シージョセ 全年齢 幼児化

関連作品:Little Star 1(利鳴作)


  Little Star 2


 師範代であるメッシーナが同じくジョセフの師範代のロギンズ共々諸事情により首都まで出向いてしまった為、今日の修行に関しては色々とずれが生じた。
 午前中は2人で組み手の真似事をして終わり、午後からは師範代ではなく『師匠』の厳しい特訓が待っている。
 本来の師であるリサリサも午前中は出掛ける予定が有った。昨晩の内に昼食後に戻るから待っているよう言われていた。
 その昼食も終わり部屋で一息吐いていたシーザーは、よく晴れた窓の外を見てふと口元を綻ばせる。
「アイツが、こんなに真面目にやるなんて」
 シーザー1人しか見ていないのに午前中は一切サボろうとせず、午後からもまた抜け出そうと企んでいる様子も無い。
 それどころか食事の為に外してもらった波紋の呼吸を強制させるマスクを――そのまま逃げ出す事も出来たというのに――朝食後から昼食までの間自ら付け直していた。
「……時間は無い、か」
 こうしてのんびりする時間にかまけて忘れそうだ。ジョセフにはもう半月程しか『時間』が無い。
 彼の体に付けられた2つのリングが、彼の息の根と心臓を止めてしまうまで――これはその為の波紋の修行。
 先に出て待っているか。
 シーザーはリサリサが未だ来ていない、恐らくジョセフも未だであろう場に向かうべく部屋を出た。

 廊下には誰も居ない――筈だったのだが。
 あくまでここはリサリサ個人の館であって観光地ではない。またいきなり客人を招待するような場でもない。居るとすれば使用人位のものだ。
 こんな小さな子供が1人でぽつねんと立っているわけが無い。
 5歳前後に見える男児は黒いノースリーブワンピースのような布――成人男性用のタンクトップインナーだろうか――1枚を身に付けているだけで靴すら履いていない。
 キョロキョロと辺りを見回していたところでドアが開いてシーザーが出てきたものだから驚いたのだろう、硬直したように動かずじっとこちらを見ている。
 数歩近付いても逃げ出さないし目も逸らさない。
 手を伸ばせば触れられる位置まで歩み寄ってから、シーザーは目線を合わせる為にしゃがんだ。
 このエア・サプレーナ島は観光地ではないが近隣は観て回るのにうってつけの地ではある。
 家族で観光旅行に来たが道を間違ってしまい、しかもその家族ともはぐれてしまったのかもしれない。
 そんな事有るか?
 しかし迷子に罪は無い。シーザーは女性に向けるそれとは違う笑顔を見せた。
「こんにちは。どうしたんだ、道に迷ったのか?」
 子供は首を傾げた。警戒心は見せていない。
「名前は……いや、こっちから名乗らないとな。俺はシーザー。シーザー・A・ツェペリ」
「しーじゃー・あん、ちゃ?」
「そんなに言いにくいか? イタリア出身じゃないのか。シーザー・A・ツェペリ。シーザーお兄ちゃんで良いよ」
「シーザーちゃん」
 随分と解せない略し方だが。
「……まあいい。君の名前は?」
 もし見たままの年齢ならば自分の名前位は言えるだろう。同時に知られては困るだの何だのと言い出すような年ではない。
「ぼくの、なまえ?」
 言語もちゃんと通じている。
 不意に子供がやたらと胸を張った。
「ジョセフ!」
「へぇ……ジョセフって言うのか」数度瞬きをし「良い名前だな。俺の友達と同じ名前だ」
 友達等という言葉は気恥ずかしいけれど。
 今までずっと家族か敵か女かその他大勢かしか居なかった。言うならばジョセフも最初は敵の内だった。それが今や見知らぬ子供にまで誇れる程。
「きっと良い男になる」
「ぼくね」
「うん」
「ジョースター!」
「……うん?」
「ジョセフ・ジョースター!」
 ファミリーネームまで同じとは。尤も、ジョースターという姓はそこまで極端に珍しい物ではないだろう。ジョセフという名前もだ。
 だから何も可笑しな事は無い。
「ジョジョってよんでいいぜ」
「えっと……ジョジョ、と?」
「シーザーは先になまえ言ったから。先にほんとうのなまえを言うのは『敵意が無い証拠』だって、エリナばーちゃんが言ってた」
 エリナという名前にも聞き覚えが有る。
「……ここには誰と来たんだ? お父さんやお母さんは一緒じゃないのか?」
「おとーさんもおかーさんもいない。でもさびしくない。ぼくにはエリナばーちゃんがいる。エリナばーちゃんだってぼくがいるからさびしくない」
 ジョセフという名前、ジョースターという名字、跳ねた黒髪、イギリス貴族を思わせる整った顔立ち、そこに浮かぶ得意気な表情、両親が居ない事、エリナという祖母が居る事。
「あと、スピードワゴンもいるぜ!」
 石油王として名高いスピードワゴンの名を気安く呼び捨てるのは、もしかすると。
「ジョジョ……なのか?」
 にか、と歯を見せて笑う。
 その笑顔を「久し振りに見た」と思ってしまった。師のリサリサに顔の下半分を覆うマスクを付けられて以来、こんなお調子者ぶったジョセフの笑顔は見ていない。
「何故、その……縮んだんだ?」
「シーザーなに言ってんの?」
 眉間に皺を寄せて瞬きしたジョセフは左右を2度見渡した。
「なぁ、ここどこ? シーザーちゃんのいえ? へんなとりみたいな声してた……スピードワゴンとどっか来たんだっけ? でもスピードワゴンも、エリナばーちゃんもいない……」
 急に眉を下げ肩を落とし全力で寂しさをぶつけてきた。こんな子供にそんな顔をされては困る。
 もう10年以上も前の事を思い出してしまう。妹達が寂しがる度に未だ幼い頃の自分が何とかして慰めていた日々を。
「ほら、こっちへおいで」
 両手を広げる。しゃがんだままなので邪魔臭い膝を横に少し倒すと、ジョセフはぱぁと顔を華やがせて腕の中に飛び込んできた。
「おっと」
 体当たりのような力強い抱擁によろめきかけたが。
「その格好じゃ寒かったか?」
 剥き出しの肩をとんとんと軽く叩く。
「へーき!」
 しがみついてくる体は確かに子供のそれらしく温かい。
 ふと首の後ろに小さな星形の赤紫色が見えた。指先で触れてみたが膿んでいる様子は無いしジョセフも痛がらない。
 汚れでもないだろうし痣か何かなのだろう。
「シーザー、すっごくいいにおいする」
 わざと鼻をスンスンと鳴らした後に満足気に呟いた。
「匂い? シャボン液が染み込ませてあるからだな」
「シャボンって、せんたくの?」
「まぁそんな所だ」
 波紋の力を応用して、なんて事は子供に言ってもわかるまい。
 頬に頬を寄せる。ジョセフからも甘いような懐かしいような良い匂いがする。

「シーザー、しゃがみ込んでどうしちゃったのォ?」
 甲高い女性の声に、シーザーはそのままジョセフを抱き上げて振り向いた。
 案の定、使用人のスージーQだった。これから掃除を始めるのか乾いたモップを1本手にしている。
「まぁー! 何て可愛い子供なのッ! リサリサ様のご親戚かしら!?」
「え?」
 なかなかに重たい体でぎゅっとしがみついているジョセフの顔は、ジョセフには似ていてもリサリサには――案外似ているかもしれない。唇の形なんかは似ている気がする。幼児特有の目の大きさが中性的に見えるからだろうか。
「でもリサリサ様は未だ帰ってらしてないのよねぇ、そろそろだとは思うんだけど。お客様の方が先に着いちゃったのね。未だ5歳位かしら? ふふっ、可愛い。ほっぺたがプニッとしてるわ!」
 人差し指でふにふにとジョセフの頬を押した。
 嫌がる様子を見せずに自分も触れようとスージーQへ手を伸ばす。
 手助けする形でジョセフを抱えたままシーザーは1歩近付いた。それが間違いだった。
 伸ばされたジョセフの手はスージーQの胸を鷲掴みにする。
 同時に初めて耳にするコウモリすら落下しそうな絶叫が上がった。

「一体何事ですか」
 コツとヒールの音を1つだけ響かせて、背後にリサリサが立っていた。
「リサリサ様! お帰りなさいませ。ちょっと聞いて下さいよォ、この子供! いきなり私のおっぱい触ったんですよ、びっくりしちゃいました!」
 超音波に近い声に驚き耳を塞ぐ為にジョセフが手を離したからか、スージーQはいつもの調子で返答する。
「んもう、この悪ガキめッ!」
「おめーが先にさわってきたんだ! なまえも言ってねーのによ」
「あらそうだったかしら? 私はスージーQよ」
「ジョセフ!」
「へぇ、ジョセフっていうの? ジョジョもジョセフって名前だったわよね。あら? そう言えばジョジョは? シーザー、一緒じゃあないの? 貴方達いっつも一緒に居るのに」
 それは、と口を開くより先にリサリサがぐいと割り入った。
 黒いサングラスをしている為表情はよくわからないが――そもそも感情を余り表に出すタイプではない――唇をぎゅっと噛み締めている辺りリサリサの中に何かが渦巻いているのがよくわかる。
「……貴方」
 凛とした声にジョセフも顔を向けた。
「ジョセフ・ジョースターですね? 間違い無く」
 抱えた腕の上で、先に名乗ったか否かで態度を大きく変えていたジョセフが素直に頷く。
「急いで財団に連絡を」
「えっ!? あ、私ッ!?」振り向き様に言われたスージーQはモップをぎゅっと握り「連絡すれば良いんですか?」
「『丁度先日話した病が数年早く発症した』と伝えるだけで充分です」
 わかりましたとお辞儀を残してスージーQは走り去った。

 残された3人の間に流れる静寂が重たい。
 シーザーは何を言い何をすれば良いのかわからないし、ジョセフはリサリサの魅せる雰囲気に圧倒されたか腕の中ですっかり硬直している。
 す、とリサリサがサングラスを外した。
 露になる美麗な顔にジョセフが「おぉ」と小さく呟き、しかし逃げ離れるようにシーザーの顔に顔を寄せる。
「……おりる」
 ぼそと呟かれたのでシーザーはジョセフをその場に降ろした。
 次いで背の高いリサリサが硬い表情のまま足を揃えてしゃがみ、ジョセフと目線を合わせる。
 こちらを見上げもせずに「シーザー」と呼び掛けてきた。
「はい」
「どうやって……抱き締めたのですか?」
「え? あ、いえ、どうやって、ですか?」
 手を開いたら飛び込んできたから抱き上げただけなのだが。
 重要なのはそんな『答え』ではなく、彼女が何を望みそんな問い掛けをしたのか。
 その『何故』については少し予想が出来たので、シーザーは屈んでジョセフの背を軽く押した。
 黒いワンピース調の服1枚の柔らかな背中は、そのままリサリサの方へと両腕を開いて歩き出す。
「ジョジョ……」
 躊躇いがちだったが、名前を呼ばれて決意したジョセフはゆっくりとリサリサの首に両手を回して抱き付いた。
「……温かい」
 リサリサもジョセフの背に腕を回し抱き締める。
 まるで生き別れとなった姉弟の感動の再会のような光景に目を奪われる。年齢の差という矛盾等気にならなかった。
 余りにも綺麗な光景で、妹達にまた会いたいと思ってしまう。
「シーザー」漸くこちらを見上げ「この子供は貴方もよく知るジョジョです。子細な話はおって、詳しく知る方から聞けるでしょう」
 リサリサはジョセフの短い後ろ髪を手袋を嵌めたままの手で撫でる。
「ジョジョがこの状態ですから、午後の修行は中止です」
「わかりました」
「私は部屋に戻ります。スージーQに会ったら、夕食はこの子も取るので今日は給仕もするように伝えて下さい。それから……私の部屋には、立ち入らないようにと」
 いつも凛々しくある瞳が妙に潤んで見える。こんな美貌に泣き出されては堪らないので、シーザーは短く「はい」とだけ答えた。
 リサリサが手を離すとジョセフも自然とそれに倣い離れる。
「泣いてんの?」
「……いいえ」
「泣いたりすんな」
 何事も無かったかのように、リサリサはいつも通り優雅に立ち上がった。
「泣いて等いないわ。坊やに心配されるような年じゃあない」
 外していたサングラスを掛け、来た時とは違い急ぎはせずにヒールをコツコツと鳴らして立ち去る。
 他には何も残さずに角を曲がり見えなくなった所でジョセフは盛大に溜め息を吐いた。
「ぼくおんなの人に泣かれんのだいッきらい!」
「へぇ。毛虫を持って追い掛け回したりしそうなのにな」
「そういうのはきらいじゃあないな! でも……かなしくて泣いてるのを見るのはきらい」
「あれは悲しくて泣きそうだったわけじゃあない」
 恐らくそれとは正反対。嬉しくて涙が溢れてしまいそうだっただけだろう。
 本当に生き別れた弟でも居るのだろうか。
 あるいはよもや、語らない過去に若くして子供を産んだが死別した経験が有るだとか。生きていればこの位の年だと思い込み上げる物が有ったのかもしれない。
「女性を泣かせないように努めるのは良い事だ。胸も触らなかったしな」
 茶化すとジョセフはこちらを向いて不貞腐れる。
「だって今のオネーチャン美人だけど怖いんだもん。すっげー怒られそう」
「シーザー! ジョジョ!」
 パタパタと足音を立ててスージーQが戻ってきた。
 揺れるエプロンドレスの裾は、確かにリサリサと違い隙や油断を感じさせる。
 また何か仕出かす前にシーザーはジョセフを抱き上げた。
「リサリサ様はもうお部屋に戻られたァ?」
「ああ。ちょっと入り組んだ用事が有るから部屋には誰も、スージーQも入らないようにって言っていたよ」
「そうなの? 折角すぐに向かうってお返事頂いたのにィー」
「スージーQ! さっきのオネーチャン、ばんめしの『給仕』してって言ってたぜ」
「お給仕? 珍しいわね、もう半年位してないのに。あ、さてはジョジョの食事マナーを見張れって事ね? 良いわよォ、どこぞの貴族にも負けない位綺麗に食べられるようにしてあげちゃうんだからっ」
「この子供がジョジョだって信じるのかい?」
「リサリサ様がそう仰るんだからきっとそうよ。それに目の色も髪の色もおんなじ。あっ! 肌の色はちょっと白いわね。もっと外で遊んでこんがり焼かないと」
「外であそぶ!」
「シーザーが沢山遊んでくれるわよ。晩ご飯はアンタみたいなチビっ子向けのメニュー用意しといてあげる」
「うまいもの?」
「勿論よ! じゃあ私リサリサ様のお部屋には行かないで、今からお夕食の準備に取り掛からないと。もしお部屋から出たリサリサ様と会ったら、すぐに来るって言ってたって伝えておいて!」
 まくし立てるだけまくし立ててスージーQはまた足音軽やかに去って行く。
 その背中に大きく手を振っていたジョセフがくるりと間近な顔をこちらに向けた。
「外であそぶ!」
 復唱されてもこの島に子供が遊べるような遊具は当然無い。
「シーザーと、一緒にあそぶ」
 巻いているバンダナをぐいぐいと引っ張ってくる。何年振りの子守りだろうか。
「これはまた一段と厳しい修行になりそうだ」

 ぱん、と両手の平を合わせてまた1つのシャボン玉が潰された。
 その遊び方は正しいのか? と首を傾げはするが、取り敢えずシーザーは再び右の手首をくるりと回して破壊力の無い極々平凡なシャボン玉を3つ浮かばせる。
 外は外でも館の中庭の1つ。大きなオリーブの樹が1本生えているだけで、シーザーが腰を下ろしているのもろくに刈っていない雑草の上。修行に使えもしない。
 飛び跳ねてまたシャボン玉を叩き割ったジョセフは裸足のまま。彼に合う靴が無いので余り外には出したくなかった。
 だが燦々とした陽射しが暖かくて心地良く、はしゃぐ姿は心底楽しそうで。
「もっと!」
「はいはい」
 急かされてもう1度右手首を回し、手の甲に仕込んでおいたシャボン液に空気を通してシャボン玉を膨らませる。
 その様子をジョセフはじぃと眺めていた。
「……それ、ぼくもやりたい!」
「どれ?」
 人差し指を差してきたのはシャボン玉の生まれる手。
「次はぼくがシャボン玉作るから、シーザーがあそぶばんにする」
「これは波紋の呼吸を応用して出してるから、きっと今のジョジョには出来ない」
「はもんの、こきゅー?」
 歩み寄ってきたジョセフの頭を撫でると、その下の顔が悪戯っ子のしたり顔に変わる。
「呼吸ならぼくもできる!」
 がし、と小さな両手で右手首の上辺りを掴まれた。
「普通の呼吸じゃない」
「知ってる! すぅーってして、体の中をぐるぐるってして、ぷはぁーってするやつだろ? ぼくね、たまーに出来るんだぜ。すごい?」
「それは凄いな」
 擬音ばかりでよくわからないから笑いが漏れる。
 だがよく考えると――子供に思考回路を合わせて浅く考えると、あながち間違ってはいない。
 息を吸って体内で波紋を練って息を吐く。言葉にすればそれだけの事で、その年で本当に出来るのだとしたら充分凄い。
 ジョセフの手は未だ性別もわからない位に幼い。指は短いし付け根の関節が笑窪(えくぼ)のようだ。
「シーザーよりいっぱいシャボン玉出してやるからな!」
 その両手でぎゅうと掴んだまま、ジョセフは大きく息を吸った。
「うぅーッ!」
 ジョセフは唸りに近い声を上げて力いっぱい『息』を吐き出した。繋がれた手に大量の『波紋』が伝わってくる。
 手がビリビリと痺れる位の、加減も使い方も全くわかっていない辺り、子供らしいと言えば子供らしい。
 膨れ上がる波紋を受けてシーザーの手の甲から小さなシャボン玉が大量に舞い上がった。
「……凄い……」
 ジョセフの波紋の力も、空へと吸い込まれてゆくシャボン玉達の美しさも。
 手の甲に仕込んでおいた液体の全てがシャボン玉となり割れ消えるまで顔を上げてその空に見入ってしまう程に。
「はぁーっ……あれ? もうないの?」
「……ああ、もう残っていない」右手の甲には「それにしても凄いな。その年からこんな事が出来たのか」
 シーザー自身も生まれ付きその才能は持ってはいたが、5歳前後の頃にはその片鱗も見せられなかっただろう。
「ぼく、かっこいい?」
 顎を上げた得意気な顔を向けられたので取り敢えず頭を撫でておく。
 びゅうと強い風が吹いた瞬間。
「ここかァッ!」
 晴れた空には似合わない、まるで逃亡犯を追い詰めたかのような声が響いたので振り向く。
 そこには見覚えの有る傷と眼差しの壮年――否、老年の男が息を切らして立っていた。
「スピードワゴンっ!」
 男の名を呼んでジョセフは走り出す。
「ジョジョ!」
 名を呼び屈んだスピードワゴンの腕の中に飛び込んだ。
 しっかりしがみ付くジョセフの背をぽんぽんと叩く。
 その手はすっかり皺が寄り年老いているが、5歳児のジョセフにとってはとてつもなく安堵する物らしい。
「しゅぴーど……わご……」
 飛ぶ鳥を物理的に落としそうな勢いの絶叫を聞くのは今日だけで2回目で、シーザーはそれこそ先のジョセフの如く耳を塞ぎたくなった。
 しかしこれが幼いジョセフの本音だと思うと胸の辺りがもやもやとして腕が上がらない。
 シーザーはのそりとその場に立ち上がる。
「ほらジョジョ、そんなに泣くんじゃあない。ジョースター家の紳士ってのはなぁ、そんなに大声を出したりしないんだ」
「でも、でも、起きたらだれも、スピードワゴンもいなかった!」
 しゃくりを交えながら必死に話す様子は、記憶の中の幼い妹達よりも更に子供じみていて。
「でっけーへやで、服ないし、くつないし、外にでっけー木が生えてて、とりが鳴いてて、ろうかに出たら、でっけーやつが、シーザーでっ」
「ジョジョが泣いてるってエリナさんに言っちまうぞ」
「エリナばーちゃんもずっとこねーんだもんッ!」
「あーあ、エリナさん『悲しむ』だろうなあ」
 その言葉にピタリと嗚咽を止めた。
「男って言うのはなぁジョジョ、簡単に泣いちゃあいけねーんだ。前にも言ったよな」
「……おぼえてる。泣いていい時は決まってるから、今から泣いちゃあだめだって」
 既にぐしゃぐしゃに泣き腫らした顔で何を等と無粋な事は言わずに、スピードワゴンは清潔そうなハンカチを取り出しジョセフの顔を拭く。
「そうだ、それで良い。しかし10年、いや15年は前に戻ったみたいだな。あの頃と全く同じだ」
「あのころ? あれ、スピードワゴン、なんかおじーさんみたいになってる」
「そうかそうか。聞いていた通りだ」
 うんうんと頷き一人納得していたスピードワゴンはこちらにその顔を上げた。
「シーザー君」呼ばれたので2人に歩み寄ると「小さな子の相手は疲れただろう」
「いえ……妹が居るので、何とか。特に何もしてやれていませんし」
 5歳前後の子供と接するのはそれこそ10年振りに近い。
「今までジョジョは泣き言1つ漏らさずに居たんだろう? 君が良くしてくれたお陰だ。いやぁ良かった。未だ何年も先だと思っちゃあいたんだが、ついこの間『もしも柱の男と相対した時になったら』なんて話をしたばかりだった」
「スピードワゴンさんはジョジョが急に子供になった理由を知っているんですか? いや、子供になったというより、子供の頃に戻ったとでも言うべきか」
「君の予測の通り、今ジョジョは子供に『戻って』いる」
 子供になるのと子供に戻るのとは意味が違う。
「リサリサ先生の言っていた詳しく知る方というのは貴方ですね?」
「ああ、きちんと話すよ。と言ってもあくまで知っている範囲でだが……それより先ずは着替えよう。これじゃあ風邪を引いちまうし、靴が無いから足の裏も怪我しちまう。何か踏んだりしていないな?」
「へーき!」
 抱き上げて移動してきたから、と続ける事無くジョセフはスピードワゴンから離れる。
「着替えも何も、こんな小さな子供に合う服なんて有りま……買ってきたんですね」
 既に18歳のジョセフの子供服を取っておいてはいなさそうだし、何故か未だ独身のスピードワゴンが子供服を持っている筈も無い。
 連絡を受けてすぐに買い揃えてここまで来たのだから大した行動力だ。単身で石油王となり巨大な財団を作り上げただけは有る。頼もしそうな笑顔と実際に頼もしい言動を見れば、幼児退行したジョセフでなくとも泣きたくなるのがわかる気がした。
「じゃあ地面や床に気を付けながら部屋へ行こう。1室用意してもらった」
 成長する――戻る、では今の状況を指してしまう――まで泊まり込んでくれるのだろうか。
 幼少期のジョセフを知る人間が側に居てくれるのならば有難いが。
「あの……抱いて連れていかないんですか?」
 恐らく20キロ近く有るだろうが、それでも足の裏を気を付けるならば抱き上げるのが1番早い。
「ジョジョは昔っから抱っこされるのを嫌うんだよ。抱き付いてはくるのに、乗り物にだって喜んで乗るのに、自分だけが宙に浮くのが我慢ならんようだ」
「地に足の付いたせいかくだからな!」
 意味をわかって言っているのか?
「さぁシーザー君も。1人で修行をするつもりだったかい?」
 いえ、と答えると建物へ戻るべくスピードワゴンは背を向け、来た道を悠長に歩き出す。
 彼が数歩離れてからジョセフがぐるりと振り向いた。
「シーザー」
「ん?」
「抱っこ」
 がば、と両腕を開く。
「……はいはい」
 ほんの数秒前と矛盾している事を指摘せずに溜め息1つ吐いてから抱き上げた。

 エア・サプレーナ島で修行を始めてから大人数での夕食は初めてだった。
 といってもいつもと違うのは客人としてスピードワゴンが、給仕としてスージーQが居る事だけなのだが。
 それでもこの2人にプラスして、そこそこやかましい18歳の青年がそこそこどころではなくやかましい5歳の子供に変わっているので賑やかさは比ではない。
「遺伝性の感染症、ですか?」
 シーザーは聞いた話そのままの鸚鵡返しでスピードワゴンに尋ねる。
「簡単にまとめればそうなるらしい。尤も、ジョジョの祖父さん(じいさん)からの受け売りに過ぎないんだが……ジョジョの祖父さんも父さんも発症した病でな」
「子供になる病気をですか」
「『年』を奪われる病気よ」
 スピードワゴンと対面しているリサリサが言い直した。
 長方形のテーブルのそれぞれの面に、時計回りでリサリサ、シーザー、スピードワゴン、ジョセフが座り、ジョセフの横にはスージーQが控えている。
「不老不死の化け物も老いはせずとも年は取る。肉体とは別に魂だけが年を重ねる。成長と老化は違うし、未知の無い世の中では成長が出来ない。解決する為には無駄に蓄えた年齢を切り落とす必要が有ると考えた」
「リサリサ先生、それはつまり……ジョジョは化け物由来のウィルスか何かに感染している、と?」
「……端的に言えばそうなるでしょうね。彼の先祖が化け物の遺物に触れて感染し、それが遺伝した可能性が有る、という事よ。そうでしょう? スピードワゴンさん」
 狼狽えがちに「あ、あぁ、その通りだ!」と答えた。
「ジョジョの首筋には小さな星型の痣が有ります」
「それは知っています。いつも見ていたし、幼くなってからも有りました」
 今はスピードワゴンの持ってきた――わざわざ買ってきた――服で見えないが。
 田舎者だと思っていたが、その田舎の領主の息子か何かを思わせる質の良い長袖のブラウスと膝丈のハーフパンツ。
 を、見事なまでに汚している。
「あン、もう! ジョジョォ、どうして跳ねさせちゃうの」
「うまい!」
「それはどうも。もう、フォークもスプーンもちゃんと持てているのにィ」
 すかさずスージーQが口の周りを拭いた。
 スプーンを使って食べても違和感が無いようにと乾燥したスパゲティではなく生のフェットチーネを使って作られたパスタは、子供向けと言わんばかりに甘めの味付けをされた牛肉のラグーソースとよく合っていて確かに美味しい。
 しかしフォークに巻き付ける度に見事なまでに跳ねさせるジョセフに、彼の履いた清潔な白い靴下と黒い革靴が泣いている。
「その痣を持つ者が成人する頃合いに発症するようです。そうですね?」
「はい、そう言われてきた……が、なんでかジョジョはもう発症しちまったなぁ?」
 目の前のジョセフは自分に振られた話だと気付いてスピードワゴンの方を向き満面の笑みを見せた。
 対してスピードワゴンもどろどろに溶けそうな笑顔を浮かべている。
「星型の痣が有る者は遺伝で発症する、無い者は感染して発症する。ならばもっと広まっている病じゃあないんですか?」
「空気感染はしない。接触による感染のみよ」
「俺もスージーQもジョジョにはかなり触っていますが」
「皮膚の薄い箇所や粘膜等で触らなければ問題無い。遺伝とは言うけれど、実際は誕生時に母体から感染している可能性が高い」
 遂にスピードワゴンに確認を取らなくなった。
「ぼくもあれ飲む」
 当然届かないが、ぐっとこちらに手を伸ばしてくる。
「駄ァ目! あれはアルコールが入ってるからジョジョは未だ飲めないの」
 スピードワゴンが幼いジョセフの服やら靴やらと共に持ってきたのは有名な白桃由来のスパークリングワイン。
 受け取ったリサリサは早速皆で飲もうと提案してくれた。本来牛肉を煮込んだ物に合わせるべきではないのかもしれないが、桃の甘さと爽やかさは美味しい。
「ほら、折角ブラッドオレンジのジュースを開けたのよォ? 本当はもっと記念日とかに出したかったんだから!」
「これ真っ赤でまずそうじゃあねーか! オレンジジュースならちゃんとオレンジ色してるはずだろ!」
「アメリカの砂糖たっぷりのオレンジジュースとは違うの。とっても美味しいんだから。飲まないなら私が飲んじゃうわよ」
 取られると思うと惜しくなったか、コップ――見た目はガラスだが、持つ様子はどうやらプラスチック製らしい――を両手で持って一気に飲んだ。
「うまい! 赤いのにどろどろしてない!」
「でしょう?」
「お代わりする!」
「今持ってきてあげるわン」
 ジョセフの頭を一撫でしてスージーQは厨房の方へと駆けてゆく。
 鼻歌の1つでも歌い出しそうな上機嫌振りに、彼女が子供好きなのがよくわかった。
「シーザー」
「ん?」
「それ、一口ちょーだい」
「お前なぁ……ワインは駄目だ」
「ジョジョ、シーザーを困らせてはいけません」
 リサリサからの忠告にぶうと唇を尖らせる。
「それからスピードワゴンさんも、ジョジョを甘やかしてはいけませんよ」
「いやぁ、そんなつもりは」手にしていたグラスの中身を自分で飲み「今や顔以外はジョースターさんと全く似ていないジョジョですが、こんな可愛い時期も有ったんですよ」
「そうですね、本当に……可愛らしく愛らしい……」
 口元に隠しきれない笑みが見えた。
 スージーQとは正反対だが、リサリサはリサリサで子供が好きなのだろう。
 好きで大切で大事にしたい。だがどう接して良いかわからない。傷付けない事を優先する余り触れられない。
 先のように背中を押す人が必要だ。まさかいつも冷静沈着なリサリサにそんな一面が有るとは。
「幼い時分に戻る、という事以外は特に何も無い病のようです」
 話が戻ったのでシーザーは「おっと」と顔を上げる。
「身体や精神への負担は特に無く、後遺症も無い」
「後遺症……という事は、ジョジョは戻れるんですね?」
「ええ」
「それが良いか悪いかはわからんがな」
 戻らなければ内臓は小さいまま。柱の男に埋められたリングの効果で半月の命しか無い、という非常事態から――恐らくだが――回避出来る。
 その方が幸せだったりしないだろうか。そうしてこの島なりヴェネツィアの小さなアパートを借りるなりして過ごしていく方が。
 どちらが良いか、という問い掛けは外に漏れず、シーザーの心の中をぐるぐると回った。
「……戻す方法は?」
 それでも『今』のジョセフに会いたいと思う。
 もし本来のジョセフを知らなければ、このまま子育て宜しく奔放な子供の面倒を見てやっても良い。
 だが友となった彼ともう2度と会えないとなると話は別だ。
「『時間』だよ、シーザー君」
「時間……一体、どの位の……」
「1日も掛からんそうだ」
「……1日ですか?」
 たったの?
「ジョジョの祖父さんから聞いた話だと1日、ジョジョの父さんの場合も半日とちっと位だった。きっとジョジョも明日中には戻るだろう」
 そんな単純な病が有るのだろうか。
「不老不死の化け物用の薬は私達人間には早過ぎたようですね」
 小馬鹿にするようなリサリサの言い方からも、唯の1日やそこらで戻る説は事実らしい。
「あらぁ、じゃあお2人は可愛いジョジョを見られないかもしれませんねぇー……可哀想ッ」
 ワインボトルと見間違うブラッドオレンジジュースの瓶を手にスージーQが戻ってきた。
「ロギンズとメッシーナは今日出掛けています」
「お見掛けしないと思っていました。挨拶の1つでもしたかったのですが」
「今日は部屋を用意させます。明日の朝にでも顔を見せてやって下さい。シーザー、そしてジョジョ。明日は戻り次第、予定通りに修行ですよ」
 手厳しさにシーザーも聞いているだけのスピードワゴンも苦笑する。
 スージーQに口の周りを拭かれながらジョセフも不穏な空気を察したか左右をキョロキョロと見回した。
「明日には戻っちゃうなんて残念ねぇー。可愛いからミルクのジェラート付けてあげるけど、これは今日だけよン。でも一瞬でにょきにょきってあれだけ大きくなるのかしらぁ? また顔に変なマスク付けられちゃうのね」
 人差し指で頬を突つかれて瞬きをして、何故かジョセフはシーザーをじっと見る。
 目が合っているので取り敢えず微笑むと、嬉しそうに目を輝かせた。

 夜も帳が降りる頃、幼いジョセフはシーザーの部屋のベッドに立ち、窓を全開にして外を見ていた。
「まっくら」
「夜だからな」
「月も星も見えない」
「あぁ……確かに曇っているな。明日は雨かもしれない」
 入ってくる風はほんのりと湿気っている。
「あしたは外に出られない?」
「どうだろう」
「またシャボン玉したかった」
 体を伸ばして窓枠にしがみ付いている後ろ姿でも充分にジョセフが不貞腐れているのがわかった。
 明日には元の年に戻るらしいぞ。
 そんな意地の悪い事も今は言った所で伝わらないだろう。
「星、か……」
 組んだ腕を枕にして仰向けに寝ているシーザーからは1つだけ小さな星が見えていた。
 スピードワゴンが買ってきた子供用の寝間着から覗く首筋の星型の痣。
 決して輝いてはいないけれど。
「俺にとってお前は『輝く小さな星』だよ、ジョセフ・ジョースター」
 くるりとこちらを振り向く。
「なんて、まるで口説き文句だったな」
 単に友情を伝えたかったのに。
 ベッドに2人で居るからだ。隣に寝られるように半分程を開けるとその位の言葉しか出てこない。
 5歳ともなれば1人で寝られるだろうに、何故か一緒に寝ると憚らず部屋までついてきた。スピードワゴンが自分の部屋に来るかと言っていたが、ついこちらに寝かせると連れてきてしまった。
「さ、早く寝るぞ」
 もう? と唇を尖らせたがジョセフはすぐに窓を閉める。
 こんなに早い時間から寝るのはどれ位振りだろう。もしかすると『家族』と住んでいた頃以来か。
 朝早くから修行が有り嫌でも規則正しい生活を送っているとはいえ、それでもリサリサや師範代の目を盗んでこそこそと真夜中にジョセフと話し合ったりしてきた。
 今日はそれが出来ない。こんなに近くに居るのに。
 ぴしゃりとカーテンも閉めて、布団に潜り込みしがみ付いてくる幼い子供相手に何を話せというのか。
 小さく未だ細っこい体が腕にひしとくっ付いている。眠る際のぬいぐるみ代わりにされている。
「シーザーちゃんおっきい」
「お前はあと10年ちょっとで俺より大きくなるよ」
「なるかなぁ? エリナばーちゃん、あんまりデッカくないけど」
 父も母も居ないからわからないか。
 そう考えればやはり寂しいのではないかと思い、その背を撫でてやった。
「沢山食べて、沢山遊んで、沢山寝ればすぐに大きくなる。今日は遊んだし食べたから、後は?」
「ねるだけ!」
 こんなにはしゃいでいる子供をどうやって寝かし付ければ良いのやら。
「さぁ、お休み」
 取り敢えず頬に口付けを。
 顔に顔を近付ければ硬い黒髪にくすぐられた。感触と甘い匂いに付けた唇の端が上がる。
「ちゅーされた」
 相当驚かせてしまったのか子供らしい丸い目でじっと見つめられる。これは寝る気が無さそうだ。
 苦し紛れに笑んで見せると、ぐいと顔が近付いてきた。
 ちゅ、と一瞬。
「……お前」
「おやすみのちゅーした!」
「こういう場合は、口にはしない」
 一応叱っているのにジョセフは得意気に顎を上げている。
 唇なり鼻なり摘んでやろうか。だがここで遊んでいては益々眠れなくなるだろう。ジョセフも、自分も。
 目を閉じてぷいと顔を背け、早々に寝たフリを決め込む事にした。
 小さく温かい体は未だくっ付いて離れないが、放っておけばやがて寝付くだろう。
 早々に深い寝息が聞こえてきたし、起こさぬよう静かにその息に合わせていると眠気が襲ってくる。

 最愛の友であるシーザーが幼い自分と共に過ごした1日に満たない、半日程しか無かった時間をジョセフはしっかりと覚えている。
 何てお礼言ったら良いんだよ……忘れちまってる方が良いんじゃあないのかァ?
 痛み始めた頭を押さえて溜め息を吐いた。
 やかましい子供(ガキ)の自分と視線を合わせて抱き締めて、抱き上げてくれた。あんなに小さな体に戻っていたのに、今と変わらない高さからこの島を見ていたから不安に襲われずに済んだ――不安の解消から大泣きはしたが。
「しっかし、何だ……恥ずかしいな」
 思わず声に出してしまった。その位に、次に会った時には顔を赤くしかねない程に恥ずかしい。幼い頃の自分を見られている。
 否、それだけでは済まない事が色々と有った。頬へキスされたとか、唇へキスしただとか。
 何とかして逆に幼い頃のシーザーを見る事が出来ないものか。
 見た所で何がどうなるわけでもない。自分にはシーザーのように子守の真似事は出来そうにない。
「……恥ずかしいといえば」
 この全裸具合も恥ずかしい。昨晩着せられた子供用の寝間着は脱いだが先か千切れたが先か。
 1人もしくは『女の子』と裸で寝ているのなら構いやしないが、今隣には昨日寄り添って寝かし付けてくれたシーザーが居る筈だ。
 誤解を招く前にベッドから抜け出さなくては、と思った所でその隣に居る筈のシーザーの姿が無い事に気付いた。
 しかし人の気配は有るし、布団にぬくもりを感じるし、何ならスヤスヤという心地良い寝息も聞こえる。
「はて?」
 わざと声に出して掛け布団を捲った。
 そこには1人の少年、と呼ぶよりも更に幼い子供。
 5歳かそこらに見える子供の華やかな金の髪の下の顔は、幼いがこの半月程の間ですっかり見慣れてしまった『彼』の顔でしかない。
「シーザー……ちっちゃくなっちゃった?」
 いや俺さっき言ったよね? 言っちゃあないけど、子守は無理よって言ったよね?
 隣で眠る、未だ格好の付け方も知らない子供が目覚めるかもしれない、という予測も立てられないまま、ジョセフは画家ムンクの作品宜しく両頬に手を当てて叫んだ。
「Oh! No! Oh My Gosh!!」


2017,08,10


関連作品:Little Star 3(利鳴作)


2017年サイト開設記念はジョジョのショタ化!
先に利鳴ちゃんが1部を書き、その後雪架が此の2部を書く、合同作品なのでした。
シージョセは一緒に居た時間が短く、尚且つ公式が最大手だから書ける物が少ない。
最後のジョセフの叫び(godは避けてみた)を覚えたまま関連作品リンクを飛ぶと楽しさ倍増で閲覧頂けると思います。
<雪架>

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