徐倫中心 全年齢 幼児化

関連作品:Lightly Star(利鳴作)


  Little Star 6


 かなりの広さを誇るG.D.St刑務所だが囚人にとっては狭苦しい世界。仲が良くとも気が合わなくとも、同じ人間とほぼ毎日顔を合わせる。
 毎日必ず話をする者、未だに名前を知らない者、地元が同じ者、母親以上に年の差が有る者。そして同じ能力を持つ気の合う相棒。
 折角の自由時間、どうせなら親しい友人と過ごそうと思い――というよりは、それが常だから習慣で――エルメェスは徐倫を探していた。
 顔見知りに徐倫を見なかったか尋ねると「今は監房には居ない」「朝食時隣に居た」「電話を掛けには行っていない」という意見しか得られなかった。後は知らない、もしくは徐倫を知らない。
 参ったな、とこめかみを掌底で押しているとF・Fの後ろ姿が目に入る。
「おーい!」
 大声に振り向き、手に水を持ったままF・Fは走り寄ってきた。
「徐倫見なかったか?」
「探してたとこ」
 徐倫の次に、もしくは並んで親しいF・Fには会えたので妙に安堵した。これではまるで徐倫に会えないと思っているみたいだとエルメェスは溜め息を吐く。
 そんな事有り得ねーのに。
「徐倫の房に居た子供の事話したいのに、肝心の徐倫が見付からなくて。見なかった? ってこっちが訊きたい」
「は? 子供だァ?」
 誤解されやすい単語を声量を落とさずに言った所為で数人がこちらを向いた。
「徐倫に会いに行ったらちっちゃい子供が居たんだよ。ちっちゃい徐倫みたいなちっちゃい子供」
「小さいって、どの位?」
 まさか徐倫に娘がおり、面会ではなく直接会いに来たのでは。
 彼女は確か19歳。早熟で、例えば16で子供を作っていたとすれば、今は2〜3歳になっている。
 体型や髪・肌の質は明らかに経産婦のそれとは違うが――
「えっと、この位?」
 右手を上に、左手は甲を下に向けて下げ、1m程の大きさを作って見せた。
「もうちっとデカかったかも」
「身長は訊いてねーよ! 年だよ、年!」
「年……『ヒト』の年って見ただけでわかるもん?」
 しょげたF・Fはどう見ても人間だが、彼女は元はプランクトン。知識は有れど知恵は足りず、また人間として生活した時間も未だ短い。
「で、その子供はどうしたんだ?」
「DISC持ってたし、エンポリオん所に持ってった」
「……DISC?」
 エルメェスは表情を険しくした。一方で睨まれようとF・Fはいつも通りあっけらかんとしている。
「こうやって持ってた」
 両手――右手にはやはり水を持ったまま――で胸の前に円盤状の物を持つ仕草。
「それをあの部屋に持って行ったのか」
「DISCだけじゃあなく子供も持って行った。で、あたしは徐倫を探しに戻ってきた」
「その子供の事、気になんないわけ?」
「徐倫に聞いた方が早そうでさ。徐倫の監房に居たし、顔の作りが似ていたし、あと徐倫の服を着ていたし」
「はァ? 徐倫の服ゥー!?」
 F・Fは「服とはこれだ」と自身の服を左手で摘んで見せた。
「似た服じゃあなくて同じ服。形も大きさも」
「本気で意味がわからねぇ……ちょっとその子供見に行くか」
 くるりと踵を返すとその背に声が掛かる。
「徐倫はぁー?」
「後で探すよ、後で」
 取り分け急ぎの用が有るわけでもない。
 そう、これは至って普通の、日常の1つ。
「じゃああたしも行く!」
 ぱたぱたと足音を立てて隣に立つ。徐倫を中心に親しくなった気がしていたが、こうして2人で過ごすのも決して悪くない。

 全てが幽霊の部屋に入ると、そこはある意味地獄絵図と化していた。
 ピアノの前でウェザーがエンポリオに顔を――極端に――近付けて話しているのは未だわかるとして、部屋の奥の片隅でアナスイが例の子供に詰め寄るようにしゃがみ込み話している。
「もっと見た目を考えろッ!」
 挨拶より先のエルメェスの第一声に部屋に居た4人全員が振り向いた。
「何でアナスイに話させているんだッ!? どう考えてもここは! テメーが子供と話すところだろうッ!」
 声を荒げながらエンポリオを指差す。
「……僕?」
 ぼんやりとした調子で返事をしたエンポリオの手には銀に光を反射するディスクが1枚。
「それ、何(だれ)のDISCなんだ?」
「誰の物でもない」
 ぼそと呟いたウェザーがエルメェスの耳元に顔を寄せた。
「至って普通の、音楽が収録されているコンパクトディスクだ」
「ケースは無いみたいだし、お姉ちゃんは一体どこからこのディスクを持ってきたんだろう」
「お姉ちゃんって徐倫? 来たのか? どこに行った? それ子供が持っていたやつじゃあないのか?」
 問われてエンポリオはアナスイを指差した。正確にはアナスイと向き合う小さな子供を。
 F・Fが言っていた徐倫の監房に居た子供とはその子供だろうというのが一目でわかった。5歳前後の少女が大人物の服――囚人服――を体に巻き付けているし、何よりも顔立ちが非常に徐倫似ている。
 凛々しいを絵に描いたような美貌。尤も19歳の徐倫とは違い未就学児童特有の幼さに満ちているが。
 もしも徐倫に娘が居たらあの幼女のような見た目をしているだろう。父親の要素が見当たらない位に似ている。ただ年齢を考えれば娘ではなく妹の可能性の方が高い。
「お姉ちゃんはあそこに居る。あの子は徐倫お姉ちゃんなんだ」
「はァ? 何だって? あの子供が徐倫?」
「徐倫お姉ちゃんが昔の姿になったんだ。昔の世界から来たとか、誰かが昔のお姉ちゃんのフリをしているとかじゃあない。今のお姉ちゃんが昔のお姉ちゃんに戻ってしまったんだ」
 眉を寄せた困り顔で話す内容はよくわからない。混ぜこぜにして誤魔化しているわけではなさそうだが。
「先ず誰が何の為にどうやって徐倫をそこの子供にしたんだよ」
 全てを尋ねて先ずも何も無いとエンポリオは肩を落とした。
「誰が何の目的で、というのは僕にはわからないよ。どうやって、というのには少し答えられるけれど」
「どうやったんだ?」
「スタンドじゃあない」
 びしりと言い切ったが、その後に言葉は続かない。
 わかるのはスタンドによる攻撃ではない事のみ。徐倫のスタンドの暴走でもないようだ。
 幽霊だらけのこの部屋で平然としているのだから幽霊が関係してもいないだろう。徐倫の父親は日本人で、日本人は幽霊を時に恐怖の対象に見るらしいが今回は関係無さそうだ。
「じゃあ何でアナスイが壁際に追い詰めているんだよ?」
「それは本人に聞いてほしいかな」
 言う通りなのでエルメェスはつかつかと部屋の奥まで歩き、アナスイの隣にしゃがみ込む。
「小さな女の子ビビらせるなんて変態かテメーは」
 ましてや服は大人のサイズのそれなので肩を大きく露出させている。まるで脱がせた後のように。
「ビビらせているわけじゃあない」
 確かに少女も怯え震えているわけではない。
 身を固くして口は閉ざしきっているが、それでも目は逸らさない。
「私はエルメェス。アンタ、名前は?」
「……徐倫。空条徐倫」
「おお、喋った」
 アナスイは名前も聞き出せなかったのかと思うと自分の方が優位に立っているようで気分が良かった。
「年は幾つだ? 私は23」
「……5歳」
「5歳って事はもうすぐエレメンタリースクールか」
「うん。パパのお祖父ちゃんがね、かばんを買ってくれたの」
「良かったな」
「うん!」
 自称5歳の推定徐倫は余り表情豊かなタイプではないが、それでもハキハキと喋る。
「ねぇエルメェスお姉ちゃん」
「何だよ」
 姉は居るが妹は居た事が無いので斬新な呼ばれ方だ。
「さっきのお姉ちゃんは、お兄ちゃん?」
 質問の意図が掴めず眉間に皺を寄せると、徐倫はF・Fを指差した。
 髪は短くとも顔も体付きも完全に女のF・Fが何故男に見えるのか。髪の長いアナスイを一瞬背の高い女に見間違う方が未だ理解出来る。
「起きたらわたし、CDを持ってた」
 話の飛躍の仕方が如何にも5歳児らしい。
「狭いお部屋だった。そこにさっきのお姉ちゃんが来たの」
「グェスは? えっと……F・Fが来るまでは誰も居なかったのか?」
「居なかったわ」
「なぁ徐倫、何故エルメェスとは話すんだ」
 横からアナスイが割って入るが、徐倫は途端にだんまりを決め込んだ。
「テメーが子供の教育に悪いからだよ」
 自分も決して良くない自覚は有るが。
「パパが知らない人とはお話しちゃあいけませんって」
 だが名乗りさえすればセーフらしい。
「それでね、さっきのお姉ちゃんが「そのディスクは?」って言うから「パパの」って言ったの」
「親父さんのディスクなのか?」
「わかんない。でもパパのお部屋にはいっぱいCDが有るから。それでね、さっきのお姉ちゃんが「パパって誰?」って言うから「空条承太郎」って言ったの」
「空条承太郎のDISCか……」
 それだけ聞けば今尤も欲している物なのだが、残念ながら承太郎の部屋に有る――物に似ている――音楽CDでしかないらしい。
「だからF・Fはここに連れてきたのか。しっかし」改めて徐倫を見て「何がなんだかわかんねーな」
「エルメェスお姉ちゃんは困っているの?」
 1歩前へ踏み出して徐倫はエルメェスの頭に手を置く。
「わたしが助けてあげる。わたしは味方よ」
「……急に頼もしい言い方するな?」
「好きな人は全力で守らなくちゃあならないの。自分を『ギセイ』にするようなのは駄目。だけど、全力は出す」
 随分と徐倫っぽい子供だ。
「……って、アンタ私の事好きなの?」
「うん!」
 しゃがんでいるから見上げる形になる幼い徐倫。彼女は無い胸をしっかり張っている。眩しく黄金に輝いてすら見えた。
「有難う」
 本当に徐倫だとしたら。
「私もアンタの事好きだよ。前から大好きだ」
 しかしエンポリオの言う通り過去から来たのでもよく似た別人でもないのなら、昨日まで共に居た徐倫は存在しないとも言える。
「好きだから、早く会いたいよ。よくわかんねーけど早く戻れ」
 戻るという表現が正しいのかどうかもわからない。このまま14年過ごさないと『今』の徐倫に会えないのかもしれない。
 それは恐らく世界で1番嫌だ。
「戻る……?」
「今徐倫は頭の中身も5歳に戻っている」
 アナスイが口を開くと途端に徐倫はエルメェスへと身を寄せた。
 自分が守ってやるとエルメェスはその未だ小さく細い体を腕で引いてすぐ近くに立たせる。
「戻っているのに更に戻れとは可笑しな話だな」
「ねえ……戻るお話してもいい?」
「戻る話?」
 知らない人のままのアナスイからの話題を引き継ぐ事、アナスイと共に会話をする事を躊躇ってか徐倫は初めて狼狽を見せた。
「徐倫、聞かせな」
 エルメェスの言葉に小さく頷く。
「5歳の誕生日にね、パパがお話してくれたの。大人に戻ってほしいって言われたら、1日もしないで自然に戻るって言えって」
「自然に戻る?」
「大人になったら戻る事が有る、でもまた大人に戻る……こっちは難しくてわたしにはよくわからなかったわ。でもね、初めて会った人に戻ってって言われたら、その時は後で戻るから大丈夫って言うんだって」
 父親の承太郎は徐倫が5歳に戻る事を知っていたのだろうか。
 時間経過で元に戻る事も知っていて伝えていて。しかしその時間は24時間未満という事しかわからない。
「パパも、パパのお祖父ちゃんも、そのまたお祖父ちゃんも皆そうだったって。だから多分徐倫もそうなるけれど何の心配も要らない、って言ってた」
 徐倫は「あとね」と言ってちらりとアナスイの方を見る。
「難しくってよくわからないけど、パパのお祖父ちゃんの頃に絶滅した『やつ』の為みたいな物だって……」
 どんどん困り顔になる徐倫の足――膝――をエルメェスは励ましにとんと軽く叩いた。
「待っていりゃあ元に戻るって意味で良いんだな? なら徐倫は子供の今を楽しんでおきな」
 何の責任も持たない言葉だが、それでも徐倫はうんと頷く。
「楽しむっつっても」エルメェスは立ち上がり「子供が遊べる物なんて無いけど」
「徐倫すぐ元に戻るって?」
 F・Fが顎を上げて尋ねた。
「1日もしないで戻るってさ」
「それってつまり数時間はそのまま? 点呼どうする?」
「あ……」
 金さえ積めば何とかなる緩さは有るが――エルメォスが徐倫を見下ろすと、再び助けてやると言わんばかりの顔が見えた。
 豊かとは言わないが表情は有るし、感情に至っては豊かの部類かもしれない。
「今晩の分は取り敢えずあたしが徐倫の顔作ってみようか」
「お前そんな事が出来るのか?」
 何故かアナスイが真っ先に食い付く。
 言い出したF・Fは「うーん」と顎に指を当て、考えたのか何も考えてないのかへらへらと笑った。
「顔の作りだけだったらいける。声は声帯って部分を作って空気の震わせ方考えて喋らなきゃあ似ないから難しいけど、黙っていれば数十分誤魔化す位出来るって」
「今晩中に戻るとは限らない」
 ウェザーもこちらへ独特の歩き方で近寄ってくる。
「F・Fが化けるのは念の為に明日の朝の点呼にして、今日は俺と共に居た事にしてはどうだろう。こっちで看守に金を握らせる」
「何でお前が一緒に居る事にするんだ! 俺が一緒に居た事にする!」
 アナスイは喰って掛かりウェザーの胸倉を掴む。しかしウェザーは相変わらず眉1つ動かさない。
 徐倫をこの部屋から出すわけには、他の囚人や看守に見付かるわけにはいかないので、実際に今晩戻らなければ徐倫と共に居るのはエンポリオになるのだが。
 そのエンポリオまでもがこちらへ来た。
 未だ子供で背の低いエンポリオだが、並ぶと5歳の徐倫の方が小さい。
「皆お姉ちゃんの事を好きなんだよ」
 エンポリオの言葉に彼の方を向く。
「そうなの?」
「うん」
 小さな子供が更に小さな子供の世話を焼くようで微笑ましい光景だ。
「でもさァー、男囚と一緒に居たってなったら、揃って懲罰受けるんじゃあない?」
「俺は徐倫とならどんな罰でも受けられる」
 お前が良くても徐倫は良くないとは言わずにおく。
「じゃああたしは明日の朝の点呼までに徐倫の顔を再現出来るように練習しておくか」
 小煩い大人達の話を、子供の徐倫は顔を上げて見聞きしていた。
「皆がわたしを好きなら、わたしも皆が好きよ。だから……わたしが戻ったら皆はよろこぶ? わたしはわたしの好きな人皆によろこんでもらいたいわ」
 何と子供らしい願いだろう。大人になればそんな願望を持つ事は恥ずかしいと考えるようになる。
「大人になんてなりたくねェーな」
 自身もすっかりそんな風に思えなくなったと、体は大きくなったのに狭い世界に居続けていると気付いてエルメェスは伸びをした。
「エルメェスお姉ちゃんは大人になりたくないの?」
「あ? ああ……そうだな……なりたいとかなりたくねーとかの前にもう大人だし」
「わたしは大人になりたいわ。大人に戻りたい」
 私達が喜ぶから?
「大人は辛い事が沢山有るのに?」
 思った事と違う事が口から出ていた。
「なりたい」
 それでも徐倫の返事は力強い。
「エルメェスお姉ちゃんの困った顔は見たくない。笑った顔が見たいのよ」
 どんな苦難が待ち受けていようとも、その先の正しい幸福を手にする為に。
 良し悪し共に、全て手放さなず受け継いでゆく。高祖父よりも更に前から続くそれを共に守りたい。
 出来れば青空の下で。否、今にも雨が降りそうな天候でも良い。空の見える広い世界で手を取り合いたい。


2018,12,10


関連作品:Like a Star(利鳴作)


お帰りなさいリトルスター。1年以上空けてロリショタ化の続きを書いてみたのでした。
星型の痣の描写を入れられなかった。何せ女の子だから余り脱がせられなくてね。
5歳女児の肌の話とかするわけには…5歳男児にパンツ履かせない私が言う事ではないか?
<雪架>

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