星、星  Side翳


 香澄と2人で出掛けて、すっかり遅くなった帰り道。
 別に何をしていたってワケでもないのに、もう辺りは真っ暗。
 ただちょっと昼飯食って映画見て少し買い物して晩飯も食ったってだけなのに……
 しかしこれって、世間一般からすると完全にデート……じゃないか。
「見て!」
 その声に香澄の顔を見ると随分と嬉しそうな表情で頭上を見上げていた。
「何だよ。……あ」
 凄い。
 夜空には満天の星々ってヤツが広がっている。
「凄い、すっごい綺麗! こんな都会でも、ちゃんと星空って見えるんだね!!」
 跳ね上がりそうな声色と蒸気した桃色の頬に「香澄の方が綺麗だよ」の一言位漏らしそうになる。
「……君の方が綺麗だ、とか言わないの?」
「ばーか! い、言わねーって!」
 まるで心を読み取られたような気恥ずかしさ。
「……いや、綺麗だけどさ、星。だから、その……君の方が綺麗だよ、でもやっぱり星の方が綺麗だよって言いそうじゃん」
「何それ」
 可笑しそうに笑う香澄。
「山奥とか行けばもっと綺麗な星が見られるんだろうなぁ……ここでも意外と綺麗だけど」
「田舎の星空はこんなモンじゃないだろ」
「でも綺麗だよ」
 星座なんか全然わからないけど、確かに綺麗と言えば綺麗だ。
 どうして気付かなかったんだろう、今まで。
「皆、空に興味無いのかな。僕もそこまで興味有るって程じゃないけど」
 俺だって無いよ。……だから気付かなかって話だな。
「流れ星とか流れりゃ良いのにな」
「そんな簡単に見られないよ。あっさり見られたら、きっと願いも叶わないし。……でも、ちょっと見たいな。きっと綺麗だろうから。ぼく流れ星って見た事無いんだ」
 もし見た事有れば、きっと忘れないんだろうな。
 ……今流れないかな。
 今この瞬間に流れれば、流れ星も俺の事も、忘れないでもらえるのに。
 吸い込まれそうな星々と俺とが同じ位置に居られると考えるなんて図々しいにも程が有るけど、並んでいるのかもよくわからない星に見入りながら考えていた。
「きっとぼく、この星空忘れないよ」
 突然した声に香澄の方を向くと、今度は俺を見ていた。
「こんな都会だけど、翳と一緒に見た星空だから、忘れられない」
「俺も!」
 香澄にだけ言わせるのが癪な気がして慌てて言った
「俺も、忘れない。香澄みたいな記憶力が無くても、この位大事な事は忘れたりはしない」
 そんなに大事? なんて嬉しそうに訊いてくる声が心地良い。
 降り出しそうな星空は、誰かが思うより案外近くに有ったりする。


  星、星  Side香澄


 翳と2人で出掛けて、すっかり遅くなった帰り道。
 別に何をしていたってワケでもないのに、もう辺りは真っ暗。
 ただちょっと一緒にお昼食べて映画を見て、それから少し買い物をして晩ご飯も一緒に食べて……
 これって女の子と一緒にしたらデートになりそう。
 なんて思いながらふと空を見上げた。
「見て!」
 ぼくの大きな声に翳が顔を上げる。
「何だよ。……あ」
 ね、凄いでしょ。
 夜空には満天の星々が広がっている。
「凄い、すっごい綺麗! こんな都会でも、ちゃんと星空って見えるんだね!!」
 嬉しくてはしゃいじゃって、まるで子供みたいって思われたかもしれない。その位。綺麗。
 でも翳は余り声に出しては喜ばなくて。……だから、少しだけからかってみる。
「……君の方が綺麗だ、とか言わないの?」
「ばーか! い、言わねーって!」
 わかってるって、その位。予想通りの、寧ろ予想以上の大きなリアクションに笑いを堪える。
「……いや、綺麗だけどさ、星。だから、その……君の方が綺麗だよ、でもやっぱり星の方が綺麗だよって言いそうじゃん」
「何それ」
 堪え消きれず笑ってしまった。
「山奥とか行けばもっと綺麗な星が見られるんだろうなぁ……ここでも意外と綺麗だけど」
「田舎の星空はこんなモンじゃないだろ」
「でも綺麗だよ」
 星座とかはそこまで詳しくないけど、本当に綺麗。
 どうして気付かなかったんだろう、今まで。
「皆、空に興味無いのかな。僕もそこまで興味有るって程じゃないけど」
 きっと翳だって無いんだろうけど。
「流れ星とか流れりゃ良いのにな」
「そんな簡単に見られないよ。あっさり見られたら、きっと願いも叶わないし。……でも、ちょっと見たいな。きっと綺麗だろうから。ぼく流れ星って見た事無いんだ」
 もし流れたら、その星に何を願おう。
 流れない星にも願い事をして良いなら、流れ星を見せて下さいってお願いするんだけど。
 翳は何てお願いするの?
 そう聞こうと思って翳の顔を見ると真っ直ぐに星空だけを見ていた。そのまま吸い込まれてしまいそうな位、真剣に。
「きっとぼく、この星空忘れないよ」
 ぼくの声に驚いたように翳がこっちに振り向いてくれた。
「こんな都会だけど、翳と一緒に見た星空だから、忘れられない」
「俺も!」
 慌てた翳の声。
「俺も、忘れない。香澄みたいな記憶力が無くても、この位大事な事は忘れたりはしない」
 そんなに大事? なんて訊いてしまう程、とても嬉しい。
 降り出しそうな星空は、誰かが思うより案外近くに有ったりする。


2009,08,10


結構前に書いていた物ですが、一応移したのが今日という空ちゃんのお誕生日なので。
Web拍手に置いてあった物です。
Web拍手の中身、お礼ページ?を更新したのでこちらに移しました。
1日1回位Web拍手押されてたりしますが、つまり下半分は読まれていないという事。
(厳密に上半分も読まれていないのでしょう)
もっと人様の目に触れて頂ける様な文章を書ける様頑張っていきたい次第です。
最近書きたい欲よりも読みたい欲が強いので書き直しはしませんでしたが、
読みた欲が満たされて読みまくって身に付いた文章力で
書き直してあげたい気もしています。
そして今明らかになるタイトル(笑)
<雪架>
同じ話をそれぞれの視点で……という書き方がだいぶ好きだったりします。
共通してる部分とか、共通してるんだけどお互いに気付いてない部分とか、
同じ話なんだけど香澄と比べると翳の方がなんかおもしろいとか(笑)。
いつか自分もそういう書き方をしてみたいなぁと思います。
ほんわか可愛いカゲカズ、ごちそうさまでした。
やっぱりこの2人はこういう雰囲気が大好きです。
<利鳴>

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