フーナラ 全年齢


  I'llGetThereWithYourHand


「ド・メーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ1966」
 ブローノ・ブチャラティはおおよそ食前酒には向いていない銘柄を口にした。
「申し訳ございませんが16歳未満のお客様には提供出来ません。何か別途お飲み物をご注文されますか?」
「そうだな、彼にはブラッドオレンジのジュースを」
「畏まりました。すぐにお持ち致します」
 ウェイターが会釈して立ち去った後にジョルノ・ジョバァーナの方を向く。
「ブラッドオレンジで良かっただろうか?」
「構いませんけど……高いんじゃあないですか?」
「だから良いんだ。今日は打ち上げだ。小規模とは言え麻薬密売のルートを1つ潰せた。ジョルノ、お前の――いや、お前達皆のお陰だ。有難う」
 乾杯の為に取っておくべきであろう音頭を言い放ち、ブチャラティは喜びを噛み締めるように目を伏せた。
 チーム6人が一丸となって――と言うとやや語弊が有るが――1つの任務を達成した。依頼主からの報酬のみでは大した贅沢は出来ないが、標的がたんまりと蓄えていた物を根こそぎ頂戴した。
 泡銭は景気良く使うべきだ。元を辿れば麻薬を通して手に入った金を、こそこそと貯めて頼りにするのは良くない。
 それだけではなく、今まで1つの大きなテーブルを囲むこの6人全員で動く事がほぼ無かったので単純に嬉しいのも有るだろう。パンナコッタ・フーゴも嬉しいな、と思った。
 早く乾杯をして喜びを分かち合いたいと。目の前のワイングラスに注いでもらい皆で飲みたいと。
「だがお前達、飲み過ぎるなよ」
「お前もだろう、ブチャラティ。まあ酔い潰れたら部屋まで運んでやる」
 自分は大丈夫だからと付け足すレオーネ・アバッキオは体格が良い。6人の中で1番背が高く、体重も身長に準じた重さが有る。
「横抱きにかかえてな」
「有難いが最近部屋の片付けを怠っているから、とても人を上げられない」
「じゃあ俺の部屋に運ぶか」
「正直その方が助かるな」
 成人男性は基本的には自分の体重と同じだけの重さが持てる作りをしているので、アバッキオがブチャラティを運ぶのは容易そうだ。アルコールの分解もまた体重が多ければ多い程早い。現にこの中ではアバッキオが1番酒に強い。可笑しな飲み方さえしなければ。
 次いで強いのはグイード・ミスタだろうか。彼は頬杖を付いて隣の席のジョルノの顔を見ていた。
「あとちっとでオメーも酒飲めるのにな」
「今は我慢しておきます。それにきっと、この前貴方が作ってくれたやつの方が美味しい。ゴディバ?」
「あれ牛乳にチョコレートリキュール入れただけだぜ」
「美味しかったです、幾らでも飲める」
「幾らでも作ってやるよ。お前の為に買ってきたから」
 15歳に何を飲ませているんだ、と指摘するのは野暮か。
 フーゴ自身も16を迎えてから半年も経っていない。その前から酒を嗜んでいたか否かの話を出されるとそれなりに困る。
「お待たせ致しました、1966年ド・メーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティでございます」
 誰の会話を遮らないタイミングで現れたソムリエが、時計回りにそれぞれのグラスへ赤ワインを注いだ。
 5人分注ぎ終えた後、隣に控えていた先程のウェイターが既に液体の入っているグラスを1つ置く。
 ワインよりもずっと鮮やかな赤い色をした、ブラッドオレンジ100%のジュース。
 この店ならば濃縮還元ではなく絞りたてのストレートだろう。
「アンティパストは今お持ちします」
 若者6人には不釣り合いですらある丁寧な挨拶を残し2人の従業員はテーブルから離れた。
 本来ならば歓談が再開するのだが、しかしテーブルを囲むのは重たい空気。
 誰が口火を切るのやら。笑ってからかって本来あるべき形に戻せば結果は問題無い筈なのだが。
「何で……」
 フーゴの隣に座るナランチャ・ギルガの声は震えている。平時はのんびりした雰囲気を纏うブチャラティも、調子良い言動が得意なミスタも何も言わずに、言えずに見守っている。
 たっぷりと間を開けてナランチャは続く言葉を吐いた。
「……何でオレの所に置くんだよ!」
 バンと激しくテーブルを叩き立ち上がる。
 ナランチャの前に置かれたグラスの中身のジュースが揺れた。
 17歳は未成年ではあるが酒の飲める年。3つは鯖を読んでいそうな容姿のナランチャだが酒は法的にも個人的にも飲める。
 子供に間違われる事は正直傍目に見ているとよく有る事だし、彼の口にはワインよりもブラッドオレンジの爽やかなジュースの方が合いそうなのだが。
「オレだって、皆と一緒に飲みてーのにッ!」
 今日は余程虫の居所が悪かったのか、ナランチャは店内に響き渡る大声をで怒鳴り付けてそのまま駆け出し店の外へと出て行ってしまった。
「……子供が1人居ると厄介だな」
 アバッキオがあからさまにジョルノに向けた刺々しい独り言を呟く。
「大人ならジュースとワインを交換してやれば良いのに」
 ジョルノの方も負けじと嫌味ったらしい独り言を溜め息と共に吐いた。
「何だってェ?」
「アバッキオ、デカい声を出すな。ただでさえ人の目がここに向いている」
 逆らえないので舌打ちを1つ。
「このワインって僕でも飲める味ですか?」
「何とも言えねーなぁ。こんな高いやつは飲んだ事ねーけど、ピノ・ノワール種って結構渋味有るからなぁ」
 ミスタは顎に指を当てて上手い言葉を探す。
「折角だから飲んでみたら良い。口に合わなかったら俺が引き受ける」
「何でわざわざお前が飲むんだよ! ミスタにでも飲ませておけば良いじゃあねーか!」
「だからデカい声を出すな。お前もミスタも偶に過信して飲み過ぎるだろう」
「アバッキオは兎も角、俺はそんな事無ぇよなぁ?」
「結構有りますよね」
 よくわからない盛り上がり方をしている、現状を認識していないのかする気が無いのかしていながらこれなのかの4人の内、ブチャラティが蚊帳の外のフーゴの顔を見た。
 そして心底不思議そうに眉を寄せる。
「どうしたフーゴ、行かないのか?」
「え?」
「何故ナランチャを追い掛けないんだ?」
 語尾が上がっているので辛うじて疑問系だとわかる言葉。確かにフーゴには追い掛けない理由は無いが、追い掛ける理由は沢山有った。
 例えば4人にとって、寧ろ6人全員から見て、フーゴはナランチャの『保護者』の位置に居る事。
 様々な意味で教育係ではあるが、1つ下の未成年である自分が保護者というのは可笑しい気がする。
 しかしブチャラティの目もいつの間にかこちらを向いている他の3人の目も、一様に「捨て猫を拾ったのなら最後まで世話をしろ」とでも言いたげなそれだ。
「……連れて帰ってはきませんよ。そのまま部屋まで送ります」
 折角の料理が2人分無駄になってしまうのか。それとも4人で6人分の料理を食べきってしまうのか。
 立ち上がり席を離れたフーゴだが、未だ舐めてもいない最高級ワインには少しの未練が有った。

 予想通りにナランチャは事務所――アジト――の入っているビルの中の階段に居た。こうしているのではないか、と思った通りに事務所の入り口には背を向け、膝を抱えて座っている。
 他に行く所が無い。実家は以ての外だが1人きりになってしまう自宅にだって帰りたくない。自分の、自分達の居場所はこのギャングチーム。
 気配に気付いたナランチャは顔を上げ、しかしすぐに横を向いた。
「ナランチャ」
 声を掛けても反応は無い。一体誰だ、こんな七面倒臭い猫を拾ってきたのは。
 フーゴはナランチャの右隣に腰を下ろした。顔を左に向けているので敢えて右に。尻が汚れようと知った事か。
「何故そんなに不貞腐れているんですか」
 子供に見られた事に腹を立てているのならもっと大人らしく、せめて年相応に振る舞えるようになれと言うつもりだったのだか。
「……オレだけ仲間外れ、嫌だった」
「仲間外れ? オレンジジュースが?」
「皆と違う……折角、皆で頑張ったのに……」
 ブチャラティのみならずナランチャも彼なりに思い入れが有ったようだ。
 だからと言って和を乱すように外に飛び出すのは如何なものか。しかしフーゴにだって今回の仕事の成功を正しく祝いたい気持ちは充分に有る。ここは叱咤するべきか激励するべきか。
「……君は、ジョルノを未だ仲間だと思っていないんですか?」
「は? 何でだよ。仲間に決まってるだろ」
「あのジュースは本来ジョルノの物だ」
 1人だけワインでの乾杯が出来ない彼は『仲間外れ』なのか。違う飲み物であっても、あの場で乾杯をする事こそ仲間になる。
「何だよ、オレが悪いみたいな言い方……しやがって……その……」
 どんどんと小声になってゆくのは「自分が悪い」と自覚したからだろう。
「……ジョルノは、仲間外れじゃない」
「君も」
 その一言に漸く一向に背けたままの顔が頷き、そして抱えた膝に埋もれた。
「でも今から戻れねーよなァ……腹減った。フーゴ、ごめん」
「僕は構いませんよ」
 確かに腹は減ったけれど、君の機嫌が少しでも治る方が大事だから。
「折角ブチャラティ高そうなワインの名前言ってたのに」
「高そうというか高いですね。1966年の物が特別良いとは言いませんが、先ずロマネ・コンティ自体が高い」
「フーゴ、ワイン詳しいの?」
 顔が膝から離れてこちらを向く。
「余り詳しくありませんよ。ただ丁度、先日気になっていたワインを買いました」
「どんなやつ?」
「ボルドーではなくロゼワインですが。その……親が飲んでいたのが、気になって」
 今更両親と、実家と和解しよう等とは全く思っていない。
 それでもふと浮かんだ遠い記憶のワインボトルのラベルが忘れられないのは、1度位飲んでみろという神からの啓示か何かなのだろう。
 酒場の多い一帯の専門店に入ってみれはすぐに見付かる位に有名で、贈り物としてラッピングは必要かと問われる位には高価だった。
「へぇー……フーゴから親の話を聞くなんて滅多に無いから、なんか新鮮だなぁ」
 親が好きではないから、というよりも親に恵まれなかったナランチャの前では避けているからなのだが。
「折角だから飲んでみませんか? 今日これから、別会場で僕達も打ち上げを」
「しようぜ! それすっげー面白そうッ!」
 すぐ隣でがばと勢い良く立ち上がる。
「デリバリーの中華頼んでさ、子供だからってワイン出してくれねー店より、フーゴん家(ち)のが絶対楽しい! 行こうぜ!」
 言うや否や階段を駆け降りてゆく。あっと言う間に、但し「早く」「行くぞ」の連呼は響かせて。
 こうも振り回されて色々な意味で疲れるが、店に残って仲睦まじい4人を羨ましく見ながら食事するよりもきっと楽しい。フーゴも膝に手を当て立ち上がった。

 モエ・エ・シャンドン・ドン・ペリニヨン・ロゼ1989。厳密にはロゼワインではなく、それをベースとしたシャンパン。
 ワインコルクを抜きながらフーゴは親がどの場面でこれを飲んでいたかを話した。
 これといって深い話ではないしナランチャにとっては退屈だろう。それでも相槌を打ちながら聞いてはくれる。
「じゃあフーゴは家に帰りたいとか思う事が有んのかぁ」
 そのまとめは違うと言い掛けたが。
「……そうかもしれません」
 案外真相心理では家族の様子が知りたいとか、元気にしていると顔を見せてやりたいとか、思っているのかもしれない。
「ふぅん」
 帰る家が無いも同然のナランチャには退屈を通り越して不愉快かもしれない。素っ気無い声音に、この話はここまでだと思った。
 会話が途切れると静寂が訪れてしまうのでテレビでもつけようか、と言おうとしたタイミングで、ポォンという電子音が響く。
「デリバリーが届いたみたいですね」
 財布を手にフーゴは椅子から立ち上がり玄関へと向かった。
 会計を済ませて両手で白い箱を2つ受け取ると、中に入っている中華料理のスパイシーな良い香りが鼻に飛び込んできた。空に近い胃袋を一層刺激する。
 ドン・ペリニヨンとは確実に合わないであろうデリバリーだが、ナランチャが望んだのだから仕方無い。
 ナランチャの喜ぶ顔が1番だ。
 つまらない事で拗ねた、寂しげな顔はいつまでも見ていたい物ではない。明るく楽しく少し喧しい位に笑っている方が似合う。それを見る度にフーゴも笑顔になった。
 中華デリバリーにも笑顔を見せるだろうと期待し部屋に戻ると。
「……な……」
 椅子に座ったまま、ワインボトルに直接口を付けて上を向き、一気に飲み干さんばかりのナランチャの姿。
 何をしているんだ?
「アホかお前はァッ!」
 言おうと思った事よりも罵倒が先に口を衝く。
 ワインボトルを咥えたままちらとこちらに目線を向けたナランチャは、しかし口を放さずにゴクゴクとテレビコマーシャルばりの音を立てて飲み続けた。
 冷静にならなくては。そう思いフーゴはデリバリーの箱を2つ共テーブルに置く。
 それから。
「知性を手放してるんじゃあないッ!」
 しっかり握り込んだ右手の拳で思い切り頭を殴り付けた。
「いっ……てぇー……」
 ごふ、と吹き出し掛けた後に漸く口を放し、殴られた箇所を片手で撫でる。
 なかなかに良い音がしたしコブが出来ているかもしれない。
 しかし自業自得だ。2人で飲むワインをグラスに注ぐよりも早く半分近く飲んだのだから。
 思い返せばフーゴが自分の為とはいえそれなりの額を1人で払って手に入れた物。誘ったのはこちらだし半分位は飲まれても文句は無い。そこにちゃんと会話やらムードやらが有ったのなら。
「……何でそんなわけのわからない飲み方をしたのか話してもらいましょうか」
 そうする程に美味しそうに見えていたのだろうか。だとしても、先に飲んでいると宣言してグラスに注ぐ位の事はする筈だ。
「女の服みたいなピンク色してんのに、何かねろっとしてた。しかも強くないんだけど炭酸入ってて結構苦しい」
「誰が感想を言えと言った!」
「……だってこれ、フーゴが家に帰りたい証拠なんだろ? そんなのオレ、嫌だ」
 ワインボトルをテーブルに置き、ナランチャは小さな声でごめんと言ってから視線を外した。
「フーゴが家に帰っちまうなんて嫌だ。別に1回帰るとかなら良いんだけどさ、もしそのまま……2度と会えなくなったらって思ったら、やっぱりそんなの嫌だ。今日は嫌な事ばっかりだ!」
「……帰りませんよ」
「居なくなったりすんなよ」
「しませんって」
 座るナランチャに目線を合わせるべく中腰になり肩に手を置く。
 妙に潤ませた目がフーゴのそれと合う。その下の不貞腐れて尖らせた唇にも目が向いた。
「……フーゴ……」
 物欲しそうに濡れた瞳が伏せられる。
 フーゴは肩を掴む手に優しくだが力を入れ、もう一方の手はナランチャの後頭部へと回した。
 特に手入れ等していなさそうなのに、それでもサラサラとした髪の感触が愛しくて同じように目を閉じ顔を近付ける。
「ん……吐きそう」
「え?」
 不穏な単語に目を開けた。
「胸の所おぇってして、頭すげー痛くて、何か……」
 顔を離してよく見れば、甘い雰囲気に目を閉じたのではなく苦しいから瞑っているだけなのがよくわかる。
 眉間に皺を寄せて、顔を赤らめてくれれば可愛いものの、どちらかと言えば青褪めてすら見えた。
 急性アルコール中毒、という嫌な単語が頭に浮かぶ。
 体重の少ない体が空腹時にこれだけの量を飲んだのだから可能性は0ではない。
「……やっぱ、吐きそ……うっぷ」
「待て! ここで吐くな! トイレ、せめてキッチンのシンクとか――」

 夜中に洗濯機を回すのは騒音の観点から控えたかったがそうはいかない日も有るし、近隣から聞こえてきてもこの頻度であれば文句を付ける程ではない、と自分に言い訳をしながら。
 しかしまさか洗濯機の前でドン・ペリニヨンを飲む日が来るとは思わなかった。
 形式通りにグラスに注いだそれの香りを楽しんでから口に含む。
 今洗われている服の持ち主が先程言っていたそれと大体同じ感想が浮かんだ。
 滑らかな口当たりに反して特有の辛さも有り微炭酸。しかしこの泡の細やかさが高級感を表している。
 こんな気取ったお上品な飲み物は彼の口には合わなかっただろう。
 親が飲んでいた物を今更飲んでみた所で実家に戻りたい気持ちはやはり一切起きない。
「……親、か。親になる事も無いのか」
 同性を相手にしては国を変えて結婚出来ても子供を成す事は出来ない。否、探せば同性婚の家庭でも養子を迎えられる位に福祉の充実した国が有るかもしれない。
 いつか手を取り合ってそんな国に行けたら、なんて妄想の所為で唇が笑う。
 しかし相手にその気が有るか否かはわからない。
 ナランチャはフーゴが最近着なくなった服を着させてベッドに寝かせてある。腕を枕に横向きに、足も折り重ねる回復体位で。
 これで再び嘔吐しても窒息の心配は無い。いや嘔吐されては困る。ベッドシーツまで洗濯させられて堪るものか。
「何を考えているのかわからない」
 見るからにわかりやすそうなのに発想が突飛過ぎる。だからこそ側に居て面白いのかもしれない。
 それとも何も考えていないのか?
 充分有り得る。考え過ぎる自分と足して2で割れば丁度良い。
 冷めたデリバリーは明日温めて2人で食べようと、その時までこの液体が残っていないようにと、フーゴはらしくないハイペースでドン・ペリニヨンを飲み続けた。

 事務所のドアをナランチャは元気良く開ける。
「おっはよー!」
 目の前の背中から繰り出される声が頭に響いた。もう少し声量を落としてくれと言いたいが、この二日酔いは自らに原因が有るので何も言えない。
「おはようございます、ナランチャ。と……フーゴ?」
 ジョルノの声が疑問系なのは顔色の悪さの所為で別人に見えているからではなかろうか。
 というより、朝――もう昼に近いが――からジョルノが事務所に居るのは珍しい。今日は世間的には平日なので、仕事が無い限り籍を残したままの学校に居る筈なのに。
 仕事が全く無いという事こそ無いが、ブチャラティは自身に学歴が無いからかジョルノには授業を終えてからでも出来る仕事を与える傾向に有るのだが。
「全員揃ったな」
 キャビネットの中を整理していたブチャラティがこちらを向いた。
「……全員?」
「アバッキオとミスタは今日は来ない」
「何で? 何か有ったのか?」
 昨日店から飛び出した事を忘れたようなナランチャの口調だが、ブチャラティはこれが通常運転だと言わんばかりに平坦に告げる。
「アバッキオは二日酔いだ。昨日の店でじゃあない。帰ってからの飲み直しで見事に潰れた」
「ミスタも右に同じです」
 2人欠けたからジョルノが朝から顔を出しているという事らしい。
 二日酔いで休む事が許されるのなら自分だって――今からブチャラティが提示する仕事が3人で出来る物ならば帰ってしまおうか。
「酒は自分がどこまで飲めるかわかんねーまま飲んじゃ駄目ってやつだな」
「お前が言うなッ」
「え、何?」
 何でもない、と首を振ると余計に頭痛が酷くなった。
「でも僕からするとやっぱり少し羨ましいです、大っぴらに酒が飲めるのは」
「ジョルノの誕生日が来たら皆で一緒に飲もうな!」
 約束を意味してかナランチャがジョルノの手を取り握る。
 余り表情を表に出すタイプではなく見えていたジョルノが「有難う」とだけ告げて、口元に笑みを浮かべて自然とその手に手を重ねた。
 嗚呼そうか、『手を取る』のに必要なのは酒で奮い立たせた勇気ではなく。
 今思考回路を動かした所で頭痛が悪化するだけなので、考えをまとめるのは控えておこう。


2018,01,28


ゴディバかモーツァルトに牛乳3倍位ぶち込むと甘くて美味しくて飲みまくってトイレ行きまくって酔い潰れられます。弱い。
しかし別段酒飲みでもないのに飲兵衛ヘタレ攻め3部作にしてしまった!
急な企画に乗ってくれて有難う利鳴ちゃん。打ち合わせしないであれは完全にふたりでひとりだtt…此のお話達は綿密な計画の下に作られています。
<雪架>

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