ミスジョル R18 年齢操作

関連作品:Lose Star


  Little Seduction


「おいジョルノ」
 アジト内の階段を最上階へ上る背中に声が掛かったので振り向く。名を呼んだのは組織の地方チームのリーダー――ようは下っ端ギャング――だった。
 1歩こちらに踏み出してきた体は横に大きいが、縦には更に大きく1段差が有るのに見上げる形になる。
「何か用ですか」
「これからボスの所に行くんだろ?」
 最上階にはボス本人と親衛隊の2人、それから数人の幹部のみしか立ち入れない執務室しか無いので当たり前だ。
「宜しく言っといてくれ」
 まさかジョルノ自身がボスとは思いもよらないのだろう。
「伝えておきます」
 ボスは誰かのヒントを与える事無く適当な返事をしてジョルノは階段を上がろうと背を向けた。
 肩を掴まれ再び振り向かされる。
「何ですか」
 互いに名前を覚えているだけの顔見知り。これと言って話題の有る仲ではない。ジョルノとしては懇意にしたいとも思わない。
 急ぎの用が有るわけではないが、無駄話に付き合わせようというなら『ボス』の印象が悪くなるぞと脅したい位だった。
「ボスに気に入られてるだけあってお綺麗な顔してるなあ」
 無遠慮に顎を掴まれ上を向かされる。
 チームすら持たない一介の学生だがボスが気に入り執務室への立ち入りを許可している、という外聞。
「真っ昼間っから夜のお相手か?」
 そうするとこうした誤解が生まれるのは至極当然。
「……だとしたら何か? 昼夜の逆転はギャングの基本でしょう」
 顔に触れている手を軽く叩き落としてやった。
「ああそうか、昼間からは止めてくれと伝えてほしいんですね。羨ましいんですか?」
「何だとコラぁっ!」
 改めて顎を、口を覆うように掴まれる。
 何故急に発狂――もとい怒り出したのか。脳味噌の皺が足りなくこちらの言語を理解出来なかったのだろうか。学んでいる段階ならもう1度位言ってやっても構わないが、こう口を塞がれては何も話せない。
「……っ、何だ?」
 下層チームのリーダーは手を離して自身の足元を見下ろした。
 左の足首に大量の毛虫が這っている。
 長い方の毛は無毒であってもその隙間に生えている短い毛は有毒。毒を持たなくともその見た目は不気味の一言。まして30匹以上が男の体をよじ上ろうとしていた。
「うわ、うわあっ!」
「踏み潰さない方が良いですよ」
 ジョルノのスタンド、ゴールド・エクスペリエンスが生み出した生命は、受けた攻撃をそのまま反射する性質を持つ。
 助言を信用したのか単に靴が汚れるのが嫌なのか、チームメイトに見せられない不恰好なダンスを繰り広げる男を置いてジョルノは階段を上った。
 声が聞こえなくなった辺りで歩みを止めずに手帳のような物を取り出す。
 手にした小さな写真ケース。何枚か写真が入っているが、ジョルノが見るのは1つのページの、見開きに入れられている2枚の写真のみ。
 左は唯一持っている父の写真。首周りの傷が痛々しく、誰の目も引く星の形の痣が有る。後ろから隠し撮ったような顔が少ししか見えないが、それでも顔立ちも鍛え上げられた体も美しい。
 その隣、右にはジョルノ自身の幼い頃の写真。
 先日両親が頼んでもいない荷物と一緒に、籍を残している――気紛れに顔を出したりもする――学校の寮に送ってきた。
 確か未だ4歳の頃。急に『父親』が出来た日の自分。結婚式の時に撮られた、つまらなさそうな顔をした子供。
 母親の初めての結婚――未婚の母だったので再婚ではない。但し相手の方は知らない――で盛大な式なのだから祝福すべきだとわかってはいたが笑顔が作れなかった。
「祝ってないわけじゃあないんだ」
 勿論呪っているわけでもない。
 自分という子供が居て処女でもないのに真っ白いウェディングドレスを着るなんてと咎めるつもりだってない。見目だけは抜群に良いのでよく似合っていたとすら思う。
 ただこの頃はイタリア語に慣れておらず、周りの人々が母も含めて何を言っているのかよくわからなかった。
 サラサラの髪は真っ黒で綺麗に切り揃えられていて、余りにも今の自分や隣に挟めている写真の父に似ていなくて笑いすら込み上げる。
 こんな陰気臭い子供をも助けられる、そんなギャングになりたい。
 執務室の前まで来たので写真ケースをしまった。
 誰も居ないであろう執務室のドアを、主ではなく単なるギャング少年を演じてノックしておく。
「はい」
 中から声がしたので「おや」と思った。誰か居るのか。
「失礼します」
 言ってドアを開け――鍵は掛かってなかった――中に入る。居るにしても親衛隊2人のどちらかだろう。
 予想通りフーゴが居た。
「おはようございます」
 挨拶をしたがフーゴはこちらを向かない。
「おはようございます。すみません、ちょっと手が離せないので」
 見てわかるので「はい」とだけ答えてジョルノはドアを閉める。
 ボスのそれではなく親衛隊が共用しているデスクに向かい、キャビネットから出した沢山のファイルを開き何かの書類を探しているようだ。
 親衛隊はフーゴの他にはミスタしか居ない。そしてデスクワークをまともにする親衛隊はフーゴしか居ない。散らかし放題にしても文句は言わないが、幾つものファイルを引っくり返しているのは珍しいというより初めて見るので気になった。
 目的の書類が見付かった頃にでも声を掛けようと、それまで座って待っていようとソファに目を向ける。
「……ん?」
 そのソファに1人の、10歳前後の男児が座っていた。
 気配が無くて気付かなかった。じっとこちらを見ているが何も言わないし動きもしない。
「フーゴ、この子供は……いや後で聞きます」
 真摯なフーゴの邪魔をするわけにはいかない。何か有るのなら忙しくても入った際に一言位は言うだろう。つまり害の無い子供なのだろう。
 子供に害も何も無いか。
 自嘲気味にジョルノは子供の座るソファへ歩み寄る。
「こんにちは」
 返事は無いが目を逸らしもしない。不思議な子供だった。先ず服や帽子のサイズが全く合っていない。靴に至っては履いてもいない。
 次にその服と帽子、それから顔の作りがミスタのそれらと非常によく似ている。
 彼の特徴とも言える帽子をサイズもそのまま被っているから顔がやや隠れているのでは、と思えた。
 服もそうだ。子供の体なので丁度腹の隠れるトップスは袖が長過ぎて腕捲りをしているし、ボトムも限界まで裾を捲っている。だから余計に裸足――深く座っている所為で爪先すら床に付いていない――なのが目立つ。
 何より顔。ミスタの親戚筋だろうとすぐにわかる程よく似ている。隠し子でも居たのかと思わせる程の顔だが、流石にこれだけ大きな子供は居るまい。となると少し年の離れた弟か。複数兄弟が居る家庭なら長兄と末っ子がこの位――見た所8つ程――離れていても可笑しくはない。
 兄の衣服を奪って兄の所属するギャング組織に殴り込みに来た子供、という我ながらよくわからない妄想が頭に浮かんだ時。
「これだ」
 フーゴが目当ての物を見付けたらしい。ファイルから1枚紙を取り出し置いた。
「ここからそう離れていないな……ジョルノ、少し出掛けてきます」
 言いながら多数有るファイルを片付け始める。
 帰ってきてからではなく出る前に、という几帳面さが如何にもフーゴらしい。
「恐らく数時間も掛かりません。首を持って……いや、殺してしまったら戻せないかもしれないし連れてくるか。すみませんがその間ミスタの事を頼みます」
「わかりました。ミスタはどれ位で来ますか?」
 ジョルノの問いにぴたと手を止めた。
「……あの、その子供がミスタです」
「子供が」振り向いて子供の顔――ずっとこちらを見ていたようだ――を確認してからフーゴに向き直り「ミスタ?」
「そうです」
「ああ、やっぱりミスタの親戚なんですね。面倒を見ていろという事ですか、わかりました」
 そうは言うが子供の相手が自分に務まるだろうか。
 聞き分けの無い5歳児や目の離せない乳幼児ではあるまいし何とかするしかない。ジョルノは再び子供の方へ体を向け、更には腰を屈めて顔を少し近付ける。
「初めまして、ミスタ。君のファーストネームは?」
「グイード」
 漸く喋ってくれた。子供らしい甲高い声ではないが、変声期を迎えていないのはわかった。
「そうか、グイードか。って、ファーストネームまで同じなのか……弟じゃあなく遠縁?」
 濃い眉や睫毛、深い色の瞳等とてもよく似ているのに。伯父と甥の関係で2人共見事な父親似、その父親が双子だったりするのではなかろうか。
「ジョルノ、その子供は貴方がよく知るグイード・ミスタ本人です」
 フーゴの声にはやや気まずさが混ざっている。
「ミスタ本人?」
 どういう事かと再三顔を向けると、フーゴは非常に困ったと言わんばかりの表情を浮かべた。
「スタンドで子供にされました。された、じゃあないか。子供に戻されました。僕も1度喰らった事が有る」
 探し当てた書類をジョルノへと見せる。
 デスクを挟んだ距離なので細かい文字までは読めないが、特定の人物に関するデータ、個人情報の詰まった物だとはわかる。名前のみなら辛うじて読めた。
 顔写真の部分は何も貼られていないので何者なのかはわからない。読めた名前に覚えも無い。
「前にうちの界隈で悪さをして、発覚した次の日に逃亡を謀り(はかり)僕達を子供にしてきた。僕の場合は5歳の体と記憶に戻されました。あの時の事はよく覚えている。遠隔操作時は痛くも痒くもなく、しかし時間を掛けて子供にする……まあ僕は眠っている間にされて、眠っている間に元に戻ったんで聞いた話ですが」
「大変な事が有ったんですね」
「ミスタがスタンド使いを見付けて捕まえて元に戻させた。その時にもう悪さはしないようにと脅して、一応管理下に置く扱いで個人情報を纏めました」
 それが今フーゴが手にしている片面印刷の紙。
「今朝、酒場のボディーガードを終えたミスタを車で迎えに行った帰りに、最近盗みが頻発している辺りを通ったんです。革製品ばかりが狙われていると話している中で、1人の男が大量の鞄を抱えていて」
「完全に犯人じゃあないですか」
「僕達もそう思いました。車を降りて、問い詰めようと声を掛けた。ミスタの顔を見るなり悲鳴を上げて、スタンドを発動した」
 足元の影が伸びて形を変え、ミスタを――本体を、物理的に――掴み、一瞬で『年齢』を奪う。
「スタンドから解放されたミスタはもうその姿で、本体の方は走って逃げ出した。服を着ていない子供をそのままに追い掛けるわけにはいかないし、ミスタと面識が有るようだったから後からでも探せるだろうと思い、取り敢えず服を着せて車に乗せて帰ってきました」
「服を着せて? というか、服を着ていない子供?」
「近ければ近い程年齢を吸い取る速度は上がるようだ。ミスタを戻したら情報を訂正しておきます。写真も撮って貼った方が良いな。兎も角、一瞬で体が縮んだから服も靴も脱げてしまった」
 テレビアニメのように服が千切れ飛んだりはせずに、単にするりと落ちたのか。
「靴はここに置いています」自身の足元を指して「サイズが合わな過ぎる。足に悪い」
 見た所10歳前後の容姿のわりには足は大きめだが流石にミスタの靴は歩き方を可笑しくするだろうから履かせられない。
「ただ……パンツが見当たらなくて……パンツは履かせていません」
 フーゴの口から『パンツ』という単語が出ると妙に間の抜けた気分になった。
「拳銃や銃弾なんかは拾ったんですが。このデスクの引き出しに入れてあります」
 ここだと指してからフーゴはファイルの片付けを再開する。
「君はその下に何も履いていないのか?」
「うん、パンツはいてない。着せてくれたこの服しか落ちて無かった」
「そうか……本当にミスタのようだ」
 ジョルノは自身の顎に指を当て溜め息を吐いた。
 フーゴが手にしている書類に今現在どこに居るかまでわかる内容が書かれているとは思えないが、それでも彼とその情報を信用する他無い。ジョルノはミスタを縮めたスタンド使いの顔も何も知らない。
 とっ捕まえて元に戻させて、更に革製品の連続窃盗問題が解決するなら一石二鳥なのだが。
「何故パンツが無いとミスタなんですか?」
「ミスタは普段からパンツを履いていないからです」
「何故日頃履いていない事をジョルノが知っているんですか?」
 さて何と答えたものか。そのままずばりと「想像しているような関係だから」と言ってしまって良いのだろうか。
 騒ぎ立てられ軽蔑されたりはしないだろうが、すぐ近くに性教育を受け始めた頃合い位の少年が居る。
「……貴方は履いているんですか? その服で下着が見えないという事は履いていないのでは?」
「履いています」
「見てわからない形状の物を?」
 例えばサイドを紐で結ぶタイプの物や、アルファベットで言うならばTの形をしているような物を。
「早くミスタを元に戻してやった方が良いですね。ファイルの片付けお願いします」
 上手い具合いに――かなり不自然だが――話題を変えたフーゴは手にしていたファイル達をデスクに置いた。
「僕は元がどう収まっていたか知りませんけど」
「開いて1ページ目に書かれている数字の順にキャビネットに入れるだけで良いです」
 書類をデスクから取り出した封筒に入れフーゴは出入口へ向かう。
「にーちゃん出掛けんのか?」
 初めてミスタがジョルノから視線を外した。
「すぐ戻りますよ」
「行ってらっしゃーい」
 呑気な声の見送りを受けてフーゴは執務室を出た。バタンと音を立ててドアが閉まり子供と2人きりになる。
 10歳前後の子供は左右もわからない状況で服を着せ安全な所へ連れてきてくれた青年――今のミスタから見ればフーゴも充分大人の男だろう――が居なくなり不安だろうか。
 再びじっと顔を見てきた彼に、取り敢えずデスクに隠しているチョコレートでも与えて会話の切り口にしようと思いジョルノが1歩踏み出すとほぼ同じタイミングで、ミスタがソファからすとんと降りた。
「裸足のままは――」
 言い終わるより先にミスタは躓くでもなく自然にふらりと倒れ掛ける。
「危ないっ」
 慌てて屈んで抱き留める。身長は150cmにも満たなそうで腕の中にすぽりと収まった。
「大丈夫?」
 怯えるように首にしがみついてくる背をとんとんと撫でる。
 小さいからか体温の高い体が離れ、申し訳無さそうに眉を下げた顔と向き合う。尤も顔の左上は大きな帽子で隠れていた。
「悪い……」
「構わない。それよりも、貧血?」
「貴女の美しさに目眩がした」
「……は?」
 もう1度同じ事を言われたらどうしようと思ったが、ミスタは無駄に繰り返さず代わりに両方の肩に手を置いてくる。
「美しい人、貴女の名前はアンジェラ? それともディーヴァ?」
 さて何と答えたものか。数分開けてまた同じような事に頭を悩ませるとは今日は厄日か。
「……見ての通り男だから女天使でも女神でもない」
「なんだ、やっぱり男か」
 とは言うものの両手を離そうとはしない。
「まあ俺美人だったら男でも我慢出来るし」
「我慢?」
 大変に苛つかせる単語だが、もう10年もしないで「男でも『良い、それ程に好き』だ」と言えるようになる。それまではこちらが我慢するしかない。
 いや何故僕が我慢しなくちゃあならないんだ?
「ファータ、頼みが有る」
「妖精と来ましたか。僕の名前はジョルノ・ジョバァーナです」
「花園に帰る前に目を閉じてくれ、ファータ」
「はいはい」
 イタリアで健全に育った10歳の男児とは総じてこういった、軟派である練習をしたがるものなのだろう。相手をしてやるべくジョルノは軽く目を閉じてやった。
 ちゅ、と唇に唇が重なる。
「……アンタ今何をした?」
 すぐさま目を開けて睨み付ける。しかしミスタと同じ顔をした子供は得意気に顎を上げた。
「キスした」
 このガキどうしてやろうか!
 殴りたい衝動を何とか押さえてジョルノは両肩に乗る手を払う。
 不幸な子供を助けられる、自分を助けてくれたあのギャング・スターのようになると誓い直したばかりだ。思考回路を冷静に戻す為に写真ケースを取り出しいつもの箇所を開いた。
 父の写真の隣に薄幸そうな顔をした子供の写真。今目の前に居るミスタはこんな根暗そうな素振りは見せないが、それでも同じような力無き子供には変わりない。
「すげー格好良い!」
 覗き込んだミスタが大声を上げる。
「僕もそう思う」
 果たして中身はどのような男かは知れないが、それでも見てくれは突出して美しい。
「でも俺こっちの方が好き」
 言って『汐華初流乃』の写真を指した。
「美人で俺好み。年下だし」
「へえ、今からもう年下が好みか」
「1番好きなのはお前だぜ、ファータ」
 何から裏手で突っ込めば良いかわからず「僕はジョルノです」とだけ言って立ち上がる。
 こうして向き合えばやはり未だ小さな子供。身長差は20cm近く有りそうだし、じっと見上げる顔には幼さを感じた。
 他の組織構成員にこの状態のミスタを見せるわけにはいかない。フーゴが戻るまではこの部屋に2人きり。
 キスをしてしまったこの子供と。
「君はそうやって誰とでもキスをする?」
 だとしたら止めなくては。
 気の強い女にやらかして殴られでもしたら大変だし、今もそんな習慣が有るのだとしたら鼻が曲がる位に顔面を殴らなくては。
「口には初めてした。普段はおでこにする」
「僕が相手じゃあ額まで届かない……ん? 初めて?」
 うん、と頷く。
 それなりに思い出になるであろうファーストキスをここで消費するとは将来大物になりそうだ。
「初めてのキスか……」
 自分の場合はどうだっただろうと思い出そうとして、全く別の事が頭に浮かんだ。
 つまり未だ童貞?
「ミスタ、君はどれだけ、その、性的な経験が有る?」
 子供に向けてとんでもない質問を繰り出してしまったが。
「今のファータとのキスが1番エッチな気分になった!」
 やはり未だ童貞か。
 名前の訂正すら忘れ、何故か胸を張っているミスタの顔を見た。漸く思春期に片足を突っ込んだ程度の子供に経験が有るわけがない。
 ジョルノ自身だって10歳の頃には当然経験が無かった。つい最近、ミスタに純潔を奪われる――合意の上なので捧げる、が正しいのかもしれない――までは皆無と言っても相違無い。
 非童貞の彼に処女を捧げた。そして今童貞の彼が非処女の自分の前に居る。
 またと無い一斉一代のチャンス。
 ジョルノは大股にドアまで歩きガチャリと音を立てて鍵を掛けた。
「ゴールド・エクスペリエンス」
 そのドアをしっかと押さえてスタンドを呼び出す。万が一に備えて茨を生み、ドア全体に巻き付けて開けられないようにする。
「ジョルノも出掛けんのか?」
 スタンドの見えない――そしてしっかり名前を覚えている――ミスタの問いに、ジョルノは「いいえ」と答えて振り向いた。
「ミスタ」
「何?」
「キスをしてあげる。もっとエッチなやつを」
「本当か!?」
 ジョルノの笑みが嘲りに近い事に気付かずぱぁと顔を綻ばせる。
 これが無邪気な笑顔というやつか。
 歩み寄り少しだけ背を丸め、柔らかく未だ膨らみの目立つ頬に触れた。
 自分の方が高い位置からする口付けは初めてかもしれない。
 目を閉じて唇を反対の頬に当てた。続けて唇に。数度啄んだ後、弾力の有るそこへ舌を捩じ込む。
「っ!?」
 重なる唇から驚愕が伝わってきたが気にしてはいられない。小さな咥内に入り込ませた舌で歯列をなぞった。
 ぎゅ、と抱き締めるように、あるいは抱き着くようにミスタの両腕が背に回ってくる。
 次いで舌に舌が触れた。
「っ……」
 今度はジョルノが驚く番だった。絡めようとする動きは異物の排除を思わせない。ただひたすらに舐め合いたがっている。
 妙に刺激的な接吻から逃れるべく顔を離したのはジョルノの方だった。
「……キスした事無いんじゃあなかったのか?」
「先刻初めてした。今の方がやらしーやつだった!」
 目を輝かせる様子は年相応。目の前の少年はあくまで経験の無い子供。性的な方面へ仕向ける限り、主導権はこちらに有る。
「興奮した?」
 ねとりといやらしげな目付きで見下ろすとミスタは何度も頷いた。
「じゃあ、勃った?」
「たったって?」
 ジョルノはゆっくりとした動作でしゃがみ込み、目の前に来たミスタの股間にそっと触れる。
「ここ」
「あ……そこは……」
「ちょっと勃ってるみたいだ。自分じゃあ気付かなかった?」
 わざとらしく尋ねるとミスタはどんどんと顔を赤くした。
「勃ってるってわからない?」
「う、わ、わかる」
「わからないなら見てみようか」
 聞く耳持たずに派手な柄のパンツを膝下まで一気にずり下げる。
 阻む下着が無いので上を向いた性器がぶるりと飛び出した。
 思ったよりデカいな……『今』程じゃあないけど。
 体格の割りには、という形容詞を付ければそれなりに大きい部類になりそうだ。下の毛が未だ不揃いにしか生えていない所為で、隠れていないから大きく見えるのも有る。
「何で……出したの……」
 最早顔は真っ赤だし息も相当に荒くなっている。ジョルノはまじまじと性器に目を向けた。
 見詰められて照れているのか男根は更に形を変えて上を向いた。腹に付いてしまう前に右手の指でそっと掴む。
「ンっ……」
「どうしたんだ? こんなに腫れ上がっているから痛いのかな」
 からかいながら親指と中指で輪を作りカリをするすると擦った。
 肉の柔らかさは有るのに血液が集まってしっかり硬く、大人のそれのようだが未だ指の回りきる細さ。
「君が僕の事もフーゴのように『お兄さん』と呼んだらここにもキスをしてあげるよ」
 「にーちゃん出掛けんのか?」。何気無く言ったに過ぎない言葉だが少し羨ましかった。妖精よりも頼りになる青年として見られたい。
「ここに唇や舌が触れる」
 人差し指を鈴口に当てる。爪を立てないように指の腹でとんとんと叩いた。熱い粘液が指先に付着する。
「もう先走ってる」
 指を離せばカウパーが糸を引いた。
「それ小便じゃあない」
「知っているよ」
 寧ろ10歳前後の子供が『何』かを知っているのか。
「でも……そこから出てるから、汚い」
「汚くはない。いや、汚い所の方が気持ち良いものだ」
 カウパーに濡れた指を再び鈴口へ。今度はぐっと強く押す。
「あっ」
「ほら気持ち良い」
 唇を固く結んで答えない。
 その口をだらしなく開かせてやるべく亀頭に人差し指でくるくると円を描いた。
「汚い物を出す所なのに気持ち良い。人体は不思議で面白い」
 耳――大きな帽子で隠れているが――に顔を寄せて囁く。
「尿も便も汚い。けれど気持ち良い」
「……っ、う」
「汚い所と汚い所が合わされば、もっと気持ち良くなりそうだと――」
「思う」
 喰い気味に言う顔は幼いながらに妙に真剣で心臓が飛び跳ねるかと思った。
 平凡な日常に在れば先ずは見せない真摯な表情。尤もギャング稼業をしていれば嫌でも目にする機会は有る。
 敵対者に向けるそれとよく似た、しかし全く違う自分にしか向けない顔。
「早く戻って下さい」
 見慣れているようで初めて見る顔に向かってつい本音が漏れた。
「え?」
「何でも無い」
 立ち上がり歩きながらパンツのボタンを外す。ファスナーを下げて、そのまま下着と纏めて落とした。
 先程までミスタが座っていたソファへ左膝を乗せる。体を捻って振り向き、紛い物ながらも『女性らしい』括れを作る。
「汚いと言っても『こういう事』に備えて清潔にはしている」
 剥き出しの尻を、右手でその薄い尻肉を開いて窄まりを見せた。
「でもそこ……」
「ここに入れたら気持ち良いだろうと思わないのか?」
 その位想像が付くだろうと、考え付かない程子供ではないだろうという挑発。
 ミスタはごくりと嚥下してすぐにジョルノの尻を両手で掴む。
 そのまま躊躇い1つ無く男根を肛門へと挿入してきた。
「待っ、痛ッ! ちょっと、ぐ、痛いっ!」
 まさかいきなり性器を突き立てられるとは。皺を目一杯伸ばして侵入されては痛みしか感じない。
「あ、は、はっ」
 挿入する側は気楽な物で息を切らすように早々に喘いでいる。
 受け入れてきた『モノ』を考えれば細いが、それでも大の男の指2本よりは太く長い。
 全てが入ったらしく尻に陰毛の感触が当たる。
「ジョルノの中、気持ち良い」
「それは良かった」
「尻の中凄いベタベタしてる」
「ベタベタ? まあ良いけど……ん……君のも悪くないよ」
 別に良くもないけど。
 太さが無いので楽だが、長さも無いので肝心の箇所に届かない。
 性器の真裏の擦られて気持ち良い辺りには届く――届いている――が、強制的に絶頂させられる最奥の結腸までは足りない。
 そんな所突かれなくても、自分で擦れば簡単にイケる筈なのにな。
 先程言って聞かせた人体の不思議の話に戻る。あるいはこの体にすっかり教え込まれてしまった。
「そうだ、ベタベタが気にならない位に良く出来る。こうして」
 意図して下腹、肛門に力を入れる。
 排泄時に試していたらしっかり身に付いた直腸を下から上へと搾るように締め付け方。いつもよりも対象が小さいので腹の中程を意識して。
「うぅッ」
――ドクン、ドクン
 腰を捻ってはいるが見えない背後で一際苦しそうな呻きが聞こえた。
 続いて熱い粘液の流れ込む音。但しこれは自分の体内から。
「あ、待った……ん、ンっ……何、出してっ……ンぅ」
 それもかなりの勢いと量。どれだけ精液を溜め込んでいたのか聞きたくなる程だし、尻を掴んでくる手指も痛い。
「はぁ……はぁ……出しちゃった……」
「……全くだ」
 呆れた物言いをしてジョルノは前――ソファの背と壁――を向く。
 自分より5つは幼いであろう子供に何をさせようとしていたのやら。取り敢えずグイード・ミスタの童貞を美味しくはなくとも頂けたので良しとした。
「……んんっ」
 ずる、と音を立てて男根が引き抜かれた。たっぷりの粘液をまとわりつかせた未だ質量の有る物が肛門を抜けるので声が出るし体も震える。
 随分と沢山出してくれたものだ。意識して無理矢理広げられた肛門を締めなくては吐き出された精液が逆流してしまう。
「ん……ンぅ」
 それでも点にも満たない穴から精液がとろりと漏れる。肛門をなぞられているような快感が有った。
「凄いやらしー格好」
「そう見えているなら良かったよ」
 やれやれとソファに乗せていた膝を下ろして振り向く。
「……って、未だ勃ってるのか? 凄いな」
 これだけの量を出して未だミスタの小さい筈の男根は大きさを保ち上を向いていた。
「尻から垂らしてるの見せられたらなァー」
「僕の所為にするな」
 言い返されてムッと唇を尖らせてきた。可愛いと言えば可愛い。
「気持ち良かったから仕方無い!」
「はいはい、それは良かった。じゃあ……ソファに寝て、仰向けに」
「何で?」
「もう1度気持ち良くしてやるって言っているんだ。ほら」
 僕も気持ち良くなっておきたいし。
 完全に不完全燃焼。射精には拘らないが性行為をしたからには多少の快感位は得ておきたい。
 大量の精液、それから硬さ有るまま引き抜かれた事で悦は0ではないのだが。それでもいつもと比べれば足りない。全く以て足りていない。
 いつものように始めれば最後「これ以上は無理」と言っても尚追い詰めるように刺激を送られ続け、失神に近い絶頂を味わいたい――とまでは言わずとも、せめてもう少しと求めても罰は当たるまい。
 素直に従いミスタは――いい加減膝下に引っ掛けていた柄物のズボンを床に落としてから――ソファに1度座り、そのまま仰向けに寝そべる。
「これでいい?」大き過ぎる帽子を片手で直し「違うのか?」
「良いよ」
 横たわった体の、腹の上にジョルノは跨がり乗った。
「な、何っ?」
 腰を上げて片方の足は床にしっかりと付け、もう片方の足は膝を立ててソファに付ける。
「入れる時はきちんと掴まないと」右手でミスタの男根を掴み「上手く入らず曲がって痛い思いをする」
 ここに、と先端をジョルノ自身の肛門に当てる。深く呼吸をして体の力を抜き肛門を緩め広げると先程吐き出された白濁が溢れ零れた。
 精液を潤滑油にして亀頭をぬるりと飲み込む。
「んんっ……ローションを沢山付けた指で、愛撫されているみたいだ……」
「……ジョルノはそういうのが好きなのか?」
「そういうの?」
 再びの挿入に感じながらもこちらをじっと見上げる顔と目が合う。よく見る表情の気がした。
「そういうの、好きだよ。ミスタからの愛撫は気持ち良い。もっと深く入れたくなる位に」
「俺からの?」
「大人になった君からの……ん、僕は大人になった君が好きだから」
 腰を下ろしてずぶずぶと咥えてゆく。
「でもジョルノは」視線を自身の腹の上に向け「勃ってない」
「ああ、これ? 僕は『こっち』じゃあない方で、ちゃんと気持ち良いから」
 ミスタの腹に座り込み尻を擦り付ける。合わせて半ば程は勃っている性器も揺れた。
 こうする事で普段なら腰の動きが卑猥で最高だと悦んでくれる。
 腸壁が男根でゆっくりと擦れ、焦らされているような錯覚。
「はぁ……いつもと違う、でも……ちゃんと硬くて……気持ち良い」
 声に意図しない熱い息が混ざってしまった。
「んん……これ気持ち良いの? ここ……ん、擦るの好き?」
「そうだな……ンっ……こういうのも、嫌いじゃあない」と言う事は、好きなのだと胸の奥底で思いながら「……君は?」
「……気持ち良い」
「大人の君もそう言う……んんっ」
 じわじわとした刺激でも体が震える。
「こうして昂らせてから、ここを」腰を前にぐっと出し「沢山擦って、僕をイカせるんだ」
「イクの? あ、先っぽから、出てきた」
 自覚は無かったがカウパーが滲み出ていたらしい。
 ジョルノの言う絶頂は射精を伴わない、ウェットではなくドライのオーガズム。勃起しなくとも先走らなくとも射精しなくとも、全く違う種の快感が有る。それにハマり抜け出せない。
「ここでイッて体が準備万端になった後に、全部入れて1番奥を突く」
 しかしそれは今のミスタには、未だ成長途中の彼には出来ない。
 既に根元までみちりと飲み込んでいる。先端は性器の裏の、2番目に気持ち良い箇所よりも奥までは来ている。しかし最も気持ち良い結腸までは到底届かない。
 だがこれはこれで悪くない。じわじわと温め合うようなゆっくりとした前後の動きは、ウェットでもドライでもない心のオーガズムを得られそうだった。
「ジョルノ……可愛い顔してる」
「ふふ、恥ずかしいな」
 いつもは余裕無く目を瞑ってしまうが、今はこうして見詰め合える。
 可愛いと言い張ったその幼い顔が可愛い。
「だからもっと気持ち良くする」
 え? と尋ねるより先にミスタは両手でジョルノの腹の自然な括れを掴んできた。
 急に腰を突き出し浮かせ、そのまま知っているかのようにピンポイントで性器の真裏をがしがしと短く早いピストンで擦り付けてくる。
「ッ!? あ、ちょっ、待っ、ん! っ、ああっ、や、止めっ! そ、それっ、はっ! あァっ!」
 急激に送り込まれる快感に大声を上げるしか出来ない。
 一方でミスタは唇を固く結び――しかし端は少し上げ――ジョルノの顔を見上げたまま小刻みで激しいピストンを続けた。
 嫌だと言っても止めやしない。嫌がっていないとわかっている。
「……んンッ!」
 より感じると頭ではわかっているのに体が勝手に直腸を狭めてしまう。痙攣したような動きを止められない。
 ジョルノが絶頂を迎えているのを確認出来たからか漸く腰の動きが止まった。
「は……あ……何で……君は……」
「大丈夫か?」
 腸壁の蠕動(ぜんどう)を味わって満足気だった顔に困惑の表情が浮かぶ。
「……平気だけど……何で君は……イカないんだ? 僕を……」
 イカせておいて、と言うのが悔しくて、息も絶え絶えなのを良い事に言葉を濁した。
「俺は先刻出したし。あ、でもまた出せるぜ。今我慢してるだけだからな」
「そう……」
 我慢しなくても良いのだと気取る余裕が今は無い。
 射精とは違う種の絶頂なので体は未だ中から発熱していると思える程に熱い。
 この熱さはまるで精液のような。先程たっぷりと出され、出した男根で栓をされているので腹の中に残っているそれを連想してしまい、ただでさえ収縮激しい心臓が更に高鳴る。
「どうせなら尻のうーんと奥で出した方が気持ち良さそうだから我慢してる」
「それは……どうなんだろうな……」
 中で出す側は未経験なので何とも言えない。出される側としては状況によってはこの上無い快楽だが、今のように絶頂の余韻が抜け始めてからだと「後から垂れて面倒臭い」という意識の方が強くなる。コンドームは避妊目的以外にも有用だ。
「試して良い?」
「……今?」
 力が抜けて座り込んでいる、下敷きにされているミスタは頷いた。
「若いって凄いな。5つ位しか変わらないと思っていたけど、スパンをほぼ置かないなんてきっと僕には無理だ。良いよ、出して。沢山出せば良い」
 どうせ既に腸内にみっちりと精液が詰まっている。
「ちゃんとジョルノの事、今みたいに気持ち良くしてやるぜ」
 生意気。
 だがその鼻の高さが『彼』らしいので悪くない。
「んンっ!?」
 急にずしんと内臓に響いたので甲高い声が出た。
 腹の奥まで硬い物が入り込み、結腸を突く直前で引き抜かれる。先程まで触れられなかった箇所をゴリゴリと刺激される。
 達したばかりの所へ自分だけでは先ず得られない悦が与えられる。あちこちを突いて良い箇所を探す男根に、すぐに体がビクンと反応した。
「ン、あっ! 未だ、こんなにッ!」
 動けるなんて。ジョルノの方は上半身を起こしたままでいるのも辛いのに。
 露出している胸の辺りに汗を浮かせて。背や脇は既に服に汗が染み込んでいる。
「はぁ、やっぱり、気持ち良い、ヌルヌルして」
 精液を流し込まれた腸壁はベタベタとは違うらしい。
「んっ! あァっ! 奥、奥までっ! また、イクからっ」
 激しくなった動きに合わせて『ヌルヌル』の精液が肛門から漏れ出る。縁にねとりと付いて痒さを、もどかしさを感じてジョルノは身を捩った。
 最奥の結腸を突いてほしい。そうすれば思い切り絶頂に達せられるのに。
 いつもは恥ずかしいから、この後の体に響くから、と拒む位なのに。それを意地悪く突き上げられて、オーガズムに突き落とされるのに。
 嗚呼でもこんな子供にイカされるなんて。
「……ん、うっ、う! ンっ!」
 今ばかりは年上なのだから1人で快楽を貪る様は見せられない。先程射精させた時のようにジョルノは腹にぐっと力を込めた。
 ミスタはその腹を改めて強く、固定するように掴む。
「ん、あっ、で、出るッ!」
 宣言の通りにドクンと射精した。
 2度目だというのにまたしても勢いが有る。目一杯腰を突き上げての射精は吹き出した精液が奥まで届いた。何度も何度も熱を叩き付けられる。
 最も感じられる、絶頂と天国に近い箇所。
「ンああぁァッ……熱い……んうゥッ……」
 大して勃起していない性器がどろりと吐精しミスタの腹を、今の彼にはサイズが合わず腹を隠しきっている服を汚した。
 ああ、すまない。
 謝罪の言葉が口から出たか、声になったか、ミスタに聞こえたかわからない。
 体がぐらつき起こしていられないし、目も開けていられない。そのまま意識が吹き飛ぶ。

 うつ伏せのままでは疲れが抜けないので寝返りを打ちたい。が、狭くて動けない。と思った所で意識が完全に浮上してジョルノは目を覚まし開けた。
 寝返りを打っていたら床に落ちていただろう。眠っていたのは執務室の立派なソファの上。
「起きたか」
 厳密に言うならばソファの上に仰向けに寝そべるミスタの胸の上。18歳の彼はいつも通りの服や帽子をいつも通りに身に付けて、顔の上に掲げる形で雑誌――表紙や裏表紙を見る限りただのファッション誌――を読んでいる。
「……おはようございます」
「おはよう。1時間近く寝ていたな」
「そんなに……全裸で」
 自分ばかりが服を着ていない。
「下だけ履いてないのもアレかと思ったんで脱がせた」
 そこは着せろと言いたかったが。
「僕の服は?」
「さあな」
 脱がせたのはお前だろうと言い掛けて、もしかすると子供になっていた時に悪戯に脱がせてどこかに隠し、その後で戻ったのかもしれないと思い当たった。
 しかしそれなら「脱がせた」とは言わないか?
 胸の上に体をやや丸めて乗ったまま、不審気に見詰めてみるもミスタの目は雑誌に釘付けのまま。
 人の胸の上で1時間程眠った中で見る夢にしては濃厚、というより夢ではないとわかっている。
 心は満足感に満ちているし、体は倦怠感で動けない。
 頭だけ何とか動かしてドアを見た。鍵も巻き付けた茨もそのままだった。
「フーゴ、未だ帰らないんですね」
「俺が戻ってから40分位……おっと、30分以上は経ってるんだが、どこ行ったかわかんねーからな。でももうすぐ帰ってくるだろ」
 ならばその前に服を着なくては。一体どこに隠したのやら、ミスタ自身は靴までしっかり履いている。
「しっかし童貞奪われるとはなァー」
「そうですね……って」
 覚えている?
「お陰様で良い思い出になったっつーか」
「あの、ミスタ」
「後10分位したら回復するし『奥』まで突く?」
 やはりこれは、しっかりと覚えている。
「うわあぁァーっ!」
「痛てててっ! コラ! 腹の上で暴れんな! 重てーんだぞ!?」
 漸く雑誌ではなくこちらを見ようとしてきたが、今ばかりは見られたくないので雑誌ごと顔面を殴った。
――コンコン
 ぐぇという呻きに掻き消されそうな小さなノック音。音の発生箇所は当然唯一の出入口のドア。
「開けて下さい。ボス、居ないんですか?」
 声の主はやはりフーゴ。嗚呼急いで服を着なければ。その前に先ず男の腹の上という完全に誤解――ではない――を招く場所から降りなくては。
「鍵無ぇのかよー!」
 雑誌をぽいと床に捨て置いてミスタがドアに向かって尋ねる。
「ミスタ! 戻ったんですね。鍵を持って出なかったので開けて下さい」
「今ちょっと取り込み中! あと10分と50分してから来てくれ!」
「1時間も何を……貴様またスタンド能力を使ったのか!?」
 ドアの向こうで短い悲鳴やドタバタと暴れるような音がした。
 スタンド能力を解除させただけでなく、まして殺してしまいもせずに捕らえて連れて来たのだろう。
「50分で何するつもりですか」
 問いながらソファから降りる。
「決まってんだろ」
 ミスタが答えになっていない答えを言いながら体を起こし、左端に詰めて座り直した。
「しません、させません」空いたソファの右側に静かに座り「服を返して下さい」
「あれ? お前着たままとかそういうのが好きだった?」
「もう1度殴りますよ」
「止めろ、鼻の骨が折れる」
 逃げるように、しかし急がず自然に立ち上がり、ミスタは親衛隊共用とは名ばかりのフーゴのデスクに向かう。
「服返してやるから先刻の写真貸してくれねーか?」
「先刻の写真? ああ……」
 父と、僕の。
「あの髪真っ黒い子供可愛かったな。美味しくオカズにさせて頂きます」
「50分フーゴを待たせて何発殴れるか試しますよ」
「止めろ、死ぬ」
 デスクの下に隠しておいたらしいジョルノの服を取り出す。やはり子供の内に器用に脱がせたのか、畳まれておらずぐしゃぐしゃで皺だらけになっているのが見えた。
「なーんか幸薄そうな顔していたからよォ、幸せにしてやりたいよな」
「幸せに?」
 首を傾げて尋ねた。「幸せに」と復唱して服が手渡される。
「子供好きじゃあねーんだよ。特に不幸そうな子供。不幸せな子供は撲滅してやりたくなる、全員幸せにして」
「そうですね、僕もそう思います」
 革製品泥棒はスタンド能力を上手い事扱えているのだろうか。もしそうなら10年近く前の姿に1度戻してもらいたい。
 得意ではないがしっかり笑顔を作って写真を撮り、幸せそうな子供のそれを写真ケースに入れたい。


2019,04,10


アニメの結婚式の初流乃ちゃん可愛かった。革ベルトは痛いよね、よしよし。
ショタコンの利鳴ちゃんが攻めならショタにしてもR18有りって言ってた!
なので当サイトには不釣合いなまでの性描写重視話でした。もしくは背徳(の)空のパン(ツ)祭。
そしてお兄ちゃんと呼んでもらえないまま終わる。多分此のショタは意地でも呼ばない。
<雪架>

【戻】


inserted by FC2 system