ミスジョル 仗露 全年齢 EoH設定混部


  Role


 一行はいつの間にかかなりの大所帯になっていた。仲間になった者の仲間が合流し、その仲間がまた加わってくる。そんなことを繰り返し、“この事態”に関わっている者は、もう30人を越えたところか。
 これだけの人数になると、その“キャラクター”は実に多様であるが、充分な時間が取れずに、簡単な――おざなりな――自己紹介を済ませただけになってしまった相手もいる中で、すでに顔と名前を一致させるのが難しくなってきている者も少ないとは言い切れない――しかも同姓同名の者や同一人物までいるというのだからややこしい――。そんな状況にあっても、全員の目的――倒すべき相手――は共通しているためか、不思議と大きな混乱は起きていない。続く戦いの中で負傷者を全く出さないということは――残念ながら――不可能ではあるが、幸いなことにもそれをカバー出来るスタンド使いがいるお陰で、――精神的な疲労は別として――全員が無事であると言える状態を保っている。
 かつて――この奇妙な事態が起こる前――は、負傷した仲間達を助けるのはジョルノの役目であった。と言っても、彼のスタンド能力では、完全な治療が出来るわけではなく、失った“パーツ”を作り出して傷を埋めるだけの、いわば「応急処置よりは上位」といった程度のことしか出来ないというのが現実だ。結局のところ、完治には時間の経過と本人の自己治癒力が必要となる。それより早く生命の炎が燃え尽きてしまえば、もうどうすることも出来ない。そして、更に大きな要因として、その“治療”には痛みを伴う。それは、泣く子も黙るギャングが、泣きはしないまでも黙っていることが出来ずに喚き出すほどの痛みだ。小さな傷程度なら、むしろ放置しておく方がマシと言えるだろう。
(ぼくに出来るのは、その程度だ)
 “その程度”の能力に救われる場面が何度もあったことは間違いない事実ではあるが。
 「もう少し、“治す”ことに特化した能力であったら……」と思ったことは、ないではない。もしそれが可能であれば、“今”の戦いも、“その前”の攻防も、もっと困難は少なく済んでいたかも知れない。だがないものねだりをしたところで、どうにもならない。そんなことをしている暇があるなら、間違いなく待ち受けているであろう次の戦いへ向けて、心身を休ませておく方がよっぽど有意義だ。
 人が多くなり過ぎて窮屈になった“亀”から抜け出し、ジョルノは外の風景を見廻した。今回辿り着いた場所は果たしてどこだろうと思ってみれば、それは見覚えのある――すでに何度目になるのかは把握出来なくなってきている――コロッセオの中だった。あまりにも色々な場所と時代を行き来した所為で、時間の感覚は疾うに狂ってしまっているが、降り注ぐ日差しは充分に高い。これなら、夜の間にしか現れない吸血ゾンビ等の襲撃はないものと思って良いだろう。警戒すべき対象がわずかにでも減ることはありがたい。
 それでも周囲への注意はなくさないまま、ジョルノは日陰を選んで腰を降ろした。ふうと吐いた息をより遠くへ運ぶような風は、春の陽気を含んで温かい。このまま微睡みの中に意識を手放すことが出来たら、どんなに幸せだろうか。
 それを許すまいとするかのように現れたのは、意外と言うべきか、そろそろ見飽きてきた敵の姿ではなかった。「なぁ君」と掛けられた声に顔を上げれば、そこにいたのは風変わりなヘアバンドをした青年だった。この奇妙な旅の中で出会った者のひとりではあるが、直接言葉を交わすのは初めてのことに近いかも知れない。名前をきちんと聞いていたかも定かではないが、相手はそんなことは気に掛けていないようだ――あるいはジョルノが彼のことを知らなくとも、彼は誰かに聞く等してジョルノのことを知っているのかも知れない――。
「君のスタンドで傷の治療が出来ると聞いたんだが」
「貴方は?」
「おっと失礼。ぼくの名前は岸辺露伴。1999年の杜王町から来た」
「ロハン……」
 誰かの口から聞いたことがあるような気がする――それも、本人に会うよりも更に前に――。確かその名前の下に『先生』と職業を表す単語が付いていたのではなかったか――教師や医者のようには見えないが――。だがそれ以上のこと――その名を誰の口から聞いたのか――は思い出せない――日本に住んでいたことはあるが、当時の知り合いなんて者は皆無に等しい――。まあ、それほど重要なことではないだろうと、妙な感覚を振り払う。今はそれより先に気にすべきことがある。
「負傷したんですか? また敵が?」
「いや、これはさっきの戦いのだ。新しい敵は現れていないはずだな。ついでに、命に関わるようなものではない」
 そう答えた彼は、それまで背中に隠すようにしていた左手を差し出した。肘の下辺りから手首へ掛けてが、血液の色で染まっている。出血はすでに止まりつつあるようだが、切れ味の鈍いナイフで無理に抉ったようなその傷は、決して浅いとは言えないようだ。だが、
「ぼくの能力は厳密に言えば『治す』ことは出来ませんよ」
 流れた血液を補充したいということなら可能だが。そういうことではないのなら、
「ぼくよりも、仗助の方が適任だと思います」
 この事態に巻き込まれてから出会った東方仗助という名の男は、ジョルノには出来ない『完全に治す』能力を持っていた。ジョルノが目撃した限りでは、どんな傷でもわずかな痛みすら残さずに消してしまえるようだ――ジョルノと同じで死者を蘇らせることは不可能らしいが――。今の一行の戦いは、彼の存在によって続けられていると言っても良いかも知れない。ひとつの戦いが終わる度に、仗助の許には負傷者が集まってくる。見た目――絵に描いたような不良の姿――はともかく、根は優しいらしい彼は、嫌な顔ひとつせずに傷付いた仲間達に手を差し伸べる。
 だが、ジョルノの言葉に露伴は眉をひそめた。「貴方の手当てをするのが嫌だと言っているわけではありませんよ」と言い加えても、それは変わらなかった。
「ぼくの『治療』は、はっきり言って痛いですよ」
 大抵の者が「それなら仗助の方がいい」と言うセリフを口にしてもなお、露伴の眉間からしわは消えない。仗助の能力に、何か不満があるとでも言うのだろうか。
 露伴の口から言葉が出てくるよりも早く、ジョルノはとあることに気付いて「おや」と思った。
「貴方は確か、仗助と面識があるのでは?」
 記憶違いでなければ、彼等は同じ時代の同じ場所――先程露伴から聞いた1999年の杜王町という地名――からやってきているはずだ。端的に言ってしまえば、彼等は“元からの”仲間なのだろうと思ったのだが……。あるいは、付き合いが浅く、スタンド能力までは把握していないという可能性もあるか――頑なに己の能力を明かしたがらない者も時々いる――と思い至ったが、それは本人の口からあっさりと否定された。
「知ってる。それでも君に頼みたいんだ」
 苦々しい表情だ。どうやら彼は仗助に頼みごとをするのを嫌がっているのだなとようやく察する。仗助のことを嫌っているのか、あるいはそこまではいかずとも、苦手に思っているのか。過去に何かあったのだろうか。そんな相手に頼むくらいなら、よく知りもしない相手とその能力に縋る方がマシだということか――例え痛みがあるとしても――。
 変わった人間だな、とジョルノは思った。そんなに避けたいと思っている相手と行動を共にし続けているのだから。途中で同行をやめるチャンスは何度もあったはずだ。
「まあ、そこまで言うなら、ぼくは構いませんが。後で『話が違う』と文句を言わないでくださいよ」
 ジョルノがふうと溜め息を吐きながら言うと、露伴はほっとしたような顔を見せた。
 差し出された手にジョルノが触れようとした、正にその時、
「見付けたぜ! テメー、露伴ッ!」
 声がした方を振り向いて、露伴が「げっ」と喉を絞められたような声を出す。その視線の向こうから駆け寄ってきたのは、つい先程まで話題に上っていた東方仗助その人だった。
「お前さっき負傷してただろ! ちゃんと見てたんだからなっ! なんで治しに来ねーんだよッ!」
 一気に喚き立てる仗助に、露伴は顔を背けながら、やはり喚く。
「うるさいっ! 誰がお前なんかに!」
「言ってる場合か! 手出せ!!」
 詰め寄ろうとする仗助から一定の距離を保つように離れるのは、彼の射程範囲内に入らないようにするためか。2人はジョルノを挟むような形で喚き合っている。正直少し迷惑だ。
「お前いい加減にっ……!」
 仗助が一際大きな声を出す。それを遮るように、露伴が叫んだ。
「ヘブンズ・ドアー!」
 その声に応えるように、仗助の顔面が本のページのようにばらばらと捲れ出した。そこへ露伴が構えたペンで何かを高速で書き込んだのが辛うじて見えたが、日本語らしきその文字を、ジョルノは読むことが出来なかった――彼が日本に住んでいたのは小学校に上がるよりももっと前までだ――。次の瞬間、仗助の体は後ろ向きに吹っ飛び――車並みの速度だった――、壁に叩き付けられていた。詳しくは分からないが、露伴の能力なのだろう。わずかに生じた隙を突いて、露伴は走り去ってしまった。まだ傷を負ったままだというのに、その姿はもう見えない。負傷したのが足だったら、こうはいかなかっただろう。
「くっそぉ……、あんにゃろー!」
 壁を支えに体を起こした仗助は、奇妙な形に盛り上げた髪の下で物凄い形相をしていた。つい先程まで治療を申し出ていた相手へ向けるものとは思えないほどの――むしろとどめを刺しに行こうと決意するかのような――目付きで、露伴が消えていった方を睨んでいる。
 今の攻撃(?)で仗助が骨折していたり内臓が破裂していたりすれば自分の出番だろうか――どうやら仗助の能力は自身に向けては使えないらしい。なかなかどうして上手くいかないものだ――と思ったが、どうやら咄嗟にスタンドで受身を取っていたようで、軽い打撲程度で済んだようだ。
「おいジョルノ!」
 仗助は傍観者に徹しようとしていたジョルノの名を荒々しい口調で呼んだ。人の名を随分気安く呼んでくれるものだ。ジョルノの姿なんて見えてもいないように思えたが、そんなことはなかったといったところか。八つ当たりなら勘弁してほしいなと思いながら顔を向けると、仗助は自分の胸を指しながら、宣言するように言い放った。
「露伴を“治す”のは、俺の役目だからなっ!」
 何を言われているのか分からず、ジョルノはただ呆然と仗助の顔を見上げていた。
「取るなよ」
 やや低い声で言うと、仗助は走り出した。「露伴、どこ行きやがった」と怒鳴り散らしている声が遠ざかってゆく。
(……なんだったんだろう)
 よく分からなかったが、彼もまた“変わった人間”のひとりということか。これだけの人数が集まれば、――控えめに言って――多少変わった人間がいるのは、当たり前のことなのかも知れない――と思うことにしておこう――。
 休憩のつもりで出てきたのに、なんだか余計に疲れてしまった気がする。もう“亀”に戻ろうかと思って立ち上がると、今度は見慣れた顔が近付いてくるのが見えた。ジョルノは、声を掛けられるよりも先にその名を呼んだ。
「ミスタ」
「よう」
 ひらひらと手を振りながら近付いてきたミスタの右足は、本人のものである血が付着し、乾いて黒くなっている。それが数時間前に負った傷によるものだと、ジョルノは知っている。幸いにも出血はすぐに止まった上に、本人が大したことはないと言い張ったので消毒をして包帯を巻く以上のことはしていない――仗助が近くにいれば違っただろうが、その時はたまたまいなかった――。
「傷の具合は?」
 心なしか引き摺っているような歩き方を見ながらジョルノが尋ねると、ミスタは「そのことなんだけどよぉ」と肩を竦めるような仕草をしてみせた。
「あの時は『いい』って言ったけどよ、やっぱり治しておいてもらおーかと思ってよ」
 平静を装ってはいるが、やはりこれからも続く戦いのことを考えれば放置しておけぬと思ったのだろう。少々ばつの悪そうな顔をしながら、ミスタは首の後ろをかいた。
「仗助を探してきましょうか」
 今はまだ“取り込み中”かも知れないが、遠くまでは行っていないだろう。「今は忙しい」とでも言われたら、彼の“追い駆けっこ”を手伝ってやってもいい。“そっち”の“患者”をさっさと治して、“こっち”も頼むと言えば、きっと対応してくれるだろう。その後で再び走り出すなり口論を始めるなりは、自由にしてくれて構わない。
 だがミスタは首を傾げた。
「お前は治してくんねーのか?」
「貴方前に散々痛いと喚いたじゃあないですか。仗助なら痛みもなく“優しく”治してくれますよ」
「いや、でも、全員が毎回あいつのとこ行ったら、あいつもくたびれちまうだろ?」
「まあ、そうかも知れませんが」
 少なくとも今は走り廻れるほどの元気はあるようだったが。
 気が付くとジョルノの目は仗助の姿を探して周囲を見廻していた。その視界の外側から、ミスタの手が伸びてきてジョルノの肩をがしっと掴む。咄嗟にそちらを見るも、それだけでは足りないと言うかのように、ミスタはジョルノを体毎自分の方へ向かせた。
「つーかよぉ」
 ミスタは妙に真剣な目をしていた。
「俺は“お前に”治してもらいてーの」
 その真意が掴めずに、ジョルノは瞬きを繰り返す。
「ったく……。いつの間にか大勢集まってきてよぉ、なんとかっつー敵についての相談だかなんだかで、お前捕まえるのも一苦労じゃあねーか」
 確かに、この事態に巻き込まれてからのジョルノは、承太郎達――ある程度直接的な関係者達と呼べるだろうか――と一緒にいることが多くなっているかも知れない。これからどこへ向かうか、誰が戦うか、そんな相談をするためであるが、それをミスタは放っておかれた子供のような気持ちで見ていたとでも言うのか。
 ジョルノは小さく噴き出した。
「あっ、何笑ってんだよ」
「いえ、すみません。何も」
 では治療してくれというのはただの口実か。ジョルノが傷の処置をしている間は、少なくともその近くにいられるから、と。これが本当に子供の発想なら、素直に可愛いと思っていたかも知れない。だが今は、愛おしいと思った。
(本当に変わった人間ばかり集まったな)
 ジョルノ自身も含めて。
「それとも嫌かよ」
 そう尋ねたミスタは、傷を負った正にその瞬間よりも強い痛みに耐えているような顔をしていた。
 ジョルノは「いいえ」と答えながら、かぶりを振った。
「でも、痛いですよ」
「分かってるって。何度も言うな」
「それでもぼくの方がいい?」
「だから何度も言わせんな」
 ミスタが視線を逸らせたのは、わずかに赤く染まった顔を見られないようにか、あるいは、注射される腕を直視出来ない者がいるように、治療を受ける箇所を見ていたくないだけなのか。
「最終確認ですが、痛いの“が”いいんですね?」
「おいッ。それじゃあ語弊があるだろうがっ! 怒るぜ」
 「思わず」といった風にこちらを向いた目を見ながら、ジョルノは笑った。握手を求めるように両手でミスタの利き手を取ると、負傷箇所はそこじゃあないとは言われなかった。
「“これ”がぼくの『役目』だと言うなら、喜んで」
「『役目』? なんのことだ?」
 首を傾げるミスタに、ジョルノは片目を瞑ってみせた。
「まあ無理でしょうが、取っちゃあ駄目ですよ」


2018,05,10


仗助とジョルノのヒーラーとしての能力の違いについて書きたかったのですが、途中でどこ目指してるのか分からなくなりました。
仗助は無機物も直せるけどジョルノは無機物から有機物を作り出せるよ。だからどっちが優れてるとかないんだよ。って主張をもっとちゃんとしたかったー。
ジョルノなら仗助に治せない億泰がガオンしたものも新しく作って治せるのかな?
切断面ぴったり閉じちゃうから、そこに新しいパーツ入れようとしたら抉じ開けないと駄目かなとか考えるとたぶん痛いどころの騒ぎじゃあないですが。
そもそもなんでガオンしたものはクレDじゃあ駄目なんだろう。
<利鳴>

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