仗助中心 全年齢 EoH設定混部


  Breath


 左の脇腹が痛い。別に笑い過ぎたわけでも内臓を壊したわけでもなく、単に先程攻撃を喰らってしまっただけに過ぎない。
「っくしょォー……」
 これが自分でなければすぐに治せるのに。東方仗助は痛みともどかしさに顔を歪めた。
 SF映画に出てくる宇宙船のように内部だけが広い亀の中で、大きなソファの1つの中央に腰を掛けている。
 学ランの破れはすぐに脱いで『元に戻し』た。仗助のスタンドのクレイジーダイヤモンドは自分以外ならば元に戻す事が出来る。人体の怪我然り、抉れたアスファルト然り。
 同時に高い攻撃力も俊敏性も持ち合わせているのだが、回復役が怪我をしてはならないと亀に居るように言われた。既に軽く怪我をしているのだが。
「よォー! 治してくれ!」
 突然の声に顔を上げるとジョセフ・ジョースターがへらへらと笑って立っている。可笑しな方向に曲がった左腕を自身の血液で染めて。
「ちょっ、アンタっ、クレイジーダイヤモンド!」
 慌てて立ち上がりスタンドを呼び出す。人型のスタンドが優しく触れてジョセフの左腕を元に戻す。
 非常に焦ったので心臓がバクバクと煩い音を立てている。完全に元の筋骨隆々で逞しい腕に戻ったのを確認し、ふうと息を吐きながらソファに座り直した。
「流石だなぁ、そのスタンドってやつ! もう全く痛くも痒くもねーぜ」
「……そうやって治るからって、無茶はしないで下さいっスよ」
 ジョセフに限らず今亀の外で襲い来る恐竜達と戦っている皆に言いたい。治るからと言って怪我をするような無茶な戦法は取るなと。
 万が一自分が気絶していたら、或いはスタンド能力を抜き取られたらでもいい。治るからと負った大怪我が治せない状況にあったら困る。
 人間は息が出来なければ死ぬし、大量に出血してもやはり死ぬ。そして死んだ者を生き返らせる事は仗助にも誰にも出来ない。
「へーへー、わっかりました」
 あからさまに不貞腐れた顔でジョセフは仗助の左隣にどかと音や埃を立てて座った。
 本当コイツ、顔以外は『ジョナサン』と正反対だよなぁ。
 ジョセフと彼の祖父に当たるジョナサン・ジョースターを見た時、まさに瓜二つという言葉が浮かんだ。作りの良い顔も恵まれた体格もとてもよく似ている。
 但し一方は紳士的だが、もう一方のジョセフはどうにもガサツや大雑把なんて言葉の当てはまりそうなタイプだ。
 見てくれは年の近い兄弟位にしか見えないのだが――現在の年齢は5つも離れていない自分とジョセフに至っては親子らしいので誰にも何とも言えないでいた。
「テキトーな奴は他にも居るしな」
「あン?」
「何でも無いっス。外じゃあ大勢で派手なドンパチ繰り広げてんのに、俺はこうして座ってるだけなんてなぁって思っただけっス」
「オメーはここで俺みたいに怪我した奴の手当てが最優先」
「怪我を治せるってだけなら他にも出来る奴が居ると思うんスけど」
 生命を生み出すスタンドの持ち主、ジョルノ・ジョバァーナも傷を塞ぐ事が出来る。
 ましてジョルノは仗助と比べれば華奢に部類される程度の体格をしているし、本人だけでなくスタンドも同様にそれ程のパワーを持っていない。
 『回復専門』ならばジョルノの方が断然向いている。1つの、誰もがジョルノではなく仗助に治してもらいたがる理由さえ無ければ。
「あー駄目駄目ッ! すげーちっちぇ方のジョジョは治す時滅茶苦茶痛いから駄目だ!」
 問題はそこに有る。クレイジーダイヤモンドの修復する、以前の状態に戻す能力とゴールドエクスペリエンスの作り出した細胞を無理矢理繋ぎ合わせる能力は似ているようで正反対。傷口を塞いでもらった際には酷い目に遭った。
「……って、凄ぇちっちゃい方?」
 聞く所同い年のジョルノは同年代からすれば充分に身長は有る。同じ15歳なのだから広瀬康一位の身長であっても可笑しくないのだが、康一と比べればジョルノの方が15cm程大きいだろう。
 ジョジョ、というニックネームが付けられる仲間の中では確かに1番小さい。しかし小さいというのは語弊が有り、他の『ジョジョ』達が異様に背が高いだけだ。成長途中の己も含めて。
「凄ぇ、って事はちっとだけ小さいジョジョって呼んでる人も居るんスか」
「おう」
「徐倫、さん?」
 空条承太郎の娘の空条徐倫は女性にしては背の高い方でジョルノよりも更に有るが、それでもジョジョと呼ばれる中では小さい方になる。
「いや、あれは女のジョジョ」
 どうやら形容詞は豊富らしい。
「ちっとだけちっこいジョジョはオメーだよ」
「はぁ!?」
「承太郎っだっけ? 普通位のジョジョの『叔父』にあたるなんて複雑な家庭環境ってやつだよなぁ。しかも言いにくい名前ばっかりで正直覚えらんねーから、おじーちゃんと一緒に大きさで呼び分けてんだぜ」
 しかしジョナサンは『おじいちゃん』呼びなのか。
「俺小さいなんて言われたの生まれて初めてなんスけど……いや生まれたばっかの時はわかんねぇけど。確かにアンタや若い頃の承太郎さんに比べたらちっとは小さいのかもしれねぇけど、若い頃の承太郎さん基準にすんのは可笑しいんじゃあ――」
「ジョセフにちょっと小さいジョジョ」
 早速その有り得ない呼び方をしてきたのは案の定ジョナサンで、目が合うと巨体に似合わない穏やかな笑みを見せた。
「何だかちょっと珍しい組み合わせだね。僕も隣に座って良いかな?」
「勿論だぜ!」
 ジョセフが幼稚園児の如く元気に答えたが、ソファの空きは仗助の右側のみ。ジョナサンは笑顔のまま有難うとそこに座る。
「俺達の組み合わせってそんな珍しいかァ?」
「ご年配の方のジョセフと仗助が一緒に居る所はよく見るんだけどね。この前も2人で戦いに出ていたし」
 仗助の体を挟んでの会話。確かにこれは端から見れば『仗助が少し小さい』になるかもしれない。柔和な空気が流れてはいるが2人の体格から来る圧迫感に、仗助は無意味に髪を整え直してみた。
「仗助とあのジョセフは親子らしいから……ああ、つまり君達も親子か」
「そういやそうだな」
「年が近いから、全然そんな感じがしないね。ね、仗助」
「そっスね……」
 はなからジョセフを『父親』だとは思っていない――未だ30は年上の異母姉すら生まれていない頃の姿だ――ので置いておいて。
 もう1人の、承太郎という孫まで居る時間軸から来たジョセフと話すのは未だ良い。親子というより祖父と孫なので逆に話しやすい。
 気まずい関係とはいえ向こうは人見知りの一切無いコミュニケーション能力の塊だし、こちらは既に『高齢の実父との邂逅』を果たした後で、尚且つ数ヶ月前までは祖父と同居していた。
 嗚呼そうだ、祖父とあの年のジョセフはどこか似ている。正義感が強く愛する家族や町を守る為なら何だって出来る。豪快な笑い方がよく似合うし、意外に愛嬌が有る所はそっくりと言える。
 一方でこちらのジョセフは、そしてジョナサンは、仗助と年が殆ど離れていない。それが気まずい。
 祖父や学校の教職員のような『おじさん』『おじいさん』と違い、年上だが年若い男との接点が今まで殆ど無かった。
 精々が最近厄介になった承太郎位。彼も10は離れているし、今行動している2つしか離れていない承太郎はやはり慣れない。
 っつーか若い承太郎さんは別の意味でおっかねーんだよ……
 自分が髪型を真似る程憧れている名前も知らない学生服の少年と、それこそ同じ位の年ではある筈だが――否、あの頃の自分は幼かった。それこそ年が離れていた。ずっとずっと大きく見えた。今左右に居る2人のように。
「ちょっと小さいジョジョ」
 相変わらず自分の事だとは思えない。
「お腹空いたのかい?」
「へ?」
「そこ」左脇腹を指し「ずっと押さえているみたいだから」
「ああ、ここ……」
 手を放してもそこはいたって普通の学生服なのだが。
「……ちっと、怪我しちまいまして」
「マジかよ」
 ジョセフがずいと顔を近付け覗き込んでくる。
「掠り傷っスから。骨折れたとかじゃあないんで」
「凄く小さいジョジョを呼んでこようか?」
「いやアイツのスタンド痛いからいいっス。それにそんな酷くないんで」
 意識すればより痛む。意識の外でも手で押さえてはいたが、彼らに要らぬ心配をさせたくない。
 それより本当に、ジョセフだけではなくジョナサンまでもが少し小さい、とても小さいで区別しているとは。
「じゃあ、痛みを取り除くだけだけど」
 言ってジョナサンが服の上に手を翳した。
 何をする気かと黙ってジョナサンの顔を見ていると、彼は目を閉じ大きく息を吸い込んだ。そしてゆっくりと吐き出す。
 5本の指を伸ばして服越しに傷口に触れる。中指が丁度当たっている――のだが、痛みは無い。それどころか何かが流れ込む感触が有り、じくじくとした痛みが引き始めた。
「これは……」
「小さな怪我とはいえ、放っておいたら化膿してしまう」
 目を開けてこちらの顔をじっと見るジョナサンの表情は、咎めるのではなく小さな子供を諭すそれだ。
「オメー駄目じゃあねぇか!」
 後追いで取り敢えず叱ってくるジョセフは頼れる兄のジョナサンと顔しか似ていない弟のようで、仗助は口の端を密か上げる。
「これどうやったんスか? その、2人共スタンド持ってないっつーか見えないんスよね?」
「波紋の力だよ。だから君のように元の状態に戻したり、あと凄く小さいジョジョみたいに縫い合わせるように治したりは出来ないんだ。太陽の力で呼吸を正して痛みを和らげて、代謝を良くして治癒力を高めて……言葉にすると少し難しいね」
「呼吸法って位だから、ようは『息の仕方』っスよね?」
 そんな事だけで他人の体調を良くできるものなのか。
 しかしスタンドが見えない人間からすれば、自分以外の全てを修復出来る能力の方が可笑しいだろう。もしかするとジョナサンの波紋の呼吸は長い年月を掛けてスタンドになり、癒せる能力になるのかもしれない。
 ジョナサンの手が放れた傷口は随分と昔に怪我をした程度の違和感こそ残っているが痛みは全く無くなっていた。
「確かに言ってしまえば息の仕方だ。僕もジョセフも出来るから君も出来るんじゃあないかな」
「ちょっとやってみようぜ」
「は? どうやって?」
「どうやって……どうやるんだ?」
「何で自分がやってる息の仕方がわかんねぇんスか」
「そりゃあ……何でだ?」
 ジョセフは海外ドラマばりに片眉を下げて首を傾げる。
 大袈裟だが思えば彼らは外国人だ。今15年以上も触れてこなかった自分のルーツに、普通に生きていれば先ず有り得ない『直接話す』という事を体験している。そう思うと背筋が伸びた。
 幼い頃は見るからに異国の血が混ざっている事や高熱を出したので病弱と思われた事でもあるが、何より父親が居ない事でからかわれた。あの頃は未だそういった時代だった。言われるだけの仗助ではないにしろ。
 少しでも父を知っていれば怨んだかもしれない。全く情報が無かったので怨みようが無かった。唯一聞かされてきたのは母――として――は大恋愛の末に自分を生んだという事のみ。
 その時点で既にこんなに若くはなかったが、それでも母の「誰より愛した」気持ちがわかる気がする。
 ゲイとかそういうんじゃあねーけど。
 父も高祖父も、とても魅力的だ。左右から挟まれて潰されてしまいそうなのに、だというのにこんなにも――
「楽しいっス」
 破顔した仗助に対し、ジョセフは反対側へと首を傾げ直した。
 一方でジョナサンは噛み締めるように頷く。
「じゃあちょっと練習してみようか、波紋の呼吸。きちんと説明出来るかどうか自信は無いけれど」
「おじーちゃん、俺にも教えて!」
「ジョセフはもう出来るじゃあないか」
「でも俺基本が出来てねぇのよ、基本が。しっかり覚えたら俺も怪我治したり出来るようになるって事だろ? 万が一ちっとだけ小さいジョジョが波紋の呼吸出来なくても、俺が治してやれるようになるじゃん」
 まさか自分を気遣ってくれるとは。
 気紛れかもしれないその言葉が嬉しくて仗助も続けて口を開いた。
「あれ、ゾンビに凄い有効っスもんね。今は恐竜がわんさか出たってんで、まとめてぶっ飛ばせるような奴らが前線に居ますけど、これがゾンビだったらやっぱ波紋の呼吸ってやつが出来る方が良いっつーか、その、何つーか」
「おじーちゃーん、ちっと小せージョジョが照れてるー」
「照れてる?」
「余計な事言ってんじゃあねぇッ!」
 仗助は大声を上げながら再び勢い良く立ち上がった。完全に照れ隠しだ。
「オメーそんなだから波紋の呼吸が出来ねーんだよ。呼吸、息の仕方って言ったのは自分じゃあねぇか」
 見上げてくる顔がにぃと笑う。仗助も「少し小さい」に値しない程背が有るので、立ち上がりさえすれば座ったままの2人よりは大きくなる。
「先ずは息を整えろ。焦るんじゃあない」真摯な声音で「体内で練るのは後だ。お前になら出来る」
 俺の、俺達の誇り高い血統なのだから。そう言われているような誇らしい気分になった。


2018,05,10


本当は高齢(4部)ジョセフから何と無く聞いた波紋の呼吸で吸血鬼を薙ぎ倒す仗助のお話が欲しいとか思ってたんですけど其れはまぁ書けないんで置いといて。
EoHのカスタマイズからのフリーバトルが楽しくて楽しくて未だに遊べます。そんなEoH合わせでした。
ジョナサンもジョセフも受けだと思ってるけどデカいからか百合とは呼べないというか、195cmの受けに出会うとは思わなかった。
<雪架>

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