承太郎中心 全年齢 EoH設定


  like A music


 戦闘を圧勝で終わらせた空条承太郎は亀の中へと戻ってきた。
 仲間が増えた分だけ広くなっている。今人数はどれだけ増えただろう。後どれだけ増やせるだろう。
 国も時代も、中には世界そのものが違う人間が集まり多種多様といった顔触れだが、中には『似ている』者も居る。
 丁度似ている2人がこちらに背を向けしゃがみ込んでいるのが見えた。
「仗助、ジョルノ」
 呼び掛けると東方仗助とジョルノ・ジョバァーナは揃って振り向き見上げてくる。
 後ろ姿は全く似ていないが顔はやはり似ている、気がする。自分しかそう思っていないかもしれないが。
 承太郎から見ればどちらも小さいが身長差は10cm程有り体格も違う。何より髪色・髪型が正反対と言って良い程に違った。
「若い方の承太郎さん!」
「お疲れ様です」
 声も違うがこちらが2つばかり年上なので敬語を使ってくるのは似ている。そしてやはり顔立ちも。
 仗助は承太郎の祖父――帰化したので国籍はアメリカだが出生としてはイギリス人――と、若く美しい日本人女性の間に生まれた。ジョルノはDIOと若く美しい日本人女性との子で、そのDIOも元を辿れば一応はイギリス人になる。
 日英ハーフの15歳。そう思っていると脳が似ていると錯覚するのかもしれない。しかし色素の薄い真っ直ぐな瞳はよく似て見えた。
「お前ら何をしていやがる」
「亀に持ち込んじゃあ駄目なんて知らなかったんスよー」
 抑揚の無い声で尋ねたので仗助は忠告かと思ったのか情けない声を出す。
「持ち込み?」
 今度は語尾を上げて尋ねると、仗助とジョルノは揃って体を離した。
 2人の体の間に高さ30cm位の丸みを帯びた長方形の物体が、何らかの機械が置いてある。
 仗助が持ち込んだらしいそれは危険物には見えない。偶々承太郎の位置からは見えなかっただけで隠していたわけではなさそうだ。
 更には手前に、2人の足元に数枚のCDも置かれていた。
「何だそれは」
「『プリンス』です」
「王子?」
「承太郎さん、知らないっスか?」
 2人がCDジャケットを見せてきた。どうやらアーティスト名が『プリンス』らしい。グループ・バンドではないようだし、凄い芸名だ。案外本名なのかもしれない。
「仗助、承太郎さんは10年位前の世界から来ている。もしかしたら未だ有名じゃあないのかもしれません」
「でもよー、プリンスって俺達が生まれた頃にはもう活動していたぜ?」
「日本国内で人気が出たのもその位ですか?」
「小学生の頃から家に有ったし……あ、『今』の承太郎さんは知らないか」
「こっちはそれこそ僕が生まれたすぐ後に発売したみたいですが、当時の日本の高校生にとって輸入盤はそんなに身近な物じゃあなかったと思います」
 ジョルノが手にしている方のCDジャケットに見覚えは無い。
「ですが案外「聞いた事が有る」と思うかもしれません」
「今流行ってる曲と違って、昔から人気の有る洋楽ってのは「何だか知ってるぞ」ってなるもんだよな。そっちから聞こうぜ」
 ジョルノは頷き開いてディスクを取り出す。
 そして仗助は奥の機械のボタンを押した。
 上向き三角の下に横線が1本の記号のボタンを押された機械は舌を出すようにディスクを置くけるトレイを出す。
「そいつに……CDを入れるのか……?」
 承太郎の方を向き直した2人が同じタイミングで瞬きをする。顔というより仕草が似ていた。
「もしかして承太郎さん……ポータブルCDラジカセも知らないんスか?」
「CDラジカセ?」
 ラジカセなら知っている。ラジオとカセットテープが聞ける機械だ。目の前の機械を横に2つ並べたような長い形をしているのが基本で、アンテナを伸ばし局を合わせてラジオを受信する。カセットの方は2つ入れる事が出来る。
 思えば目の前の機械も中央に、CDからカセットテープに録音する『コンポ』のように、手前に開きカセットテープを入れられそうな部分が有った。
「音楽に余り興味が無い方ですか?」
「……どうだろうな」
 肯定も否定も出来ず曖昧にしか答えられない。
 学校の授業で習った以上の知識は無い。だが父親が音楽を生業(なりわい)にしているので全く触れずに育ったわけではない。
 父親はレコーディングだのツアーだので家を空ける事が多い。しかし音楽に父親を取られたとは思わない。寧ろ音楽のお陰で不自由無く生活出来ている。
 ラジカセにCDを入れられる機能を付けて持ち運べるようにした物が名前の通りポータブルCDラジカセなのだろう。父親は持っているかもしれない。そして10年後の未来では高校生も持つ位普及しており、人々にとって音楽がとても身近な物になっているのかもしれない。
 ジョルノがCDをトレイに乗せた。
「……掛けちまっても大丈夫だよな?」
「ジューダスプリーストを爆音で流すわけじゃあないから構わないでしょう。音楽プレイヤーの持ち込みも承太郎さんが認めてくれています」
 認めたわけではないが別段持ち込みを禁じられてはいないだろう。亀から苦情が来たらその時に持ち帰れば良いし、案外亀もこのプリンスと呼ばれるアーティストの楽曲を気に入るかもしれない。
「ああでもやはりこれを掛けるのは止めにしましょう。承太郎さんの知っている曲の方が良い」
「何でだよ。すっげー良い曲だぜ? 聞いてもらいたいだろ」
 好きな物を広めたい気持ちも、好きな人と共有したい気持ちもわかる。
「承太郎さんは近い未来にプリンスがヒットして恐らくその時に聞く。初めて聞く曲で世界中が盛り上がる只中(ただなか)に居られるんです。僕達ではどうしたって体験出来る事の無いそれを取り上げてしまいたくない」
 良い物を1番良い時に得る喜びもまたわかる。
「それもそうだけど、プリンスしか持ってこなかったぜ」
「次は僕の時代に行くみたいだし、僕が何かCDを持ってきましょうか? いや、それでも変わらないか……」
「俺が持ってくる」
 2人の間に、ポータブルCDラジカセの真正面にしゃがみ込んだ。
「俺の時代に行ったら、で良いならな」
「勿論良いっスよ!」
「僕達の知らない曲や、懐かしい聞き覚えの有る曲が聞けるかもしれませんね」
 楽しみだとにこにこ笑う仗助と余り表情を変えないが頷くジョルノ。似ているような違うような、取り敢えず嫌な気持ちにはならない。嬉しいような、言い難い感情が胸を占める。
「折角持ってきてもらいましたが、承太郎さんが家に立ち寄れるまでは音楽を流せませんね」
「別に重たい物じゃあないから気にするなよ。このプレイヤーはお袋のじゃあなく俺のだし」
「……そいつはラジカセでもあるんだよな?」
 指して尋ねる承太郎に、意図を掴めない仗助は「そうっス」と短く答えた。
「ラジオを流す。何か音楽番組がやっているかもしれないぜ」
「そいつは良いっスね」
 CDでリピートして覚えてしまうのは気まずいが、ワンコーラスのみならば楽しく聞き流せる。
 ジョルノはCDをトレイからケースへ戻してからトレイを収納した。
「ラジオは……仗助、このAMとFMって書いているのはどっちがラジオですか?」
「お前そんな事も知らないのかよ、どっちもラジオだぜ」AMに合わせ「ちょっとアンテナ立ててくれるか」
「はい」
 言われてアンテナを伸ばす。
 スピーカーから流れるノイズだらけの小さな音を聞きながら、ジョルノはアンテナをぐるぐると回し仗助はダイヤルを回して数字を探した。
 提案しておいて何だが亀の中でラジオの電波が受信出来る物なのだろうか。
 そもそも今どの時代を移動しているのだろう。自分達の時代であれば局は違えど何かしら放送されているだろうが、高祖父の時代ならばラジオという概念が無い。
 それに国が違えば周波数が合わず受信出来ないのでは――
「アンタ達、何やってんのよ」
 女性のそれだが媚びた様子の無い声に3人揃ってしゃがんだまま振り向く。
 声の主は空条徐倫。年は2つ程上だが、未来に生きる承太郎の娘。
「ふっるいプレイヤー取り囲んじゃって」
「古いって、これ結構高かったやつだぜ!?」
「そうなんですか? 日本製品って型落ちしても高いんですね。物が良いからですか?」
「型落ちなんてしてねー! ほぼ最新だッ! ほぼだけどな!」
 仗助の最新はジョルノの2年前だし徐倫からは10年以上前だ。
「アンタ達全員高校生なんだっけ? 何だかそっくりね」
「そっくり?」
 低い声で尋ねるが。
「父さんが長男で仗助が次男でジョルノが三男って感じ」あっけらかんとした様子で答え「自分の父親が男子高校生とかすっごく変な光景。で、それアンテナ有るしプレイヤーじゃあなくてラジオ?」
「ポータブルCDラジカセらしいぜ」
「CDラジカセ……」
 やっぱり古いわね、と続けたいのをぐっと飲み込むのが顔を見てわかった。
 徐倫は仗助もジョルノも知らない音楽を聞いているのだろう。それを聞く為の音楽プレイヤーもまた新しい物かもしれない。仗助曰くほぼ最新のこれが見るからに古く思える程に。
「なあ、承太郎さん――いや徐倫の父親の方の承太郎さんな。どんな音楽聞いてるんだ?」
「さあね、知らないわ。本人に聞いて」
 承太郎を一瞥してから背を向け立ち去る。
 本人ではあるが『未だ』徐倫の父親ではない承太郎は溜め息を吐いた。
「やれやれだぜ」
 これから先聞く音楽がこの2人や徐倫に好きか否か、どれが1番好きなのかとあれこれ聞かれるのだろう。うざったいだろうが、話し合えるのはそれなりに楽しみだ。


2020,10,10


タイトル、Iは省略してます。
とにかく100のお題の中でジョジョで書いてないのどれかやろうze!とあみだくじを引いたら音楽が当たりました。
ジューダスの所、本当はラプソディオブファイアにしようと思ったのですが、この時代は未だ改名してなかったような…ラプソディ(狂詩曲)を爆音で聞くって台詞は可笑しい…って事でメタルゴッドにしておきました。
<雪架>

【戻】


inserted by FC2 system