この作品は当サイトの開設日の記念に管理人2人が合作したもの(前半雪架、後半利鳴)です。
混部要素(3部+4部)、成人向け描写を含みます。
カップリングはDIO花(承花前提)と仗露です。


  The Room -前編-


 不思議な目覚めだった。100年振りの目覚めと少し似ている、とDIOは思った。
 それなりに高い天井に1つ有る照明は自身を煌々と照らしている。
 随分と寝心地の良いベッドで、疲れがすっかり抜けていた。首から下の体がより馴染んだと言っても良い。すこぶる調子の良い上体を起こしてから気付いた。
「どこだ」
 見知らぬ部屋に居る。
 ぐるりと見回せば4面全てコンクリートが打ちっ放しの壁。唯一のドアもレバーが有り頑丈そうなだけで装飾1つ無い。
 部屋に有るのは寝ていた円形のベッドと、ドアの反対側の大きなソファのみ。
 窓が無いので日光に焼き殺される事は無いが、この造りに心当たりも無い。だが取り乱してはならない。先に発した声は紛れも無く自分の物。五感も何も奪われてはいないのだから。
 目は壁に刻まれた文字を捉えたし、耳は寝息を聞いている。鼻も換気されていない密室特有の臭い(におい)を感じていた。
「つまり、この部屋は」舌打ちを堪え「あいつの仕業か」
 寝息の種類は3つ。ベッドを見下ろすと3人の男が寝ている。
 1人は特徴的なバンダナを巻いて腹の見える服を着た男。1人は大きく髪を盛り上げた学生服の男。
 そしてもう1人。学生服で癖の有る髪で、両目に傷が無ければよく見知った顔だった。
「おい」
 埋めた筈の『肉の芽』がすっかり抜けた額を鷲掴みにして揺さぶる。
「……ん」
 眉間に皺を寄せてから目が開いた。
 痛々しい傷痕は有るがきちんと光を映している。
「ここは……お前は、DIOッ!?」
 花京院典明はがばと起き上がり身構えた。
「話をしよう」
 スタンドを出される前に。DIOは己の手の甲に顎を乗せ『穏やかさ』を見せる。
「……話?」
 年の割には賢明な花京院はやや後ろに下がりはしたが、逃げるでも殴り掛かるでもなくDIOを伺った。
「そこが君の『良い』所だ」
「一体何の話だ」
「今のはこちらの話だ。君としたい話というのは他でもない、この部屋の話だ。ここがどこか、君にわかるかい? 花京院典明」
 名を呼ばれ不快感を露にしたが、生涯残るかもしれない傷の有る目を左右に走らせる。
「……わからない。僕は確か、病室に居た筈だ」
 ある男に目を傷付けられ、DIOの打倒を目指す一行から離脱していた。
 生まれながらに両目が見えなかったその男はDIOを崇拝していた。彼の無念は恐らく「終ぞDIOの姿を『見る』事が出来なかった」だろう。
「ここはスタンドの中だ」
「スタンドの……」
「厳密にはスタンドの持つ能力の中、とでも言おうか。世界各地からスタンド能力を持つ人間を集めたが、中でも面白いスタンドを持つ者も居た。恐らくそいつだろう」
「……何故僕のようなお前の敵だけでなく、お前自身がスタンドの中に居る? 攻撃の意図は無いと言いたいのか?」
「そう急かさなくても良いじゃあないか。君は一呼吸置いて辺りを見てから思考し言動を取れる人間だ。君はとても『紳士的』な筈だ」
 この形容は認めた者にしか使いたくなかったし、それが花京院の心を動かすとは思えないが。
「共に部屋から出よう。そして再び我が館へ来ると良い。君から『置き去りに残される孤独』をこのDIOが取り除こう」
 DIOのスタンドは射程距離だけが乏しい。花京院のスタンドはそれを補える。ジョースター一行に寝返った報せを聞いて束の間取り乱しもした。
 これは恐らく最後の機会。思えば『部屋(ザ・ルーム)』の本体もDIOへの忠誠心は、自分の持ち物を捧げようという心構えは有る。
 DIOは花京院の顔へと手を伸ばし、親指で目のすぐ下をそっとなぞった。
「君は未だ子供だ。痛みを覚えぬよう肉の芽を植えたが、それが君の負担になっていたとは。もう手荒な真似はしないよ」
 母親が泣き止まぬ赤ん坊を宥めるような穏やか過ぎる声。
「僕は……貴方を倒さなくてはならない」
 だが花京院の『声』が変わっている。迷いの有るような、敵対心をも削がれたような。この好機はザ・ルーム本体からの贈り物だ。DIOは顎で文字の刻まれている壁を指した。
「時空を捻じ曲げて作られたこの部屋は、あの条件を満たさなければ出られない。飢えて朽ちるなり刺されるなりして死んだ者の『力』を自分の物にするという特殊なスタンドだ」
 花京院の目が文字の刻まれた箇所へと向く。
 怪我は視力を奪わなかったらしい。唯一にして絶対の条件を見た花京院は驚きに目を丸くした。
 
  セックスしないと出られない
 
「さあ早くこんな部屋から出ようじゃあないか」
 そうここは、誰が呼んだかセックスをしないと出られない部屋。

「言い換えれば、出るのは至極簡単な事だ。ただ1つの条件を満たせば良い」
 それを自分は出来る、とDIOはたっぷり含みを持たせて話す。
「だが……その、それを……するのは……」
 直接的な単語すら避ける花京院が手中に収まるのも時間の問題だ。
「そこで寝ている2人のどちらかと済ませば良いだけだろう」
 ベッドにはこうして頭上で話していても起きない男が2人居た。
 揃って顔立ちは整っているので勃たせられるだろう。特に若い方の、気を違えたように髪の毛を盛った方の男は『良い』顔をしている。
「蟻塚の失敗作のような頭をしているが」
 これを見なければ、アジア系の中にもどこか見覚えの有るような顔に対して精を放つだけで良いなら。
 髪等退かせてしまえば良い、と顔の前の盛り上がった箇所を手の甲でぐっと押した。
 と同時に、その男の目が開く。
「……ん……誰、だ……?」
 慌てて手を戻す。髪を除けてよりよく見えた顔にも、寝起きに微睡む目の色にも見覚えが有る。
 何故か無性に触れてはいけない気がした。
「つか、ここ……どこだ? ふぁ……よく寝た」
 大きな欠伸(あくび)をしながら上体を起こし、ぐっと伸びもする。
 異様な空気にも臆さないのかキョロキョロと辺りを見回した。
「げ、露伴」
 近くで未だ眠る男の顔を見て心底嫌そうな表情を作った後、ドアの方を一瞥し、条件の書かれている壁を見る。
 刻まれた「セックスしないと出られない」の文字に、男は顔を顰めてこちらへ向き直った。
「これはどっちのスタンドの仕業だ?」
 聡明なのか経験が有るのかどうやら仕組みに気付いたようだ。つまりこの男もまたスタンド使いなのだろう。
「あとそっちの……人違いだったら悪いんスけど、もしかして『花京院』さんじゃあないんスか?」
「僕の事を?」
「やっぱりそうなのか!? 写真で見た事が有るだけだったが……でも何で写真と変わらない、学生の頃のままなんだ?」
 容易に時空を切り離すザ・ルームの能力は過去からも未来からも人間を連れてくる事が出来ると本体から聞いていた。
 だが元居たのが近しく訪れる未来だろうと遥か遡る過去だろうと、人間は人間に過ぎない。吸血鬼でありスタンド使いである己の方が高みに在る。
 見目良い若い男はこの部屋から出る為に用意されたに過ぎない。部屋を出た後に肉の芽を植えて子飼いにしてやっても良い。
「先ずは鍵となれ」
 この部屋を出る為の。
 DIOは右手を伸ばし、抱き寄せるべく男の左肩に触れた。筈だった。
 学ランを掴まれると同時に可笑しな髪型を大きく動かし、未だ寝ている男を引っ張り自らも共に後方へ下がる。
 ビリと大きな音を立て学ランを破れさせて露伴と呼んだ男共々ベッドから落ちたが、2人はDIOから距離は取れた。
 手の中には千切れた学ランの切れ端しか残っていない。一時だが呆然とした。こんなに油断している姿を晒す事は早々無い。
 肉を切らせて骨を断つとでも言うべき行動を、それこそ肉食動物の本能のように素早く器用に行った事は賞賛に値する。
 しかしDIOは元より隣の花京院も1点に目を奪われていた。
「貴様、その痣は何だ」
 首筋にちらとだが見えた、ジョースターの一族が持つ特徴的な星形の痣。
 痣で確信が持てた。痣がどうしたと隠しもせずに睨み付けてくる顔は、ジョースター家のそれだ。
「いたたた……」
 聞き慣れない声の主がベッドの下から起き上がり顔を出す。
「あ、悪ぃ」
 DIOから遠ざける為に引き摺られ床――コンクリート――に落とされたバンダナの男が、軽い謝罪に一層腹を立てて顔をぐっと近付け怒鳴った。
「『悪い』じゃない! 人が仮眠を取っている所に――というか仗助! 何を勝手に部屋に入ってきている!」
「おいよく見ろ露伴、ここはお前の部屋じゃあねえよ」
 更に反発しようとした露伴と呼ばれた男は、部屋より先に仗助と呼ばれた男越しにこちらを注視する。
 どこか誰か何時なのかを思案する細面が、いきなりすくと立ち上がりベッドへ上り直した。
 続いて仗助も上ってくる。それを横目で確認した後、DIOの前にすっと人差し指を伸ばす。
 指が動く。指先の残像がそのまま帽子を被った少年の姿となり目の前に現れた。

−−−

 宙に現れた少年漫画の主人公のようなヴィジョンは恐らくスタンドで、DIOの動きを完全に封じるのだからさぞ強いのだろう。
 花京院が名乗ると不承不承といった様子で細身の男は岸辺露伴と名乗った。しかしそれ以上の情報は一切吐かなかった。
 一方露伴がDIOの顔を眺めてる間に、もう1人の学生服の男は東方仗助という名前、16歳という年齢、花京院と同じく日本の学生である事、そして何より共に旅をしている空条承太郎の『叔父と甥みたいな親戚』という関係を教えてくれた。だから揃いの痣が有るのか。成る程確かに、顔立ちや体格の良さはやや似ている。
 2人は未来の人間に当たり、その近い未来に承太郎がエジプトで撮った写真を見せているらしい。
 つまり、僕達は勝つ。
 大きな希望が胸に宿った。深い傷となっている目元の痛みも全く感じない。平行世界(パラレルワールド)なんて無粋な事は考えず、確定した勝利に向かって突き進む勇気が俄然湧いてきた。
 だから早くこの部屋を出て――しかしその為には。
「随分と面白い事になっているみたいだな」
 どこからか取り出したペンを片手にDIOの顔を間近で直視したまま露伴が呟いた。独り言ではなくこちらに、それも2人にではなく花京院と話をしている仗助に向かって。
「過去の人間というのは事実らしい。こいつも」ちらと露伴の視線が花京院に向き「そいつも」
「自分はDIOですって?」
「ああ。スタンドの事も書いてある。あとこの部屋がスタンドで、1つの条件を満たす以外の方法では出られないとも。DIOのスタンドを持ってしてもだ。あとそいつのスタンドについても書いてある。DIOの物とは随分と違うから補い合うにはおあつらえ向きだ」
「花京院さんのスタンドは遠くまで行く事が出来るって話は承太郎さんから聞いたな」
「フン、また『承太郎さん』か。偶にはそれ以外の事も言えよ」
 ペンを仕舞い込んだ露伴がDIOから離れると、DIOは急に意識と自由を取り戻したように素早く片手で顔を覆った。何も言わず他には何もしないが、辺りの空気がピリピリと痺れを呼ぶ程殺気立っているのがわかる。
「さて、弓と矢のDIO」露伴は充分な距離を保ってから尚見据え「お前はこの部屋をどうやって出るつもりだ」
「貴様……」
 何をしたとは問わない。何をされたかを、次の言葉を、そして何よりこの部屋から出る方法をDIOが考えている間、心臓の音すら聞こえそうな程部屋は静寂に包まれていた。
「……スタンドの強弱を腕力で考えれば、貴様のスタンドはこのザ・ルーム同様さぞ『弱い』物だろうな。幼い子供のような見目をしていたし、何より……いやそれよりも」
 覆っていた手が離れ、DIOの顔はゆっくりとこちらを向いた。形良いのに冷ややかな色をした瞳は花京院ではなく仗助を捉える。
「ここを出られるスタンドを持っているか?」
 仗助の体がびくりと強張った。
 承太郎の甥なら「腕力で考えれば強い」スタンドを持っているのかもしれない。部屋の壁を破壊出来るような。しかしDIOですら条件を満たさなければ絶対に出られないと考えているのだから、壁に穴を開けてもその先に見知った空間が広がっているとは限らない。
「そいつは茨の塊を出すだけだ」
 露伴はあっさりと言い放った。
「僕のスタンドと同じ位に、この部屋では役に立たない」
 承太郎の母や祖父のジョセフ・ジョースターは茨のヴィジョンを持つスタンドだ。遺伝性のスタンドが有る事も、承太郎だけが突然変異で違う種のスタンドである事も考えられる。
 だが恐らく嘘だろう。DIOは露伴の方を向き直したので気付いていないが、仗助の顔には「嘘を吐いてどうする!」と書いてある。承太郎とは違い、表情がころころと大きく変わる子だった。
「貴様、どのように部屋を出るか訊いたな」
「壁に書いてある通りにしないと部屋からは出られないようだからな」
 物怖じしない露伴の物言いにDIOは唇の端を上げる。
「何を以て『セックス』とするかは知った事じゃあないが、貴様の尻の穴に精を放てば条件は満たされるだろう」
 早々に済ませ部屋の外へ出る。1度は配下に置いた花京院と、新たにジョースターの親族らしい仗助をも手に入れる。野望の為にその手を露伴へ伸ばした。
「……っ、何だ? 何故だ!? 何故貴様に触れないッ!」
 壁にでも阻まれているような、後ろへと引っ張られているような。DIOは爪の先で露伴の服を掠める事すら出来ない。
「言い直してやっても良い。僕に触らずに、どうやって部屋を出るつもりなんだ? ん? アイディアは1つしか浮かんでいなかったのか? 弓と矢の、あのDIOが」
「性格悪っ」
「煩いぞ仗助。で、表層で思い出せないだけで、何かしら抜け道が有るんじゃあないのか?」
 冷静を装っていたDIOの顔が歪む。
「思い出せない? 貴様はこのDIOがちょっとばかし忘れているだけだとでも言うつもりか。はははっ、可笑しくて笑ってしまうなぁ。笑いで片腹が痛い。貴様のそのお綺麗な腹から内臓を引き摺り出して、そっくりそのまま交換してやりたくなるな」
 露伴には触れられなかった手を花京院へと伸ばした。
 がしと強く腕を掴まれる。
「……君には問題無く触れるようで良かったよ」
 大袈裟なまでに甘ったるい言い回しだが、腕は壊死を連想させる程痛く掴まれたまま。
「このDIOが『知らない』や『覚えていない』のではなく『存在しない』のだ。ここを出る方法ははなから1つしか無い」
「その花京院典明とかいう男を使って出るというわけか」
「わかったなら退け」
 DIOの声に冷たい響きが加わった。
「僕としても間近で見せられるなんて堪ったもんじゃあない」
 ふんと鼻を鳴らした露伴はベッドを降り、ドアとは反対側に置かれたソファにどっかと腰を下ろす。その様子からしてDIOに施した細工を解いてくれと頼んでも聞いてはもらえないだろう。
「貴様は近くで見ているつもりか」
「あ……いや、俺は……」
「仗助! こっちへ来い!」
 大きな図体に似合わずどうした物かと躊躇った様子で仗助もベッドを降りた。
 眉を下げて心配そうに花京院を見てくる。少しだが彼に似た顔でそんな表情をしないでほしい。彼のように不安を外に出すまでもなく強気であってほしい。
 早く彼らと合流したい。
「……僕なら大丈夫。ここから出られるならね」何がだと自分で言いたくなる言葉を仗助に向け「それより……人に見られたくない」
 これから起こる事はわかっていた。何よりの本音を伝えると仗助はすぐさま目を逸らし、慌ててソファへと向かう。
 ソファの中央付近に腰を下ろそうとしたが。
「DIOはそいつを『もう1度』手下にしたがっている。既に仲間のようなものだろう」
「花京院さんはそんな人じゃねぇよ、多分。承太郎さんの味方だし」
「その空条承太郎を1度は攻撃してきたんだろう? お前も狙われるかもしれないんだぞ」
「だからそれは洗脳されて……あーもーわーったよ!」
 露伴から離れる為か反対端の肘掛けに掴まるように座った。
 2人のやり取りが何だか可笑しかった。こんなムードメーカー達が増えればあの旅も楽しくなりそうだ。
 だから視力の取り戻せた今、旅に戻る為にここを出なくては。彼らがDIOの手に掛かるような事の無い内に、出て行かなくては。

 友達に縁が無かったので少し勘違いをしているのかもしれない、と思う事は有った。それでも自分の承太郎に向ける感情は友情の範疇を超えていると自覚していた。
 彼は言うならば雄として高みに在る。
 外見も内面も不足無い『男』に対して同性ならば嫉妬するだろう。それを向上心として己も高みを目指すのが男なのだろう。
 しかし守られる安心感も支えてやれる幸福感も覚えてしまった。対等に並びたいとか追い抜きたいではなく、隣に寄り添いたいと思っている自分に気付いてしまった。花京院のそんな心情をも承太郎は察してしまった。
 あまつさえ彼は「自分も同じだ」という旨を口にした。初めて見るやや赤らんだ戸惑い顔で。
 以来宿で同室になる度に関係を深めようと試み合っていた。隣に並び座って話してみたり、手を取り握ってみたり、唇を重ねたり。
 その時点で自分が受け身に回る予感は有った。承太郎相手ならば何故か抵抗が湧かなかったし、彼にそんな真似はさせられない。決して男の方が好きだから、というわけではなく。明るく朗らかで爽やかな女性の方が好みのタイプではある。
 それでも宿の1室という2人きりの空間で、ベッドの上に上半身裸で睦み合い、ゆっくりと押し倒された時は拒まなかった。
「承太郎、ちょっと、待ってくれ」
「どれだけ待てば良い」
「そ、それは……」
「待っている間に夜が明けたらどうする」
 部屋割りは順繰りに変わる。次に同室になるのは何日後だろうか。それまでは承太郎は待てないし、花京院だって待てやしない。
 するりと承太郎に脱がされ下着から解放された男根はしっかり勃ち上がっている。
 正直な体の変化やこれから体を貫かれる事や、膝の裏に手を入れられ自分でも早々見ない『体』を晒す事が恥ずかしい。花京院は右手の甲を額に当てせめてもと顔を半分隠した。
 ああ、でも。承太郎はこんな時、どんな表情を見せるのだろう。
 こちらを見ていないように祈りつつ手をずらして覗き見る。
 天井を遮る承太郎の顔は雄々しく獣染みて、昂りを冷静さで隠しきれていない。求めている相手に求められている事実だけでも嬉しかった。
 祈りは通じず見事に目が合って恥ずかしかった。まして口元に笑みを乗せられる。
 決して無表情ではないし、断じて無感情でもない。だがきっと、彼のこんな様子を知っているのは自分だけだろう。
「お前のそんな顔を見られるのは俺だけか?」
「当たり前だ……」
 ファスナーを下ろす音が聞こえたので覚悟を決めて額から手を離した。
「……って、ちょっと、待ってくれ」
「いつまでだ」
「違うんだ、冗談を言っているんじゃあない」
「焦らしのテクニックか」
「そうじゃあなくて!」
 上体を起こすと流石に承太郎も身を引き話を聞く姿勢を見せる。
「僕には、その……『それ』は無理だ」
 どれだ? と首を傾げる様子は一層可愛いとも思ったが。
 口に出すのが憚れるので視線で指し示す。ファスナーの合間から取り出した、尋常ではない大きさの生殖器を。
 視線に気付き承太郎も己の男根を見る。そして再び花京院の顔を見る。その表情は言うならば困惑が1番相応しいだろう。
 何を原因にお預けを喰らっているのかわからないのは仕方無い。承太郎にとってはそれが普通だ。
「上手く言えないんだが……恐らく『それ』は入らない。大き過ぎて僕の体にはとても。物理的な意味でだけで、他意は無いんだ」
 僅かに眉尻を下げて承太郎なりに「結ばれないのは悲しい」を表した。何か言おうと唇を開き、何も言わず閉じた。
 しかしすぐに唇の端を上げて不敵に笑う。
「入るように広げれば良いのか」
 片手が花京院の臀部へと回った。
 そうではない、という否定はしない。ゆっくり手順を積み重ねればきっと何とかなるだろう。承太郎のスタンドは強大な破壊力を持っているが、同時に精密な動作もこなせる。力強く繊細な本人をよく表している。
 やがて『それ』と暈した彼の象徴が無ければ満足出来ない体に作り変えられてしまうかもしれない。
 愛しく求めて口にまで含むようになってしまってはどうしよう。その空想には少しの不安と確かな期待が有った。

 死ぬわけではないし、この部屋を出てすぐ殺されるわけでもない。何よりあの大切な思い出が消えてしまう事は無い。
 DIOの事だから宣言通りに洗脳もしてこないだろうし、逆に意地でも生かして旅の仲間と合流させる位だろう。花京院の知る限りではそういう男だ。
 仲間と、彼と共に歩めればまた――だからこれは事故か何かに過ぎない。そう己に言い聞かせて花京院はDIOの男根を口に含んだ。
「ぐっ……」
 余りにも屈辱的で、塞がった口から声が漏れる。
 ベッドの上に膝立ちで性器だけ取り出した男の前に、同じく服を着たままとはいえ四つん這いで咥えさせられるなんて。未だ萎びたそれは性器というより排泄器官だ。
 ……どちらがマシなのだろう。
「どうした? 口に入れるだけで『セックス』になるとでも思っているのか。それとも単に、しゃぶりたかったのか?」
 簡単な挑発にもかっと顔が熱くなった。
 視線を向けると見下ろす(みおろす)DIOの表情は、文字通り見下して(みくだして)いる。
 花京院はぎゅっと目を閉じた。
 生暖かく芯は有るのに柔らかな感触が気持ち悪い。だが臭いも味もこれと言って例える物が無いので取り敢えず耐えられる。そう自分に言い聞かせ咥えたまま舌を左右に動かす。
 このまま噛みちぎったり、もう少し興奮させるなりして油断した先にスタンドで攻撃――は、出来ない。
 不可思議な部屋の仕組みを別にしても尚、拒めない気がしている。DIOには逆らえない。口戯しろと言われればしてしまう。吸血鬼である事よりも未知のスタンドを使う事よりも、彼の存在自体の方がずっと恐ろしい。
「……ん、ぐ」
 支配されていると実感すると胸の奥にじわりと何かが広がった。ただの被虐趣味なのか何なのか。舌の付け根の痺れに逆らい、質量を増して咥内を占める男根を強く吸う。
「……不慣れにも程が有るんじゃあないか?」
 呆れでも嘲りでもないDIOの声に目蓋を開けて上目に見上げた。
「『分泌』させるんだ」
 それはどういう意味だ?
 尋ねるべく更に口を開くと同時に、鼻を摘ままれる。
「ッ!? ん、ぐっ!」
 息が出来ない。酸素が入ってこないし、二酸化炭素を吐き出す事も出来ない。
 急な酸欠で目が回りDIOの顔すらまともに見えない。匂いが遮断された所為で咥内を占める男根の感触ばかりが酸素不足の脳を刺激した。
 気持ち悪い。
「ぐ、ぶ、んッ」
 込み上げる嘔吐感に任せて吐き散らかしたい。堪える為ではなく助けを乞うべく這っていた右手でDIOの太股を掴む。
「こら、爪を立てるな」
 じゃれつく子犬に応えるような軽やかな口振りに反してDIOの方こそ鼻を摘まんでいる親指と人差し指に力を入れ、爪も立ててきた。
 裏筋の感触が舌を押し潰す。吐き気のままえずくと更にその奥へと亀頭が入り込む。何を映して良いのかわからない目が涙を湛え始める。
 まさか自分がこんな所で死ぬ筈が無い。飛行機が墜ちても船が沈んでも生き延びていたのだから、誰かに何かを遺す事無く死ぬ筈が。
 喉の更に奥を犯そうとされる分、限界以上に開かされた口の端が切れそうにピリと痛い。
「そうだ。そうやって『分泌』するんだ」
 慈悲の声が聞こえると同時に手も男根も離れた。
「ぶはッ」
 口から大量に粘り気の強い唾液が溢れる。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁー……はぁ……」
「やれば出来るじゃあないか」
 返答する気力も、最早睨み上げる気力すらも無く、猛る生殖器を眼前に花京院はひたすら肩で息をした。
 ぜぇはぁと自分の呼吸する音が頭に鳴り響く。どうやら酸素不足による頭痛が起きているらしい。
「後ろを向け」不気味な程優しい声音で「君も早く部屋から出たいだろう?」
 そうだ、早くここを出なくては。早く合流して、早く『彼』と目の前の男を――
 立ち上がればふらついて恥を晒す事が目に見えていたので、四つん這いのままその場で半回転する。
 視界に一瞬映った重たそうなドアの向こうで、仲間達がより辛く苦しんでいるかもしれない。制服の裾を捲り上げられる感触を受け入れながら友だけを想った。

−−−

 窄まりに両の親指を添えて左右に押した。本来の用途――排泄――以外に用いた事が無いのか広がらなかった。
 部屋の中には潤滑油に順ずる物は無く、女陰と違って自ら濡れる事も無い。裂いて血液を出しても良いが、吸血鬼である自身が血液を前に吸い取らないとは言えないし、下手に吸い取れば『セックス』が出来なくなり部屋から出られなくなる。
 異物を入れられればやがて腸液が出て動けるようにはなるだろうとDIOはそのまま突き刺す事にした。
 花京院は意識して力を抜いてはいるらしい。しかし先端すらなかなか入らない。鈴口を広げられるような不快感すら有る。
「どうした物かな」
 飽きてしまえば、萎えてしまうぞ。
 顔を上げて何故か触れる事すら出来ないソファに座る2人に目を向けた。
 吸血鬼である自分が人間である花京院に挿入して射精してもセックスとカウントされなければ、やたらと離れて座っているあの2人がする事になる。
「その方が面白いかもしれんな」
 小さな独り言が聞こえたのか横を向いている露伴の目が一瞬こちらを見た気がした。
 一方で仗助は俯いており、大きく盛り上げた髪の所為でその顔は見えない。しかし楽しんではいないだろう。握り拳を作ったり、己の服を掴んでみたりと落ち着きが無い。
 そんな見目に反して弱気そうな男が、あんな見目に反して強気ぶった男を抱くとしたら傑作だ。それは恐らく手を叩いて笑える光景に違い無い。
「……何が、面白いんだ」ぽつりと花京院が漏らすように「お前が面白いと思う事を、早くすれば良い」
 焦らされるのは嫌いかと問うより先にぐっと腰を突き出す。
 めりと抉じ開ける音がした。肛門は亀頭のみだが何とか咥え込んだ。
「っ、ぐ! ん……う……うっ、ン、う」
 更なる減らず口を叩けないように男根を押し進める。未開の肉を男根という異物で広げていく。
 べたついた腸壁の抵抗は強く胸の内が苛々としてくるが、思えばこれが本来の性欲なのかもしれない。否、単なる支配欲か。
 根元まで押し込んでも花京院は深い息の合間に呻きを交えるだけだった。大声で泣き喚きでもすればもう少しは楽しめるというのに。
 先程肉の芽を植えない、と言ったのは間違いだった。悦に飲ませてソファに座る2人――仗助の方は露伴に話し掛け、しかし返事を貰えていないようだ――に見せ付けてやる事が出来ない。
「まあ、やはり辞める等と言い出さなかった事は誉めてやろう」
 手の甲で首筋を撫で上げると、背を向けて這っている花京院の両腕が小刻みに震えた。
 苦痛と屈辱しか感じていないであろう頭を鷲掴みにする。
「ッ!?」
 急に上を向かせられ、先程のように目を白黒させているだろう。後頭部しか見えないのは惜しい。爪を食い込ませんばかりに強く掴んで動かし、嫌でもソファに座る2人に目を向けさせた。
 顔を耳元へ近付ける。間近になった顔は汗ばんでいるのがわかる。
「あちらの男は興味が無いようだが」露伴の方へ向けた頭を捻らせ「ジョジョに、承太郎に少し似た男の方は違うな」
 表情を削ぎ落とした露伴はソファの肘掛に肘を立てて頬杖を付き、首を痛めそうな程限界まで横を向けて文字の刻まれた壁を見ていた。
 一方で仗助も反対端に座っている。俯いたままなので表情はわからない。花京院に見られたくないと言われたから必死に見ないようにしているのだろう。
「何ともいじらしいじゃあないか」
 挿入した下半身の甘い痺れが無ければ大声で笑っていた所だ。
 耳に舌を捻じ込んでやる前に振り返ってドアの方へ目を向ける。どういった仕組みかはわからないが相変わらず解錠された様子は無い。
 入れただけではセックスに該当しないらしい。もしもこれだけで開くのなら、手間を掛けずにソファに座る2人も適当に犯し隷属させられるのに。
「時を支配すると言っても未来の人間までは手に入れられないかもしれないな」
「……今……何、て……」
「ん? あぁ、このDIOにも不可能な事は有る」
「そうじゃなく……今」
「例えば。君を孕ませる事は出来ない。もう1人位『子供』が……君にとっては良い事だな、花京院。身重の体ではお仲間達と旅の真似事なんて出来やしない」
 唾液だけだが吐かせておいたお陰で動くのに支障は全く無い。
 痛い位に締め上げる肛門はぬめりが程好い。そこへカリを擦り付けては熱い息を吐いた。
「目的は種付けるでも悦しむでもない。わかっているだろう? 貴様の体は精を吐き出される為だけに在るのだ」
 ギシギシと音が聞こえた。寝心地の良過ぎるベッドではなく、花京院の体が軋みを上げている。
 体を重ねるという表現に反して最小限しか挿入せず、小刻みとも言える極短いストロークで動く。その方が筋肉の集中している肛門を広げられるので『痛み』を与えられた。
「……うぅ……ン……ん……っ」
 それが他よりも痛く苦しい所為か、鼻に掛かった声が漏れている。
「やはり出さなくてはドアは開きそうにない。という事は」ソファに座る2人へ向け「腸内以外に出しても開かない可能性も有る」
 露伴は微動だにしなかったが、仗助の方は微かにだが眉間に皺を作った。
「下らない聖書の中ではオナンは膣外へ射精した為に罰せられた。もしここで『つい』『うっかり』『意図せず』背にでも放ってしまったら、また最初からになるかもしれない」
 言葉を強調する度に怯えで肛門がきゅうと締まる。
「この肉体は20代の物だが幾分のインターバルは必要だろうな」
 重たい空気の中数時間を過ごした後、再び手やら口やらで勃たせる所から始めなくてはならない。
 DIOを裏切りジョースターへと寝返れば、ただの1度抱かれる程度では済まないと、身を持って思い知らせなくては。
 返事をさせる為にDIOは花京院の腰を掴んだまま、人差し指で軽くとんとんと突ついた。
「どうすれば良いと思う?」
「……DIO、お前の……僕に……っ……」
「さぁ、その口で言わなければわからないぞ」
 花京院は首を数度左右に振る。
 しかし、やや間を置いて。
「お、くまで……入れて、出しっ……出してくれ! 中に!」
 自尊心の欠片も無いのかと侮蔑するより先に深く突き入れた。

「ッ! あ、ん! んッ!」
 遠慮無しにピストンすると、合わせて嬌声が上がる。
「んっ、やッ、やだ! 嫌だッ!」
 腸壁を抉られて力が入らなくなったのかシーツへと顔を突っ伏して喚いた。
 中途半端な広さの部屋の造りの所為で異様な程声が響いている。
 こんなに拒まれた事は無かった。生きとし生けるものは皆DIOから手を差し伸べられるのを待っているようにすら見えていた。
 世界に1人位自分を拒む人間が居るのも面白い。そして今そのたった1人すら下に組み敷いている。征服欲が満たされて射精欲が性器の付け根辺りにぐるぐると渦巻き始める。
「君の望み通り注いでやろう」
 一際奥に押し込み、下腹を力ませた。
「や、めッ! ん! あ、い……や、だァ……」
 這う力を失い俯せた体が、吐き出した体液の熱さに悶えて呻きを漏らす。ドクン、ドクンと2度に分けて放出するとDIOも額に汗を滲ませた。
 感慨無く男根を引き抜くと花京院の腰がびくりと跳ねる。
「ドアは勝手に開くのか、それとも鍵が外れるだけか……あながち最初から力任せに押せば開いたかもしれないなあ」
 それは無いと部屋に閉じ込められた4人共わかっている。この皮肉が届いているのか否か、花京院は荒く煩い息の合間に嗚咽を漏らす以外の反応を見せない。
 脱がせもしなかった花京院の上着の裾で男根を拭くと部屋の臭いが気になった。
 密封された空間に漂う精の据えた臭いと汗臭さにDIOは顔を歪める。
「……何だ、この数字は!」
 暫しの間耳にしていなかった声に目を向ける。声の主の露伴は最後に見た時から全く変わらない姿勢で座っていたが、その表情は驚愕に染まっていた。
 DIOに対してすら不遜に振舞う露伴の目を丸くさせたのは何か。彼の視線を辿る。
 
  セックスしないと出られない
  2/4


  The Room -後編-


「4分の……2……?」
 仗助は無意識の内にその文字を読み上げていた。極短い、文章と呼ぶのも躊躇うような、むしろ記号に近いとさえ言ってしまえるようなそれは、最初からそこにあった文字と同じく、彼等に一方的に言葉を投げ付けるように現れた。何分も前から――といっても、時間の感覚はとっくに麻痺しているが――忌々しげな表情でそちらを睨み付けていた露伴は、小さく舌を鳴らすと、まるでその文字を硬いコンクリートの壁に刻み付けた張本人がそこにいるかのようにドアに駆け寄った。
 仗助も立ち上がる。が、彼が向かったのは部屋の中央に置かれた大きな円形のベッドだ。そこに横たわる男は、ぐったりとしたまま顔を上げようともしない。幸いにも、その彼をつい今しがたまで凌辱していた吸血鬼はゆっくりと――優雅な、とでも言いたくなるような動きで――その場を離れた。露伴と同じようにドアのところへ行くのかと思った背中は、しかし文字が書かれた壁へと近付いて行った。露伴とDIO、2人から目を離すことに、不安を覚えなかったわけではない。が、露伴はDIOに『岸辺露伴に危害を加えることは出来ない』というような内容の“書き込み”を行っているはずだ。先程DIOが彼に触れようとして出来なかったのはそのためだ。どんな記述でも有効であるということはないようだが、とりあえず、彼の身は安全であると考えて大丈夫だろう。今は彼の能力を信じよう。
 文字の壁――とその近くにいる男――に背を向ける位置からベッドに上がった。写真でしか見たことのなかった男、花京院典明は、仗助が近付いたことに気付いたらしく、ゆっくりと目を開けた。気を失ってはいないようだ。乱れた髪や、汗や泪や唾液で濡れた顔、汚れた衣服を直視しないようにしながら、「大丈夫ですか」と尋ねようとして留まった。愚問だ。大丈夫なわけがない。最初こそ気丈に振る舞っていたが、彼が「嫌だ」と叫ぶ声を、仗助は聞いてしまっている。どんな言葉を掛けて良いのか、分からない。
「……あの、怪我とかあったら、おれのスタンドで治せますけど」
 DIOがいる前で己のスタンド能力を明かすようなことはしない方が良い。それは充分理解している。だが仗助は、何もせずにはいられなかった。声のボリュームだけは一番近い場所にいる花京院にさえ辛うじて聞き取れる程度に抑える。背を向けているので、あの男に口の動きを読まれる心配もないだろう。ついでに自分の体で少しでも花京院の姿が隠れていることを願った。
「だい、じょうぶ……」
 花京院は仗助が尋ねるのをやめた言葉を口にした。その声はわずかに掠れている。それでも彼は、手をついて上体を起こし、袖口で自分の顔を拭った。
「……露伴なら記憶も消せると思うけど……」
 仗助には、心の傷までは治せない。『お前の能力はこの世のどんなことよりも優しい』。それは、数か月前に空条承太郎に言われた言葉だ――その言葉自体が優しかった――。だが、――あの時もそうだった――それだけでは救えないものがある。
 ふっと息を吐くような音がした。顔を上げると、弱々しいながらも、花京院は微笑んでいた。
「すごい能力だな、2人とも」
 「でも」と花京院の目が露伴の方を向く。
「彼はぼくを信用していないだろう?」
 先程の会話は聞かれてしまっていたようだ。「そんなことはない」と言えない仗助は、再び視線を下げた。
「それとも、君が頼めばやってくれる自信がある?」
「う……それは……」
 表情を歪ませた仗助に、花京院は再び微笑む。今度のそれは、先程よりもぎこちなさが薄れていた。
「でも、要らないよ。大丈夫。これで、全力であいつを憎めるしね」
 意を決したような目付きに、ぞっとした。だが同時に綺麗だとも思った。その美しさが痛々しくもあった――目蓋の傷痕よりもずっと――。
「それに、あいつの前でスタンドを使わない方がいい。あいつがどんな能力を使うか分からない以上、危険だ」
 その言葉に、仗助は胸がちくりと痛むのを感じた。DIOの能力……。そう、確かに花京院は、それを知らない。
「それより、あのドア……」
 ふら付きながらも立ち上がる花京院に続いて、仗助もベッドから降りた。ドアの傍に立つ露伴の表情を見れば、尋ねるまでもなく分かる。依然この部屋は密室のままだ。それでも確認のためにレバー型のドアノブに触れてみたが、1ミリも動くことはなかった。開かないどころか、物理的な力で施錠されているのではないということを実感させられた。
 『セックスしないと出られない』。最初にその文字を目にした時は、なんの悪ふざけかと思った。が、すぐに理解した。これはスタンド能力であり、そのルールに従う以外に、ここから出る術はないのだと。だが今、その条件はクリアされたのではないのか……?
「……たぶん、足りないんだ」
 花京院が呟くように言った。彼が言わんとしていることは、すでに仗助にも――おそらく露伴にも――予想が付いていた。だが、それを言葉にしたくなかった。すれば認めてしまうことになる。そして次に“それ”を実行しなければならないのは……。花京院の思考も、すでにそこまでいきついているようだ。口調に躊躇いが混ざっていたのは、そのためだろう。
「条件は……まだ半分しか満たされていない」
 『4分の2』。数学的に考えても、おかしな表記だ。この何も――ベッドとソファしか――ない部屋の中で、『4』に該当するものは……? 彼等だ。彼等4人のことを指している。となれば、その文字が伝えようとしていることは、ひとつしかない。『セックスしないと出られない。4人の内、2人がそれをクリアした』。
「マジかよ……」
 自分の呟きに重なるように、くつくつと笑う声が聞こえた。振り向くと、いつの間にかDIOがドアとは反対側の壁の傍にある――先程まで仗助と露伴が座っていた――ソファに腰掛けていた。長い脚を組んで、自室でくつろいでいるようにしか見えない表情で。だが、それだけだ。何も話し掛けてはこない。それでも仗助には、赤い瞳が「さあ、どうするんだ?」と問い掛けてきているように見えた。
 気まずい沈黙を破ったのは、花京院だった。
「済まないけど、ぼくは少し休ませてもらうよ。……少し、疲れた」
 そう言うと彼は、部屋の隅に腰を下ろした。温かさの欠片もない硬いコンクリートの床の上は、絶対に居心地が悪いだろう。仗助がそう言うと、「DIOの傍にはいたくない」と返された。くだらないことを言ったなと言うように、露伴が舌打ちをするのが聞こえた。
 仗助は制服の上着を脱いで、花京院に差し出した。
「これ、敷いてください。直よりは、少しはマシかも知んねーから……」
 花京院は驚いたように仗助の顔を見た。そして、
「ありがとう」
 今度の申し入れは、受け入れられた。彼は柔和な笑みを見せた。
「君は優しいね」
 その言葉が胸に突き刺さる。
(おれは何も出来ないのに……)
「そんなこと、ないっす……」
「君、やっぱり承太郎に似てるね」
「……」
「制服、ありがとう。使わせてもらうよ」
 彼はそれを丁寧に畳むと、頭の下に敷いて横になった。そのまま目を閉じて、1分もしない内にかすかな寝息を立て始めた。
(……やれって、言われなかった……)
 部屋を出るための、残り半分の“条件”……。彼はそれを、仗助達に強いろうとはしなかった。自分はあんな目にあったというのに、それでも他人を気遣うというのか。
「……優しいのは、あんたの方だよ……」

−−−

 露伴は“それ”を読んだ時から「おかしい」と感じていた。壁に書かれた文字のことではない。DIOという名の男――あの“弓と矢のDIO”だ――を本にした時の記述だ。この部屋がDIOの部下であるというスタンド使い――スタンドの名は『ザ・ルーム』というようだ――が作り出したものであり、指定された条件を満たす以外に脱出する術はないということに偽りはないだろう。ヘブンズ・ドアーの能力の前に、嘘や誤魔化しは存在しない。DIOはこの事態を、一度は逃げられた花京院典明という男を再び支配下に置くために部下が寄越したチャンスであると考えているようだ。おそらく花京院も同じように思っているだろう。だが、それなら何故自分達が巻き込まれた? DIOとジョースター一行の戦いに、露伴と仗助は無関係だ。当時の者から見た2人は、言わば未来の人間。その戦いがあった当時、露伴はまだ小学生、仗助に至ってはたったの4歳だった。
 ドアは依然として開く気配がない。自分達は無作為に捕えられた獲物ではなく、“役割”を強いられている。そうとしか思えなかった。
(……まさか)
 露伴の思考はひとつの可能性に辿り着いた。それは、このスタンドの本体が1999年にいるのではないかということだった。もしDIOの部下だという者が、現在でも生きているとしたら……。DIOに手を貸すために、そして、そのDIOの仇を討つために、過去と現代を同時に攻撃しているのではないだろうか。敵の視点を1988年のエジプトではなく、彼等の時代の日本に置けば、露伴と仗助はDIOの敵である空条承太郎の仲間なのだ。攻撃を仕掛ける理由はそれで充分ではないか。敵の心を読むことが出来る露伴と、“なおす”力を持つ仗助。その2人を欠いた今、町はどうなっているだろう。
 実際のところは何も分からない。案外、時代も場所も飛び越えられるという特性を持ちながら、捕えられる対象は選べない、制御し切れていないスタンドなのかも知れない。ただ運が悪かった4人がここにいる。スタンド使いが引かれ合った。現実はその程度のお粗末なものなのかも知れない。それに、その推理が合っていたとして、今ここで何が出来るだろう。本体を探し出して倒すにしても、まずはここから出なければならない。
 花京院は眠ってしまったようだ。彼にも“書き込み”を行っておいた方が良いだろうか。DIOの記述には、花京院が一度はDIOの支配下にあったことが間違いなく記されていた。それを読んだ露伴は、彼を信用し切ることが出来ないでいる。DIOと同じように『触れることが出来ない』と、今からでも書くべきか……。だがこれ以上自分の能力を明かしたくない――そうでなくても、おそらくある程度の察しは付けられているだろう――という気持ちも強くある。少々悩んだが、このまま眠っているのであれば、放っておいても大丈夫だろうと思うことにする。
 露伴はベッドの傍へと移動した。DIOと、そして花京院、2人から出来るだけ距離を取ろうと思えば、いられる場所は多くは存在しない。
「仗助」
 呼び付けると、仗助もやっと花京院の傍から離れた。
「さっき、花京院典明と何を話していた?」
 あと数センチでも離れれば聞こえなくなるであろう小さな声で問い掛けると、仗助は眉を顰めながら口を開いた。
「別に、大したことは……」
「余計はことは喋るなよ」
「……分かってる。それはさっきも聞いたぜ」
 そう、その言葉は、少し前にも口にしていた。ソファに並んで――というには少し距離を広く空けて――座っていた時のことだ。

 2人の男がこの部屋から出るために体を重ねている。それと同じ空間の中で、露伴はソファに座り、壁の文字を睨み付けながら仗助の名を呼んだ。辛うじて空気を振動させるだけのような小さな声は、しかしなんとか届いたようだ。こちらを向こうとする気配に、「動くな」と命じた。
「こっちを向くな。あいつ等の注意を引きたくない」
「あいつ“等”……?」
 仗助も声を潜めながら言う。見なくてもその表情が歪んでいるであろうことが分かった。露伴はそれを無視した。
「余計なことは喋るなよ」
「なんだよ、余計なことって」
「DIOのスタンド能力や、ジョースターさん達の戦いのことだ」
 空条承太郎と同じ、時を止める能力。露伴はそれを、DIO本人から“読んで”把握している――もっともDIOは、スタープラチナの能力のことは知らないようだが――。そんな彼ほどではなくとも、仗助もある程度は――彼の父や、その孫から聞いて――知っていることがあるだろう。
「ぼく達にとって、あいつ等は過去だ。干渉すれば、どんなことが起こるか分からない」
 例えば、未来が変わるだとか。
「そんな、SFやファンタジーじゃああるまいし」
「一般人から見たら、スタンドだって充分ファンタジーの世界だぜ」
「う……」
 口篭った仗助に、露伴はやれやれと溜め息を吐く。
「それから、スタンド能力も使うな。知られない方がいい」
 露伴は横目でベッドの上を見た。まだドアは開きそうにない。
「でも、DIOはともかく、花京院さんには知られたって平気だろう?」
 そう返され、今度は横方向へと視線を動かすと、仗助は自分の爪先を見詰めるように顔を伏せていた。盛り上げた自分の髪の毛で何かを視界から遮ろうとしているようにも見える。
「どうかな」
 露伴は再び壁の方へ顔を向けた。
「さっきも言ったが、ぼくは信用していない」
「なんでだよ」
 むっとした声が返ってきた。こちらを見るなと言ったのに、視線が向けられているのを感じる。
「むしろ、よく知りもしない相手を信用出来るな。ぼくにはそっちの方が理解出来ない。写真で見たことがあるというだけで、直接会うのはこれが初めてなんだろう?」
「だって、承太郎さんの仲間なんだぜ。なんの問題があるっていうんだ」
 ムキになったような口調に、露伴は自分でも正体が分からぬ苛立ちを覚える。つい振り向き、睨み付けていた。
「じゃあお前は、空条承太郎が言えばなんでも信用するのか」
「何が言いたいんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ」
 仗助が立ち上がった。2人の注意を引きたくないと言った言葉は、もう忘れたようだ。だがその2人とも、“それどころではない”ようだ。
「言いたいこと? それならもう言った。ぼくはあの2人のことを信用していない」
 自分の言葉に、一瞬妙な引っ掛かりを覚えた。が、それの正体は分からない。仗助もよく分からない――なんとも形容し難い――表情をしていた。彼にもその“引っ掛かり”は存在したようだ。
 疑問と視線を断ち切るように、露伴は息を吐いた。同時に元の体勢に戻る。
「まあ、あれが本人だとも限らないしな。他人に変身出来るスタンド使いがいて、ぼく達を油断させるために花京院典明の姿をしている可能性だってある」
 仗助はおそらく納得はしなかっただろう――露伴も本心からはそう思っていない――。それでもソファに座り直した気配が分かった。2人の間に流れる沈黙を、“その外の音”が掻き消す。こんなところからは、早く出たい。だがもし“あの2人”で駄目だったら……。露伴の胸中を、暗雲が覆ってゆく。

 結局露伴のそれは、ただの杞憂では済まなかった。それを証明するかのように現れた、新たな文字。
 
  セックスしないと出られない
  2/4
 
 緊迫した空気は、未だ消えていない。
 今一度、DIOのみならず花京院へ対する警戒を促されて、仗助は不満そうだ。が、それについて言い合うよりも先に、今は解決しなければならない問題がある。
 露伴は壁の文字を見た。つられたように、仗助の視線も動く。
「どうする?」
 露伴が尋ねると、仗助はあからさまに狼狽えた。
「どう……って……」
「ぼくにはこんなところでぐずぐずしているような時間はない」
 こうしている間にも、スタンドの本体が仲間達を攻撃しているかも知れない。元から追っていた殺人鬼――吉良吉影――の足取りもまだ分かっていない。正義振るつもりはない。ただ気に入らないだけだ。だから捕らえる。ここにいては、それが果たせない。
「でも、ここから出るってことは……」
 仗助の目が再び動く。
「他に方法があるっていうなら、さっさと言えよ」
「……承太郎さん達が、おれ達がいないことに気付いてるかも知れない」
 またその名前かと心の中で吐き捨てる。仗助は空条承太郎を完全無欠の超人だとでも考えているのか。
「DIOが言ったように、本体がDIOの時代の者だったらどうするんだ。過去に遡ることの出来るスタンド使いを先に探すのか? ぼく達は何時間ここで待っていればいいんだ? 1日か? 1週間か?」
「……」
 黙り込んでしまった仗助の肩を強く押した。露伴よりも体格が良いはずの彼は、よろけて簡単にベッドへ尻餅を付いた。
「……マジで、する気かよ。おれと……」
 露伴は見上げてくる視線を真っ直ぐ見下ろし返した。
「ああ」
 きっぱりと答えると、仗助の瞳が揺れた。態度がでかくて生意気でムカツクやつだと思っていた彼の表情は今、年齢相応……いや、それ以上に幼く見えた。親と逸れて泣き出しそうな顔をしている幼児のようですらあった。
(そんなに嫌か)
 「仕方がない」と割り切ってしまえるほど、達観してはいないようだ。それに彼は、この4月に高校生になったばかりだ。――相手の性別を問わず――“そういった経験”もまだないのかも知れない。だが、待ってやることは出来ない。
「それとも、あの吸血鬼との方がいいか? 4分の2とあるが、1人が複数回するんでも大丈夫かもなぁ。それなら、お前に『触れられない』とあいつに書いたのを消してやるよ」
 脅すつもりでそう言うと、仗助は目を見開いた。そこにあるのは怯えではなく、純粋な驚きだった。そして、ぽつりと呟くように言う。
「そんなの、書いてたのかよ……」
 気付いていなかったらしい。そう言えば、わざわざその文面を見せはしなかったし、DIOが触れてこようとする前に仗助はもう離れていたか。
「だから、お望みなら消してやる」
「……死んでも御免だ」
 だがもう“それ”をした者がいる。
「すでに犠牲者は出ている」
 露伴は花京院を信用していない。故に、彼を“犠牲”だとは感じない。それでも仗助の心を揺さぶることが出来るのならと、あえてその言葉を使った。
 仗助はまだ躊躇いを捨てられぬようだ。“理解”はしていても、“納得”は出来ていないのだろう。表情も強張っている。この状態ではどちらにせよ“出来ない”かも知れない。いっそのことヘブンズ・ドアーで動きを封じて、無理矢理“やる”か? あるいは、『岸辺露伴を抱く』とでも書き込むか。
 もしここに一緒に閉じ込められたのが、
(ぼくではなく、空条承太郎だったら……)
 仗助は躊躇うことなく、“ここを出ていた”のだろうか……。
 彼はやっと口を開いた。
「……出来ないっす」
 DIOがくっと笑ったのが聞こえた。露伴は、煩い、お前は黙っていろと言いたくて仕方がなかった。
「花京院さんには、悪いけど……」
 その感情を上廻るほどの嫌悪ということか。先程「死んでも嫌だ」と言った言葉を、露伴にも向けるつもりか。
「そういうのは、やっぱり好きなもん同士でするべきでしょう」
 仗助の視線がちらりと花京院の方を見る。DIOと花京院のそれを見せられた所為で、余計にそう思ってしまったのだろう。一種のトラウマになりかけているのかも知れない。
(やはり“書く”か……)
 露伴はペンを構えようとした。ところが、
「露伴は……、おれのこと嫌いだろ」
 一瞬何を言われたのか分からなかった。逆ではないのか。仗助が露伴のことを嫌っている。だから出来ないと、そういう話ではないのか。その口振りではまるで、仗助側には問題がないと、つまり、彼は“それ”をするための条件をクリアしているとでも言っているようではないか。
「仕方ないからなんて言って、露伴に嫌なこと、させたく……ない……」
 仗助が俯くと、それを見下ろしている露伴からは彼の表情が――髪型の所為もあって――ほとんど見えない。
 それは本心なのだろうか。本当に――こんな状況下で――露伴を気遣って……。それとも、そんな――本心とは真逆の――嘘を吐いてまで“したくない”のか。他人の犠牲を無駄にしても? あの東方仗助が? それは露伴の中にある彼のイメージと一致していない。仗助はもっと、いい加減で、適当で、お人好しで……。
(読めば……、分かる……)
 露伴がペンを取り出すと、仗助は両目を強く瞑った。いつまでも拒み続けていることが出来ないのは分かっている。だから抵抗はしないと、そういうつもりか。スタンド能力で操られてなら、仕方ないと。
 そんな仗助を、露伴はいじらしいとは思わなかった。むしろ、ずるい。そんなのはただの“逃げ”だ。
 露伴は右手を動かした。ペン先が空を切るような音を立てる。仗助がびくりと肩を跳ねさせた。目を閉じていた彼には、何が起こったか分からなかっただろう。
「ヘブンズ・ドアーで“ぼく自身に”書き込んだ」
 仗助は目を開けた。
「文面は、『東方仗助を好きになる』だ」
「なッ……」
「これで問題ないんだろ」
「あんた、何やって……っ」
「ここから出たら消してやるよ。必要なら、お前の記憶も書き換えておいてやる。お前が言ったんだぞ。『好き合っていれば問題ない』と」
 仗助はぐっと言葉を詰まらせたような顔をした。否定するつもりはないようだ。嘘を吐き通す気か。それとも本心か……。代わりに出てきた声は、弱々しかった。
「自分に書くなんて、出来るのかよ……」
「ぼくの成長を舐めるなよ」
 本当は、そんなことは出来ない――少なくとも今の時点では――。露伴は嘘を吐いた。だがそれは“おあいこ”であるはずだ。仗助だって、“嘘の可能性があること”を言っている。露伴と“同じ”だ。
 もし仗助のそれが、“本心”なら……、
「抱けよ」
(もし嘘なら、ザマアミロだ)

 仗助はおずおずと唇を重ねてきた。露伴が目を閉じると、ようやく舌が触れてくる。
(キスは、セックスじゃあない……)
 その証拠に、ドアは開かない。だが好き合っているなら――その“設定”なら―ー、そこから始めるのが自然か。呼吸が直接触れて、少しくすぐったい。
 仗助はなかなかその先へ進もうとしてこなかった。まだ躊躇っているのか。往生際が悪い。それともやはり単なる経験不足。どれだけの知識があるのかも分からない。“お手本”がさっきのDIOと花京院では、少々ヘビー過ぎる。彼に受身側はきっと無理だ。
 唇が離れる。仗助の顔に余裕の色がないのが少しだけおかしかった。
「一旦退け」
 露伴が言うと、仗助は訝しげな表情をしながらもそれに従った。
「お前にやらせていたら時間が掛かってしょうがない」
 言うや否や、露伴は自分の右手の人差し指と中指を口に咥えた。仗助の視線が真っ直ぐ向けられているのを感じながら、たっぷりと唾液を絡ませるように舌を動かす。視線を返してやると、仗助は慌てたように横を向いた。
 露伴はベッドの上に両膝と左手を付いた。唾液で濡れた右手は自分の背中を通り過ぎて、ズボンと下着の中に差し入れる。今は完全に閉じている器官を、指先で少しずつ解してゆく。潤滑油かそれの代わりになるような物があれば早いが、そんな物どころか、ベッドとソファ以外、ここには何もない。それでもしばらく続けていると、次第次第に指を内部で自由に動かせるようになってきた。
 視線を感じる。花京院は眠っているようだが、DIOの目はこちらを向いている。
(くそっ……)
 露伴は目を閉じた。何かしてくる――出来る――わけではないのだから、見なければいないのと一緒だ。そう思い込もうとした。
(もう、少し……)
「露伴」
 不意に掛けられた声は、耳のすぐ傍で発せられた。心臓がびくんと飛び跳ねる。目を開けると、間近に仗助の顔があった。
「おれに、やらせて」
 露伴の返事も待たずに、仗助はベッドの上を移動した。向けられていた視線が遮られたのを感じた。
 露伴の指に代わって、背後に廻った仗助の指が体内に潜り込んでくる。その形がはっきり分かるようだ。長い指は奥を目指す。露伴はいつの間にかシーツを握り締めていた。
 ドアが開いた気配はない。これはまだセックスであるとは見なされていないようだ。体の中に他人の指が入っているというのに。これがセックスでなければ、なんだと言うのだ。医療行為か。こいつのどこが医療関係者だ。だが確かに、ギャラリーがいる時点で、“普通”のセックスではないだろう。露伴は知らず知らずの内に自虐的な笑みを浮かべていた。

 仗助の指は本数を増やして、丁寧に中を解してゆく。馬鹿丁寧とでも言いたいくらいだ。クレイジー・ダイヤモンドの能力があれば――ここで使うなとは言ったが――、多少無茶をしても平気だというのに。まるで、本当に大切なものを扱っているかのように……。
 仗助の指が、ある一点を掠めた。体の中を走り抜けた電流のような感覚に、露伴は思わず声を上げる。
「あッ……」
 それを仗助は見逃し――聞き逃し――はしなかったようだ。わずかな間があったかと思うと、指先は執拗にその箇所を攻め始めた。
「あっ、あッ……、んんっ……。くっ……」
 堪え切れなかった声が漏れる。
「き、気持ちいいっスか?」
「うる、さい……。黙ってろっ」
 少し前まで――DIOと花京院の行為を見せられて――真っ蒼な顔をしていたくせに。仗助は今では露伴の反応を楽しんですらいるようだ。
「露伴の中、すごい……」
「言わっ、なくていい……」
 リズミカルに動いていた仗助の指が、不意にそのタイミングを外してきた。露伴の喉がひっと鳴る。仗助は笑うように息を吐いた。
「調子に、乗るなよ、このスカタンっ……」
「それ、好きなやつに言うセリフにしてはひどくないっスか?」
 ちらりと振り向いて見た仗助の顔は、本当に少々傷付いているように見えた。露伴は少しだけ笑った。
「仗助、もう、いい。……もう、入れろ」

−−−

 いつからと断定することは出来ない――そもそも知り合ってからまだ数ヶ月しか経っていない――。それでも仗助は、思った。自分は、岸辺露伴が好きなのだ、と。その肌に触れてみたいと思ったことは、1度や2度では済まない――妙に風通しの良さそうな服装でいることが多いので、目のやり場に困ったこともある――。だからと言って、彼がこの状況を好機と思っているということはない――彼には彼なりの“理想の形”が別にあったはずだ――。ましてや、この事態を引き起こした張本人であるなんてこともありえない。いつか承太郎に「おれ結構純愛タイプだからなあ」と言ったのはまあ冗談としても、一時的な欲求を独り善がりに満たせればそれでいいとも思っていない。
 『恋人』と呼べるような関係を、他人との間に明確に築いたことはまだないと言って良いだろう。父親のいない子供として生まれた所為で、他人と“そういった関係”になることに怯えがあるのではないかという分析は、はっきり言って大袈裟だ。だが、誰かに好意を寄せることがあっても、これはおそらくかつて母が出会ったような、何かを捨ててでも――誰かの平穏を壊すことになっても――偽りたくないと思い、選んだ感情とは違う。そんな風に考えたことがないとは言わない。そもそも恋愛感情なんてものは、無理に持たねばならないようなものでもないだろう。機会がなかっただけ。そう説明するのが、一番しっくりくる。焦って探し求めるつもりもないが、執拗に拒むつもりもない。今は友人とふざけあっているのが楽しい。それでいい。そう思っていた。
 そんな仗助が今、はっきりと自覚している。露伴が好きだ――そうでなければ嫌な顔をされると分かっていて声を掛けたりなんかしない――。虹村億泰や広瀬康一に向ける“友情”や、空条承太郎への“憧れ”とは明らかに違う感情だ。だからこそ、スタンド能力を利用して、なんてことはしたくなかったし、させたくなかった。だが仗助は、もう気付いていた。露伴が自分自身に“書き込める”と言った、あれはおそらく嘘だろう。彼の態度はどう見ても好きな――好きになった――相手に対するそれではない――ヘブンズ・ドアーの力は、やはり自身には使えないのだ。仗助のクレイジー・ダイヤモンドのように――。だからこそ――大きく矛盾しているようだが――分かる。露伴は、嘘偽りのない感情で仗助に好意を抱いている。彼の性格なら、好きでもない相手と体を重ねるなんて、「死んだ方がマシだ」とでも言いかねない。分かり易く作られた偽物の感情からでもなく、本当は嫌だと思う気持ちを堪えてでもなく、仗助にそれを許そうとしている。強がりな彼が今出来る精一杯が、“嘘を吐いているという嘘を吐くこと”なのだろう。露伴が仗助を『好きだ』とまで言ったら、自惚れだと笑われるかも知れない。『好き』の百歩手前くらいだろうか。信用はされていると思っても良いだろう。さっき、露伴は「あの2人は信用出来ない」と言ったが、仗助はそこに含まれていなかった。それに、彼は――DIOへの書き込みで――仗助を守ろうとしてくれていた。彼にしてみればただの“ついで”だったのかも知れない。そうだったとしても、それを喜び以外の何物にも感じられないほど、仗助は露伴が好きになっていた。
「ほんとに、いいんだな」
 尋ねると「そう言っているだろ」と返された。その目を見て確信した。自分の予想は、外れていない、と。
 差し入れた指を引き抜いて、露伴を仰向けにさせた。顔を隠されることはなかったが、視線は逸らされている。軽く曲げられた2本の足から衣服を取り払うと、彼の中心部が形を変えているのが露になった。そちらには触れてもいないのに。
 「さっさとしろよ」とでも言いたげな視線が壁の方からも向けられている。煩いな、今やろうとしてるだろ。おれ達は見ないでいてやったのに、性格悪いぜ。少し睨むと、その男は詰まらなさそうな顔をしていた。この状況に飽き始めているのかも知れない。
(ああ、寝てろ寝てろ)
 心の中でヤケクソ気味に言い放つ。もし自分がこれ以上もたもたしていたら、DIOは「自分がやる」と言い出すだろうか。いつまでも出られないよりはと、露伴はそれを許すだろうか。それだけは、絶対に嫌だ。
 自分の衣服をずらすと、やはりその器官は勃ち上がっていた。もっと理想的な形があったはずなのにと思ってしまうが、それでももう「こんな状況でしたくない」なんて言葉が、本心に反することを認めざるを得ない。
 仗助は自分のそれをゆっくりと露伴の体内に入り込ませた。指が感じていたのとは比べ物にならないほどの圧迫感に、呼吸さえも止まりそうになる。同時に眩暈にすら似た幸福感が押し寄せてくる。先の“犠牲者”のことを思えば、快楽に浸ってはいけないのに……。だが、ここから出るためにはやはり――さっきDIOが言っていたように“中”に――射精までしないといけないのだろうか。好きな相手とこんなことをしていながら快感を得ずにそれをするなんて、そんな器用な真似が可能だろうか……。
「おい」
 不意の声に、我に返る。真っ直ぐに向けられた露伴の目が、挑発的に光っていた。意外と余裕そうだ……? いや、もしかしたら、それは“渇望”か?
「誰を、“見て”いる」
 仗助の視線はどこへも向いていなかった。にも関わらず、露伴はそう言った。荒い呼吸の合間に放たれた言葉は、熱を帯びていた。
「今、お前が抱いているのは、この、岸辺露伴なんだぜ」
 露伴の瞳には仗助の姿だけが映っていた。それを見て、思った。花京院は仗助を承太郎と重ねて見ていた。DIOもそうだ。仗助越しに、ここにはいない彼の先祖の存在を見ている。仗助自身を見ている者は、ここにはいない。露伴以外には。
 一際大きく心臓が脈を打った。同時に、血液が下腹部へと集中するのが分かった。露伴の背中が弾かれたように仰け反る。反射的に伸びた手が、仗助の肩に爪を立てた。
「う、あっ……!? 中で、お、きく……」
 露伴の体は痙攣するように震えた。仗助はそれを抱き止めた。繋がりがより深さを増す。仗助が律動を始めると、その動きに合わせるように露伴の声が断続的に響いた。
 いつの間にか、自分と露伴以外の存在は彼の意識の中から消えていた。思い込みなんかではなく、彼にとってそれは紛れもない事実だった。もう他人の視線も感じない。何も要らない。だた2つの体が繋がっていることを感じられれば、それでいい。

 2つの熱が、中と外で弾けた直後に、金属がぶつかり合うような硬い音が部屋に響いた。仗助は、それが何を意味するのか、咄嗟には理解出来なかった。頭の中が真っ白になっている。一瞬意識が途切れたような気さえする。
「……露伴」
 大丈夫かと尋ねるつもりで名を呼ぶと、濡れた瞳が一瞬だけ仗助の姿を捉えた。が、それはすぐにドアの方へと向けられてしまう。
「……あい、た?」
 呟くように言ったその声は、少し掠れていた。仗助も視線を動かす。誰も触れていないドアが、薄く開いているのが見えた。壁に書かれていた文字も、跡形もなく消えている。
(……そっか、ここから出ようとしてたんだっけ、おれ達)
 どうやらそれは果たされたようだ。露伴もそれに気付いた。ならば、いつまでもこんなところにいる意味はない、のだろう。
 仗助が体を起こすと、引き抜かれる感覚にか、露伴はわずかに表情を歪めた。赤みを帯びた顔は、汗で濡れて髪が張り付いている。仗助は、それにもう一度触れたいと思った。露伴は嫌がるだろうか。躊躇いながら手を伸ばす。すると、露伴も手を伸ばし返してきた。拒まれはしなかったようだが、望んだのとも違う。少しがっかりしつつも、引っ張り起こしてやろうとその手を掴む。
 こういう時、どんな言葉を掛けるべきなのだろう。まだ半分ぼんやりした頭でそんなことを考えていたら、思ったよりも強い力で手を引かれた。そのままバランスを崩し掛けた仗助に、露伴は顔を寄せてきた。唇が重なる。
(露伴の、方から……?)
 もうドアは開いているのに――そもそもキスは、セックスではない――。
 仗助が目を丸くしていると、露伴はゆっくりと――自力で――起き上がった。シーツで自分の体を簡単に拭い、服を着始めた。仗助も慌てて膝まで下がっていた下着と制服のズボンを引き上げる。
「やれやれ、やっとここから出られるというわけだ」
 どこか芝居掛かった口調に振り向くと、DIOがドアの傍に移動していた。まだヘブンズ・ドアーのセーフティーロックが効いているはずだと思いながらも、仗助は露伴を庇うような位置に立った。少し足元がふら付いたのを見て、DIOが笑う。それでも仗助は怯むことなくその顔を見据えた。
 ドアの傍には花京院もいた。眠っていたのではなかったのか――もしかして気を使われたのだろうか――。もっとドアに近付いて、もう何も危険性はないのを確かめたいのに、DIOがいてそれが出来ない、といったところか。腕には、仗助の上着を持っている。
「おい貴様等、このドアの先に何が見える?」
 言われて目を向ければ、16年もの時を過ごしてきた自分の部屋が見えた。今日学校から帰ってきて禄に片付けもせずにほったらかしにした鞄がそのまま転がっている。素直に自分の部屋だと答えると、DIOはなるほどと言うように小さく頷いた。
「やはりそうか。どうやら、元いた場所へしか出られんようだな」
 もしかして、他の3人の目には違う風景が見えているのか。そう尋ねるつもりで露伴の顔を見ると、頷きが返ってきた。
「ぼくにはぼくの仕事部屋が見える。インクが乾くまで少し横になっていようと思っていたところだったんだが、どうやらその時のままだ」
「ああ、それで服のまんま寝てたのか」
「煩いな。お前こそ帰ったら制服くらい着替えろ」
「おふくろみたいなこと言うなよ……」
 では、DIOと花京院にはエジプトの風景が見えているのか。それも、1988年の。改めて、不思議な力のスタンドだ。
「ふむ、いっそ全員連れて帰りたかったが、実に残念だよ」
 DIOは手を伸ばした。その手が花京院の顎に触れて上を向かせる。いつの間に距離を詰めたのか、仗助には分からなかった。
「また会おう、花京院。楽しみだよ。君をジョースター共の目の前から奪い去るのが」
 ぐいっと顔を近付けられ、しかし花京院は屈することも、怯むこともしなかった。赤い瞳を睨み返すと、「ぼくは負けない」と宣言するように言った。
 喉を震わせるように笑いながら、DIOはドアを潜っていった。その瞬間、わずかにではあるがその先の景色が歪んだように見えた。一瞬だけ現れた――ような気がした――のは、エジプトの風景か? DIOの姿は消えていた。
「ぼく達も出よう」
 花京院が言う。彼はドアに近付くと、しゃがみ込んで床から何かを拾い上げた。それはサクランボの形を模したピアスだった。
「それは?」
 仗助が覗き込むと、花京院は「ぼくのだよ」と答えた。確かに、彼の手の中にあるそれと、彼の左耳で揺れている飾りは同じ物であるようだ。
「ついさっき、DIOの服に引っ掛けておいたんだ。DIOがこのドアを潜る時に落ちた」
 仗助は首を傾げた。
「これはぼくが身に付けて持ち込んだ物だから、ぼくの一部であると判断されているんだと思う。“ぼく”は“DIOのドア”を潜れないんだ、きっと」
 DIOが言った『元いた場所にしか戻れない』、それを確かめたかったようだ。DIOに気付かれずにやるとは、見掛けよりもずっと抜け目ない男のようだ。
 花京院はふうと息を吐いた。
「残念だよ。DIOと同じ場所に出られれば、ぼく独りで戦う体力は残っていないにしても、居場所くらいはつきとめられると思ったのに」
 「何も言うなよ」と露伴が視線だけで釘を刺してきた。仗助も、「分かってるよ」と睨み返す。そもそも、過去の戦いについて、仗助が承太郎から詳しいことまで聞いている等ということはないのだ。それどころか、聞いても教えてはくれないだろうという予感さえある。仮に表面的な部分は話してもらえたとしても、その裏側にある彼の心情、彼が秘めている弱さや脆さ――そんなものがあるとすれば、だが――等は、きっと見せてはもらえないのだろう――いつの頃からか、仗助は承太郎へ対して、ずっとそれを感じていた――。彼がそれを許す相手は、きっと……。
 気付くと花京院の顔をじっと見ていた。「何?」と尋ねるように首を傾げられて、仗助は慌ててかぶりを振った。花京院はくすりと笑うと、仗助の制服の上着を差し出した。
「本当は洗って返せたらいいんだけど……」
 申し訳なさそうな顔に、やはり否定の仕草で応えた。どうせ今着ている他の服も洗わなければならない。仗助がそれを受け取ると、花京院はドアに向かって1歩足を踏み出した。
「じゃあ、先に行くよ。本当は君達も連れて行けたら、旅が楽しくなりそうなのに、残念だよ」
 口調や表情はともかく、言葉だけ聞くとDIOと言っていることは変らない。どこまで本気だろう。笑って流そうとしたが、仗助の頬は軽く引き攣った。
「また会うことがあったら、その時はお手柔らかに」
 その言葉は露伴に向けられたものだったようだ。彼はずっと、花京院への警戒を解こうとはしないままだった。それでも、花京院がドアの向こうに姿を消すと、やっと緊張の糸が解けたように、長く息を吐いた。
 そして沈黙。
 2人とも、もう行かねばならない。いつまでもこんな場所にいたいと思うはずもない。が、
(自分のドアしか、潜れない……)
 2人は別々の場所へ帰って行かねばならない。
 露伴の自宅は歩いて行ける距離にある。だが、今彼と別れたら、2人の間にある距離は、物理的なそれよりもずっと広いものになってしまう気がする。以前のように――あるいは、それ以上に――。やっと、少しだけとはいえ、彼の感情に触れられたように思ったのに。
 だが露伴は、早々とこの場所――仗助の傍――から離れて行こうとしている。
「さっさと戻るぞ」
 素気ない口調だ。“さっき”のは何だったんだと思うほどだ。彼にとっては“その程度のこと”でしかないのか。やはり、“戻って”しまうのか……。
「1時間後に、迎えに行く」
 そのままの口調で言われて、一瞬意味が分からなかった。
「へっ?」
 間の抜けた声を出すと、睨まれた。露伴はすぐに仗助を睨む。だがその視線に、以前のような威圧感を覚えることはなかった。
「スタンドの本体が、1999年にいる可能性がある」
「あ、そうか……」
 この部屋から出られても、それで本体を倒せたわけではないのだ。彼等の戦いは、まだこれからだ。
「ジョースターさん達に話を聞きに行くぞ。エジプトで倒したDIOの手下の中に、ザ・ルームのスタンド使いがいたか確かめる必要がある」
 それに関しては、仗助に異論があるはずもない。
「でも、いいんスか。その……、おれが一緒に行っても……」
 そう尋ねると、露伴は訝しげな顔をした。
「逆に聞くが、何か問題があるのか?」
 露伴の声は「嫌ならいい」と続いた。そのまま出て行ってしまうのではないかと思った仗助は、咄嗟に彼の腕を掴んでいた。一瞬驚いた顔をされたが、その手は振り解かれはしなかった。
「おれも、行きたいです。……一緒に」
 露伴の目を真っ直ぐ見ながら言うと、ふっと息を吐く音が返ってきた。笑われた。余裕がないのが丸分かりで、少し悔しい。それでも仗助は、視線を逸らしはしなかった。
 露伴が小さく頷いたように見えた。その表情は、不思議と穏やかである――ように思えた――。
 ドアに向かおうとするのを、再び腕を引いて止めた。「なんだ」と尋ねられる。
「1時間“半”後にしてください、迎えに来るの」
「は?」
「髪のセットに時間かかるんスよ」
「面倒臭いやつだな」
「その分露伴も休めるでしょう」
「早くしろよ」
「いいえ、ゆっくりやります」
 溜め息を吐いて、露伴はドアを潜って行った。仗助の手は露伴の腕を掴んだままの“グー”の形をしていた。が、その中にはいつの間にか何もない。自分のものではない体温以外には。それが消えてしまう前にと、仗助もその部屋を出た。


2017,08,10


関連作品:The Room 〜4名様用ファミリールーム〜(雪架作)
関連作品:The Room 〜デレないと出れない部屋〜(利鳴作)


前半部分を担当した方です。何だかんだで初めての共同企画、閲覧下さり有難うございました。
こんなぶん投げからの続きを書いてくれた利鳴ちゃんも有難うございました。
○○しないと出られない部屋ネタはジョジョならスタンドで片付く。という事に気付いて人生で1度は書きたいと思っていました。
会議から執筆、後編、後編を読んでからの手直し、全てが楽しかったです。
しかしDIO様を閉じ込めるとかとんでもねぇスタンド使いだ許さん。
<雪架>
後編を書かせていただきました!
人様が作った設定の話を途中から書いて終わらせるって、条件付き高難度クエストみたいな感じで大変ではありましたが書き応えもあって楽しかったです。
こうして2人分の文章を1つの話として並べると、自分の書き癖や不足している部分も見えてきたりして、思いの外勉強になりました。
それ以上にDIO花と承花どっちの要素もあるとか美味しすぎてわたし歓喜。
<利鳴>

【戻】


inserted by FC2 system