フーナラ 全年齢 ミスジョル要素有り

関連作品:Sweet Time(利鳴作)


  ビアンコアンジョルノ


 風呂上がりにパンナコッタ・フーゴは自室のベッドの上に座り思案していた。
 今晩はどうするべきか。明日はこれといって任務が定まっているわけではないが、必ずアジトに居るように言われている。
 だが朝早くから行く必要は無い。そして互いに今日の仕事は軽い物で疲れてはいない。
――ピンポーン……
 玄関チャイムの音がした。提案してみようかと思い悩んでいて聞き逃す所だった。
 しかしこんな時間に訪ねてくるとは何者だろう。夕食時もとうに過ぎ、年寄りや翌朝が早い者ならば就寝している時間帯だ。不審者だろうか。
――ドンドンドン
 まして扉を叩き始めた。寝室まで聞こえてくるとは相当な叩き方だ。
 扉を壊されては困るからと言い訳をしながらベッドを下りて玄関へ向かう。
 嫌な予感がひしひしとする中、煩い位に叩かれ続けている――時折チャイムも鳴るので1つの音楽でも奏でているかのような――扉を開けた。
「オーブン貸せ」
 唐突過ぎる言葉に驚き損ねた。訪問者はチームメイトのグイード・ミスタ。元からそれ程宜しくない人相を完全に悪い物に変えている。
「……何の用ですか」
「だからオーブン貸せって言ってんだよ」
 扉に直接手を掛けて大きく開け、了承も無しに入ってきた。
「オーブンなんて有りませんよ」
「有るだろ、オーブンレンジが」
 それは確かに有る。電子レンジに一応オーブンの機能は付いている。
 ミスタの服装はいつものそれと変わらないが、その手には持っている所を見る事の殆ど無いマーケットのレジ袋。
 珍しく生活感溢れる姿で上がり込んだミスタは迷う事無くキッチンへと向かうのでフーゴもその後を追った。
「あ? ナランチャ来てたのか?」
 洗い桶を見ての第一声。
 そこには洗い終えた2人分の食器が置かれている。
 何故『彼』だとわかったのかと問うより先にミスタが洗い桶から木製のカッティングボードを勝手に取り出した。
 しかも置いたカッティングボードの隣へ袋の中身を並べ始める。
 中に何も入っていないタイプのマシュマロの大入り袋、板の形のホワイトチョコレート2枚、そしてフードラップに包まれた謎の物体。
「何ですか、それ」
「ピザの生地」
 成る程言われれば確かにピザ生地だ。何も乗せていないし焼いていない、というより伸ばしていない丸い状態なので一瞬何かわからなかった。
 そのピザ生地をカッティングボードの上に置きフードラップを取り外した。洗い桶を覗き、使える物が無いと知ったミスタは蛇口で軽く手を洗い、そのまま素手で生地を伸ばし始める。
「あー、ミスタだ!」
 ミスタと名を呼ばれたミスタ以上に驚いたフーゴとが振り向くと、ナランチャ・ギルガが洗い終えた髪をバスタオルで拭きながらキッチンへと来た。
「よう」
 軽く挨拶をしてミスタは再び手元に視線を戻す。
「こんな時間にミスタがフーゴん家(ち)来るなんて珍しいな」
「お前こそ明日休みじゃあねーのに泊まる気か?」
「うん。何で休みじゃあないって知ってんだ?」
「明日2人休みだから。片方は俺」
 アジトに居る時のようにいつも通り極自然に和気藹々(わきあいあい)と話している2人に対し、家主である筈のフーゴは黙り込んでいた。
 答え合わせのようにナランチャが出てきてしまい、風呂を貸して泊める仲だとも知られてしまった。何を言えば良いのかわからない。
「なあそれ何作ってんだ?」
「ピザ」
 回しこそしないが形は確かにピザ生地らしくなった。次いでミスタはマシュマロの袋を開ける。
「それが具?」
「おう。ソースはチョコレート」
 答えながら洗い桶から果物ナイフを取り出し、カッティングボードに出したマシュマロを1つずつ約半分に切り始めた。
「何で普通のチョコじゃあなくてホワイトチョコ?」
 ナランチャは勝手にチョコレートの紙を破り中身を出す。
「明日は、っつーかあと数時間で『ホワイトデー』だからな」
「ホワイトデー?」
 フーゴとナランチャの声が重なった。
「直訳すると白い日ですね」
「白い物食う日?」
 ぱき、と音を立ててナランチャは白いチョコレートを一欠片取る。
「食って良い?」
「あー……それだけなら。それ以上は食うなよ」
 ほいと口に放り込むのを見届けて、ミスタは切り終えたマシュマロを生地の上へ並べた。
「先月のバレンタインデー、日本じゃあチョコレートを贈るってジョルノから聞いただろう?」
「うん」
 フーゴも日本出身のジョルノ・ジョバァーナから――直接ではなくナランチャ伝いに――聞いている。
 そして先月ナランチャからチョコレートを貰い共に食べている。日本の風習をその日初めて聞いたナランチャが、ジョルノから材料を分けてもらったのだと言っていた。
「アイツ今日になって「明日はホワイトデーですね」なんて言い出したんだよ。何だそれって聞いたら、バレンタインにチョコレートを貰った側がお返しに贈り物をする日だって」
「へえぇーそんな日が有るのかあ」
 これまた初めて聞く話だ。
 しかしジョルノも人が悪い。前以て知っていれば先月しっかりチョコレートをくれたナランチャに『お返し』が出来たというのに。
「チョコレートを貰ってホワイトチョコレートをあげる日なのか?」
「知らねー。でもホワイトデーって呼んでるって事は、白い物をやる日だと俺は思うわけだ」
 ナランチャが開けたホワイトチョコレートをミスタは奪うように取り、カッティングボードの上に置いた。
「白い物って白い食べ物じゃあなきゃ駄目なのか?」
 繰り返すようなナランチャの問いにミスタは再び「知らねー」と答えた。視線はホワイトチョコレートをナイフで砕く手元から外さないまま。
「白い物飲ませてやるーって言おうかと思ったんだが、本気でブン殴られそうだから止めておいた」
「へえぇー」
 嗚呼これはわかっていない。わからないままの方が幸せだろうとフーゴは口を噤んでおく。
 もう1つのチョコレートもすっかり切り刻み終えて、ミスタはそのチョコレートをマシュマロの上に適当に振り掛けた。
 きょろきょろと辺りを伺ってすぐに見付けたアルミ箔を無断で切り取り、そこへピザを乗せた。あとは焼き上げるだけのそれを両手で持ってオーブン機能も付いている電子レンジへ。
「フーゴ、開けてくれ」
 何故良いように使われているのだろうと疑問に思ったが、それでもフーゴはオーブンレンジを開ける。
「あとナランチャ、俺の電話取ってくれ。ポケットに入っている」
 一方でナランチャは疑問を1つも持たないらしい。素直にミスタの服から彼の携帯電話を取り出した。
「着信真っ最中だ」
「代わりに出てくれ」
「わかった」疑問や躊躇いを一切持たず通話ボタンを押して耳に当て「ジョルノ、どうしたの?」
 どうやらジョルノからの着信らしい。この時間に電話を掛けてくるのは、と予想が付いていたのでナランチャに電話を取らせたのか。
「そう、オレ。ううん、フーゴん家だよ」
 普段は冷静さを欠かないジョルノが電話の向こう側で困惑している様子が頭に浮かぶ。
「オレは泊まりに来てたけど、風呂上がったらミスタが居たんだ」
 ジョルノにまで洗い浚い話してしまいそうでフーゴは物理的に頭を抱えた。
「今からフーゴの家来いって言って」
「え? ああ、何かミスタが、今からフーゴの家来いって。うん? わかった、言っておく。うん、じゃあ後でな」
 通話を終了し、オーブンレンジの設定を操作しているミスタの服に携帯電話をしまった。もう片手は空いているのだから手渡せば良いのに、旧知の仲を通り越して兄弟のようにも見える。
「ジョルノ来るって」
「焼き立て食わせられるかもなァー」
 言ってスタートボタンを押すとオーブンレンジは音を立ててピザを焼き始めた。
「冷めた物をジョルノに贈るつもりだったんですか?」
 断り無くもう1人客人が増える事はもうどうでも良い。
「焼いておいて明日レンジで温めようと思ってた」
「ミスタん家(ち)電子レンジ有んの?」
「オーブン機能だけ壊れたオーブンレンジ有るぜ」
 いいだけピザ生地を捏ねてから焼く事が出来ないと思い出したわけか。
 レンジ機能よりもオーブン機能の方がどうしても音が大きいのでやや耳障りだった。まして最新の製品でもない。それでもオーブンレンジの中でマシュマロが早々に溶け出す。
 生地の縁は厚めにしてあるので付属の丸皿にマシュマロやホワイトチョコレートが垂れる心配は無い――筈だ。乗せ方が適当だったので絶対に大丈夫とは言い切れない。
「……これ、この大きさじゃあないと駄目なんですか?」
「生地は本見ながら作ったから半分にする、2倍にする位なら調節出来ると思うぜ」
「なら半分にしてフライパンで焼けば良かったのでは?」
 ミスタが顔をこちらに向けた。
 隣で「フライパンでも出来るのか」と呑気に言うナランチャと一緒に『寝る』という計画を、提案するより先に台無しにしてくれた男は無表情のまま何も言わずオーブンレンジへ向き直った。

――ピンポーン……
「来た!」
「ジョルノだ!」
 言ってミスタとナランチャの2人は家主を置いて玄関へと走り出す。
 フーゴは洗っていた包丁をシンクに置き、泡だらけの手を洗った。
「お邪魔します」
 玄関へ出迎えに行くよりも先にジョルノが入ってきた。顔には警戒の色が浮かんでいる。
「ほら座れよ、ジョルノ。今日はお前が主役。本当は明日だけど」
 椅子を引いてエスコートをする――というより強制する――ミスタがナランチャに顎で合図を送った。
「何?」
「お前も座れって。お前も先月チョコレート作った側だからな」
「じゃあオレも食べて良いのか!?」
 すこぶる嬉しそうな笑顔で、ダイニングテーブルを挟んでジョルノと向かい合う椅子を引いて座る。
 ダイニングテーブルは余り大きくなく、2人以上で使うには手狭に感じるサイズ。一人暮らしなのだから事足りると思って買った。
 今日のように頻繁に2人で食事をするのならもう一回り大きな物を用意しなくては。最初は椅子すら1つしか無かったと思い出し、フーゴは目を細めてその頻繁に招くナランチャを見る。
 視線に気付いたかナランチャもこちらを向いた。
「食べるって何の話ですか?」
「今持ってきてやるから」
 ジョルノの問いに答えたミスタが2人の間を邪魔するように通り抜けた。振り回されてばかりで肩を落とす。
 オーブンレンジが開かれると同時に甘い香りが部屋全体に広がった。
 辺りを見渡してから調理器具を入れている引き出しを開けフライ返しを取り、前以て用意しておいた1番大きな皿に焼いた物を乗せる。
「フーゴ、ピザカッター出してくれ。あと何か飲み物」
 確かにジョルノやナランチャのようにバレンタインにチョコレートを渡していない、寧ろ貰った側ですらあるがこの扱いは如何なものか。
 溜め息を吐いてすぐ近くのキッチンへ向かい、ミスタと同じように調理器具を入れている引き出しを開け、奥の方に仕舞い込んでいた小型のピザカッターを取り出した。
 その間に擦れ違いにダイニングへ向かったミスタは2人から「ピザだ」「良い匂い」「作ったんですか?」「美味そう!」と賞賛を受けている。
 飲み物は何にすれば良いだろう。ピザを食べるのだから常温で置きっ放しにしてある気紛れで買ったコーラを振舞おうと思ったが、具材がマシュマロでソースがホワイトチョコレートとなると甘い飲み物を合わせるのは良くない。苦めにエスプレッソでも落とすべきか。
「フーゴ早く! 8つに切ってくれ!」
 ナランチャに急かされたのでピザカッターの刃を確認しながらダイニングテーブルへと急いだ。
「……って、8つ?」
「僕達2人で食べきれる大きさじゃあありませんから皆で食べましょう」
 しかし正直に4等分にするとどこかの誰かが文句を言うだろうから1人2切れの8等分。
 ピザカッターをピザの端に当て、真っ直ぐに――「何故僕が切っているんだろう」と思いながら――動かした。マシュマロの表面がぷすと音を立てて切れるのは小気味良く、しかしそこへ溶けたホワイトチョコレートが流れ込み切れているのかどうかわからない。
 下が皿なので、傷を付けたくないので強く切る事が出来ない。ただマルゲリータを切った際の、切り口にチーズが流れ込む様子に見えなくもない。胸焼けを起こしそうな程甘い香りが漂う。
「頂きます!」
 切り終えると同時にナランチャが1切れ手に取り大急ぎで口に含む。
「火傷しますよ」一方でジョルノは恐る恐るといった調子でピザへと手を伸ばし「ああ、意外と熱過ぎないんですね」
「電話来る前に焼き始めちまったからな」
 作った本人であるミスタも、座るジョルノの隣に――椅子が無いので――立ったまま食べ始めた。
「そうだったんですか。美味い……有難うございます。フーゴ、食べないんですか?」
「いや……」バレンタインデーに贈った側でもピザを作った張本人でもないので躊躇いが有ったが「……頂きます」
 言ってフーゴもピザを取った。一応場所や調理器具を提供した身ではある。
 匂い通りの甘ったるい味。表面だけが焼けたマシュマロの不思議な食感は面白く、とろと溶けたホワイトチョコレートは未だ少し熱い。
 ちゃんと美味いがこの腹に溜まりそうな甘さは1切れで充分だな、と思った。
「どうしてフーゴの部屋なんですか?」
 もう1切れは彼にやろうと思える位進みの早いジョルノがミスタを見上げて尋ねる。
「お前が今日「明日はホワイトデーですね」って言うから。そういう事はもっと早く教えろよな」
「余り早くに言うと物を欲しがっているみたいじゃあないですか。僕は単に、バレンタインデーの次にホワイトデーが有る、日本は企業戦略に飲まれやすい国だという事を話したかっただけです」
「欲しがれ欲しがれ。で、ピザ作っといて明日朝にお前を呼んで温めて出すつもりだったんだが、オーブンレンジのオーブン機能使えなかった事思い出してよォー。焼かせてもらって持ち帰って、と思ったんだよ。でも今から来るってんなら、こっちで焼き立て食わせたくなるだろ? 俺の部屋まで持って帰る間に冷めたら嫌じゃあねーか」
「じゃあ何故ナランチャと一緒に? 風呂上がりに居たと言っていましたが」
 1切れぺろりと平らげてもう1切れに手を伸ばしながら真正面のナランチャを見た。
「一緒に来たとかじゃあないぜ。オレは本当にフーゴん家に泊まりに来ただけ」
「君は明日休みじゃあないのに?」
 ミスタもだが、明日朝1の任務がここから近いから泊まり込んだとは考えないのか――考えないだろう。2人は恐らく自分達の仲を正しい意味でよく知っている。
 もしかすると不慣れなフーゴや色々と幼いナランチャより、当事者よりわかっているかもしれない。
「ジョルノもオレ達が明日休みじゃあないって知ってるんだ?」
「明日は2人休みを取っていますから。片方は僕です」
「ミスタと一緒の休みなんだ? じゃあジョルノ、ミスタの家に泊まれば良かったのに。そう言えばミスタ凄い急いで帰ってったよな? 何でジョルノ待ってやんねーんだよ」
 同じく1切れ食べ終えてナランチャはミスタを睨み上げた。
「マシュマロとホワイトチョコレート買いに行きたかったから」
「そっか」
「家に有った物じゃあないんですね。有難いし美味いんですが、どうしてデザートピザを作ったんですか?」
「だって明日はホワイトデーってやつなんだろ?」
「ホワイトデーは別に白い物を食べる日じゃあありませんよ」
「え、違うんですか?」
 明日中に何か白い菓子を、可愛らしいキャンディでも用意してナランチャに渡そうと思い付いた計画は中止になるのか。
「ホワイトデーはバレンタインデーと違って余り明確に定まっていません。チョコレートを寄越した女性と交際しないなら焼き菓子を渡すとか、交際相手から貰ったなら3倍の金額のアクセサリーを贈るとか、まあ色々言われています」
「なあ、じゃあ何でホワイトデーって名前なんだ?」
「僕にもちょっとわかりません。日本にはそんなに長く居なかったし、もう10年近く前の事ですから」
 日本は小さな島国で、独自の言語や宗教で成り立っている。
 そこへその地に生まれた人間でもよくわからない現代的な習慣がどんどん織り込まれていく。日本で生活するのは苦労しそうだ。
「別に食べ物じゃあなくても、物じゃあなくても良いと思いますよ。思い出とか」
 ジョルノは思い出という言葉をフーゴに向けて言った。ように思えた。
「思い出って、例えばどんな――」
「フーゴ、もう1切れ食べますか?」
 情報はデザートピザ8分の1との交換らしい。
「夕食で腹が膨れてるので、良かったら僕の分も食べてもらえませんか」
 模範回答に口元をにやと上げてからジョルノは右手に食べている最中の2切れ目を、左手に3切れ目になるピザを持ち、満足気に食べ掛けの方へ齧り付く。
「旅行とか良いんじゃあないですか? 仕事とは関係の無い少し遠出のレジャー(休息)旅行。サンタルチアからクルーズに出たりとか」
「ジョルノ、クルーズ行くのか!?」
 良いな、良いなとはしゃぐ様子はまるで小さな子供のようで微笑ましい。ひたすらに甘いピザを楽しそうに食べる姿も、洗い物を手伝おうかと覗き込んでおきながら直後の玄関チャイムにすぐ走り出した姿も。
 自分より年上には見えないナランチャがクルーズ等喜ぶのだろうか。
 もっと遊べる所の方が似合いそうだし、しっかりと休息をするのであれば客船の客室ではなく揺れの無いホテルの客室の方が良いのでは。
 そんな思い込みこそ宜しくないと2切れ目を食べきり3切れ目に突入したジョルノは遠回しに教えてくれたようだ。
「ほらこれも食え」
 ミスタがジョルノの口元に食べ掛けのピザ――いつの間にか彼も2切れ目のようだ――を向けた。
「食い終わったら帰るわ。長居しても悪いし」
 充分長居の内に入ると言いたい気持ちは堪える。
 甘過ぎて進まない分を、もりもりと食べるジョルノに手伝わせ早く帰ろうとしているのだから。
「ジョルノも帰んの?」
「俺の部屋にな。じゃあ帰るか」
 急いで全部を口に含んだ為に若干苦しげな顔をしながらジョルノは立ち上がる。
「フーゴ、材料費は請求しねーから」
 あれこれ使われた側だというのにされて堪るかと返すより先にミスタは片手をひらひらと振りジョルノを連れて去っていった。
 見送って鍵を掛けるべきだと思いながらもフーゴは自身の、先程までジョルノが座っていた椅子を引きそこへ座る。
「……ホワイトデーなんて有るんですね」
 正面のデザートピザを頬張るナランチャが頷いた。
「最近ジョルノと2人で話し込んでいる所をよく見ますが聞いた事有りましたか?」
 今度は首を左右に振る。
 2人の間のテーブルにはホワイトチョコレートが垂れて汚れた大きな皿が1枚。
 最後の1切れは既にナランチャが手にし齧っている。これだけ甘ったるい物を食べている姿は余り見ないが意外と食べられる方らしい。
 長い付き合いになるのに知らなかった。否、言う程付き合いは長くない。濃密で、人生の大半を占めている気がしているが、年月にすれば未だ短い。
 それでも年単位の付き合いになる。だから何が似合うとか何が似合わないとか、そういった思い込みが有った。
「ミスタとジョルノ、事前に話して休みを合わせていたみたいですね。僕達も……今度そうしませんか」
「今度?」
 口の中の物が無くなったので声に出す。当然のように甘い香りがした。
「明日は無理だから当日じゃあなくて申し訳無いけれど、近い内に。ホワイトデーのお返し、というのを僕もしたい。2日連続で休みを合わせられれば、クルーズに出てみたりとか」
「クルーズっ!?」
 目を輝かせて、子犬なら尻尾をはち切れんばかりに振っているだろう喜び方が嬉しくてフーゴもくすと笑う。
「国外をぐるりと回るようなクルーズを想像しないで下さいよ。でも、客船は取ってみますから」
 どこに行くのではなく何で行くのかがポイントだろうと思った。案の定ナランチャはいつにしようかと早口に言い始めた。
 変声期は未だなのか尋ねたくなる高い声は完全にはしゃいでいるそれで、波が白いからホワイトデーに丁度良いと言っても笑われないで済みそうだ。


2019,03,14


利鳴ちゃんと「甘くない物を上げるバレンタインデーとチョコレートをあげるホワイトデーの合わせをしよう」というような話をしました。
其れから何でこんな話が出来上がったんだ…?
マシュマロピザが食べたくて、クルーズ旅行に行ってみたいからだと思われます。
そも普通のピザでもチーズで白いんじゃね?と完成後に気付いた。まぁ私チーズ無いマリナーラピザのが好きだし…!
<雪架>

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