくる。そして目の前に立つ。
「日焼けの差、見ますか?」
 しれとそう言って首元を、既に開かれている胸元を大きく開き肌を露にしてきた。
「え、あっ……えッ?」
 ただでさえ日頃から目のやり場に困る服装をしているのに、見える部分ですら白く艶かしい肌の色なのに。
「ああ、そういう反応を期待していたんですね」
 服を戻して横を向き、ジョルノは目を閉じてエアコンの風を浴びる。
 悔しい事に、その口元にほんの少し得意気な笑みが乗っているように見えた。


2021,09,25


体格差は他のカプに任せるとして、ミスジョルには良い感じの肌の色の差が有る!
アニメ(グッズ)だとジョルノが白いだけじゃなくミスタがやたらと黒いというか…
と利鳴ちゃんに萌え語り?していた所「日焼けかどうか脱がせて確かめれば良い」と言われました。天才か。
<雪架>

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