EoH設定 承太郎とジョルノ 全年齢


  Sporgenza


(1人、2人、3人、4……いや、違う。彼はもう数えた。忘れ物でも取りにきたのか? とにかく重複だ。だから彼女が4人目。5人、6人……)
 今日のところはもう“移動”はしないと聞かされたためか、周囲の見物にでも出てみようと思った者は少なくなかったようだ。ジョルノは建物の屋根に腰掛けて、『亀』から続々と出てくる仲間達を順に目で追った。
(7、8、……あれは犬。犬もカウントすべき……か?)
 確かあの犬もスタンドを用いて戦っていたはずだ。立派な戦闘要員としてここにいるのであれば、除外するわけにはいかないだろうか。
(じゃあ、9。10、11、……今度は馬か。犬を数えるなら馬も……?)
 数え始める前にカウントの条件を決めておくべきだったと思っても、もう遅い。
(……待った。馬に気を取られて、馬に乗ってる人間を数えるのを忘れなかったか? それから、今来た彼は3回目? ……いや、あの2人は見た目が良く似てるけど別人だ。そしてあっちの2人は見た目が違うけど同一人物……。あっちは別人だけど名前が同じ……。ああ、ややこしい……)
 もう駄目だ。とても何人いるのかなんて数えられそうにない。そもそも、ジョルノが数え始めるより前に、さっさと出掛けて行った者がいるかも知れない。
(これじゃあどこかに誰かおいてきていても気付かないかも知れないな……)
 少なくとも自分の“直接の仲間”達は忘れてきていないだろうなと思いながら、脳裏にその面々を思い浮かべる。うん、大丈夫だ。そろっている……はず。たぶん。
 一行はいつの間にか全員を把握するのが容易であるとは言い難いほどの人数になっていた。誰も彼も個性的な服装や髪型をしているお陰で人種の違いがあってもその顔を見分けることが出来ないということがないのはありがたいが、全員がひとところに集まろうとするだけでも、広いスペースと少々の時間を要するようになってきた。全員に「集まってくれるか」と声を掛けるだけで一苦労だ。
 そんな中で、今後の動きについての打ち合わせは各グループから1名の代表者を出して行うことにしようという意見が出たのは、自然な流れだったと言えるだろう。明らかにその方が効率的だ。それについては、ジョルノにも異論はない。問題があるとすれば、その1人に自分が選ばれてしまったことだ。
 『代表者』は、ジョースターの血統……つまり、首筋に星の形の痣を持つ者で良いのではないか。そんな発言をしたのは、誰だっただろう――百年以上前のイギリスから来たという、顔に傷がある男だったかも知れない――。それに該当するのが元々リーダー的な役割を果たしていた者ばかりだったのか、あまり気が進まないというような顔をしている者もないではなかったが、はっきりと「嫌だ」と声が上がることはなかった。
「ぼく達のリーダーはブチャラティだと思いますけど」
 仲間達のところに戻ったジョルノがそう言ってみると、当のブチャラティはずいぶんとのんびりとした口調で言い返した。
「オレは途中参加だからなぁ」
 1度――それともブチャラティに限っては2度?――死んだが生き返り、敵に操られた状態で攻撃してきたのを、“聖なる遺体”の不思議な力で正気に戻し、再び仲間に迎えた。その経緯を彼は、「途中参加」と表現しているようだ。死んだり生き返ったりした張本人だというのに、まるで他所の土地から転校してきた学生であるかのような、ずいぶんと軽い表現だ。
「それに、親戚なんだろう?」
 それこそ親戚間の世間話のような調子で彼は続ける。が、百年も前に生きていた人間を、『親戚』と呼んで良いのかどうかは少々疑問だ。
「面識はありません」
「オレはジョルノ以上に接点がない」
 そう言われてしまうと、それ以上反論し辛い。
 ジョルノとて、別に嫌だと思っているわけではない――若干面倒だと思う気持ちがないと言えば嘘になるかも知れないが――。ボスの座を奪おうと画策していただけあって、人の上に立つのが苦手だなんて言うつもりも毛頭ない。何故新入りであり、まだ16歳にも――ぎりぎり――なっていないようなジョルノがリーダーなんだと不満を口にする者もいなかった。
 それに、実を言うと話を聞いてみたいと思う相手がいる。そのことを考えると、他のグループとの交流はあっても良いのかも知れない。幸いにも、話してみたい相手も『代表者』のひとりだ。
 ジョルノはその人物の姿を、『亀』から少し離れた場所に見付けた。黒い学生服に身を包んだ長身は、遠目からでもすぐ分かる。彼は、時間や場所、世界すらも飛び越えての変異を引き起こした男――通称『あの男』――のことを知る者として、『代表』の中でも特にリーダー的扱いをされている。
(それにしても背が高いな)
 隣に立つ男――違うデザインの学生服を着ていて、赤味がかった色の髪をしている――も特別小柄であるということはないだろうに、彼とその人物の身長差は、少なく見積もっても10センチ……、いや、15センチ以上はある。いつか聞こえてきた『親戚間の世間話のような会話』によれば、彼は確か17歳……。
(んん? ナランチャと同じ? え? 嘘だろ?)
 ジョルノは思わず眉をひそめていた。
(というか、康一くん……今ここにいる彼じゃあなくて、ネアポリスで会った方の康一くん、も、同い年じゃあなかったか? 確かパスポートにはそう書かれて……。んんんん?)
 17歳とは、一体何歳のことだ。おかしいのは誰だ。自分の頭か。
(えーっと……)
 なんだか混乱してきた。
(……うん、やめよう)
 ジョルノは考えることを放棄することに決めた。彼が何歳であっても、とりあえずは何の問題もないのだから。
 軽く頭を振って、再び視線を向けると、件の長身で年齢が不詳の――と言いたくなる――男はいなくなっていた。ちょっと目を離しただけだったのに、いつの間に、どこへ行ったのだろう。隣にいた赤毛の男はまだ視界の中にいるのに。そう思っていると、
「何を見てる?」
 背後から掛けられた低い声は、つい先程までジョルノが眺めていた男、すなわち、空条承太郎のものだった。
「どうも」
 不躾な視線を向けていたことを詫びるでもなく軽く会釈をすると、相手は肩をすくめるような仕草を返した。
 近くで見ると、ますます大きい。ジョルノが座り込んでいることを差し引いても、だ。ジョルノの仲間にも背の高い者はいたが、それ以上だ。あまり近くで視線を合わせていると、首が疲れてしまいそうだ――先程まで彼と会話をしていたらしい男は平気なのだろうか――。
 承太郎は、ジョルノが質問に答えなかったことについては大して気にした様子もなく、感情の乏しい顔で口を開いた。
「さっきの集まりの時、浮かない顔をしていたな」
 数時間前に早速行われた“ミーティング”で顔を合わせた時のことを言われているようだ。ジョルノは先の相手を真似るように肩をすくめ、「そうですか?」と返した。
「あまり社交的な方ではないので」
 適当に返すと、「オレだってそうだ」と承太郎は言った。確かに、「慣れ合いは嫌いだ」なんて言葉を吐いても、全く違和感のない風貌をしている。だが、仲間になったばかりのジョルノのことを気遣う程度には周囲を見ているようだ。そういう人間は、リーダーには向いていると言えるだろう。
「そんなに居心地が悪かったか?」
 そういう言い方をすると語弊がある。「居心地の良い空間だ」なんて言うつもりがないのも事実だが。
「ぼくは貴方達とは立場が違いますし」
「そうか?」
「どちらかというと、ぼくは貴方達の『敵』に近い」
 ことの発端は、ディオ・ブランドーという名の男だった。彼は古代のアイテムの力を借りて、人としての生を捨て、多くの人々を死へと誘った。そのディオと世代を超えてなお戦い続けてきたのが、『ジョースターの血統』だ。いくつもの時代や世界が交差したこの異様な事態も、その男から繋がっている。そしてその男は、ジョルノの父親であるという。端的に言うと、ディオは承太郎達の『敵』であり、承太郎達にとってジョルノは『敵』の息子である。ディオの血を引く者として、ジョルノは、周囲の人間に敵対心を抱かれていたとしても、なんの不思議もない。
 「違いますか」と視線で尋ねるも、相手は相変わらずの無表情だ。
「父親そっくりの性格だとかいうならこっちもそれなりに考えねーといけねーが」
 いつの間にか承太郎は火が付いた煙草を口に銜えていた。彼の国――それとも時代――では、何歳からの喫煙が許可されているのだろうか。
 煙を吐き出しながら、承太郎は言う。
「そうでないなら気にする必要はないだろ」
 彼はさらに「それに」と続けた。
「立場なんて全員違う」
 それはそうだろう。だがそれにしても、
「そうは言われても、気持ちは複雑です」
 人の心というやつは、兎角面倒臭いものである。親と子が別の個体であると理解していても、完全に切り離して考えることが出来ない人間は少なからず存在する。そのこと自体は、どうにも出来ないことなのだろう。全ての人間が割り切った考え方を出来るのであれば、この世の中に存在する問題の多くはそもそも起こっていなかったに違いない。そんな中、誰からも――少なくとも今のところは――敵意を向けられていないことは、いっそ奇妙に思えるくらいだ。ジョルノが「複雑」に感じるのは、むしろ誰も気にしていないようにしか見えないというところにあった。
(みんなそれでいいんだろうか?)
 憎んでほしいわけではないが、ここまで何もないと呆気なく感じる。少なからず自分にも繋がりがあるらしい『ジョースターの血統』という者達は、案外みんな適当なのだろうかとさえ思いたくなる。
「もっと複雑なやつがいる」
 承太郎は溜め息を吐くように言った。
「と言うと?」
「オレの祖父は2人いる」
 そういえばそんなようなことを言っていた。どうやらそれは、父方と母方のそれぞれの祖父で「2人」という意味ではないようだ。実の親と育ての親が違って、それぞれに祖父がいるから、という意味でもなく。正真正銘、「2人いる」。
「なるほど」
 確かに複雑だ。
「本人達は気にしていないみたいだがな」
 それを気にせずにいられるのはすごくないだろうか。
(やっぱり適当なのでは……)
「別の世界からきてるやつらもいるしな」
 そう言われて、ジョルノは帽子を被った2人の男の姿を思い浮かべた。その片方――馬に乗っている方――に至っては、すでに並行世界というものを完全に認識しているようで、あっさり過ぎるくらいあっさりとこの状況を理解していた。
(適当なんじゃあなく、適応力が異様に高いんだろうか)
 自分がずいぶんと“普通の人間”に思えてきた。
「オレには年下の叔父と年上の娘がいる……」
「なるほど、複雑ですね」
 だから気にするなと、言葉以外の何かが伝えてくる。
 どうも先程から、妙に気遣われている気がする。自分はそんなに場の空気に溶け込めずにいたのだろうか。それとも、ジョルノの能力からその父親である男を倒す方法でも見付けられないかと期待されているのか。会ったこともない父親のことがその子供に分かるのかと問われると、少なくともその前例は身近にあったとだけは言えるだろう。今更のように、自分が倒そうとしていた相手――この事態に巻き込まれてから敵となった『あの男』のことではない――の娘、トリッシュは、自分と似た立場の人間だったのだなと気付いた。だが、母親との仲も良好であったとは言えない――思い出話なんてほとんど聞いたことがない――ジョルノが持つ『父親に関する情報』は、トリッシュのそれより遥かに少ない。
「……聞いてもいいですか?」
 承太郎は煙草を銜えたままわずかに首を傾げた。
「父を……、『DIO』のことを、知っているんですよね?」
 今彼等が戦っている『あの男』ではなく、元いた世界のディオ・ブランドーのことを。
 そう尋ねたのは、「自分が何者から生まれたのか」というトリッシュの言葉を、思い出していたからなのかも知れない。
 承太郎は何か考えるような表情をした後で、「まあ、一応」と答えた。
 ジョルノは、続く言葉を待った。が、それはなかなか発せられない。痺れを切らしたように、さらに尋ねた。
「ぼくと似ていますか?」
 つい先程「そっくりな性格なら考える」と言われたが、そもそもどういう性格だったのかも知らない。『いいヒト』でないことは間違いないだろうとは思うが。
 承太郎は首を振った。
「オレも詳しく知っているわけじゃあない。実際に対面した時間は、実は短い」
「では見た目は?」
 ジョルノは父の写真を持っている。それを手に入れたのは、何年も前の幼い頃だったとは記憶しているが、その経緯は全く覚えていない――母の持ち物だったのだろうか――。取り出して眺めることは、ほとんどなくなって久しい。そもそも、眺めたところでほとんど顔が分からないような写真なのだ。そこに自身の面影を見付けることは、正直難しいと言わざるを得ない。
「『あの男』の姿は、『DIO』とはだいぶ違うんですね?」
「ああ」
 承太郎は頷いた。
「あいつの方がまだ人間に近く見えたかな」
 それはどっちのことを言っているのだろう。
「ぼくとは、どうです」
「そうだな……」
 承太郎は腰を屈め、顔をぐっと近付けるように、ジョルノのことをまじまじと見た。ジョルノは、その瞳が東洋人には珍しく、深い緑色をしていることに気付いた。そこに映っているのは、狼狽えたような自分の顔だ。
(近いッ)
 思わず後退しかけたのを阻止するように、伸びてきた手が顎に触れてきて上を向かされた。いつの間にかジョルノは息を止めていた。
「似てると言えば似てる……かな」
「そう、ですか」
 承太郎が姿勢を戻したお陰で、2人の間の距離は適正なそれに戻る。そのことに密かに安堵しながら、ジョルノは短く息を吐いた。
「あいつの方が悪人面だがな」
 フォローのつもりだろうか。正直、質問に対する回答の内容なんて、ほとんど頭に入ってきていなかったのだが。
「詳しく知りたければ、オレよりもオレのじじいのじいさんに聞いてみた方がいいかも知れないぜ。DIOの子供時代を知ってるはずだ」
 その姿を探すように承太郎の視線が動くが、どうやら見えるところにはいないようだ。だがジョルノも、その人物のことは覚えている。承太郎に引けを取らぬ体格の持ち主で、穏やかな表情を除けば、承太郎に似ていると言えるかも知れない――これこそが血のなせる業だろうか――。名前はジョナサン・ジョースター。実を言うと、彼とも少し話をしてみたいと思っていた――そう感じさせる何かがあるように思えてならなかった――。
 煙草を吸い終えて満足したのか、それとも何か他の目的を果たしたのか、承太郎は「じゃあな」と言って背を向けた。ジョルノはそれを、無言で見送った。
 そろそろ自分も戻ろうかと思って腰を上げたところで、真っ直ぐこちらへ向かってくる人影が見えた。ジョルノの仲間のひとり、ミスタだ。
「よう」
 軽く手を上げる仕草に、同じ仕草を返す。ジョルノの傍までやってきた彼は、何かを探すように視線を後方へと向けた。
「なんて名前だっけ、今のやつ」
 どうやら承太郎と話をしていたのが見えていたらしい。会話の内容が気になってやってきたのか。そんなに険悪そうに見えたのだろうか。そんなことを考えていると、
「お前今セクハラされてなかった?」
「気の所為です」
 おそらく冗談で言っているのだろうからと、冗談で返すことにした。
「っていうか、そう見えたなら助けにきてくださいよ」
「だから来ただろ」
「遅い。年下相手にびびってたんじゃあないですか」
「んなわけあるか! ってか、年下!? うっそぉ!?」
 ミスタはもう見えなくなった姿を探すように、何度も振り返った。どうやら、混乱に巻き込んでしまったようだ。
(自分で巻き込んでおいてなんだけど、)
 ただでさえ複雑な事態に遭遇しているというのに、これ以上面倒なことを考えるのは得策ではない。
「とりあえず、明日に備えて今日はもう休むようにと、『リーダー』からの指示です。いつまでも屋根の上にいるわけにもいきませんし、そろそろ戻りましょう」
 ミスタはまだ困惑した表情をしつつも、ジョルノに次いで移動を始めた。
 他の仲間達も、探索に飽きて戻ってきている頃だろうか。もし彼等が退屈しているようであれば、他愛のない世間話でもと、声を掛けてみてもいいかも知れない。


2020,03,10


あみだくじで3部と5部(の主人公)の混部を書くことになっちゃったんですよ。
承太郎とジョルノって、どんな話だ!?
とりあえず攻めの頂点の一角(もう1人はDIO。異論は認めない)と最年少主人公(少年時代のジョナサン除く)だなと思ったら、こうなりました。
でも一番書きたかったのはたぶん、
3部太郎と5部康一くんとナランチャが同い年って、嘘だろ? なあ、嘘だと言ってくれよ!!
これです(笑)。
フーゴの名前が書けなかったので、このジョルノはストーリーモードしかやってないのかも知れません(笑)。
<利鳴>

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