ミスジョル 全年齢


  アルベールの詩によせて


 車の揺れが心地良くジョルノ・ジョバァーナは舟をこぎ始めていた。
 目を瞑ればそのまま眠ってしまう。だけど目蓋は酷く重たい。
 未だ昼食の時間でもないのに。嗚呼だが自分は夜に生きるギャングのボスだ。この時間に寝ている方が正しいのでは。
「眠たそうだな」
 運転席から声が掛かる。
 今のでやや覚醒した。前を向いて運転しろと言おうと左側を見たが、グイード・ミスタの顔はきちんと前を向いていた。
「疲れているんです」
 昼は一介の学生を装いながら夜にはネアポリスで最も大きなギャング組織の新たなボス。
 する事は山程有るのに、今日は昼間からギャングとして活動している。
「そうだろうな」
 ちらと目がこちらを見てすぐにまた前を向いた。
「……昨日は夜になっても暑くて余り眠れなかったし、一昨日は会合が有ったし」
 気温は勿論会合もミスタはボディガードとしてついてきてくれたので同じ条件下に居るが。
「寝てて良いぜ」
 自分も疲れていると主張してこない。
 優しい言葉を受け、カーステレオも流していないので眠気は益々強くなる。
「助手席で寝られるのは嫌いじゃあないんですか」
「悪戯も出来ねーのに寝られるのは好きじゃあないが、まあお前なら許す」
「それは有難いけれどこんな眩しい中じゃあ眠れないし、寝付けたとしても悪夢を見そうだ」
「うなされたら起こしてやるぜ」
 右手が伸びてくる。だがジョルノに触れる事無く、助手席の日除けを下ろしてくれるだけだった。
「そもそもそんなお疲れさんなのに何で会合付いてくるんだ?」
「今から帰れと言われても困ります」
「言わねーよ。でも今日の会合は俺が顔出すだけで良い、実質昼飯食うだけだぜ?」
「だから行くんです」
 先方は拳銃使いに用が有るだけでボスの顔も知らない筈。恐らく招いたミスタが舎弟を連れてきた程度に思ってくれる。
 ボスとして気を張らずに、しかしミスタと共に昼食をとる日が偶には有っても良いだろう。ジョルノにとってそれは自分への褒美のような物だ。
 それだけ一緒に居たい。
「昼食にジェラートも付いていたりしないでしょうか」
「出たら最高だよな。そんなに暑い?」
「暑いです。日光が遮られたので死ぬ心配は有りませんが」
 日光も疲れて免疫力が落ちている時に浴びると稀に湿疹が出るというだけで灰になるわけではないが。
 ならないが、それでも極力避けたい。余り好きではない。
「俺も死なねーけど汗はかいちまうから冷房強めるか」
 死なれたくない。ミスタだけは死なせない。強くなった冷風を首の辺りに浴びながら切実に思った。
 自分達2人には仲間を死なせてしまった過去が有る。それは決して変えられない。どんなに悔いても彼らは生き返らない。
 しかしミスタが居れば、辛くても乗り越えられる。ミスタを守り抜くという決意がジョルノを強くさせる。
「貴方は僕の部下だ」
「そうだけど、急にどうした?」
「僕の方が後からギャング組織に入ったのに」
 それが今やその組織の頂点。
「あの日お前が入ってきて俺の後輩になってそれから一緒に駆け巡って、俺も今や幹部だからな。いやあツイてるぜ」
 常にこういった調子だから周りには「ミスタがジョルノを頼っている」とよく誤解された。
 全く以てそんな事は無いとは言わないが、実際により強い信頼を向けているのはこちらの方だ。
 ミスタは他の幹部や部下達にジョルノの近くに居るとツキが回ってくる等と軽口を叩いているが、ジョルノは逆だと思っている。
 僕がミスタを頼り、ミスタを自分の力にしてきた……
 胸の前で軽く右手を握り締める。目を閉じその右手を左手で軽く包んだ。
「ミスタ」
「ん?」
「受け取って下さい」
 一体何の事かとこちらに向けた顔の前に、ジョルノは右手を差し出す。
 手の中には1輪の花。
「……有難う?」
 急な流れに目を丸くしながら、それでも受け取った。
 ミスタは小さく可愛らしい花を眺めていたが、運転中にこれは宜しくないと気付き下ろしていない日除けに挟む。
「貴方は前向きで揺るがなくて、僕にとってはかけがえの無い存在です」
「俺にとってのお前もそうだな」
 大した事ではないといった自然な調子で返ってくる言葉。
 くすぐったい位に嬉しい。2人の間に有る絆が確かな物で良かった。
「僕が近くに居る事で貴方に幸運が訪れるなら、ずっと側に居ます」
「おお、そうしてくれ」
「だから今日も一緒に行くんです」
「そういう事か」
「逃がしません」
 いつでもいつも、すぐ隣に居る。
 他者からはそれこそジョルノが常にミスタを従えて見えるかもしれない。
 ミスタの隣が僕の『いつもの場所』だ。
 この気持ちは、きっといつまでも変わらない。
「永遠に」


2020,07,10


好きなバンドの好きな曲をあみだくじで選んで1本書こうって事でサマンガンジン。
どの組み合わせでも出来そうな歌詞だけど、一人称僕・二人称貴方なのでついこの2人に。
逃がさないとか深まる絆とか、片想いで言ってたらヤンデレだから両想いの筈。
<雪架>

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