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  守りたいと願うもの


 陣は風を操り、雲の間を縫うように飛んで行く。その表情はいかにも楽しげだ。真っ青な初夏の空に、陣の目が覚めるような赤い髪が非常に鮮やかだ。
 魔界のそれとは大いに違う人間界の風にも、だいぶ慣れてきた。むしろ魔界にいた頃よりも能力が上昇しているような気がする。上手く説明できないが、こちらの風の方が彼に合っているということだろうか。
 そんな陣とは反対に、凍矢は夏の暑さに苦悩しているようだった。まだ夏は始まったばかりだというのに、氷の属性をもつ凍矢には日中の日差しは辛いらしい。妖力を使って微弱な冷気を自らの周囲に発生させることはできるのだが、それは妖気を放出し続けることになるため、可能な限り我慢していた方が良い。今から力を消耗してしまっては、真夏までもたない。だから凍矢は、日差しの強い時間帯には、水辺や木陰の比較的涼しい場所を探して時間を潰していることが多い。
 そのことは充分理解しているのだが、日中一緒に飛び回れないことを、陣は少し残念に思っている。それでも陣がさそえば凍矢は良いと言うだろうが、できればあまり無理はさせたくない。
 今陣は、もう少し暑さを凌ぎ易い場所を探している。凍矢と違って特別暑さに弱い体質なわけではないし、元々体力も陣の方があるのだが、それでも真昼の太陽は充分に暑い。風を纏っていても、余程強い風を起こさない限り、生ぬるい空気をかき混ぜることくらいしかできないのだ。やはり妖力を消耗しないためには、できるだけ涼しい場所を探しておいた方がいい。そもそも、『もしもの時のため』にも、力の温存は絶対不可欠なのだ。
(もちろん、そんなことになんないのが1番なんだけど)
 元は自然と一体となって活動する忍であった彼等は、必要最低限の食料と水が確保できる場所ならどんな場所でも比較的簡単に住み着くことができる。
(だからあとは暑くなければ……)
 陣は適当な森を見つけて着地した。
 それ程深い森ではないが、背の高い木がたくさん生えている。ここなら、直射日光はあまり差し込んでこなさそうだ。
 陣はその辺りを見て回った。
 「なかなか良さそうだ」そう思った時、突然背後に気配が生まれた。いや、むしろ殺気。
「!?」
 陣は反射的に飛び退いた。直後に、茂みの中から影が現れる。同時に、複数のナイフが陣に向かって飛んできた。
 陣はなんとかそれをかわそうとする。が、ナイフの1本が左肩を掠めた。
「ッ……、なにもんだ!?」
 最初は、木の陰で暗く見えるのかと思ったが、それは違っていた。影は、真っ黒なマントを頭からすっぽりと被っているのだ。陣はそれに見覚えがある。忘れる程長い時間は経っていない。それは、魔忍の装束だ。
(刺客――)
 陣は然程驚かなかった。追手がくるであろうことはわかっていた。
「風使い陣、だな」
 男の声が言った。
「なにしにきただ」
 陣は身構えながら尋ねた。
「お前を連れ戻しに」
 男は抑揚のない声で答えた。まるでそこには欠片程の感情さえも存在しないかのようだ。
「吏将から聞かなかっただか? オレは戻る気はないだ!」
「お前ほどの使い手を失うのは惜しい。今一度考え直せ。そうすれば軽い処罰だけで戻れるだろう」
「嫌だ」
「ならば――」
 男は再びナイフを構えた。
「ここで始末するってことだか?」
 陣は相手を挑発するようににやりと笑った。だがあまり有利な状況とは言いがたかった。先程受けた傷自体は極浅いものだったが、ナイフに何かの毒が仕込んであったらしい。傷口を中心に小さな痺れを感じる。長引けば殺られる。
「その前に……」
「?」
「呪氷使いの居場所を教えてもらおう」
「!」
 陣は相手を真っ直ぐに見据えた。
「断るだ」
 言うや否や、強風を起こし、一気に上空へと飛び出した。
「修羅旋風拳!!」
 右腕に竜巻を作り出しながら、相手目掛けて一気に降下する。
 相手はそれを間一髪で避けた。が、その拍子にバランスを崩した。陣は更に追い討ちをかける。
「絶対に凍矢のところには行かせないだ!!」

 日が沈み、凍矢のところへ戻ってきた陣は傷だらけだった。
「陣ッ!?」
「あは。た、ただいま……」
「ただいまじゃないだろ! 何だこの傷は!?」
「いや、あのー、なんてゆーか……」
 刺客が現れたなんてことは黙っていた方が良い。もう撃退したのだから、余計な心配をかける必要はない。次の敵がきたら、また倒せばいい。
 陣が口を濁していると、凍矢は小さく溜め息を吐いた。
「……言いたくないのなら、無理には聞かないが……」
「ごめん」
「いいから、こっちへこい。手当てしてやる」
 凍矢は陣の傷口を洗い、器用な手付きで布を巻き始めた。
「本当は何か良い薬草でもあればいいんだがな」
 生憎、人間界の植物のことはよくわからない。
「これくらい平気だべ」
「ほう、そうか」
 少しも反省の色が見られない陣に腹を立てたのか、凍矢はわざと強く傷口を縛った。
「いだッ!?」
「ほらみろ」
 そう言って一度その布を解き、今度は丁寧に巻き直す。
「昔もこーやって凍矢に手当てしてもらっただな?」
 2人がまだ魔界にいたころ。実践だろうが訓練だろうが、すぐに無茶をする陣にはいつも傷が絶えなかった。
「よく言われただな…………、画魔……に」
 陣は画魔の名を出すことを一瞬躊躇ったようだったが、凍矢は軽く微笑んだ。
『陣、お前は本当に凍矢がいないとどうしようもないな』
(画魔の言う通りなんだべ)
 陣には凍矢がいなければ駄目なのだ。傷の手当てなんて自分でもできる。そんなことではなく、陣には彼が必要なのだ。「もしも凍矢がいなかったら――」なんてことを考えることすらできない程に。
 だから、凍矢を守るためなら何にだって立ち向かっていける自信があった。戦い、傷付くことは全く怖くない。
 だが陣は知らない。凍矢もまた、同じことを思っていることを。
 画魔の台詞はそれだけではなかったのだ。手当てを終えた陣が立ち去ってから、画魔は凍矢にこう言った。
『逆もまた然り……か?』
 少しからかうような口調に、凍矢が珍しく僅かに頬を赤らめながら抗議したことも、陣は知らない。
 だがそんなことを知らなくても、陣は幸せだった。
「凍矢っ、飛ぼうっ」
 唐突にそう言うと、陣は凍矢の手を取った。既に日は沈みきっていて、天は星空へとその姿を変えている。もう暑さはだいぶ収まった。
「お前、この傷で……」
「たいして深くないべ」
 陣が凍矢の手を引いて立ち上がると、凍矢も「やれやれ」とそれに続いた。
 陣は凍矢を抱えて上空を目指した。以前、スピードを出しすぎて抗議されたので、速度はやや遅めで。
 空の上なら、刺客の心配は激減する。魔忍の中には陣と同じ様に風を操る者もいないではないが、風使いの名を継承している陣に、飛行術で勝てる者はいない。空の真ん中で敵の接近に気付かないはずもない。なんの邪魔も入らない2人だけの時間。
 陣は星空を見上げた。自分達の未来が、この星空のように光に満ちたものであれと、心の底から願った。


2005,11,27


わたしはいつも受けキャラを重視してしまいがちです。
視点もそちら側に固定される場合が結構多いです。
ので、今回はそうしたい気持ちにあえて逆らい、陣の視点で書いてみました。
一部視点キャラである筈の陣の知らない部分も出てきてしまいましたが……。
戦闘シーンはカットです(オイ)。
あんまりオリジナルのキャラ作りたくないので、敵の属性とかはっきりさせられなかったので。
ってゆーかそうでなくても戦闘シーンなんて書けません。
力不足。
前回の続きと言えば続きですね。
「前にスピード出しすぎて怒られた」とかその辺が。
前回もそうでしたが、爆拳の名前が一切出てない(苦笑)。
魔性使いTでの重要度は爆拳が1番低い気がして……。
別に爆拳が嫌いってわけじゃあないんですよ?
別に好きでもないけど(あーあ、言っちゃった/笑)。
<利鳴>
凍矢可愛いな(素)
脳内でフルボイス化すると陣の台詞が声にピッタリハマって良い感じですよね。
…所で(一応と釘打ってますが)此処まで続いてるなら、ある程度溜めて一まとめにして夢のzip配布とか出来そうじゃない?
まぁ其れは利鳴ちゃんではなくセツの夢なんですが。
<雪架>

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