承花 全年齢 EoH設定


  魔物に供物


 次元を移動するのに便利を通り越して必須の亀の中は意外にも外気の影響を受けるのか肌寒い事が有る。
 そこで空条承太郎がコタツを持参した。1度自宅で破壊して、自分以外なら何でも直せるスタンド能力の持ち主に亀の中で修復してもらった。
 彼が日本人でコタツに理解が有ったから出来た方法を見ながら花京院典明は苦笑した。この亀の持ち主のような外国人だったらコタツが何かわからないからと断られたかもしれない。
 部屋の隅に置いたそれに早速承太郎と2人で靴を脱いで向かい合い入った。しかしすぐに承太郎は靴を履き直し立ち上がる。
「少し待っていろ」
 短く言い残して立ち去る。未だ「暖かい」とも「電気を入れたばかりだからそうでもない」とも言い合っていないのに。
 承太郎が先に奥へ行き壁を背にする形で座ったので花京院はそれに向かい合う位置に座った。大きな正方形を囲うのに隣り合っては可笑しいと思った。
 だがここに、壁に向かう位置に座ったのは間違いかもしれない。まるで皆に背を向けているみたいだ。
 人が増える度に広く拡張された亀の中の部屋の1つで今は他に誰も居ない。
 だがドアも無く通路――廊下、だろうか――に繋がっている方にわざわざ背を向けて座っているのは。
「変な奴、だな」
 再び苦笑が浮かぶ。
 まるで人を遠ざけているみたいだ。ここに来るまではそうしがちだったから尚の事。
 ここに来てから大勢のスタンド使いと出会った。
 自分と同じスタンド使い。それだけでなく、中には稀にジョセフ・ジョースターも使っていた波紋というまた違う能力を有している者も居る。
 異端の集まりの中であれば誰も異端にならない。自分と他人は違う、という事を自分以外も理解している。スタンド能力もここではただの個性だし、学校なり何なりのように個性を取り上げようとする動きも無い。
 だからきっと居心地が良いのだ。
 唯一心を許せる家族と居る時以上に。それでいて1人ではない。寂しくない。
 寂しい?
「花京院」
 承太郎の声。
「お帰り」
 振り向いて目に入る承太郎の姿に、その存在に安堵した。
 嗚呼まるで、1人で居る事を昔からずっと寂しく思っていたような、それを自覚させられたような――
「……やあ」
 数瞬何と声を掛けて良いか悩んだ結果の短い一言。
「どうも」
 同様に短い返事をしたのはジョルノ・ジョバァーナ。承太郎は彼を探しに行っていたらしい。
 日本人の自分よりも未だ背の低いジョルノがとてつもなく背の高い承太郎の斜め後ろに立っているので半ば隠れてしまっている。
 留学生に絡む不良のように見えているだろう。どちらかというと不馴れな留学生に校内を案内したりする面も有ったりするのだが。
 花京院がそう思っている事に気付く筈も無い承太郎はコタツの横を通り奥へ。壁に背を向けて座り、靴を脱いでその足をコタツの中へ入れた。
 壁だけだった視界の真ん中に承太郎が居る。帽子を目深に被った仏頂面がこんなに嬉しいなんて。承太郎でなくても嫌だとは思わないだろう。1人より良いかもと思うかもしれない。最近スタンド使いになった者でも、スタンドが見えない者よりは話しが合う。
 けれどやはり、承太郎と居るのが1番楽しい。長い旅をしたからか、それ以上の想いが有るのか、よくわからなくてむず痒い。
「入れ」
 低い声は花京院ではなくその後ろで未だ立ち尽くしているジョルノに向いていた。
 振り向いてジョルノの顔を見る。目の辺りなんかは少し承太郎に似ているかもしれない。その目に困惑が浮かんでいる。
 暑いから入りたくないという事は無いだろう。コタツから出ている肩が少し寒い。
 彼の仲間と比べればジョルノは未だ寒そうな服装とは言わないが――ジョルノとその仲間達は未来のイタリアで合流した。
 という事は彼もまたイタリア人。
「コタツって何か知ってる?」
「それの事ですよね」コタツを指し「テーブルの亜種というか」
 やはり。
 入り方がわからず入れないでいた。否、コタツを見ても『入る』という概念を持ててすらいないかもしれない。
「靴を脱いで座れ。掘りゴタツじゃあないから足は伸ばせない」
 淡白な説明だが間違っていない。
「イタリアじゃあ床に座る習慣は無いだろうが、確かテメーも半分日本人だった筈だ」
 何とか座れるだろうという無茶振りか。
「10年位前までは日本に住んでいました」
「生まれは日本?」
「そうです。そこでは床に座って食事をしたし、母も床に座って化粧をしていました。ただ……そんな布団が付いたようなテーブルじゃあなかったので……」
 沖縄のように暖かな地域でコタツが無かったのか、逆に北海道のように立派な暖房が有ったのか。
「靴を脱ぐのも抵抗が無いって事か」
 承太郎の強引な言葉に従うようにジョルノは花京院の左側――向かい合う承太郎からは右側――に腰を下ろし靴を脱いだ。コタツ布団を捲り両足を入れる。
「あ……」
 小さく声を漏らす。もぞと動き膝下のみならず下半身をコタツに入れる。コタツ布団を肩に掛けて天板に顎を乗せる。一瞬でコタツの虜となってしまった。
 2つばかりとはいえ年上2人に囲まれて臆する事を忘れさせるコタツが凄いのか、ジョルノの神経が太いのか。
 後者かもしれない。ジョルノに限らず一般的な人間はこういった状況下――コタツに入っているという意味ではなく、協力して国も時代も飛び越えて戦う――であれば相手に嫌われないだろうかと気にしないのかもしれない。
 他人や他人との関わりに距離を作り過ぎている。スタンド能力を持っているからと可笑しな目で見られたくない。嫌われたくない。親しくしたいし、優しくし合いたい。本当はそういった願望が有り、それを心の奥底では自覚している。
 そこをDIOにつけ込まれた。
 無表情ながらもコタツに飲み込まれたも同然のジョルノはそのDIOの息子。
 似ている気がしたが、こうして見ると全く似ていない。それともDIOもコタツに入ればこうして寛ぐのだろうか。
「中央が特に暖かいんですね」
「真ん中に電気が有る。暑くなり過ぎたら切る。コタツ布団は熱を逃がさないから付けっ放しにしなくても何とかなる」
「ずっと足を伸ばしていたら低温火傷しそうだ」
「気を付けろ。猫は気を付けず中にこもっちまう」
「イギー、でしたっけ? 犬は、小型犬はコタツに入りますか?」
「犬がコタツで丸くなる話は聞いた事が無いかな」
 猫も実際はコタツ布団の上で丸くなったり、中に入ると少しでも熱を浴びようと逆に体を伸ばしたりするらしい。
「ところで」顎を天板に乗せたままジョルノは視線を承太郎の方へ向け「どうして僕を連れてきたんですか?」
 寒がっていた所を見掛けて引き摺り込んだのではない。
 コタツは別に入る人数が多い方が暖かくなるわけでもない。もしそういう仕組みでも承太郎1人で3人分位有るのだから人を増やさなくても良いし、ジョルノよりももっと体格の良い者を連れてきた方が良い。
 そもそも承太郎はジョルノを連れてくるべく、わざわざ1度入ったコタツから出た。何かしらの用が有った筈だ。
「スタンドで植物を生み出せると聞いた」
「単体の植物や昆虫のような小さな生き物なら生み出せます」
「昆虫も?」
「はい」視線を尋ねた花京院に向け「ハエとかクワガタとか。両生類のカエルや、余り大きくないヘビなんかも作りました」
 絵本の中の王子様のような金髪碧眼には似合わない種類を生み出すのが得意なようだ。
「蜜柑を作れ」
「……みかん?」
「そうだ」
 イタリアにも有るだろう果物の説明はわざわざしない。
「生み出すのに時間が掛かるのか?」
「えっと……葉や根、あと花なんかは出せますが、果実だけというのは……」
「出来ないのか?」
「……熟する前の物ならすぐに出来ます」
 負けず嫌いが食べられる蜜柑を出せないと言う時はこういう言葉になるようだ。
「コタツで蜜柑が食えないのか……」
「承太郎、もしかしてその為に来てもらったのか?」
「ああ」
 その為に? 本当にそれだけの為に?
 等としつこく訊いても答えは変わらないだろう。承太郎は必要の無い嘘を冗談として言ったりはしない。但し必要性が有れば平気で真顔で嘘を吐く。
「出した蜜柑は食べるだけですか? 暖房効果に影響が有るとかじゃあなく?」
「食うだけだ」
 ジョルノに対してもキッパリと言い切った。
「何故蜜柑なんですか? 体を温める事も、逆に暑くなり過ぎた体を冷ます事も蜜柑には出来ないと思いますが」
「コタツから出ないで食えるからだ。冷やしておかなくて良いし、火を通さなくて良い。皮も手で剥ける。小さいから食べきれるし、旬で安いから段ボール箱で買ってこられる。同じように手で剥けるバナナよりも日持ちする」
 確かにその通りだ。成る程、理由は多々有ったのか。
「イタリアでも蜜柑は食べるのかい?」
 嗚呼、今。
「そのまま蜜柑だけを食べる事は多く有りません」
 こちらから自然に話し掛けた気が。
「ソルベにしたりサラダに入れたりします」
「サラダ? 蜜柑のサラダなんて物が有んのか」
「メインではなく削って振り掛ける事が多いです」
 承太郎のように、そして承太郎と話す時のように、極自然に。
「ソルベはシャーベットの事か。オレンジソルベ、コタツの中でなら美味しく食べられそうだ」
「コタツは暖かいから乳成分の多いジェラートも良いかもしれません」
「そうなると蜜柑より苺のアイスの方が合うかな」
「良いですね」
 話がどんどんと進む。
 楽しい。承太郎とジョルノがどう思っているかはわからないが、花京院はすこぶる楽しんでいた。
 教室で眺める複数の生徒達のようだ。彼らははみ出さないよう自らを取り繕い周りに合わせているのではと思っていた。だがきっと、違う。
「2人は同じ学校なんですか?」
 まるで考えを見抜いたかのようなジョルノの問いに心臓がドキリと弾んだ。
「一応そうだ」
「僕は転校してきたばかりだから『同じ学校』の感覚は未だ薄いけれど」
 同じクラスというわけでもない。
「スタンド使いは惹かれ合うと言うけれど僕の学校には居ないみたいです」
 1つの教室に2人、1つの学年に4人と揃うのは恐らく相当稀だが、目の前にそういったケースが有ると「よく有るのでは?」と思ってしまうのだろう。
 自分も転校する前の学校では他に居なかったと、中学校にも小学校にも居なかったと言おうと思って口を開いたのだが。
「でも君には学校外にスタンド使いの仲間が居るじゃあないか」
「そうですね」
 すっかりコタツと同化したジョルノは余り表情を変えない。だが声が弾んでいる。
 「学校にわかり合える者が居ない」同士だが「学外にわかり合える大切な仲間が居る」同士でもあって。
「僕にとって承太郎は同じ学校の生徒というより、共に世界を巡った仲間だ。もしもまた転校する事になってその先にスタンド使いが居なくて孤立したとしても、承太郎との繋がりが途切れないなら構わない」
 その言葉を受けて承太郎は驚いたのかやや目を丸くしていた。
 決して表情豊かではないジョルノの3倍位は表情を変えなさそうな承太郎が。
 そう思いじっと見ていた。ふと何かに、花京院の視線に気付いたように、承太郎は顔を隠すように帽子を被り直す。
「どうしたんですか?」気付いたジョルノがそれこそ無表情のまま「承太郎さんにとっても、花京院さんはそういった存在なんですか?」
 誰よりもわかり合いたいと思っている、少しばかり特別な相手だと。
「同じ学校の生徒である以上に共に戦った仲間だと」
 嗚呼、そっちか。
「そうだ」
 ジョルノが居て良かった。居なければ本当にそうとしか考えていないのかと問い質していた。
 本当にそうだと言われたらどうしよう。否、本当は違うと言われたら――
「あージョルノ! ここに居たッ!」
 高めのよく響く声にジョルノは顔を向け花京院は後ろへ振り向く。
 こちらを指しているのはジョルノの仲間のナランチャ・ギルガ。
 自分より小さいジョルノよりも更に小柄で、だからかかなりの薄着でも寒そうにしていない。
「ミスタが戻ってこないーって探してるぜ」
「ああ、話している途中でした」
「承太郎、もしかして話している所を無理矢理引っ張ってきたのか?」
「無理矢理じゃあない」
「そうです。大事な話をしていたわけじゃあないし、続きは戻ってまた話せば良いし」
 しかし言葉に反して立ち上がる気配は一切見せない。
「ナランチャと言ったな」
「お、おう」
 ナランチャは承太郎に凄まれた時の正しい反応を見せた。
「蜜柑を持ってこい」
 凄んでいるわけではない、とは言えなくなった。恐喝してしまうとは。しかも蜜柑。
「何で、蜜柑?」
「コタツには蜜柑が必要なんです。僕のスタンドじゃあ出せない。ナランチャ、お願いします」
 ジョルノも乗ってしまった。丁寧にお願いという言葉を使っての恐喝だ。
「俺のジジイに言えば工面する筈だ。言いに行ってくれ」
「ジジイってあの背の高いジイさんだよな? ってかオレあのデッカいジイさんと話した事、あんまり無いんだけど」
「俺達はコタツから出られない」
「出られない? コタツって、そのテーブルから出られないのか?」
「ああ。コタツには魔物が棲んでいる」
「魔物ッ!?」
 ほらこの通り平気で嘘を吐く。
「昔からそう言われている。それこそジジイに聞いてみろ」
「承太郎、ジョースターさんはアメリカ人の筈だが……」
 しかもあんなにデカいのに。
 尤も体格の良さは承太郎にも言える事だが。
「入ったら一瞬で魔物に取り込まれた。コイツのようにな」
「ナランチャ頼みます、僕もこの通り魔物の所為で動けません」
「魔物……滅茶苦茶ヤバい奴が中に入ってるんだなッ!? 待ってろジョルノ、オレが今取ってくるからなッ!」
 足音煩く駆け出し立ち去った。
 大きな目が印象的で猫のように見えたが、寧ろ庭を駆け回る犬の方が近いかもしれない。
「蜜柑を持ってきてくれたらナランチャもコタツに入れても良いですか?」
「ああ。ジジイが一緒に来なければ、だがな」
 もしナランチャがジョセフ自身も連れてきたら、サイズからしてジョルノとナランチャに並んで入ってもらい、その向かい側にジョセフを座らせる以外の選択肢は無い。相当狭そうだ。
「寧ろミスタを呼んできてもらえば良かった。話の続きをコタツの中で出来るように」
「君は意地でも出ない気か」ジョルノも承太郎も、花京院自身も「やれやれだ」
 承太郎の台詞を奪って笑っておく。


2020,12,10


あみだくじ引いて当たった部×2のキャラをコタツに入れようぜ!と話したんですが。
8月に3部5部引いたなぁと思ったらまた3部5部引きました。呪いかな?
サイト管理人2人共家にコタツが無いので、多分コタツへの憧れが強いのだと思う。
<雪架>

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