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  神さえ知らない〜蕩け堕ちる終焉と聖性〜 おまけSS冒頭


「粗茶ですが。いや、高級な物じゃありませんが」
 僕は顔も体も声も似ている、僕の橘昴に対して立花栖軽という名前までよく似た男の前に淹れてやった茶を置いた。
「これは、どうも。良い香りですね」
 栖軽が持参した焼き菓子に合うかどうかはわからない。いや合うだろう。僕達は趣味嗜好も、思考回路までもが似ている。
 だからきっと栖軽も僕の彼女に興味を持ち、何かしら手を出してくるのではと強く警戒していた。
 しかし実際に起こったのは想定外の事だった。

「頂きます」
 私が昴君の淹れてくれたお茶に手を伸ばすのを見て、昴君もまた私が作り持参した焼き菓子に手を伸ばします。
 今私達の間には程好さを通り越した緊張感が走っていますが、傍から見れば穏やかなティータイムでしかないのでしょう。
 何故なら神がそうあれと望んでいるから。全ては神の意のままに。
 私は神父ですがただ神を信仰しているわけではありません。あまねく宗教において神とは実に下らない物だと思っていました。
 ですが悪魔に身を委ねてまでも叶わなかった展開をもうすぐ迎えられそうです。となれば、私は神に祈りを捧げなくてはならないでしょう。

 僕は作家をしていてファンも居る。
 栖軽は僕の彼女ではなく、作品だけでなく僕自身も好いてくれているファンのあの娘に手を出した。
 監禁し見るに耐えない卑猥な行為をし、その動画をあの娘からの助けという名目で僕にメールで送ってきた。僕と同じような顔をして人畜無害を装ったこの男は、僕とあの娘と僕の彼女を引っ掻き回したんだ。
 助ける為に即座に栖軽の居る教会へ駆け付けた。そんな僕にあの娘は熱に浮かされたような面持ちですがり付いてきた。
 僕は抱き留めた。その瞬間だけを彼女が見れば誤解するだろう。栖軽の狙いはきっとそれだ。
 あの監禁部屋に隠しカメラを仕込んで僕とあの娘の様子を撮影して僕の彼女に見せる。そうすれば僕の彼女は――
 栖軽が僕の嫌がる事をわかるように僕だって栖軽の考える事がわかる。助け出してすぐ、彼女にあの娘との関係を包み隠さず話した。栖軽は何もしてこなかった。その事すらも見抜いたのだろう。先の心配が杞憂なだけであればどれだけ良かったか。
 結局栖軽は僕の彼女には何もしなかった。だがあろうことか栖軽は、あの娘と付き合い始めてしまったのだ。


2021,03,02


サークル『浅草堂』様のボイスドラマ作品『神さえ知らない〜蕩け堕ちる終焉と聖性〜』(R18)の、購入特典短編小説のお手伝いをさせて頂きました。こちらはその冒頭です。
女性向け18禁シリーズ物の最終幕を飾る作品(本編シナリオには携わっておりません)の、ヒロインを巡る2人によるメタ的な一幕。
しかし私が書いた為にほんのり香るBL感…(笑)
シリーズ過去作の裏側の補足、というよりあらすじ要素が強いです。続き及び本編音声作品に興味のある方は是非どうぞ。
<雪架>

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