EoH設定 仗助とジョニィ 全年齢


  Overhang


 亀の中も随分と大所帯になってきた。どこまでも広がるらしい謎の仕組みをしているとはいえ、狭苦しいというか息苦しいというか。
 なのでジョニィ・ジョースターは外の空気を吸いに散歩に出る事にした。
 誰がリーダーというわけでもないが主に亀を持ち歩き移動している――全員を移動させている――『ここ』よりも少し過去の世界の男に了承を得て車椅子で外に出る。
 1999年の日本の道路を馬で歩行するわけにはいかないが、どこまでもアスファルトが続いているので車椅子はとても使いやすい。
 しかし車椅子特有の問題は付き纏う。段差や急な坂道は無くても、青空広がる時間帯には人の目が有った。
 足の不自由な異国の青年が1人車椅子を漕いでいる。
 通り過ぎる人の目が常に痛く刺さった。
 上品な人間が多く「まあ可哀想」と言った目で見られるだけなので未だ良い。国によっては足が無いのは前世で大罪を犯した証とされていたりする。義足でも何でもないが全く動かないので誤解されても可笑しくない。
 それに先程通り過ぎた若い母親と幼い子供。母に向かって彼は何なのかとしきりに聞いていた。失礼だからと言っていた母も帰宅した後に「悪い事をすると貴方もああなるのよ」と話しているのだろう。
 善良に生きていても不幸な事故でこうなる人間も居るのだからと思うが、自分は調子に乗り過ぎ実際に悪い事をしたようなものだとも思った。
 それにしても充分に発展していながら自然の残る景観。空気も美味しいので快適な散歩ではある。
 見ていて面白いのも有る。例えば24時間営業している小売店。入店してみた事が有るが食品を中心に、驚く程に何でも揃う。品揃えが豊富過ぎる店というだけなら祖国に無いとは言わないが、朝から晩までのみならず何曜日になっても休む事の無い店は流石に初めて見た。
 同じく24時間365日稼働し続ける『自動販売機』も初めて見た。こちらは飲み物しか無いが、無人の箱からきちんと冷えた物が朝でも夜でも出てくる。
 また1つ自動販売機を見付けたのでジョニィは近寄ってみた。
 様々な缶飲料が並んでいる。同じ物は多くて2つしか無いので色とりどりといった印象だ。
 見ているだけで楽しいし、見ている事しか出来ない。
 この国・時代の通貨を持っていない。元より買うつもりは無いが『ここ』では無一文同然だ。
 否、それだけではない。『車椅子では飲み物のボタンに届かない』。下に有る取り出し口は手を伸ばせば届く。機械仕掛けの箱が販売するには上から落とすのが1番効率が良いのだろう。
 右上の青地に白い模様と文字の入った缶が特に良いなと眺めていると、硬貨を入れる音がした。続いて伸びてきた指がその缶の下のボタンをおした。ガコンと音がする。
「取れるか?」
 問い掛けに「ああ」と答え、体を丸めるようにして取り出し口に手を突っ込んだ。
 しっかり冷えた缶飲料を取り出し、購入した相手に向ける。
 自動販売機よりも背の高い人間が何人か居る亀の中、それよりはやや低いが充分大きな男、東方仗助。
 1度見たら忘れない髪型が特徴的な仗助はにこと笑うばかりで缶飲料を受け取らない。
「それだろ?」
「何が?」
「お前が飲みたくて見てたやつ。でもよォ、スポーツドリンクって風邪引いてる時は滅茶苦茶美味いけど、元気な時に飲んだらあんまり美味くなくねーか?」
「そう、なのか?」
 手の体温を奪い続ける缶飲料を改めて見てみた。
「あれ、それじゃあなかったのか? 欲しかったやつ」
「欲しかったやつ?」眉間に皺を作ってから「……いや、これだよ。有難う」
 欲しくて眺めていたと思ったのだろう。
 果たしてこの国・時代の金を持っているからの余裕か、それとも立ち上がれず届かない弱者への施しか。
 どちらにしろ得をした、という事にして早速缶を開ける。
「……仗助も飲む?」
 一口どうぞ、あるいはもう1本買うなら待っているの意で尋ねた。
「俺は炭酸系でも飲むかなあ」
 1度はしまった財布を取り出して再び硬貨を入れる。
「……治してやれなくて悪ぃな」
 何の事かと思った。しかしすぐにこの両足の事だと気付いた。適当に「別にいいよ」と答えた。
 自身以外という条件は有るものの、仗助のスタンド能力は治癒に特化している。
「元に戻す、ってだけの事なんだ。承太郎さんが、ってもあのおっかねー若い方じゃあなくてこの時代の真っ白い服着た方の承太郎さんが「世界で一番優しい能力」なんて言ってくれたけど、戻す先の物が無かったらどうにもしてやれねーんだよ」
「……って事は、生まれ付きじゃあなかったら、何でも戻せるのか? 何年経ってても元に戻せるのか?」
「何年……うーん…試した事はねーけど俺が認識出来る位の『前』なら大丈夫なんじゃあないか? 写真なら何年も前にビリビリに破れたやつも元に戻せたぜ」
「仗助は凄いな……スタンドが凄いだけとか謙遜するなよ。スタンドは自分自身なんだから」
 そこまで言った甲斐が有ったか素直に、やや照れたように「有難う」と返してきた。
 しかし何年も前に『戻す』のだから、この足には適用しないかもしれない。
 体の一部が、下半身といった一部分と呼ぶには大き過ぎる範囲が、上半身を残して過去の状態に戻る――自分の体ではないと認識して拒絶反応が起こりそうだ。
 合わないから切り落とす、なんて事態だけは避けなくては。動かないのと生えていないのとは大きく違う。
「もしかして、その足事故でなのか? 曲がったりしてないし馬にも器用に乗ってるから、てっきり生まれ付き動かないんだと思ってたぜ。どの位前のどんな事故なんだ?」
 事故ではなく自業自得の怪我だと言ったら、仗助はどう思うだろう。言えない。言いたくない。知られたくない。
 ジョニィは首を横に振った。
 思い出したくない程の辛い事故だと勘違いしてくれても良いし、聞いてみただけで実際には生まれ付きの障害だと思われても良い。
 もう、どうでもいい。
「俺じゃあなくてアイツに頼めば何とか出来るかもしれないな」
「ああ、あの……名前、何だっけ。みつあみにしてる奴」
「ジョルノ」
「そうだった。怪我とか治しているんじゃあなくて、新しい体の部品を作っているだけだって本人が言っていた」
 という事は、動く足を作る為にこの足を切り落とさなければならないのでは。
 下半身には感覚が無いので痛くも痒くもないだろう。ただ、そこに新たな足を作っても動かないかもしれない。
 神経の生きている所から切り取り、そこから新たな足を生やすのか? それは激痛なんて言葉で事足りるのか?
「止めといた方が良さそうだぜ」
 仗助の言葉に同意する。
「あとはジョナサンか? でも暫く動いてないなら厳しそうだな」
「ジョナサン?」
 理由有って印象深い名前だが、果たして『ジョナサン』は『どれ』だったか。
「似た名前が多過ぎる……」
「確かに」仗助は悪戯っ子のように笑い「ジョナサンは1番デカい優しそうな方のお兄さん」
「ああ彼か。わかるわかる」
 この自動販売機よりも背が高くどんな馬にも乗れなさそうな程大きな男が亀の中に3人も居る。
 充分に背の高い――だから実は顔が遠いな、と思いながら見上げている――仗助よりも更に高い。その中で最も筋肉質で、しかし振る舞い等が地位の高い人間のそれを思わせる男の名前がジョナサン。
 嗚呼そうだ、この不思議な巡り合わせの運命の中で最初に会った彼の名前がジョナサンだ。
 同じ背丈のもう2人の名前は何だっただろう。彼らもまた似た名前をしている。
「なのに俺の名前は覚えてるんだな」
「え?」
「ジョルノとジョナサンは覚えてなくても、俺の名前は普通に呼んでたから覚えててくれたんだなあって。サンキュ」
「……どう致しまして」
 見るからに東洋人らしい真っ黒い髪の色で、しかし瞳は色素がとても薄い。そんな仗助の笑顔が眩し過ぎてジョニィは目を逸らした。
 下に広がるのはアスファルト。歩くのにも車椅子を走らせるのにも困らない。
「さては同じ名前が居るからって覚えてただけだな? まあ良いんだけどよ」
 そういえば亀に集った中に同じ発音の名前の人間が2人居た。片方は仗助だったか。となるともう1人も表記の違う『じょうすけ』だが、果たして誰だっただろう。水平帽子の男だっただろうか。
「本当は」
「ん?」
 顔を上げて見直した、真っ直ぐに見返してくる目。ジョニィの吐き出してしまおうかと思った言葉はそれに見詰められると鉛のように重たく喉を上れない。
 何でもない、と言ってしまおうか。嗚呼仗助に嫌われたくないが、必要の無い嘘を吐きたくもない。
「……治してもらえるかもって、期待して覚えてた」
 幾ら仲間だとはいえこんなに大勢の名前をいっぺんに覚えられる気がしない。まして一時(いっとき)の関係でしかない。となると関わりの強い人の名前から順に覚えていくべきだ。言い換えれば関わりの少ない者は覚えられないままという程後回しになる。
 そんな自分の事しか考えていない、何とも浅はかな人間。
 認めようと思った。少し位は改善しようとも思えた。
「でも治せても、元居た所に戻ったらまた動かないとか有りそうだって思った」だから頼みには行かず、しかし「1度覚えた名前をわざわざ忘れる必要なんて無いから、仗助の名前は覚えてるんだ」
 その第一歩として正直に言ってみた。覚えた理由を、忘れないという誓いも添えて。
「で、こっちの名前は覚えてんの?」
「あ? あー……えっと、そうだなあ」
 仗助は目を閉じ顎に手を当て、わざとらしく考え込む。
 しかしすぐに目を開け爽やかに笑った。
「ジョニィ」
「正解」
 成程これは世界で1番優しい、と思えるような空気感。噎せ返る程吸い込みたい。
 誰かが悪い事をしたらああなるのよと自分の足を指して言うかもしれない。それよりも、良い事をしてああなりなさいと仗助を指して言うべきだ。
 自動販売機から漸く缶を取り出した仗助のように優しい人間になるべく努力をしてみようと思いながら、2人並んで飲み物を飲んだ。


2020,03,10


主人公2人の混部書こうぜペアはあみだで決めて!とくじを引いたらご覧の有様だよ。上手い具合いに接点0を引きました。
EoHのジョニィがジャイロ以外に興味無さ過ぎて困る。登場時や勝利時、受け継がれる遺志の掛け合い無さ過ぎ。
初回ロットだけかもしれないけどジョニィの受け継がれる遺志、受け継ぐ側の汎用台詞自体無い。さてはジャイロ以外から受け継ぐ気が無いね?
<雪架>

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